ゾイドワイルドのギミック -リバースセンチュリーを振り返る-

2018年夏、発売されたゾイドワイルド第一弾キットはいずれも個性的なギミックで魅了してくれました。

カブター、スコーピア、ワイルドライガー。
これらは過去に同クラス同モチーフの機体が居ます。
比べると、新型機はサイカーチスやガイサックを超えようとした強い意思を感じます。


カブターは角が連動。羽は手動で動く。サイカーチスは羽が連動。角は手動で動く。
こう書くとトレードオフで総合的にギミックの魅力は互角と言えます。ですがカブターはワイルドギミックを持ちます。
ワイルドギミックでは隠された大型角を展開。通常の角に加えて大型角をも動かしながら動く!


ガイサックは歩くだけでした。それでも8本の脚で不気味に動くから満足できました。
ではスコーピアは。スコーピアは爪を動かしながら動きます。もちろん8本の脚の不気味な動きも健在!


シールドライガーとワイルドライガーを比べると、「脚の関節が複雑に動くシールドライガー」「ワイルドブラストを持つワイルドライガー」で甲乙付け難い仕上がりです。
ですがこのクラスのいわゆる「ライガー系」は機獣新世紀ゾイド以降で過剰なほど増えました。そしてギミックはシールドライガー(正確に言うとサーベルタイガー)からあまり変化がないものばかりでした。
関節の動きは良いギミックです。ですが、ワイルドライガーが同じ動きだと新鮮さは低かったでしょう。
思い切って脚を一体成型にしながら、一方でワイルドブラストの大胆なギミックを装備したワイルドライガーはとても鮮烈でした。
とても良い選択をしたと思います。
(ただそれとは別にいずれ関節の動きにもまたチャレンジして欲しいとも思います。オールドファンにとっては見慣れた動きでも、新規ファンにとっては新鮮に写るでしょう)

 

この調子でどんどん魅せて欲しいものです。
さて今回は「ゾイドワイルド始動、ギミックも素晴らしかった!」ということで、ギミックをキーワードに2008年に展開されたゾイド25周年「ゾイドリバースセンチュリー」を振り返ったみたいと思います。


リバースセンチュリーは、とにかく徹底して当時のファン目線に立った展開をしました。
その中の一つがギミックの追及だったことは疑いようがありません。

当時のゾイドを少し振り返ると、2006年3月にアニメ「ゾイドジェネシス」が終了。その後はブロックスを発展した「ネオブロックス」がメインシリーズになりました(2007年夏に展開終了)。
同時に大人ファンに向けたゾイドオインラインウォーズも展開していましたが(2006年11月~2007年12月)、これはキット展開が基本的にないものでした()。
※例外としてシールドライガーコマンダー仕様のみリリースされました。

リバースセンチュリーの新型ゾイドはいずれもギミックに凝っています。凄まじい懲りようです。
それは機獣新世紀ゾイドのギミックが似たり寄ったりなものが増えた事。更にSSゾイドを経てブロックスが中心になった事。新しい展開がネオブロックスだった事。
またこの頃はコトブキヤのHMMシリーズも展開していました。
これらの反動だったと思います。

とにかく強烈なギミックを誇っていました。
「ギミックのゾイドをみせてやろうじゃねえか!」そんなギラついた意思を感じます。
特にドスゴドス、ヴァルガ、クリムゾンホーンは際立っていました。


ドスゴドスは可動と動力を理想的に両立。
ロックを外すと様々なポーズがとれます。動力でももちろん動きます。
リバースセンチュリーは元々ドスゴドスを主役にしたストーリー展開をする予定でした。
結局それはされなかったのですが、予定されていたに相応しい完成度の高さです。


ヴァルガは言わずもがな。見た人は決して忘れられなくなる超ギミックを持ちます。
モルガのようにうねる動きをした後に丸まり一回転。更に「ガガガッ!」とガトリング発射音を出します。


クリムゾンホーンは、レッドホーンやダーク・ホーンと言う傑作がある中で「第三のホーン」に相応しい完成度を示してくれたと思います。
搭載する砲がミニサイズなのはインパクトでは劣りますが、背中の4つの砲塔を動かすギミックはなかなか見応えがあります。
レッドホーンともダーク・ホーンとも違うギミックを作るのは大変だったと思います。

 

