帝都防衛航空隊 4


ウルトラザウルスが姿をみせた。
帝国の誰もが言葉を失った。いや、このゾイドは秘密裏に開発されていた。だから共和国の兵も度肝を抜かれていた。
それ程までに巨大だった。
アイアンコングと初遭遇した時、敵は山が動いたと叫んだという。我々はその事に少なからず愉悦を覚えていた。
だがコングが山というなら小山でしかなかった。目の前のゾイドは高峰だった。

超弩級、規格外のサイズはかつてのビガザウロと同じかそれ以上のショックを与えた。
飛行ゾイド、そして巨大ゾイドの開発力で共和国は帝国を大きく引き離していた。その事を改めて痛感した。
実は、スパイによりウルトラザウルス建造の情報は事前にキャッチされていた。
だが、上層部はそのようなサイズのゾイドは現在の技術で実現不可能として重要視しない愚を犯した。
自らの持つ技術でしか判断しない。これは帝国の悪い癖であった。
サラマンダー開発時の教訓を活かせなかったのは大いに反省すべき所である。

ウルトラザウルスの特徴はアイアンコングの2.5倍にもなる体躯だが、それ以上に砲力であった。
キャノン砲は一発でアイアンコングを二機まとめて破壊した。堅牢な要塞でも耐える事はできなかった。
しかもその射程は100km/hに達した。

砲の威力や射程だけなら驚く程のものではない。
我がアイアンコングのミサイルは、威力では及ばないが射程では倍近い数値を誇った。
だがそれは単発での能力を示したに過ぎない。ウルトラザウルスが優れていたのは連射力であった。

コングの長距離攻撃用ミサイルは200kmもの射程を誇るが、弾数はわずか2発しかない。
必中を期す為に、実際は5~60km程度の距離で撃つ事が多かった。
またコングは最初に砲撃を行い、全弾を撃ち尽くした後は自ら爆炎の中に飛び込み生き残ったゾイドを格闘戦で各個撃破するスタイルを採っていた。
ゾイド戦いの基本は格闘戦である。これで息の根を止める事で勝つ。
強力な砲が誕生した後にもゴジュラスが現役に留まり、またコングが砲力と格闘力を両立した意味はここにあった。

一方、ウルトラザウルスは4門のキャノン砲を持ち、しかも砲弾が内部にぎっしり積まれているらしく延々と撃ち続けた。
ひとたび火を噴けば、大部隊がまとめて破壊された。
プテラスを背部の飛行甲板に搭載する事が可能だった事も特筆すべきである。これは砲撃時の着弾観測を担っていた。
着弾観測機を使用した砲撃は正確を極め、まさに悪魔のようであった。
砲撃のみで戦いを終わらせる。格闘戦を必要としない。そんなゾイド。これができた点でウルトラザウルスは画期的であった。

共和国は強大な陸上ゾイドを得た。これが意味する事は深刻だった。
これまでの爆撃で、帝国東寄りの各都市は大ダメージを受けている。
そこへこの強力ゾイドがやってくればひとたまりもあるまい。
陸上ゾイドの進出は占領を意味する。

急遽として、予想される敵進撃ルート上には濃密な地雷原が設置され、”悪魔の花園”と名付けられた。
その数は数千にも昇った。

ゼネバス皇帝も、ウルトラザウルスの出現に大きな危機感を抱いた。
量産されれば敵は山を越える。そうなればもはや勝利はない。
その前に決着をつける。そう決意を固め、全軍に大攻勢を指示した。
敵より先に中央山脈を突破し、一気に共和国首都を目指す大進撃作戦が決定したのである。

正直な所、それは勝算の極めて低い指示であった。
例え量産前でも敵は強い。ゴジュラスの予想以上の底力は数年前の決戦で思い知らされた。
これだけならまだいい。我が軍の戦闘ゾイドも死に物狂いで戦うだろう。
どうしようもない問題は圧倒的な空軍力であった。飛行ゾイドが補給部隊を襲えば侵攻はそこで終わる。
結局、空軍力の差が帝国最大の問題であった。

だが、それでもやるしかなかった。何もしなければいずれ滅ぶ。
ならば1%の可能性でも掴み取らんとするのが道理だった。
皇帝の意思は痛いほど分かっていた。

補給部隊の問題は深刻だった。情けない話だが防ぐ術が根本的になかった。
結局、補給は敵に求める事になった。
積極的に敵と交戦し、弾薬・燃料・食料・可能なら戦闘ゾイドさえも調達するものである。

全軍が中央山脈を目指した。
帝国内に残されたのは、ウラニスクや首都を守る親衛隊、そしてわずかな守備隊のみとなった。 まさに背水の陣であった。

完了までに許された期間は二年であった。
ウルトラザウルスは、機体規模から考え量産にはその程度の期間を要すると思われたのである。
作戦は量産前に終わらせる。
直接的に戦う事を避ける。しかし、紛れもなくウルトラザウルスとの戦いであった。

作戦は始まった。
中央山脈での中心はサーベルタイガーであった。
抜群のフットワークを誇る高機動ゾイドで、アイアンコングに継ぐ帝国No.2の実力を持つ。
こと山岳では強さが倍加した。ここに限ればアイアンコング以上の強さと言えた。
ヘルキャットを配下に付け暴れまわる。
その姿は戦場の赤いイナズマと呼ばれた。味方はその姿に士気を上げ、敵は恐れをなし逃走した。

