ゾイドワイルドの動力を考える-動力ボックス編1-

今回は、前回のコラム(ゾイドワイルドの動力を考える-小型ゼンマイ編-)に続いて電動ゾイドの動力ボックスを考えます。

ゾイドワイルド第一弾のワイルドライガー、ギルラプター、ガノンタス、ガブリゲーターは電動ゾイドです。
これらの機の動力ボックスは共通化されています。この動力ボックスは、かなり興味深い仕様をしています。


半透明のボディにメカニックなディティール。これは従来ゾイドと同じテイストです。
ただしモーター部分を囲うフレームの形などは幾らか有機的な感じもします。動力ボックス部分でも「メカであり生物」という意識が強くされているのでしょう。
余談ですが、メカ生体ゾイドの開発チームは動力ボックス(あるいはゼンマイ)を「ゾイド生命体」と呼んでいたそうです。
なるほど、これを破壊されると二度と動かないわけです。

動力ボックスから出ている駆動軸は二軸です。従来ゾイドでは四軸タイプが多かったので新鮮です。
このニ軸に加えて、将来的なギミック拡張に備えて上面にも回転軸を確保しています。

駆動軸が短いのも特徴ですが、これは…、

各ゾイドに入っているパーツを使って適切な長さにします。
何故このようにしたのでしょう。
これは、軸の長さが固定されていると「その幅のゾイドしか作れない」となってしまいます。
対して軸の長さを外付けパーツで調整できるなら「幅広のゾイドも細身のゾイドも両方できる」ということです。
これは地味ながらとても良い発想です。

さて動力ボックス。
何といっても最初に見た時の印象は「小さい!!」でした。
従来ゾイドの動力ボックスと並べてみましょう。

シールドライガー/ガンブラスター/ワイルドライガーの動力ボックス。

並べると、その小ささがより分かります。
ガンブラスターはメカ生体ゾイドでは最小の動力ボックスを持ちます。それと比べてさえかなりの小ささです。
ちなみにシールドライガーよりも大きい動力ボックスも多くあります(ゴジュラス用、ウルトラザウルス用/デスザウラー用など)。

小さいだけでなく、非常に「薄い」ことが特徴でもあります。
これがスマートなワイルドライガーやギルラプターの体形を実現しています。
外装を付ければ「太らす」「大きくする」事はできます。しかし動力ボックスより細くしたり小さくする事は不可能。
それを思うと、コンパクトな動力ボックスは改めて良いものだなと思えます。
小ささからは時代の進歩を感じます。

 

分解してみましょう。シールドライガーのものと並べます。

従来ゾイドの動力ボックスは「上に開ける」構造でしたが、ゾイドワイルドのは「横に開ける」構造なのも特徴です。
さてギア数の違いに驚くでしょう。
小サイズは、ギア構成が単純化された恩恵でもあります。

ただし従来ゾイドの全てが複雑なギアを持っているわけではありません。

これはガンブラスターの動力ボックスですが、ギア数がゾイドワイルドのとほぼ同じです。

なぜ動力ボックスによってギアの数が違うのか。それは駆動軸の数を見れば分かります。

従来、電動ゾイドの動力ボックスはシールドライガーのもののように「四軸」がスタンダードでした。
四軸とは、言い換えれば「脚の数だけ軸がある」という事です。
四軸が「右前脚」「右後脚」「左前脚」「左後脚」それぞれに対応している。
軸が多いから、そりゃあギアの数も増えるというわけです。
ちなみにデスピオンの動力ボックスは八軸あります。

ビガザウロ系もレッドホーン系もデスザウラー系も。メカ生体ゾイドの動力ボックスは脚の数だけ軸があるのが常識でした。
ですが暗黒大陸編で変化が出ました。

これはデッド・ボーダーの動力ボックス。駆動軸がニ軸しかありません。
これ以降の動力ボックスは、「脚の数に関らず駆動軸はニ軸」がスタンダードになります。
ガンブラスターの動力ボックスもこの流れにある仕様です。

 

さて「駆動軸はニ軸」という新スタンダード。
ニ軸なので当然ギアの数は少なくできる。構造が単純なので製造コストは下がるし耐久性も上がります。
(どれか一つのギアがズレただけで動かなくなるので、ギア数が多いとそれだけ故障率は上がる)

ガンブラスターとデッド・ボーダーの動力ボックスを並べてみましょう。
ガンブラスターの動力ボックスでは、デッド・ボーダータイプから発展がありました。

並べると気づくと思いますが、同じ動力ボックスです。ただし完全に同一ではなく、ガンブラスターは「改型」です。
駆動軸の長さ、スイッチのバー、腹側のフタ。これらも違いますが、最大の違いは上面にある回転軸です。