ただしこれらの機にも難がなかったわけではありません。
それは造りがあまりにも複雑なことです。マスターピースほどではないにせよ、かなり豪華絢爛な造りをしています。
前回のコラム(ゾイドワイルドの動力を考える-動力ボックス編2-)でも少し触れましたが、これを詳しく書きます。

ドスゴドス、ヴァルガ、クリムゾンホーン。
これらがメカ生体や機獣新世紀シリーズの中にラインナップされていたとして、同程度の大きさの機と同じ価格に設定できただろうか。
これは極めて厳しいと思います。
内部の造りは繊細で非常に細かい。量産効果を見込んでも頭一つ抜けた高額になっていたでしょう。

リバースセンチュリーは往年のファンに向けた大人向けの贅沢なシリーズでした。だから少々高くても良かった。
ですが、キッズ向けのシリーズでは価格面の配慮は必須。子供のお小遣いで手が出せる価格じゃなきゃいけない。
出来る限りギミックを保ちつつ、それでいて内部を簡素化して低価格化を進める必要があります。
リバセン各機の仕様はそこに至っていません。本流シリーズでそのまま展開できる仕様ではないのです。

 

非常に魅力的な機体ではあります。特にドスゴドスとヴァルガは、ゼンマイであそこまでの動きを見せてくれた事は驚異的でした。何度でも絶賛したいです。
ですがイコール他の機より優れていると言うわけではないと思うのです。
他のゼンマイ搭載機は1000円なり800円なりの価格で売る事を前提にした設計になっている。ドスゴドスやヴァルガは価格の制約をとっぱらた設計だから。

また、ヴァルガはそれ以外でも難がありました。それは耐久性です。
動力部を見てみましょう。

ヴァルガの動力はこちら。ゼンマイゾイドですが、ゼンマイは紫のパーツで覆われた状態で提供されています。

紫のパーツはねじ止めされています。それを外すと……、

Hiユニットが出てきます。
正直に言うと、分解前はヴァルガの動力は特別仕様のゼンマイだと思っていました。
あんな凄い動きをするのだから同じなわけがないと思っていました。
そうじゃなかった。コマンドウルフやブラキオスと全く同じHiゼンマイを使っている!
それであの動きを作ったとは。分解すると改めてヴァルガの凄さが分かります。

ガワである紫のパーツの方を見てみましょう。
こちらは、このように複雑なギアがミッチリと詰まっています。

Hiゼンマイの動きをここで複雑化させ、ヴァルガの動きを作っているのです。

この中に、ちょっと面白いギアがありました。分かりやすいよう3DCGで図を作ります。

通常のギアは左のようなものですが、ヴァルガには右のようなギアが一部使用されています。
通常の歯の他に、1/4ほどだけプラスの歯が付いている(赤くした部分)のです。
これにより回転時に「作用する/作用しない」というタイミングが生まれます。
これがヴァルガの「うねり→回転→ガトリング発射」という複雑な複数のギミックを実現しています。
改めて凄いゾイドだと思います。

ところで何でこんな分解をしたかというと、きっかけはヴァルガが壊れてしまった事です。修理の為に分解したわけです。
いじり倒した末に、どうにか修理する事ができました。
大変でしたが、こんな事でもない限りヴァルガの動力を分解するなんてなかったでしょう。良い経験ができました。
そしてヴァルガを凄いと思う一方、次の事も同時に思いました。

もう一度この画像見てください。

この複雑なギアの組み合わせですが、先述したように特殊なギアも使用しています。その他にも特殊ギアが幾つかありました。
それらが超複雑にからみあっています。
組む際に、特殊ギアはどの位置で噛み合せるか重要でした。これは1/4ギアをどの位置にあわせるかというようなことです。
初期位置の組み合わせを完璧にしないとヴァルガは適切に動きませんでした。

例えばヴァルガの動きを詳細に言うと「回転→うねり→ガトリングを4発発射」ですが、ギアの初期位置に失敗すると例えば「ガトリングを2発撃った段階で回転を始めてしまい、その後の動き止まってしまう」ようになったりします。
初期位置が大きくずれていると、回転中にガトリングを撃ち始めるような事も……。

歯1枚単位で正しい噛み合わせの初期位置を作り、はじめてヴァルガは正常に動きます。
とにかく、電動ゾイドのバッテリーボックスなんて目じゃないほど複雑だったということです。

がんらいゾイドは丈夫で壊れにくいというのが大きな特徴だったはずです。

 