進撃は予想以上の順調さを見せた。山脈の大半は帝国支配域となった。
そしてついに、南部の部隊が山脈の突破に成功した。
まさに意地であった。
山脈を突破した我が軍は、大戦力を移動させる事に成功した。

ここまでの戦いは完璧といえた。
戦いの舞台は山脈から共和国本土に移った。
ここで勝利すれば戦勝。1%の可能性は大きく膨らみつつあった。
我が軍の士気は依然として高く、ここでの戦いも互角以上の善戦をしていた。

一連の作戦には我々空軍も参加していた。主な任務は偵察と対地攻撃であった。
プテラスと出会い大損害を被る事もあった。だが損害に構わず戦いを続けた。
また同時に、対ウルトラザウルス戦の研究も命じられた。
量産前に決着をつける。とはいえ既に何機かは生産されてるだろう。
それらは共和国首都の防衛に配備されていると思われた。

我々は、首都決戦で何としても勝つ必要があった。
無敵の砲撃力を持つウルトラザウルスは、地上ゾイドでは接近する事さえ難しい。
そこで、空からの攻撃が検討されたのであった。

だが、空からの攻撃も難しかった。ウルトラザウルスは対空能力にも優れていたのである。
ハリネズミのように無数の砲が空を睨んでいた。
使用される砲弾もこれまでとは違う特殊なものであった。これはマジックフューズと呼ばれた。
従来、弾は命中する事で目標を破壊した。
だが、マジックフューズは命中しなくとも目標を破壊した。
これは内部に小型レーダーを内蔵し、敵が近づけば自動的に炸裂し破片を周囲に飛び散らせる特殊な弾だ。
その破片により目標にダメージを与えるものであった。

単発での破壊力は減るが、命中率は格段に上がる。
この装備はゾイド戦役全期を通じて大きな脅威になった。
マジックフューズはまた、共和国の物量を見せ付ける事案でもあった。
弾の全てにレーダーを組み込める生産。これは帝国ではとても真似のできない事であった。

対空砲の他にも脅威はまだあった。
後部飛行甲板に搭載しているプテラスである。これは主として着弾観測に用いられているが、当然シンカーを狩る事もできる。
我々はプテラスと対空砲を潜り抜け、そしてから攻撃する必要があった。

導かれた唯一の案は急降下爆撃であった。
高高度から一気に下降し攻撃。攻撃する角度が深ければ対空砲は狙いを付けにくい。またプテラスからの攻撃も比較的受けにくい。
狙う箇所は二つあった。
一つはキャノピー、もう一つは飛行甲板である。
だがキャノピーは急降下爆撃で狙う目標としては小さすぎた。
研究の結果、狙うべきは飛行甲板になった。

ここを使用不能にする事は大きな意義があった。
すなわち着弾観測機を発着不能にすれば、それは遠距離砲撃の精度を著しく下げる事に繋がる。
砲撃で破壊される味方の数を大きく減らす事ができるのである。
この上で、アイアンコングやレッドホーンを突撃させる。
さしものウルトラザウルスも、命中率を下げた状態では幾らかを撃ち洩らすだろう。
とりついてしまえば、格闘戦で袋叩きにすればさすがに力尽きる筈だ。
撃破のシナリオはこうして決まった。

なお全ての戦闘が理想的に進んでも、1機倒すにはシンカー5、アイアンコング4、レッドホーン8程度の損失が予想されていた。
考え得る最高の戦術をもってもこの様なのであった。
やはり、量産前に決着をつける必要があった。

我々は、対ウルトラザウルス戦に向けた訓練を始めた。
急降下爆撃の訓練は、陸軍のレッドホーンを借りて行われた。
レッドホーンは飛行甲板に似せた板を背負ってそれらしく化けた。これに訓練用の模擬爆弾を落とす訓練が続いた。
危険な訓練は何度かの事故も起こした。だがそれすら構わず訓練は続いた。
いつしか上々の成績を収めるようになった。
もっとも、実戦ではプテラスの妨害や猛烈な対空砲がある。訓練時とは比べ物にならない苛烈さになるだろう。
その際にどの程度の命中率を維持できるかは不安を隠せなかった。
それでもできる事は全てやった。その自負もあった。

我々が訓練を仕上げ段階に移行させた頃、最前線の状況は幾らか悪化していた。
この時、我が軍はレッドリバーにまで歩を進めていた。
だが補給は途絶え、物資は不足を極めていた。戦況は膠着状態に陥った。
それでも士気は依然として高く、勝利を信じていた。
アイアンコングはミサイルを撃ち、サーベルタイガーは牙で敵を穿ち、レッドホーンは角で突撃した。

そんな折、我々は緊急通信で滑走路に呼ばれた。
整備員があわただしく駆け回り、模擬弾を実弾に換装していた。
爆弾は250kg爆弾を4発、すなわち最大積載量を付けていた。機銃にも弾帯が外側にはみ出す程の量が給弾されている。
そうこうしている内に、シンカーはエンジンを始動した。暖機運転だ。

ついにこの事がきた。膠着状態を覆すべく、ウルトラザウルスが最前線に現れたに違いない。
我々は武者震いをした。これを破壊すれば敵は一気に崩れる。
シンカーのコックピットに歩を進めた。
だが上官がそれを静止する。
何事かと問う私に、上官は状況を説明した。
ウルトラザウルスが現れたのはレッドリバーではなかった。
海を渡り、しかも共和国大部隊を引き連れミーバロスに現れたのであった。

 

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