帝都防衛航空隊 6


共和国上陸部隊が動き始めた。
その頃、中央山脈からサーベルタイガー部隊が駆けつけ上陸部隊に襲い掛かった。全力で山を越え、今現場に到着したのだ。
だが、ゴジュラス部隊がすぐさまそれに呼応する。うなりをあげて部隊の先頭に躍り出た。

サーベルタイガー部隊とゴジュラス部隊の戦いが始まる。
我々は手に汗握りながらその行方を見守った。
一方、敵は結果を待つつもりはないようだった。
死闘が繰り広げている隣を、ウルトラザウルス率いる大部隊は悠々と抜けていった。

サーベルタイガーは善戦していた。だが平地では防御力とパワーで勝るゴジュラスが強引に勝つ事が多い。
一機、また一機とサーベルタイガーは敗れていった。

この状況を覆せるゾイドが居るとすればアイアンコングだけだろう。
アイアンコングもまた、全力でこちらに向かっている筈だった。山を越える時間はサーベルタイガーよりも倍はかかる。
だが、いずれ到着しミサイルの雨を降らせる筈だった。我々は、まだかまだかとその瞬間を待った。

ウルトラザウルスは、時折キャノン砲を放ちながら前進を続けていた。発射の度に、絶叫するような音が響き空気が震えた。
わずかに生き残っていたミーバロスの施設が破壊されてゆく。

それを見て、もはや選択の余地はないと悟った。
どうにかして守らなければならない。出来るか出来ないかではない。何かを為す時があるなら今だと思った。
爆弾はない。もはや勝利は望めない。機銃では、集中的に撃ってゴドスを撃破するのがせいぜいだろう。
だが、わずかな足止めくらいならできるかもしれない。

アイアンコング部隊の到着まで、我々がここで敵を喰い止める。
再び決死の覚悟を決めた。地面スレスレまで降下し、機銃を猛射しながら敵に突撃する。
高度が低すぎるので敵は狙いを付けにくい。
歩兵や小型ゾイドが隊列を崩す。決死の覚悟に、敵はわずかに歩みを止めた。

しかし敵は全力で撃ち続けた。一機、また一機とシンカーは失われてゆく。
ある一機は、翼に被弾し操縦不能のまま敵部隊に突っ込んでいった。
衝撃でコアが爆発し、周囲数機の敵を道連れにしている。
目を覆いたくなる惨状だったが、結果だけを言えば最も高い戦果になった。

やがて大半のシンカーが散り、生き残る機も一様に弾を撃ち尽くした。
無念、もはやこれまでか。
そう思った瞬間、コックピット内に通信が入った。
それはアイアンコングの接近を知らせるものであった。

現在、アイアンコング部隊はようやく山を越えた。そして最大射程の200kmからミサイルを撃とうとしている。
生き残りのシンカーには、放たれるミサイルの誘導をするよう指示がされた。
すぐさま了解の旨を伝え、発射を要請する。

ミサイル誘導の為、一旦現場から離脱する。一斉に引いた我々を敵はどう判断しただろう。この時点では分からなかった。
数刻の後に、スクリーンに接近する巨大ミサイルの点を確認した。
その数は18。どうやら9機のアイアンコングが到着しているらしい。
ミサイルが更に近づく。パネルを操作し、ミサイルの誘導システムをシンカーにリンクさせた。
戦況はこんなだが、帝国軍はミサイル技術では敵をリードしていた。その事が皮肉にも思えた。

ミサイルはシンカーに導かれ、正確に敵部隊の中央に進んでいた。
これだけ理想的な誘導が行える機会はそうそうない。
我々は、これで敵戦力が壊滅とはいかないまでもかなりのダメージを受けると確信していた。
ミサイルでダメージを与えた後、アイアンコングはこの地点にまで駆けつけるだろう。
傷ついた敵部隊を更に6連発ミサイルや格闘戦で追撃するに違いない。
敵を撃退できる可能性はまだある。そう信じながら、ミサイルを慎重に誘導した。

着弾まで残り1分を切った。ここから先はもはや誘導するまでもない。
正確に目標への軌道を取ったミサイルは降下を始めている。空を切る音が聞こえ始める。

その時、敵部隊は動いた。
見慣れぬ装備を付けたゴドスが20機ほど飛び出し、一斉に空に光弾を放つ。それは吸い込まれるようにミサイルを捉えた。
空中でミサイルが爆発四散する。命中寸前でミサイルは全損した。

