帝都防衛航空隊 7


ミーバロス陥落は深刻な事態であった。
危機はミーバロスだけではない。敵はここを拠点に次なる行動に出るだろう。
隣接する都市は大きな危機に陥った。

事件の翌日には、すぐさま奪還計画が立てられた。
だが、混乱する帝国軍に組織的な攻撃をする事は難しかった。散発的な突撃は、悪戯にゾイドと兵を消費しただけで終わった。

同日、敵の増援部隊がミーバロスの沖に現れた。
更に補強される敵部隊。その中にはウルトラザウルスまでもがも含まれていた。
一体、敵はどれだけの物量を持っているのだろう。

敵はまた、ゴジュラス部隊も大幅に増強した。
その中には、背中に大型キャノン砲を背負った新型も含まれていた。
こいつの能力は未知数だ。
だが、どうやらアイアンコングがゴジュラスに砲撃戦で圧倒的優位を示せた時代はそろそろ終わるらしい。

早くも奪還は不可能という悲壮感が蔓延しだしていた。敗戦を予感する者も居た。
そして、戦況はまさにそこに向けて転がりだした。

敵は北に向けて進撃した。
まずイリューション、次にダリオスが陥落した。
ミーバロスの時もそうだったが、敵はまずサラマンダーの爆撃で都市を弱らせ、そしてから地上部隊を進撃させ攻略する戦術を用いているらしかった。
共和国軍は、占領した両都市に飛行場を建設した。
そして、更に隣接する都市に向けて連日のように爆撃隊が舞った。

トビチョフ、オベリア、ガニメデ。この三都市は連日の爆撃に晒された。
爆撃であらかたの施設が破壊されれば、追って地上部隊が現れるだろう。
事態は深刻であった。それは三都市の危機であったが、それ以上でもあった。
この三都市が陥落し飛行場が作られれば、次はもうゼネバス帝国首都やウラニスク工業地帯までもが爆撃圏内になる。

帝国軍はあらゆる策を講じた。
地上ゾイドは対空装備を満載した。シンカー部隊も決死の出撃を繰り返した。
だが結果として十分な戦果には至らなかった。
数ヵ月後、三都市は陥落した。

この頃、共和国軍は十分すぎる程の補給を得ていた。
当初、その補給は海上ルートであった。
しかし今や、中央山脈を突破し陸路からも補給をしていたのである。
我が軍が撒いた地雷、悪魔の庭園も期待した程の効果は挙げなかったようだ。

共和国軍は、地雷原の突破を強引に進めた。
巧妙に隠された地雷を発見する為に、いまや旧型となった小型機を投入したという。
それは物量で劣る我が軍では決して考えられない方法だった。

戦場の地図は急激に塗り替えられていった。
年を越す頃には、もはや帝国に残された地は首都、ウラニスク、バレシアの三都市だけになった。
既に劣勢は決定的で、戦況を覆す事は現実的に不可能であった。

首都とウラニスクは連日の爆撃に晒された。
だがこの地には、血気盛んな親衛隊が居た。果敢な出撃で奮闘し、いまだ重要な被害をまぬがれている。
それでも、もはや疲弊は隠せなかった。やせ細り目だけがギョロギョロとしている。
そこにかつてのエリート隊員の面影は見えない。
シンカーも限界だった。幾重なる出撃で、もはや全身が傷だらけだった。

敵の猛攻を前に、我々は加速度的にジリ貧になっていた。
バレシアもサーベルタイガーの精鋭集団が持ちこたえているが、これも時間の問題と思われた。

この時点で、既に帝国の敗北は決定的であったと言える。
だが、戦いを放棄するわけにもいかなかった。
共和国は無条件降伏を迫っていた。態度を軟化させるそぶりさえなかった。
せめてわずかでも戦況を盛り返し、少しでも講和の条件を改善させる事は必須であった。
我々は、あくまで徹底抗戦を続ける決意をしたのである。

 

この時、私はウラニスク工業地帯に居た。
防空戦の中、私は二度目の墜落を経験していた。そこで、新しい機体を直接受領に来ていたのであった。

工場で、ついでだからと私はしばらく珍しい任務を頼まれた。
それは、完成した機体のテストであった。

でき上がった機体はそのまま使われるわけではない。まず試験飛行に回され、異常がない機のみが実部隊に納入されるのだ。
急造の機体は品質を下げる。このところ、品質は低下の一途を辿っていた。
現在の合格率は5割程度であった。帝国の工業力は、今やここまで低下していたのであった。
私は、完成したシンカーを試験する任務を帯びた。

