Last Rebellion


被弾部が前盾だったのは幸いだった。
敵の巨弾は装甲にはじかれて軌道を変え、後ろのビルに当たった。
衝撃でビルは崩れ去り、俺の機を瓦礫に埋めた。

撃破と見たのだろう。敵はそれ以上俺に構うことなく、歩を進めていった。
その姿をわずかな隙間から見て、俺は叫んだ。
「くそったれっ!ステーキ野郎は逃げやがった。背中、生きてるか!?」
「…どうにか。そう叫ばんで下さい少佐。耳が痛い」

機体をどうにか動かし、モルガの様に地面を這い、瓦礫からの脱出に成功した。
「あれは改造型でしたね」
「あぁ、でなけりゃ今頃ここには奴の残骸があるはずだ」

さっきの敵は改造型ディバイソンだった。
17門の突撃砲は全て撤去され、代わりにゴジュラスの長距離キャノン砲より大きい大砲が2門付いていた。
「こいつが改で良かったですね。しかし、それでもギリギリだったみたいだ…」

俺の愛機は、装甲を全て最新の複合材に換装した、レッドホーン改だった。
その対弾性能はノーマルタイプの倍以上で、前盾ならウルトラザウルスの巨砲すら耐えてみせる。
だが至近距離からの砲撃を喰らい、自慢の装甲は無残にひしゃげていた。
かろうじで防いだものの、無数の亀裂が走り、もう次は機銃すら防げるかも怪しい有様だった。

「くそっ、だがまだ動ける。戦えん事は無い」
「…いえ、それがさっき埋まった時、排気口から異物をしこたま吸い込んだらしく…。しばらくは動きますが、ドックに入れないと早々使えなくなりますね…」
「何だと……。くそっ、俺たちも遂に年貢の納め時か」
俺は天を仰いだ。

「敵は北上していきましたね」
「あぁ…、ニカイドス島の方だ」

 

ZAC2051年、ゼネバス帝国は危機に瀕していた。
3年前、戦場に姿を見せたマッドサンダーによって、共和国とのミリタリーバランスは大きく狂った。
今やゼネバス帝国首都は共和国の手に落ちた。
皇帝は残存兵力のほとんどを、中央大陸北西のニカイドス島に結集させ、最後の決戦を挑もうとしていた。

俺たちは中央大陸に残り、ニカイドス島で皇帝が戦いの準備を整えるまでの時間を稼ぐ部隊だった。
この隊の入隊と同時に、志願した全兵には二階級の特進が宣言された。
つまり、そういう部隊だった。

停止寸前のボロボロの愛機を見上げた。
「すまんな。だが俺たちもすぐに往く…」
今更そうする事に意味があるのかは分からなかった。
だが鹵獲を防ぐ為に機体放棄の際は自爆が原則――、の規則に則り、俺はコックピットの自爆スイッチを入れ、機体を離れた。
後方で響く爆発音が派手に響いたが、感傷に浸るより身を隠さなければならない現実がやるせなかった。

持ち出したのは、僅かな機関銃と手榴弾のみ。
「手持ち装備じゃどこまで出来るかわからんが…、せいぜいゲリラで戦ってやるか」
「まぁ、その他はないでしょうし……、っと、少佐?」
指差された方を見ると、まだ幼さの残る少年兵がこちらに向かっていた。
その腕にはゼネバス帝国の国章がくっきりと描かれていた。
「…友軍がまだ残っていたか。だが若いな。あんな年の子まで戦っているのか…」

「友軍の姿が見えましたので、やって参りました」
キビキビとした敬礼と口調は、入隊した頃の自分を思い出させた。
「それはご苦労だった。だが少し遅かったな。さっき俺たちのレッドホーンは無くなった所なんだ。ゲリラ戦を共に展開するという事なら手伝えんでもないが…」
「いえ、少佐殿、それなら心配に及びません」
「…どういう事だ?」

 

案内されること数キロ、少年兵は俺たちを地下施設に案内した。
「こんな所に友軍施設があったなんて知らなかったぞ…」
「はっ、私も先日偶然見つけたのであります。中にゾイドもあるのですが、恥ずかしながら私は通信兵で操縦はできないもので…」
「なるほど。それで機体を失った我々を見つけて、というわけか」

