ゾイダーの屠龍さんから頂きました。ゾイドの戦記小説です。


僕達が繋がる物語

今日は佐官学校実地研修最終日の夜。
また明日から日常に戻る、誰一人欠けずに。
ゾイド格納庫の中で僕はポケットから煙草を探してそれを見つけると、片手でマッチを擦り、煙草に火をつけた。
何故かその行為がすごく懐かしい感じがして、その感情が自分でも可笑しかった。
整備班がいたら格納庫で煙草を吸うな、と怒られるだろう。
でも今格納庫には僕しか居ない。
だから、のんびり煙草を味わっている訳だ。

僕はゾイドのパイロットで特別な子供だ。
子供というのは文字通りの意味では無い。この世界にはそういう人達が幾人か存在するんだ。
ーレジルドー
そう呼ばれる遺伝子制御剤の実験で、偶然様々な特殊能力を得た人々が生まれた。表面上は。
ある程度成長した時点で不老になる者。
第六感が発達し未来がある程度予測出来る者。
死の影が見える者。
特定のゾイドとの精神リンクが素晴らしく良い者。
確認されてるパターンは幾つかあるが、大抵は一人一つの能力しか持っていない。

だけど僕は違った。
僕は完全体でレジルドが持つ全ての能力を発揮した。
それ故に僕は苦しい経験をしたが、それはもう過去の話。

ー本当にそうなのか?
今も苦しいのが実情。
周りのみんなは知らないだろうけど。別に知って欲しくは無い。辛いのは僕一人で十分だし、それが僕の罪なんだ。
煙草の灰を落とすと、不意に僕の愛機のライガーゼロが顔を動かして僕を見て何かを伝えようとした。
「どうしたの?」
僕はそう言うと、煙草を軍靴で消してからゼロに視線を移す。
「あぁ、今日は無茶し過ぎた事?大丈夫だよ、僕とゼロならなんとかなると思ったからね。それにああしないとキサラギを助けられなかった。違う?」
僕がそう言うとゼロは納得した様子で顔を元の位置に戻した。

僕はゾイドのパイロットで、今日も幾多の人を殺めた。
可哀想、とは思うが仕方がないと半ば諦めた感情だ。相手だって僕を殺そうとした訳だし、たまたま僕の方がパイロットとして優れていたから僕が勝って生き残っただけ。
戦場ではそれが当たり前。勝った人が負けた人に出来るのは精々祈る事だけだろう。
けれど僕は自分を許さない、あの日から。そしてその罪悪感を相手にぶつけて僕は今日まで生きてこれた。
我ながら最低だとは思う。けど僕には他に道は無い。
敷かれたレールに沿った毎日。
酒と煙草に救いを求める日々。
窮屈な、それでいてある種の清涼感のある毎日。
みんなには僕みたいになって欲しくない。させたくない。
いつだって溜息つけばそれで済む。ただ背後を見なければ良いだけの事。
最初からそういう風に出来ていたんだ。

「それじゃゼロ。おやすみ、また明日ね」
そう言うと僕は格納庫を後にして、キサラギの居る病室へ向かう。さっきキサラギがお礼が言いたいと携帯に連絡していたのを思い出したからだ。
格納庫のシャッターをくぐり外に出ると羽虫の鳴く音とカエルの鳴き声が合わさって、梅雨独特の季節を感じる。もう少ししたら僕の好きな夏が来るだろう。

真夏の暑いなか屋外に出て汗をかき、その後涼む独特の快感。僕はそれが大好きだ。
綺麗な青空に浮かぶ入道雲と抜ける様な青空。
それを見ながら食べる西瓜の美しい甘さ。
僕の大切だった、もう戻らない風景。
それでも僕は夏が好きだ。他にすがる優しい記憶は無いから。

ふと、足元の靴を見て思い出す。
初めて靴紐を結んだ日の事を。
たしか酷くてこずったっけ。でも僕は一人でやるしか無かったんだ。
靴紐を結ぶ度、孤独感を思い出す。
どうして自分と関係無い物は簡単にいくのだろう?
どうして自分の物は上手くいかないのだろう。