まさか。我々は唖然とした。
共和国軍は、あらかじめアイアンコングのミサイルを警戒してその対策をしていたのだ。
敵が放ったのはこの戦いで初めて使用された新型装備で、ミサイル迎撃に特化したものであった。
ミサイルの持つセンサーに反応して飛翔する。対ゾイド用としては威力は低いが、ことミサイル迎撃には最強の装備であった。

ミサイルはその目的を達する事はなかった。
それでも、巨大ミサイルの爆発は凄まじい爆風を起こした。耐え切れず数機のにゴドスやガイサックが吹き飛んでいる。
だがわずかな被害に過ぎなかった。
我々は、またしても負けたのだった。

失意の通信を入れる。だがアイアンコング部隊はまだ諦めていなかった。
依然として全力でこちらに向かっている。
まだ武器がある。それは肩に装備した6連発ミサイル。これの射程にまで接近して第二次攻撃を行う―――、

ついに距離が詰まった。
アイアンコング部隊から最後の切り札、9機分・合計54発のミサイルが飛んだ。
今度こそと祈りながらそれを見守る。
敵はまだミサイル迎撃用装備を残しているだろうか? その場合、この攻撃ははたして成功するのだろうか?
不安ばかりが膨らんだ。

いやしかし、共和国部隊の動きは先ほどとは違った。
接近するミサイルに、一斉にビーム砲や機関砲を撃ち上げはじめた。
しめた。ミサイル迎撃用装備は既に使い切っていたのだ。

大部隊からの一斉射撃。濃密な弾幕は圧巻の一言だった。少し前はあれが我々に向けられていたと思うとゾッとした。
ミサイルが降下を始める。弾幕はいっそう激しくなる。
何発かの弾がミサイルを捕えた。
空中に爆炎が広がる。続けて、更に何発かのミサイルが爆発した。
上空は真っ黒な煙で覆い隠された。全弾迎撃されたのだろうか?
いや、1/3ほどのミサイルは弾幕をかいくぐって部隊中央に突っ込んだ。

部隊が爆炎に飲まれる。
煙が去った後、傷ついた共和国ゾイドの姿が見えた。
四散したゴドス、転倒したカノントータス、装甲をえぐられたゴルドス、そして脚部を損傷したウルトラザウルスまでもが居る。

ようやく一矢報いた興奮を感じる。
このままアイアンコング部隊が突撃して格闘戦を展開すれば、あるいは勝てるのでは?
むろん困難だが、可能性はゼロではないだろう。
いや、アイアンコング部隊だけでは無理としても、今はレッドホーンをはじめ他の部隊も全力でここに向かっている筈だ。
それらが力を合わせればいける。

にわかに希望が湧き上がる。
だが次の瞬間、損傷を免れたウルトラザウルスが前に出た。
キャノン砲の仰角を調整し、発射態勢に入る。
そう、我々は忘れていた。6連発ミサイルの射程とは、すなわち敵の射程でもあったのだ。

脚を開いて姿勢を低くする。
これまでの射撃とは違う。怒りに燃えた全力での射撃だ。
耳をつんざく音が響き、4発の巨弾が放たれた。

戦役を通じて、幾多のゾイドの砲撃を空から見てきた。その中でも、ウルトラザウルスの全力射撃はひときわ特徴的であった。
通常、砲は全門が同時に発射される。だがウルトラザウルスだけは違った。
4門のキャノン砲は同時に撃たれない。各門の発射のタイミングをわずかにズラして発射していた。
発射音はドドドド、と4連続で響く。

これはキャノン砲の威力があり過ぎる為であった。
発射時の爆風は凄まじく、同時に発射すると互いの爆風が弾道に悪影響を与えてしまうのである。
その為、発射タイミングをずらして正確な弾道を得ている。戦後になってこれを知った時、私は圧倒された。
後にも先にもこんなゾイドは居なかった。ウルトラザウルスの砲力を物語るものである。

砲弾が放たれた後、我々もアイアンコングも何もできなかった。
数秒後、アイアンコング部隊からの通信は途絶した。

 

結局、ミーバロスは陥落した。
サーベルタイガー部隊の壊滅、アイアンコング部隊の壊滅、シンカー部隊の壊滅。
引き換えに得たものは小型ゾイド数機の撃破、そして大型ゾイドに幾らかの損傷を与えた程度。
大型ゾイドは多少の被弾をしたに過ぎない。すぐに修理されて復帰するだろう。
我々が失ったものはあまりにも多く、得たものはあまりにも少なかった。

敵はミーバロスを前進基地として使った。共和国軍は、この日より帝国本土の攻略を始めた。

 

(その7へ)

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