「ところで、中には君の仲間がまだ居たりするのかね」
そう問うと、少年兵は俯いて黙り込んだ。
「…すまんな。嫌な事を聞いた。では早速、機体を見てみよう」

この戦況の割に、施設は綺麗なものだった。どうやら、共和国軍には発見されていないらしい。
電源もほとんど生きており、特に異音もなく扉は開いた。
中のゾイドを見て、俺は思わず声をあげた。
「おい、これは……、凄いゾイドがあるじゃないか…。なんでこんな所に」
「…どうやらここは改造ゾイド研究所のようですな。こいつはその中の一機らしい」
格納庫に居たのは、帝国最大最強メカ・デスザウラーだった。
しかも両肩に巨大な砲を装備している、火力アップ型らしかった。

「すげぇ所を掘り当てたみたいだな。こいつぁマジですげぇぜ…。動かせるのか!?」
「補給は全て完璧のようです」

施設内には、残された日誌があった。
ここは帝国に幾つかある秘密研究所の一つで、対マッドサンダー用にデスザウラーを強化する研究・改造をしていたらしい。
だが完成を待たず、共和国の猛攻を前に放棄されたようだった。

「対マッドサンダーか…。その装備ってのは両肩の大砲か?」
「はい。名称はツインゼネバス砲。荷電粒子砲です」
「なに!? そりゃすげぇ…。じゃぁこいつは3門も荷電粒子砲を…」
「コンセプトは、マッドサンダーの装甲を正面から撃ち破ることのようです。口腔内の通常荷電粒子砲に加え両肩の荷電粒子砲も一気に撃ち込む。さすがのマッドサンダーもこれには耐えられないだろうと」
「すげぇな…。なんで放棄されたんだ?」
聞く限り、全てのデスザウラーをこのタイプに改造すれば、再び帝国の優位を取り戻すのも不可能ではなさそうだ。

「3門の荷電粒子砲にエネルギーを供給する為、無理にシンクロトロンジェネレーターを大型化しているからですね…。その冷却などの安全性が確立されていないので、チャージ中にヘタをすればデスザウラーが暴発してしまう危険性があります。また―――、上手くチャージ出来ても、両肩の砲は荷電粒子砲のエネルギーに対して強度が足りない…。せいぜい、撃てるのは2発が限度です。そして換装用の砲身も製造されていない……」
「出撃しても上手く攻撃できる可能性は五分。更に上手く使っても数度しかその能力を発揮できないってか。まぁ…、そりゃぁ放棄されるな」
「惜しいですね。戦況がこんなにも逼迫していなければ…、完成していたかもしれないのに」
「だが俺たちにはうってつけのゾイドだ」

 

地下研究所の天井を突き破って、デスザウラーが地上に躍り出た。
先ほどの少年兵には、俺が上官命令として共和国に投降する事を命じた。
だが頑なに阻まれ、まだこの付近に残っているかもしれない友軍施設や兵を探すという事だった。

「…祖国が滅びるわけだ。あんな子供まで懸命に戦っている」
内側から怒りが湧き上がってくるのを感じた。
「少佐、その怒りはひとまずあいつにぶつけましょう」
腹部コックピットから声が聞こえる。
「敵機北3km、反応の大きさからして大型単機。さっきのディバイソンかもしれません」
「よしっ、まずは手馴しだな」
デスザウラー・ツインゼネバス砲装備型は、全力で敵に急行していった。

機体を前傾させ、ビルよりも低い体勢を保ちながら進む。
こうすれば敵のレーダーで易々捕らえられる事は無い。
敵ははっきりとレーダーで捉えられた。
「…いい気なもんですね。全く警戒せず行動しているみたいだ」
「この辺の帝国ゾイドは全滅したと思ってやがるのか…」
「あるいは出てきても問題ないと思っているでしょう」

全く気付かれないまま敵に近づく。ついにビル一つ挟んだ所まで進んだ。
「よし…。じゃあ始めるぜっ!」
デスザウラーを一気にフルパワーまで引き上げ、巨大なクローと加重力テイルでビルを殴る。
途端、巨大なビルが粉々に崩れ去った。
煙と瓦礫を越え、ディバイソンの前に巨体をさらす。
突然のデスザウラー登場に動揺するディバイソン。

「久しぶりだな。さっきの礼をしにきたぜ」
そのままディバイソンの角を掴み、強引にブン投げる。
しかしディバイソンは転げまわりながらも何とか起き上がり、こちらに砲口を向けた。
「ほう、思ったよりずっとタフだな」
「少佐、余裕ぶるのもいいですが早めに片付けましょう。あの大砲を撃たれたらいくらデスザウラーでも大ダメージだ」
「…そうだな。じゃぁ、そうするか!」