僕は人を殺せる。
自分は殺せない。
所詮僕はそんな人間だ。表面上は良い人でも、本当はゴミみたいだ。
「そう気に病むな、お前はお前。かけがえの無い俺の親友だ」
そう言ってくれたのは友達のチャクトだ。確かキサラギも同じ意味の言葉をかけてくれたっけ。
僕の周りは良い人ばかりだ、だけど僕はいずれみんなを不幸にするかも知れない。
その前に、誰かの右手が僕を殺してくれると僕は嬉しいだろうか。
彼女が僕に銃を向けー
ありがとう、さようなら。彼女は呟く。
彼女は人差し指で引き金を引き、
銃声、
火薬の香り、
僕の心臓を銃弾が貫き、
僕は彼女にお礼が言いたかったけど。
もう僕の体が動かなくて、
残酷な、ほの甘い毒が僕を蝕み。
彼女は僕に近づいてしゃがみ込み、
僕の名前を口にして、
僕の目蓋を白く美しい手で閉じてくれて、
泣いてくれるー

そんな僕がよく見る夢の事を思い出しながら、真っ暗な中庭を過ぎて病棟の受付へ入る。守衛のスタッフに用件を伝えると、面倒くさそうに面会の許可を彼の上司から取ってくれたお陰で、僕はキサラギの待つ病室へ向かう事が出来た。
病院の陰気な空気は僕は好きじゃない。だからだろうか、歩調が何時もより早い。分かりやすい奴だ、とそんな自分が可笑しくてつい一人で微笑んだ。

階段を上がり二階にあるキサラギの病室の前に立つ。
ノックを二回。
躊躇いは無かった。
「どうぞ」
とキサラギが返事をしたので僕は病室のドアを開けた。
キサラギはベッドの上で上半身を起こして本を読んでいたらしく、文庫本が白く美しい手に握られている。
頭に包帯が巻かれているけど、元気そうで僕は安心した。

「今日はありがとうね」
キサラギはそうきりだした。
「何が?」
僕はそう言うとキサラギの側まで2、3歩近づく。
キサラギの手と夢の中の彼女の手が同じ事に今更ながら気がついた。
キサラギはキサラギ、彼女は彼女。
僕は心の奥底でそう自分に言い聞かせた。

もし、キサラギが彼女だったら、僕になんて言ってくれるだろうか?
おそらく許してくれるだろう、でも目の前の少女は彼女では無い。
僕の願望は目の前の少女とは何も関係ない事だ。
「私を助けてくれた事だよ。意地悪」
そう言うとキサラギは少し怒った風に口を曲げた。
「助けたのは事実だけど、キサラギだって僕に良くしてくれたじゃないか。返しただけだよ。それに僕は君を失いたく無かっただけなんだ」
僕はそう言うと椅子に腰掛けて良いかキサラギに訊いた。
キサラギは優しい笑みを浮かべて僕に椅子を勧めた。

僕は椅子に浅く腰掛けてキサラギの顔を見つめる。
「でもね、私は貴方がどんな理由で自分を危険に晒してまで私を助けてくれたかは分からない。けど、私はどんな理由があろうとも助けてくれた事が嬉しかったの。今回は死を覚悟していたし、例え生きていても女の子が捕虜になったところで死んだ方がマシな目に遭うだけだもの。だから本当に嬉しかったんだ」
キサラギはそう言うと僕をジッと見つめる。
「ねぇ、教えて。貴方は心を何処に置き忘れてきたの?」

「僕は此処にいるじゃないか。変な質問だな」
そう応えるとポケットから煙草を取ろうとした右手の動きを止める。此処は病室じゃないか。煙草なんて相応しくない。
でもなんで煙草を吸おうと思ったのだろう。否、本当は分かっている筈だ。キサラギの質問の答えを。それを答えたくなくて煙草を吸おうと思ったのだろう。
キサラギはもしかして分かってるんじゃないかと僕は思った、それは確証の無い確かなものだろうか。僕は自分を誤魔化せるが、側から見ればそれは無駄な努力なのかもしれない。

沈黙が部屋を包む。
「ごめんね、変な事聞いちゃって。そうだ、今度貴方の好きな物を作るから一緒に食べよう。私料理が得意なんだ」
キサラギが雰囲気を察して話題を変えてきた。
「ありがとう。そうだね、ハンバーグが良いかな」
どこか上の空な感じで僕は答える。
「ハンバーグね。分かった、腕によりをかけて作るから楽しみにしててね」
そう言うとキサラギはいつもの温かい笑顔を見せてくれた。
この笑顔(宝物)を守るために僕は今日、人を殺めた。
殺めた人だって宝物があったろうに、僕は勝手だ。いつかこの報いを受けるだろう。
けど、
ささやかな幸せ位僕だって欲しい。
それは贅沢な願いだろうか?