バンダイがゾイドに対抗した「レボルト」は有名でしょう。動力ギミックを持った玩具です。

非常に特徴的なギミックを持っています。それをもってゾイドを越えたとする声もあります。


実際、凄まじくダイナミックな動きです。

ですが私は超えたとは思いません。
レボルトの設計はギリギリなところでされており、非常に壊れやすい。また改造しにくいです。ゾイドの比ではありません。
その上、メルザイムは「アルカリ電池を使うな(=マンガン電池を使えということ)」とあります。

なぜかというとマンガン電池は軽く、アルカリ電池はやや重いからです。もちろんわずか数グラムの差ですが。
ですがメルザイムの設計はそのわずか数グラムの余裕さえありません。アルカリ電池を使うと重くなって動かないというまさかのオチが存在しています。
(正確に言うと動く時もあるが動きにくくなる)

箱裏には改造例が載っていますが……、

これは確実に動かなくなっているでしょう。
面白いギミックを持っているが設計に許容値が少なすぎる。動力玩具の作例で動かないとはこれ如何に。
以上がレボルトがゾイドを超えたとは言えないと思う理由です。

耐久性や余裕のある設計という点では、ヴァルガはレボルトよりはマシですがそれでも幾らか難があると言わざるを得えません。
考えすぎでしょうか。
でも実際、ゾイドは基本として耐久性や余裕ある構造が徹底されています。
子供が荒っぽく遊んでも大丈夫なようにです。それに余裕ある設計は改造のし易さなどにも直結しています。

ヴァルガといえば当初はMK-IIタイプ「グラビティヴァルガ」の販売が予定されていたが中止になりました。

こうして分解してみて、発売中止の理由は追加装備を付けたらギミックが機能しなくなるからだと確信しました。
ヴァルガは極めてデリケートなバランスで回転しています。追加装備で前後の重心がズレて、そのうえ大幅に重くなったら……、これはもう動かないでしょう。

ヴァルガが現時点で一つの到達点であり傑作であるのは間違いないでしょう。本当に素晴らしいギミックです。
だが複雑で繊細すぎる構造を考えると、絶賛すると同時に別の議論も必要だと感じます。

ただ、ヴァルガの斬新な構造は本当に驚きでした。色々な問題はありつつも、最高の創意工夫が注がれたゾイドな事は間違いありません。
これをゼンマイでやった事実。これは無限の可能性を感じさせます。
更なる工夫をしたらどうなるだろう?
ヴァルガに追いつき追い越すギミックのゾイドが誕生する事も夢ではないかもしれない。しかも耐久性を向上させつつ安価で。
一見、これは非常に困難に思えるでしょう。しかし非常に挑戦しがいのある事だと思います。

 

一つゲーム業界の事例を紹介したいと思います。
ゲーム機のNINTENDO64は定価2万5000円で発売されました。

開発中の64のイメージは「子供にONIXを与えたい」だったそうです。
ONIXというのはシリコングラフィックス社が開発した、スーパーコンピューター並の処理力を持つ大型コンピューター。
当時価格1台1000万円ほど。
この超高性能マシンを子供に届ける。その為に、徹底的にゲーム機に必要じゃない要素を削いで削いで削ぎまくった。
その結果、ついに2万5000円の価格は達成されました。

ヴァルガは、現時点ではスパコンONIXをそのまま販売したような仕様です。複雑すぎてコスト面と耐久性に難がある……。
しかし内部構造を徹底して低コスト化、他のHiゼンマイ機と同じ価格で売るという条件でどう再構築できるか。これは大きなチャレンジだと思います。
非常に高い要求ですが、果敢に挑戦する熱意があればいつか達成されると思います。
そしてその経験を元に、更なる発展型やアイデアを生む事も不可能ではないはずです。

 

さてリバースセンチュリーの話は以上。
話をゾイドワイルドに戻します。
ゾイドワイルド各機を見ていると、本当にチャレンジしているなぁと思います。
開発者の「これがゾイドだ!!」というアツい思いの詰まったものになっています。それがとても力強いです。

動力ボックスの仕様については、こちらのコラム(第一弾を組んでの感想2ゾイドワイルドの動力を考える-動力ボックス編1-)で述べた通り素晴らしい仕様になっています。
先のコラムでも書きましたが、本当に過去全てのシリーズを見直し最高の仕上げにしていると思います。
ゾイドリバースセンチュリーは短命に終わったシリーズですが、ギミック面では凄まじいインパクトを残したシリーズです。
それが今期シリーズで活かされる事にも期待しています。

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