頭部のビーム砲を撃ち込む。
装甲を貫通するような威力はないが、起き上がり始めたディバイソンの体勢を再び崩す程度には充分だった。
もがくディバイソンに近づき、再び掴み上げる。
巨大なクローに力をこめると、ディバイソンの分厚い装甲が軋み、音を立てて砕けた。
ディバイソンのツインアイの光が消え、脚がだらしなく下を向いた。
力をゆるめると、そのまま大地に落ちる。
ピクリとも動かないディバイソンを見下ろし、デスザウラーは満足げに低く唸った。

「少佐、新たな機影2、急速に接近中。この動きはおそらく…」
言うが早いか、巨大な砲弾が至近距離で炸裂した。
「ゴジュラスMK-IIか」
「撃ちまくりながら突っ込んでくる!」

「報復ってわだな。返り討ちにしてやるぜ!」
俺はデスザウラーをゴジュラスMK-IIに向けて走らせた。
「敵、2手に分かれます。挟み撃ちにする気だ」
「構わねぇ。好きにさせとけ」

左右のビルの谷間から、ゴジュラスの巨体が現れた。
「挟み打ちにしたい気持ちも分かるが、そんな戦い方じゃ自分たちが格下って言ってるようなもんだぜ」
片方のゴジュラスに狙いを定め、一気に加速する。
シュッ!
あっという間にゼロ距離まで迫り、巨大なクローを振り上げる。
この加速力と瞬発力。接近戦でのデスザウラーの機敏性はサーベルタイガーをも越える。

ザシュ!
クローを横一文字に振る。
ゴジュラスの腹部が脆くひしゃげ、ゾイド生命体がむき出しになった。
「腹部4連ビーム砲だ!」
むき出しの生命体に容赦なくビーム砲を浴びせる。

「後方から残る一機が突撃してきます!」
「後部ミサイル撃て!」
腰部ハッチが開き、16連装ミサイルの嵐がゴジュラスに吸い込まれる。
喉元に集中砲火を喰らったゴジュラスは大きく体勢を崩した。
その隙に機体を反転させ、正面から対峙する。
「どうもお前はもっとタフだった印象があるんだが、腑抜けたか?」
いまだ体勢を立て直せないゴジュラスの喉元に牙を立てる。
そのまま食い千切ると、機体はそれ以上動かなくなった。

「なんだかんだ言ってやっぱりデスザウラーはすげえぜ。負ける気が微塵もしねえ」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

三週間後、もはや交戦回数も覚えていなかったが、俺たちはまだ生きていた。
あの一件以来、強力な敵の噂は瞬く間に広がったらしい。
幾多の共和国ゾイドが俺たちを狙ってきた。
俺は噂を聞いた残存帝国兵も集まるかと思っていたが、それは無かった。
あの少年兵もどうなったか分からなかった。

俺たちは、デスザウラーをマンクス海峡が見える位置まで移動させた。
この海峡を越えればニカイドス島に到達出来る。
共和国軍は、いまやこの海峡を突破し、ニカイドス島への上陸を図っている。
俺たちのデスザウラーは、最後の砦の様に、この付近で共和国軍を撃退していた。

デスザウラーは健在だった。
いまだ荷電粒子砲も温存されており、全く補給が無い状態にも関わらずメカニックは順調で、実弾武器の弾も何とか足りていた。
もしやこのまま何とかなるのではないかという希望さえ芽生えつつあった。
だが悪い事はついに起こった。

偵察中のシールドライガーと交戦に入った俺たちは身構えた。
敵は一定の距離を置きながら、俺たちと対峙し続けた。
援軍を呼ぶ気かと思った俺たちは、一気にケリをつけるべくビーム砲の照準を定めた。
しかしその瞬間、シールドは大きく飛び上がり、空中から必殺の一撃を放った。

直撃する。だが衝撃も何も無く、機体ダメージも示されない。
何がなにやら分からぬ内に、シールドライガーは彼方へ去っていった。
「何だったんだ、ありゃ…」
「一応、機外に出て被弾箇所を見てみましょう…」

「……ますますわけがわからん。何だこれは」
被弾箇所には、黄色いペンキのようなものがべったりと付いていた。
「嫌がらせか?まぁ確かに嫌だが……」
だがそれはとんでもないものだった。