僕は咎人だ。許されない過ちを昔犯した。
その罪はどんな傷よりも僕に痛みを教える。
だから僕はたとえ仮にキサラギに恋心を抱こうが、決してそれを口外しないだろう。
ゾイドのコクピットで死ぬ迄は。
不意に右手が囁く。
甘い声色で「貴方も殺してあげようか?」と。
僕はその幻想にぞっとして、不意にキサラギを怯えるような顔で見つめる。

「どうしたの?なんだか怖い顔してるよ」
キサラギは心配そうに言った。
「いや、なんでもない。大丈夫」
僕はそう強がってみせる。これではどっちが見舞客か分りはしないだろう。
実際キサラギは優しい。否優しすぎる。いつかそれが致命的な破滅をもたらすかもしれない。
だから僕はキサラギの優しさでは守れないものからキサラギを守ろう。
例え僕の業が深くなろうとも。 
それに今更僕の業が深くなろうとも大して深さは変わらないだろうから。
永遠に。

 

キサラギと他愛もない話でもしていたのか、消灯時間になってから彼は病室をあとにして、自室へ戻ろうとしたのだろう。
彼の個室の前に私が待っていたから彼は驚いていた。
「少し良い?」
私はそう言うと彼を真っ直ぐ見つめる。
「教官に睡眠薬を盛って無断出撃した件なら始末書をキチンと書きます。だからキサラギには罰を与えないで下さい。あれは僕の意志です」
「違う、私は貴方を罰しない。貴方は正しかった。でも、もっと大事な話。士官倶楽部で飲みながら話すから来なさい」
私はそう言うと彼の手を掴んで歩き出す。
怒った風な口調だと思われたかもしれない、でも私が怒っている訳では無いので彼は付き合う事にしたらしい。黙って付いてきてくれた。

でも、何故か彼の温もりが今にも消えそうな気がして怖かった。だから私は必要以上に力を込めて彼の手首を掴んだ。
痛いだろうに彼は文句一つ言わない。だから私は余計怖かった。
士官倶楽部に着く間私も彼も黙っていたけど、別に機嫌は悪く無さそうだ。
むしろ機嫌が良さそうで私はホッとした。

士官倶楽部のカウンター席に着くと私は大好きな銘柄の高級赤ワインを数本注文して、彼にも分けてあげた。
最初は他愛も無い話をした。研修先で彼がフブキ・リコリスというパイロット志望の少女にゾイドパイロットの手ほどきをしたと言う話は驚いた。
彼が自分から自分のパイロットとしてのノウハウを教えるなんて滅多に無い事だったからだ。
それだけその少女の想いに打たれたのだろう。それが私には嬉しかった。
だから私はつい何時もよりもお酒が進んだ。

私は酔いが回ってつい口を滑らした。
「貴方の戦い方は破綻してる。まるで何かの八つ当たりを敵にしてるみたい。そして終わってからはバツの悪そうに捕虜に手厚い扱いをする。何が貴方をそうさせるの?」
私はそう切り出しながらワインをグラスに注いだ。
「八つ当たり?確かにそうだね。でも僕はそうする事しか出来ないんだ。僕はあの時…」
そう言うと彼はグラスのワインを一口で飲み干した。

しまった、と思った時は彼は寂しげに笑っていた。まるで卑屈な、この世の全ての負の感情を込めた恐ろしい笑いだったから私は後悔した。
時間に直せば数秒だった。けれど私には永遠にも思える程、彼は笑った。
「教官はリゼンルール村をご存知ですか?」
「あぁ、昔の話だが知っている」私はそう言うと再び彼のグラスにワインをついだ。
何故か大好きなワインが血の赤を連想させる。