両方ともニ軸の動力ボックスですが、より正確に言うと「ニ軸+上面に将来的な発展を見越して回転軸がある」という構成をしています。
回転軸の形状に注目して下さい。
ガンブラスター系は回転軸が「ギア」になっています。
共に上面に回転軸を持ちますが、ギアである分ガンブラスターの方が使い勝手が大きく向上しています。

ニ軸を採用したデッド・ボーダー。暗黒大陸編で、ゾイドは動力ボックスの革命を起こそうとしていたのでしょう。
そしてデッド・ボーダーの次にニ軸を採用したゾイドがガンブラスター。ガンブラスターは上面回転軸の使い勝手を向上させた。
動力ボックスの革命はここに成りました。

ガンブラスター以降のゾイドは、「ニ軸+上面に回転軸(ギア)」という構成の動力ボックスが増えました。
ハウンドソルジャー、ジーク・ドーベル、キングライガー、ガル・タイガー、ゴッドカイザー、バトルクーガーが同様の構成です。
今回のゾイドワイルド動力ボックスも同じ構成。ガンブラスタータイプの動力ボックスの直系と言えます。

ここまでを一旦まとめましょう。
・初期のゾイド動力ボックスは四軸がスタンダードだった。
・デッド・ボーダーがニ軸タイプ動力ボックスを採用した。
・ガンブラスターがブラッシュアップした。
・これ以降、これがスタンダードになった。

 

四軸とニ軸を比べた時、ニ軸の利点はギア数の少なさです。製造コストも故障率も下がります。
駆動時の音も小さくなります。
ただこれは「ヴィィィィィィ!!!!」とうるさい位の音をうならせ歩く姿が大迫力で良い面もあったので、一長一短かもしれません。
スマートなゾイドだと静かなのが似合いますが、パワフル系…、例えばゴジュラスやアイアンコングなんかだとうるさい位が似合っていたりも。
が、昨今の住宅事情を思えば清音化に分がある感じでしょうか……。

ではデメリットは。
これは動きを作りにくい事です。そりゃあ駆動軸が減れば動かしにくいのは当たり前です。

「ニ軸」というのはゼンマイと同じです。

いや上面の回転軸がある点ではゼンマイより優れていますが、四軸タイプの動力ボックスに比べれば制約はかなりあります。

動かしにくいならどうするか。これはもう設計を「工夫」するしかありません。
工夫して四軸に劣らぬギミックを作るしかない。

デッド・ボーダーのギミックを見ましょう。

口を開閉させ、腕を振り、脚の関節を動かしながら前進でした。
電動ゾイドとしてはギリギリで及第点でしょうか。
悪くはないのですが、ゼンマイゾイドのアロザウラーと同じギミックなので少し寂しい。他の電動ゾイドと比べれば少々見劣りします。
が、電動ゾイド初のニ軸動力ボックスを採用した事を思えば堅実な出来とも言えます。

ではガンブラスターは。

ハイパーローリングキャノンを大回転させながら、口を開閉させながら前進します。
ハイパーローリングキャンのダイナミックなギミックはひときわ特徴的です。
同クラスの、たとえばシールドライガーやディバイソンと比べても決して劣らぬ仕上がり。
「ニ軸でも工夫すればここまで凄いギミックが作れる!」ことを見事に証明したのです。

ここまでは良かった。しかしここからが良くなかった。
これ以降のニ軸動力ボックスのゾイドを見てみましょう。
ハウンドソルジャー、ジーク・ドーベル、キングライガー、ガル・タイガー、ゴッドカイザー、バトルクーガー。
どれも「口を開閉させながら前進」というものです。

最低限の動きで、しかも全て同じテンプレです。
これはとても残念です。各機とも背中に拡張用のグレードアップユニット接続口を持ちますが……、それでも本体側の動きもせめてもう少し差を付けて欲しかった。
特にバトルクーガーは翼を動かすとか出来なかったのだろうか……。

私はメカ生体ゾイドのニ軸ゾイドを見ていると、デッド・ボーダーで堅実な一歩を踏みガンブラスターが上の段に昇ったと思います。
しかしそれ以降でこけて転落。
結局、「ニ軸をスタンダードとしつつ、設計の工夫で四軸に負けないギミックを作る」という挑戦は半ばで潰えてしまった。

 

ゾイドワイルドは、ガンブラスターやハウンドソルジャーの動力ボックスと全く同じ軸構成です。
ニ軸+上面に拡張用の軸(ギア)。
もしかすると、あの頃は中途半端に終わってしまったギミックの工夫に再度チャレンジしているのかなぁ…と思えます。
この事情を振り返ると、ゾイドワイルドのギミックが更に感慨深く思えてきます。

動力ボックスを見ていると、色んなことが見えてきます。
今後の新型ゾイドではどんなギミックを魅せてくれるのか。それにも大注目したいです。

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