イエローフラッシュという、我が軍がかつて開発運用した特殊装備があった。
この特殊な塗料は常に強い電波を発するもので、浴びれば最後、もはや障害物に身を隠そうが地中に潜ろうが、正確に位置を補足できるものだった。
いつの間にか共和国軍は、この帝国が誇った特殊装備をコピーしてしまったらしい。

昼夜を問わず、戦闘が起こるようになった。
身を隠すことが不可能なことを悟った俺たちは、もはや寝ることも許されず、わずかな仮眠を繰り返しながら朦朧と戦った。
マトモに食事をする暇さえ無かった。
疲労は、肉体的にも精神的にもピークに達していた。

ふいに、敵の攻撃がピタリとやんだ。
「…何が起こったんだ?」
「……嵐の前の静けさってやつでしょうかね」

果たしてその通りだった。
あまりにも粘る俺たちに、ついに共和国軍も本腰を入れて総攻撃に出たらしい。
レーダーに無数の敵影が写った。

「へへっ…、年貢の納め時かもしれんが…、まだ切り札も残ってんだ。タダではやられねぇぞ」
遂に肉眼で見えるほどに、敵が近づいてきた。
先頭にマッドサンダーが一機、その脇にウルトラザウルスが2機。
周りには10機を超えるゴジュラスがうようよ居る。

「ついにこれを使うときが来たか…。三連荷電粒子砲、チャージ開始だ」
オーロラインテークファンが回転し、膨大なエネルギーがデスザウラーに取り込まれていった。

 

敵はマッドサンダーを中央に、左右にウルトラザウルスが各1、ゴジュラスが満遍なくといった具合。

「照準、ツインゼネバス砲は両側のウルトラザウルスに定めろ。頭部荷電粒子砲はマッドサンダーだ」
「了解。ただ今エネルギー充填率40%…、充填完了まであと6分」

「大事なところでヘバんじゃねぇぞ…」
両肩のツインゼネバス砲を見る。
さすがにまだ大丈夫な様子だが、整備も何もなしで戦い通しているのだ。緊張が走った。

「50%…」
オーロラインテークファンは回転を続ける。
遂に青いイナズマがデスザウラーの周囲を走り始めた。
「安全装置解除」
「了解………、頭部、右砲、左砲全て解除」

「60%…、頭部砲への充填完了」
既にデスザウラーの頭部はイナズマが何本も走り、光り輝いている。
「ホントにこいつを受け止めるのかよ、あいつは…」

「70%…」
ついにツインゼネバス砲へのエネルギー充填も急速に始まり、いよいよデスザウラーの上半身全てが光で覆われ始めた。
「念のためですが、3門全てマッドじゃなくて構わないんですね」
3門全てマッドサンダーにぶち込む。それはまさに、この機体が作られた目的だろう。
だが…、この敵大部隊。
仮にマッドサンダーを倒しても、ウルトラキャノン砲とゴジュラスMK-IIの長距離キャノン砲、合計30門近くの大砲を相手にすればデスザウラーとてひとたまりも無い。
撃てる回数は2回。
まず一斉目で護衛機を全て倒す。
そして二斉目で…、3連荷電粒子砲を撃ち込んでやる…!

「80%…、ツインゼネバス砲への充填順調」
ふいにウルトラザウルスが伏せた。
「敵、射撃体勢に入った!」
ゴジュラスも両方の脚をふんばり、射撃体勢に入る。
「くそっ、もうかよ!もうちょっと接近してからだと思ったんだが…!」
距離約20km。実弾砲で一発必中を狙うにはまだまだ遠い。
だが敵は数の多さにまかせて撃つ気だ。
「エネルギー充填率は!?」
「84%、完了まで残り1分半…!」

「くそっ、腹くくれ!このまま貯め続ける。この距離ならそうそう当たらん!」
実弾砲特有の発射轟音が轟き、瞬間、ものすごい数の砲弾が近くで炸裂した。
「くそったれ!初弾から思ったより正確じゃねえか!」
デスザウラーから100mほどの距離に、巨大なクレーターが何個も出来、大地がえぐれた。