「僕はリゼンルール村の孤児院で育った。リゼンルールには大きな風車があって、そこで孤児院の友達と遊んだっけな。風車の管理人のワイズさんによく風車で遊ぶなと怒られたっけ。でもワイズさんは子供が好きだから叱ってくれたんでしょう。当時はそんな簡単な事に気づかなかったけど、でもあの日、みんな死んだ、否、殺されたんだ。共和国軍の特務機関が僕達孤児を実験台にする為に村を襲って。僕はエリアスという名の大切な人を連れて二人だけで逃げ出した。最低ですよね。他の人は見捨てて、でもすぐに報いを受けた。特務機関に見つかってエリアスは連れて行かれた。僕の目の前で。僕は泣いて頼んだ。エリアスは殺さないでくれ、なんでもするからと。それで出された条件が軍に入る事でした。その時知りました、孤児院は人工的にレジルドを生み出す実験場で、僕は被検体1096コードネーム方舟。それが僕の正体です。レジルドが遺伝子制御剤というのは建前で本当は古代ゾイド人のコピーを生み出す実験だと。その一環で村は焼き払われた事も」

私は驚愕した表情を元の表情に戻すのに少し手間取った。
彼の経歴は少しおかしい所があって、そこを佐官学校の校長が私に調べるように命令された事があった。
私は旧友が憲兵隊に所属していたので、彼女の力を借りながらある程度は把握していたつもりだった。けど、今教えてくれた事はー

ーリゼンルール村ー
あそこは共和国軍の闇が詰まっている。
だが所詮は噂話。私は信じていなかった。
国内外には旧ゼネバス勢力に襲われた悲劇の村として説明された。
だが、実態は村を寝ぐらにする過激思想を持つゼネバス派を根絶やしにする為の作戦だったらしい。それくらいは私でも知っている。
でも、彼の口からはまた別の目的も聞かされた。いや、違う、私の知識も改変された情報なのだろう。正しい情報が記された書類はこの世にはもう無いだろうが。
レジルドは人工的に生み出された?
私もレジルドだけど、私も作られた存在なのか?
分からない、彼の作り話か?否、違う。その割には彼の目からは普段の彼とは違う何か荒んだ物が溢れ出ている。

「教官は僕の経歴を多少洗ったでしょう?でも分からない点があった筈です。僕は共和国の暗部ですから消された点があるんです。僕も抗いましたよ、でも無駄でした。ひたすら偉くなって奴等に復讐しようと思いましたが、それも何の意味も有りません。だって奴等は事が明るみになる前に別な奴等に消されたんです。僕は自由になった筈なのに何故か心の虚しさは消されませんでした。結局エリアスとは会えずに終わるでしょう。分かってます。あの時、エリアスだけ連れてみんなを見捨てた僕の報いがそれでしょうからね」そう言うと彼は再びグラスのワインを口にした。「周りは僕を共和国の至宝、最高のゾイド乗りなんて言いますが、僕はそんな大層な人間じゃない。愛した人一人救えない弱い罪人です。そしてエリアスを愛するが故、僕は彼女の元へ帰れないでしょう。でも良いんだそれが僕に与えられた罪ですからね」

ただ、彼はそう前置きしてから「でもね教官、僕はキサラギに会えた。彼女は何処となくエリアスに似ているからなのか何なのかは分かりませんが、彼女まで失いたくなかったんです。だけど彼女に想いをぶつける訳にはいきません。だってそうでしょう?そしたらエリアスはどうなるんだと、好きな人を守れなかった人がどの面下げてまた新しい好きな人を守るのでしょうか」
彼は何かに絶望した表情でそう口にした。

「辛かったら泣いてもいいのよ。みんな弱いんだから。貴方は悪くない、だからそう思い詰めないで。それに私はね」そう言うと私は優しい声色で言葉を続ける「私は昔特務部隊を指揮してたの。でもある日私が功を焦った挙げ句部隊は壊滅。一人生き残った私は囚われの身となり助けが来るまでの間犯されたり拷問を受け続けた。そしてそれがトラウマになって私は逃げる様に前線を離れた。でもこの前は違った。キサラギが死ぬかもしれないと知らされたからいてもたってもいられなかった。だから貴方がキサラギを助けに行くと言った時は私も貴方と一緒に行きたかった。貴方やキサラギを守りたかった。でも貴方は私に睡眠薬を飲ませてまで止めた。私はそんなに邪魔者なの?だとしたら私は何者なの?教えてよ、ねぇ、私は誰なの?」

