帝都防衛航空隊 11


早朝から緊急会議が決定した。
ゼネバス皇帝、政府高官、参謀などが全て召集するものである。
異例の大会議、そのきっかけを作ったのが自分と思うと気持ちが落ち着かない。

会議の直前、ゼネバス皇帝が私を呼ばれていると告げられた。
先に会っておきたいとの事である。突然の謁見に気を失いそうになった。
コアをたった一つしか運べなかった事への悔いを思う。叱責は免れないだろう。

覚悟を決め、扉を開ける。だが皇帝は穏やかな表情で私を迎え入れた。
正直に言うと、緊張で何を聞いたか半分以上覚えていない。
しかし日々の戦いや潜水作戦の感謝、そして現在の戦況への謝罪を述べられた。
そしてまた、しかし戦いはこれからだとも。
-具体的な事はこれからの会議で説明する。どうかこれからも共に戦って欲しい-
皇帝はそう言って締めくくられた。

部屋を出て一息つく。
予想とは大きく違う皇帝に驚いた。
政治、そして軍事における手腕には絶対的な信頼を置いていた。しかし厳格、そして苛烈な性格を予想していた。
それは大きく違っていた。民や兵に対する気遣いを常に忘れない。また話し方には常に余裕とユーモアを織り交ぜられていた。
私は皇帝へのイメージを大きく変えた。無論、より素晴らしい方にである。

その後、会議が始まった。
私は知りうる全ての情報を話した。到着直後に既にあらましは話していたが、やはり時間の関係から全てではない。
暗号の事、開発中のゾイドの事、そして反撃のプラン。皆の視線を受け気が遠くなりながらも、私は全てを語った。

更新した暗号の解読表は直ちに共有された。
敵が全力で解読を試みたとして、最短でもニ年はかかるだろう。これでしばらくは安心できる。
暗号に続いて、ゾイドと戦況を話した。
シュトルヒの能力、ウラニスクで現在開発中の三種類のゾイド、それを用いた反撃のプラン。
そしてまた、時間稼ぎには15機のシュトルヒが必要であった事。1機しか運べなかった為、このプランには修正が必要な事も。

私がひとしきり話し終えた後、参謀や皇帝からの発言もあった。
当然だが、首都もまた逼迫する戦況へのプランを練っていた。
発言は主にそれについてであった。そしてそれは、仰天する内容であった。
ウラニスクが進めるプラン、三種類のゾイドの開発と反撃も大掛かりなものである。
しかしそれにも増して、首都のプランは大胆であった。

遠く北にある暗黒大陸、この地にはガイロス帝国がある。
その事は知っていたが、それ以上の知識はなかった。所詮は中央大陸と何ら関係のない場所。そういう認識であった。
そうではなかった。 ゼネバス帝国は、秘密裏にここと同盟を結んでいたらしいのである。
どちらかの国が危機になれば救援する。同盟はおおまかに言ってそのような内容だ。
戦況の危機を受け、それは今まさに実行されようとしていた。

ただの脱出ではない。計画は次の通りである。
ゼネバス皇帝と残存兵は中央大陸を脱出、暗黒大陸に行く。そこで軍備を再建し、中央大陸に帰還する。
そんな壮大な内容であった。

なお脱出できる人員には限りがある。残存する兵の数に対して、脱出用の機材が明らかに足りないからである。
そこで脱出できない者は地下に隠れて機会を待つ事とされた。
首都ではこの計画が進められていた。
だがこの計画は脱出が目的ではない。あくまで帰還し再度戦う事を目的としている。
脱出、それは実質的な敗北と言える。その屈辱に耐え、軍備再建を図る。帰還した後は領土を奪還する。
それがあってこその脱出なのだ。
実行にあたっては、帰還後の具体的な戦略も立てておく必要があった。

暗黒大陸で軍備を再建しての帰還。必然的にそれは上陸作戦になる。
いかに軍備を再建しても、上陸作戦では運べる兵力の量が少ない。いかに奮闘しても、それだけではすぐに撃退されるだろう。
この作戦のキモは、地下に隠れ機会を待つ者達であった。
ゼネバス帝国軍の帰還・上陸作戦。それにあわせて一斉に地下から躍り出る。
こうして共和国軍を大混乱におとしめ、そして速やかに領土を奪還するのである。

この脱出と帰還後の作戦は頓挫寸前であった。
暗号解読から、ウラニスクやバレシアとの交信が断たれていた。
作戦のキモである地下への戦力秘匿や行動指示、これを伝える術を失っていたからである。

そこへ現れたのが私であった。
シュトルヒのコアは一つしか残らなかった。それは失態だった。いやしかし、それ以上の価値、通信を回復させたのだ。
これにより作戦は実行されるだろう。
-勇者に拍手を-
皇帝の言葉で一斉に拍手が起こった。

その後、全力で作戦準備が進んだ。
潜水作戦、それは帝国の希望を確かに繋いだのであった。

 

(その12へ)

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