続けてすぐに二斉射目が来る。
耳が潰れる程の轟音が轟く。
さっきより近い。
「くそったれっ、射角が合って来てやがる!」
「次は当たります!いったん退避した方が……!」
「充填率は!?」
「96%…!」
「…!ギリギリこっちの方が早く打てるぜ!射撃体勢を取れ」
「……少佐ならそう言うと思いましたよ…!」
デスザウラーを敵部隊の正面に向かせ、脚を踏ん張らせる。

「97%」
「照準、再度調整」
砲撃の衝撃で生じたわずかな射角のズレを修正する。
デスザウラーの頭部、ツインゼネバス砲が細かに動き、敵を睨む。

「98%」
「尾部アンカーを固定。対ショック体制を取れ」

「99%…」
「発射後はまぶしくてカメラが使い物にならん。レーダーパネルをしっかり見ておけ!」

「100%!」
「撃て!!」

グンッ…!!
デスザウラーの巨体が一瞬、衝撃で大きく揺れる。
「いけぇぇ!」

目も眩むような光の粒子が一斉にはじけ飛ぶ。荷電粒子砲が、一直線に敵に向かって飛んだ。
「着弾……!全て命中」
ほぼ同時に、3門の荷電粒子砲が敵に当たる。
凄まじい荷電粒子の波の中で、幾つもの爆発が起こった。

「荷電粒子全エネルギー放出完了、砲身加熱!冷却装置作動します!」
「敵はどうなった!?」

共和国部隊は地獄絵図の中にいた。
予想もしていなかった3門の荷電粒子砲を受け、かすりでもしたゾイドはことごとく、その姿を溶けた鉄に変えていた。
いや、ただ一機だけ生き残っていた。

「やっぱりお前だけは生き残っていたか……、マッドサンダー!」
「敵、突撃してきます」
味方全損の怒りに燃えたマッドは、最高速度でデスザウラーに突っ込む。
「荷電粒子砲、再チャージは!?」
「冷却完了するまでは無理です。あと8分ほど!」

「くそっ、冷却完了と同時に再チャージ!それまでは何とか戦ってやるぜ」
機動性はともかく、最高速度はマッドが上だ。
逃げる事は叶わない。
しかも最大エネルギーで荷電粒子砲を放出した直後だ。
反動でしばらくデスザウラー自身も全力を出せない。
しかし…、
「あれだけの荷電粒子砲を受けたんだ。ノーダメージではあるまいが……」
デスザウラーをマッドサンダーに一直線に向け、突撃する線上にどしりと構える。
回転する二本のドリル・マグネーザーが間近に迫る。

闘牛士のように直前で横によけ、その角の一撃をかわす。
だが、すぐさまマッドサンダーが首を振り、横殴りにマグネーザーを浴びせかけた。
「グゥゥゥゥッ!」
激しい揺れるコックピットの中で、何とか意識を保つ。
とっさに左腕でマグネーザーを受け止めたが、激しい火花を出し、デスザウラーの腕は容赦なくえぐれていた。
「ジョイントがいかれた……!左腕動きません!」
「くそっ、どこにそれだけのパワーが残ってんだ!…だが、しくじりやがったな…!」
打ち付けられた衝撃を利用し、そのまま側面に回りこむ。

目の前に雷神ただ一つの弱点・ハイパーローリングチャージャーが見える。
「叩き潰すにゃ、片腕で充分だぜ…!」
だが右腕を振り上げた瞬間、敵が動いた。
「敵、主砲旋回!ビーム砲が来る………!」
瞬間、マッドサンダーの背中が猛烈に光った。

大口径の衝撃砲とキャノンビーム砲、合計4門の砲が猛烈な勢いで放たれる。
ゼロ距離。外しようが無い。
デスザウラーの装甲はこの程度のビーム砲には耐えてみせる。だがこうも立て続けでは……、
荷電粒子砲を除きさしたる火器がないのは、デスザウラーの大きな弱点だ。
一方的に被弾し、ついに装甲が赤く溶け始めた。
「限界だ…!」
「くそったれっ!」

一旦デスザウラーを引かせる。
再びマッドサンダーと正面から対峙する。
「くそっ、元通りかよ」
「いえ、腕の分だけ不利ですね」
「くそっ、言わんでいい。しかし時間は稼いだ。冷却は?」
「完了まで残り2分ちょっと」

「…よしっ、構わねぇ!チャージ開始だ!」
「そりゃ無茶です!ツインゼネバス砲が今度こそ耐え切れない!」
「バカ野郎、それでも無事チャージできる方に賭けるしかねえだろ」
「ここまできて自爆したら孫の代まで恥ですよ!」
「伝家の宝刀を持ったまま死んだら末代までの恥だ!チャージ開始!」
「……そりゃ少佐の言う通りかもしれません。しかしもうどうなっても知りませんよ」