「違うんです教官、僕はもう大切な人を失いたくなかったんだ。だからああしてでも止めたかった、ただそれだけです」
彼はどこか寂しそうに言った。
大切な人か、と私は思った。嬉しいけど、素直に喜べない。私は彼を愛しているが、彼の場合はその想いは私では無い。
あぁ、神よ、優しさとは罪なのですか?この私を救ってはくれないのですか。
そもそも教え子に恋心を、それも別の教え子の想い人を好きになるなんて最低だ。私は所詮その程度の弱い人間なのだ。
「僕はね」
彼がまるで何かをいたわる様な声で話し始めた。

「僕は教官と会うまではゾイドが嫌いでした。ゾイドに乗る以上勝たなくてはいけない、その思いが強くなる程ゾイドは兵器だ、相棒なんて甘ったれた事など言ってはいけない、と。でも教官がゾイドを愛してる姿を見てそんな考えが変わってきました。もしかして僕はゾイドを愛するのが怖くてそんな言い訳をしてきたんじゃ無いだろうかと思いました。ゾイドは技量では無く、いや、技量も大事ですよ。でもゾイドは心で動かすんです。だから僕は負けたらそれは愛が足りなくて、心が弱くて負けるんだ、それを認めるのが怖くてそんな言い訳をしたんでしょう。それに教官がゾイドを操縦している姿はなんだか楽しそうで、見ているこっちも楽しくなって。あれは何時だったか、初めてゾイドに乗った日の事を思い出して、その時は何処までも自由になった気がして、色々な不自由さ、窮屈さ、閉塞感、そんな物を全部吹き飛ばしてくれました。でも戦場に出た時全ては変わりました。所詮ゾイドに乗るのは現実逃避なんだと、だけど教官がそんな変わった物をまた変えてくれたんです。勝利の喜び、模擬戦で負けた後の悔しさをバネにしてまた強くなる自分を見つけたり、仲間を守る為に戦う事を。だから教官は僕の大切な恩人であり、仲間です」

私はその言葉で思い直した。
私が求めていたのは一方的な愛ではなかったのだろうか?
愛とは本来そういうものではない筈だ。
そこまで思った時、私は彼にこう言った。
「私もね、貴方やキサラギ、それにチャクト達に会えて良かったとおもうんだ。私は一時期教官なんて向いてない、だから軍を辞めようか、なんて思った日があった。けれど貴方達が日に日に腕を上げて楽しそうにゾイドを操縦する姿を見て思い直したんだ。私はこの為に、ううん、貴方達を守る為に生まれてきたんじゃないかって、そう思えて。やっと私の存在する価値を見つけられた気がして」
そこまで言うと私はワインを口にする。
「だから私は貴方達が大好き。守りたい。失いたくない。死の影なんかに貴方達を渡したくない。だから貴方達の為ならまた戦える、確かにもう私は貴方より強く無い、けれど背中位は守れなくて?」
「分かりました。それなら任せます。ただ僕が間違った道に進もうなら容赦無く引き止めてくれますか?僕は弱い人間ですから」

私は彼の問いに言葉では答えず、微笑んで答えてみせた。
私は彼を守りたい、支えたい。
例えそれが大それた願いであろうとも。
私達は繋がるのだから。
いつか彼もエリアスと再び会えるだろう。
生きてさえいれば、物語という風が人生という風車を回して繋がるのだから。
これは私達が繋がる物語。
これは彼等が繋がる物語。

少年は剣を捨て、幸せを掴めるのだろうか?
箱の中の猫は生きているのか、はたまた死んでいるのかー
運命という女神はまだ黙したまま、何も語らずただ静かに物語の輪廻を回し続けるだろう。
少年は運命に牙を剥くか、運命に感謝するかー
それはまた別の物語。

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