試験を手伝う中、成り行きで開発中の新型機を見学する事を許された。
この状況で新型機の開発か、というのが率直な想いであった。
間に合わないかもしれない、成功するかも分からない。そんな新型機より、今あるゾイドの生産を優先したらどうなのか。
急造で仕上がりの質は落ちきっている。せめて試験で8割の合格は維持して欲しい。 開発より生産の改善を進言しようとした。

いやしかし、その想いは新型機を見て吹き飛んだ。
目の前では、件の新型飛行ゾイドが整備されていた。 それは帝国の運命を変えた名機、シュトルヒであった。
以前に工場を見学した折、新型空戦ゾイドが開発中と聞いていた。それが今、ようやく完成に近づいていたのである。
その姿は、エイを無理やり飛行したシンカーとは全く違っていた。
力強く羽ばたく翼を持った、スマートで美しい鳥であった。

新型機はハンドメイドで作られる。よく見ると細部はいびつな仕上げが残っていた。
それでもなお、それは美しかった。私は、瞬時にそれがプテラスと互角に戦える事を理解した。

そして数奇な事に、私はこの新型機・シュトルヒの試験をも担当する事になった。
いつものテストパイロットは、とうに前線に招集されたらしい。戦線はそこまで逼迫していたのだ。
地上ゾイドなら、開発者でも最低限の試験はできる。だが飛行の試験は専用のパイロットが欲しい。
シュトルヒはまた、プテラス以上の空戦性能を求めている。できるなら、交戦経験のあるパイロットに試験をゆだねたい。

開発者は、試験については頭を悩ませていたらしい。
そこへ愛機を失った私が来たのだから、これ幸いにと打診があったのである。
私としては願ってもない事で、ぜひともと受け入れたのであった。

その日中に試作機3機が滑走路に運ばれ、様々なテストが行われた。
試作機にも関わらず、シュトルヒは素晴らしい性能をみせた。
無論、操縦性は劣悪であった。これは試作機だからどうしようもない。だが、その癖を理解すれば最強の飛行ゾイドになった。
最高速度のM2.1はサラマンダーやプテラスと同等で、まさに待望の高速機であった。
シンカーが考えうる全ての措置をしてM1.6しか出なかった事を思えば、この速度はさすがに鳥だなと思った。

上昇力は空戦型シンカーを更に超えていた。
コックピットは従来の共通タイプを改め、与圧装置を持った専用タイプに変わっていた。
これにより高空でも全く不便を感じなかったのは大いなる進歩であった。
空戦機動も問題なく、思い通りの動きを存分にできた。さすがは最初から戦闘機として開発されたゾイドであった。
武装も強力だった。長い尾翼を持っていた為、機体の振動も少なく狙いが付けやすかった。
この上、背中には大型ミサイルまで持っていた。正式名称をSAMバードミサイルといい、対サラマンダー用の必殺武器であった。

一方、弱点もあった。
機体は軽量化が進められており、頑丈さではプテラスを大きく下回った。
ただし、これは半端な防御力を付けるより軽くして運動性を上げようという目算であった。
動きを良くすれば、被弾する事がそもそも少なくなる。
我々はサラマンダーとも戦う必要があった。サラマンダーの火器に耐える装甲など飛行ゾイドには無理な話だ。
ならば、機体剛性は空戦機動を存分に行える程度に留め、あとは軽くした方が良かった。

次に、航続距離の短さである。とても長いとは言えず、局地戦闘機としてしか使えないものであった。
この点では完全にプテラスに分があった。
だが、今の帝国は迎撃戦をしているので大した問題でもなかった。皮肉な事であるが。

要するに、シュトルヒは弱点もあるが今の帝国に必須のゾイドであった。
戦況を変え得る唯一のゾイドであると言えた。
私は、試験は早々に合格として量産を進めるべきだと報告した。
手続きに時間がかかるのならそれは構わない。だが量産は先行してでも始めるべきであった。

あと一年この機体が早くに完成していたら。そう思わずには居れなかった。
そうすれば、サラマンダーの爆撃を阻止して前線を押し戻す事も可能だったかもしれない。
あるいは今からでも、この機体で絶対制空権を取り戻せば奇跡の逆転に繋がるかもしれないと思った。

私と開発者は、上層部に強く進言した。
ついに、起死回生の切り札、シュトルヒの量産が始まった。
だが、量産はハンドメイドではない。工場の設備を整えた上での事となる。
その為、ある程度の機が揃うのは最短でも数ヶ月程度後の事であった。これは、とてつもなく重い事実であった。

 

(その8へ)

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