オーロラインテークファンが再び回転し、空気中の荷電粒子を吸い込み始めた。
「フルチャージまで10分」
チャージを察したマッドサンダーが、再びデスザウラーに突撃する。
「…くそったれ、やっぱり待っちゃくれないよな」
ささやかに頭部と腹部のビーム砲で抵抗したが、全て軽く弾かれる。

突撃。
かわす事も叶わず、生き残った右腕だけでマグネーザーを受け止める。
「くそっ、踏ん張れデスザウラー!」
つかみ所が良かったか、何とかマッドサンダーが止まった。
「ぐぅぅぅぅ…!デスザウラーを舐めるなよっ!」
しかし4足でただでさえパワーに勝るマッドサンダーは、片腕しかないデスザウラーにジリジリと迫っていった。
「チャージは!?」
「現在35%!完了まで6分半!」
「くそっ、それまで腕が保つわけもねぇ…!」
最後の力を振り絞り、渾身の力で腕を振り回す。
その意地にマッドの首が屈した。回された方向に一瞬だけ横を向く。
その隙に何とか下がり、距離をとった。

「チャージは!?」
「60%!残り4分…!」
「くそっ…、こうなったらもう…、射撃体制をとれ!」
デスザウラーをマッドサンダーに向かせ、大げさに荷電粒子砲の発射体制をとる。
マッドサンダーが再びマグネーザーを回転させ、こちらに突撃する準備を整える。

「70%」
かつて何機のデスザウラーが、こうしてマッドサンダーによって倒されたのだろう。
「今日こそ沈めてやる!」

マッドサンダーが突撃する。
再び、右腕でそれを受け止める。
電磁クロウに大穴が開き、マグネーザーの先端が突き出た。
二度目のマグネーザーを受け、既に右腕のジョイントも限界だ。
ガシッ!
遂に右腕が付け根からもげ、マグネーザーに持っていかれる。
「許せデスザウラー、借りは後できっちり返してやる!」
ちぎれた右腕がマグネーザーに絡まり、一瞬だけ動きを止めた。
その隙に再び距離をとる。

「90%」
「照準合わせろ!」
頭部が、ツインゼネバス砲が、合計3門の荷電粒子砲がマッドサンダーを睨む。
ギュゥゥゥゥ!
右腕を強引に振り落としたマッドのマグネーザーが、再び回転を始める。
巨体が迫る。

「充填完了!」
「発射!!いけぇぇぇぇえええ!!」
再び、目も眩むような光の粒子が一斉にはじけ飛んだ。
「ぶち抜け!」
「着弾!敵前頭部シールドに着弾!」

「うぉぉぉぉおおお!」
荷電粒子砲の光で、目の前は何も見えない。だが今はデスザウラーを信じるだけだ。
「砲身加熱!ツインゼネバス砲が…溶けます!やっぱり冷却が足りなかったんだ!!」
「構うなっ!尽きるまで最大威力で撃ち続けろっ!」
既にツインゼネバス砲は砲身が溶けはじめ、コックピット内が赤く点滅し、計器がうるさい警告を発した。
「暴発する………っ!」
ドンッ!
ほぼ同時に、両側のツインゼネバス砲が爆発した。
衝撃でデスザウラーの両肩が大きくえぐれる。
もはや立っている事すら不思議なほど壮絶な姿だったが、奇跡的に頭部荷電粒子砲はまだ生きていた。
「頭部砲は最後まで撃ち続けろっ!」

ツインゼネバス砲を失った事で、かろうじでマッドサンダーが視認できるようになった。
しかし俺は衝撃を受けた。
「な…、何てヤツだ…!」
マッドサンダーはゆっくり歩いていた。さすがに遅いが、一歩一歩とデスザウラーに迫ってくる。
「荷電粒子全エネルギー放出まであと10秒!」
9・8・7・・・、
ツインゼネバス砲と頭部荷電粒子砲、全力の荷電粒子砲をこれだけ受けてなおこの怪物は歩いていた。

