遥かなる攻撃目標

ネオゼネバス帝国空軍第八航空軍所属ビコウザン飛行場から百機の超重爆撃機「ギガントス」が飛び立った。
これに随伴するのは三百機を超す超高空用戦闘機「レインボージャーク・エアダンサー」さらにこれに空中補給を実施する「マザー・ギガントス」六十機もつき従う。
これらは前年12月8日に行われた連合軍の金剛湾奇襲に対する報復攻撃の意味合をもった帝国の威厳を賭けた大規模空襲である。

攻撃目標はヘリック共和国クリスタルハーバー基地と在伯艦艇である。
ギガントスの最高上昇高度3万5千メートルまで届く連合軍戦闘機は今のところ存在しない。
非武装の特攻専用機しか対抗措置を持たない連合軍戦闘機はレインボージャーク・エアダンサーの撃墜スコアを稼ぐ的でしかなかった。
従って、第八航空軍のパイロット達は与圧された機内で余裕たっぷりに過ごしていた。
共和国領内に侵入しても散発的に特攻機が攻撃を仕掛けたが損失および被弾機はゼロという正にパーフェクトゲームで侵攻を続けていた。

「こちら奇兵隊。前方に嵐電二十機接近中」
「こちらリトルフレンズ、直ちに迎撃します」
直後、一方的な空戦の後護衛戦闘機が所定の配置に戻る。無論、撃墜及び被弾ゼロである。
「機長、共和国の連中は哀れですね」
「そうだな、クルーズ。サラマンダーみたいな骨董品で空の王者面していた罰だな」

「ところで機長は基地でかかっていた映画をご覧になられましたか?」
「いや、見ていないな。どんな映画だ」
「空戦シーンの後主人公が基地に配属されたところから話が始まって…」
「クルーズ、雑談もいいがちゃんとCIWSの火器管制のチェックもしろよ」
「うるせぇな、バース。お前こそちゃんと通信手の仕事をしろよ。ここまで届くヘリック野郎なんかいねぇよ。いてもリトルフレンズの射撃演習の的だよ」

「今仕事するわ、機長、また特攻機です」
「しつこい奴らだな。クルーズ、一応CIWSを作動させろ」
「無駄足ですぜ…ほら、もうリトルフレンズに食われた」
「アホみたいに人命を使うなぁ、共和国は人命を無駄遣いしすぎだぜ、それとゾイドも哀れだな」
「たしかにゾイドだけは同情するね。でも連合国の連中は死んでも同情しないね」
「…クルーズはたしか金剛湾奇襲で兄さんを亡くしたんだったな」
「そうです。だからCIWSの火器管制官を志願したんです。1人でも多く共和国野郎を地獄に叩きこんで同胞を助けたいんです」
「まぁ、気持ちは分かるが、あまり復讐心に囚われるなよ。いつかお前も本物の悪魔になるぞ」

「…わかってはいるんですけど…それでも憎いです。」
「…暗い話はここら辺にして機長、クルーズ、昼飯にしましょう。特配のビールとステーキ弁当がありますよ」
「ビールといってもノンアルコールだけどな。さて機長、昼飯にしましょう。三時のアイスを食べ終わる頃にはクリスタルハーバーです」
「まぁ、気楽にいこう。腹も減った事だし食うぞ」

 

―数時間後―

 

「こちら奇兵隊、レーダーに感あり、機数三百六十機しかも同高度でマッハ3以上でています」
おそらくジョークだろうが一応、機長に報告する。
「機長、奇兵隊がヤバそうなこと言っていますよ」
「バース、どうやら本当の様だ。リトルフレンズが最高速で向かうぞ」
「そんな…そんな話聞いた事が…」

「は…早い…それにあれはバトルクーガーじゃねぇか!」クルーズが大声で狼狽した。
「クルーズ!CIWSを起動させろ!バースは通信を聞き逃すなよ!」
「了解!」と二人が叫ぶがその間にも敵機はぐんぐん近づいてくる。

「おい、ゼネバス野郎!貴様らが空ででかい面できるのも今日で終わりだ!くらえ!地獄行きのチケットだ!!」
バースは背中がぞっとした。
いままで共和国軍が帝国の通信用無線周波数を解析した事すらない。
無敗神話が音を立てて崩れる気がした。
刹那、今まで大空の覇者であったレインボージャーク・エアダンサーが次々と火を吹きながら落ちていったり、四散していく。

「シャイセ!なんでだ、なんでバトルクーガーがここに…」
「バース、落ち着け。奇兵隊とリトルフレンズの通信をしっかり受信して記録しろ!それからクルーズはCIWSをぶっ放せ!」
―その瞬間―
凄まじい爆発音がしたかと思うとギガントスが三機落ちて行った。

「あぁ、友軍が…」
「不味いです、機長。今落とされたのは奇兵隊です」
「なんだと…それでは風速や敵情が分からんではないか」
「上空よりさらに敵機…あれは…オルディオスです!!」
「今日は連合軍の新兵器の展示会じゃねぇか…これでは爆撃どころではないぞ…」
「リトルフレンズから空域離脱申請が出ています」
「却下しろ!こうなったら在存機だけでもやらなければ帝国空軍は永遠に笑い物だ。バース、クルーズ、こうなったら一緒に地獄に行くぞ」
「喜んで!」
「この命に換えてでも敵泊地に爆弾をお見舞いしてやります!」
「その意気だ!なんとしてでも攻撃を成功させるぞ」

 

―数刻後―

 

「在存機はいくつ残っている?」
「三番機と四番機です。三番機は煙を吐いています」
「リトルフレンズはどうだ?」
「全滅です…後方よりオルディオスが来ます」
「しっかりつかまっていろよ。ロールをうってやる」
「無茶です機長!機体が重すぎます!」
「奇跡を信じろ!これが成功すれば敵機はしばらく追ってこられない!」

操縦桿を倒すと、信じられない事にロールがうたれた。しかしその間に残っていたギガントスは全滅した。
「機長!見えました!クリスタルハーバーです!」
「天佑だ…機首を上げるぞ。目標、空母エーデルワイス」
そこまで叫んだとき、オルディオスが追い付き、必殺のグレートバスターが放たれた―

この日、ネオゼネバス帝国空軍は歴史的敗北を喫し、ギガントスはその運用を大幅に制限されることとなった。
そして空の覇権は再び連合国の手に渡った。
クリスタルハーバーに侵入したギガントスは投弾する直前に撃墜されなんの戦果ももたらされなかったと両軍の戦史記録に残されている。
だが、帝国空軍の勇氏は敵からも称賛され、彼等は帝国の誇りを連合軍に知らしめた―

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