「全エネルギー放出完了!エネルギーゼロ!」
荷電粒子砲を撃ちつくすと同時に、マグネーザーが触れるほどの位置にマッドサンダーの巨体が迫った。
「くそっ、バケモンめ……!」
いや、しかし…、
「敵、停止………?生体反応が消えていく……!」
「何だと!?」
「少佐!やりました!際どい所でしたがマッドサンダーを倒しました!!」
マッドサンダーは見事3門の荷電粒子砲を全て防いで見せた。
だが防ぐと同時に全エネルギーを使いきり、その機能を停止したのだった。

 

「大したヤツだったぜ、お前は……」
死の直前までデスザウラーに迫り続けたマッドサンダーは、その身を静かに横たえていた。
コックピットから降り、その姿を見て感傷にふけっていると、ガラガラと音を立てデスザウラーが崩れ落ちた。
戦いを終え、デスザウラーもまた力尽きたのだった。
重なるように眠る二機を見て、普段考えもしない宿命という言葉が頭をよぎった。
そして俺たちは、死した二機に向かい、無言で敬礼を送った。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
俺たちが共和国の増援に捕まり捕虜となったのは、一時間ほど後の事だった。
マンクス海峡が見える捕虜収容所に、俺たちは収容された。
そこで、ゾイドの残骸を片付と、使えそうな部品を見つけ整備・再生する事を命じられた。
しかし既に戦勝ムードに沸く共和国は余裕で、収容所の生活は過酷という程でもなかった。

ある日、休憩時間に海を見ていると、水平線を埋め尽くすほどのウルトラザウルスの大艦隊が見えた。
いや、ウルトラザウルスではなかった。
腹の下にマッドサンダーを合体させ、海上輸送を可能とした改造タイプだった。
いよいよ、ニカイドス島への上陸作戦が開始されるという事だろう。

「数え切れん…。これだけの数のマッドサンダーを持ってるのかよ……」
「ニカイドス島は…、どうなるでしょうね」
「………まぁ、勝てんだろうな」
「……祖国の敗戦ですか」
「あぁ。だが……、帝国は…、誇りは残したさ」
「誇り、ですか?」

あの一戦以来、どうも俺の中の考えが変った所があったらしい。
以前は、敵を倒す事だけを考えていた筈だが………、
「俺たちは、帝国は…、情けなく負けたわけじゃない。潔く戦って負けた。誇りを残した」
「……」
「停戦後の条約がどうなるかは分からん。だが誇りさえあれば、国はまた蘇る事が出来ると、俺は思う」
「…マッドサンダー以上のゾイドも作れると?」
「いや、もう戦争はこりごりだ。戦争は奴らの勝ちで終わればいいさ。そういう事じゃなくてな……」

「停戦後しばらく…、政権は剥奪され帝国全土は共和国の占領下に置かれるだろう……。だが俺たちに誇りがあれば、再び帝国の独立を勝ち得る事も出来るだろう、とな」

「戦争はもう沢山だ。あの少年兵みたいな子供が生まれる時代がもう来てはいけない。だがそれでも…、やっぱり俺は共和国ではなく帝国の民である誇りは持ちたい。次の平和な時代には、誇りある帝国が素晴らしい技術力で共和国をリードしてやればいい」
「…それは素晴らしい意見ですね。少佐からそんな言葉が聞けるとは夢にも思いませんでしたが」
「からかうな。しかし俺はツインゼネバス砲を見て、やっぱり帝国の技術力は圧倒的だと思ったな。停戦後の経済戦では帝国が俄然優位だぜ」
「マッドサンダーもあれを防ぎ切ったじゃないですか」
「バカ野郎、途中でツインゼネバス砲が暴発したからだ。万全状態なら余裕だったぜ」
「そうですかねぇ…。けっこう、際どかった気がしますが」

「そこの捕虜、そろそろ休憩時間は終わりだ。作業にもどれ」
看守の声で、俺たちの会話は途切れた。

「じきにこの戦争も終わる」
大艦隊を眺めながら、看守がつぶやいた。
確かに、その通りだろう。
だがその先も、帝国の誇りをかけた戦いは続いてゆくのだ。
俺はそう思いながら作業に戻った。

どこから知れたのか、マッドサンダーと五分に渡り合い相打ちに持ち込んだ一件は収容所でも広まっており、俺たちはちょっとした有名人だった。
訪ねてくる仲間も多い。

俺は戦いを語る際、戦いの経緯と共に必ず誇りを語るようにした。
平和な次代に向けての戦いが始まったのかなと、俺は思っていた。

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