ゾイダーの屠龍さんから頂きました。ゾイドの戦記小説です。


Ziを零戦が飛ぶ

目の前に座っているカノン中尉が私の話を聞きたがっているので、私はくわえている煙草の火を消してから話そうと思い、煙草を灰皿に埋葬してから口を開いた。
私がヘリック共和国空軍空戦学校を卒業して初めて着任する事になったのがガダウルだった。
少尉になったばかりの私が配属されるにはあまりに過酷な戦地だったと、今になってみれば思うけど、当時の私は空を飛べたら何処でも良かったし、今でも飛ぶためなら何でもする様に大して苦に思った事は無かった。
当時ネオゼネバス帝国軍はヘリック・ガイロス連絡網遮断作戦の為、両国間の往来拠点ザナルカナル島攻略作戦を展開しており、ヘリック共和国軍航空戦力の最前線がガダウルだった。
まぁ、あなただったらそのくらいは知っていたでしょ?
ガダウルにはウメシマ山という活火山があって、そのせいで酷く蒸し暑い場所だった。
また、飛行場の側にはニシキ湾があったから、泳いで涼めると思ったけど人喰い鮫がうようよしていたから泳ぐ事は一度も無かったわね。
そうそう、私が戦闘機ゾイドの搭乗員になったのは子供の頃に観た地球の映画に出てくる零戦が大きな影響を与えたかしら。
ラストシーンで零戦を燃やすのだけど、燃えながらも最後までプロペラが回っていて、それがひどくもの悲しくて、あぁ、零戦よ貴方は生まれ変わって今度は平和な空を思う存分飛んで欲しいと思い、私はレイノスを零戦カラーにしたの。
もっとも、まだ戦争は終わってないから願いは叶うか分からないけど。
それじゃ、この辺で話そうかしら。ガダウル航空隊の栄光と終焉の物語をー

狭いレイノスのコクピットから降りた私を最初に出迎えたのは酷く蒸し暑い風だった。
フライトバックから煙草を取り出し、火をつけて煙を吐き出すと整備士の格好をした若い出っ歯の男が近づいてきた。
「やぁ、新入りさん。よくきましたね」男はそうきりだした。
煙草を地面に捨て、それを軍靴で消してから私は「貴方は?」と尋ねた。
「ここの整備士のカンダ。今日付であなたの機付き整備士になるんだ」
「私はサカイ・ミキ少尉。よろしく」私はそう言って軽く微笑んでみせた。営業用スマイルといった感じの笑いだと我ながら思う。
「着任早々悪いけど、コザワ大佐に着任報告をして士官用ピストで待機してくれ」
「敵が来たらもう飛ぶの?」私は少し驚いた。機体の整備くらいして欲しいものだ。なので素直にその事を口にする。
「ここまで飛んで来れたなら機体に問題は無いはずだ。此処では一秒でも早く補充兵が必要でして…」
舌打ちこそしなかったものの、私はガダウルが予想より酷い戦地である事をひしひしと感じた。
見送りに来た教官や同期生達が、お通夜に来た人みたいに暗い顔をしていた理由はこれだったのだろう。
「そうそう、ここでは来襲する敵機が内地とは違うからその辺の事も大佐に教えて貰うといい。これは…そうアドバイスかな」
「分かった。大佐はどちらに?」
「格納庫の向かい側にある指揮所の個室だ」カンダが指を指しながら説明する。
私は礼を言ってから指揮所に向かって歩き始めた。
蒸し暑い風が頻繁に吹き、日差しも無駄に眩しい。滑走路の側には部品取りに使われたであろうゾイドの残骸や錆びたドラム缶が無造作に置かれている。
私の想像していた(実地研修で体験した)スマートな共和国空軍とは程遠い、むさ苦しい前線基地という感じが私を落胆させた。
しかし此処なら空を飛ぶ頻度は他の戦区より多いだろう。それだけはラッキーかなと思う。そのくらいのチャレンジは生きいる間は必要不可欠だ。
そうこうしているうちに指揮所にたどり着いた。見た目通りボロい建物で、ドアすら無い。マラリアやデング熱の注射をしなければ戦死するまえに命を落とすだろうなと思う。
ノックの代わりに「失礼します」と言って平屋風の指揮所に入る。コザワ大佐のオフィスにはドアがあったが、立派な物ではなく質素な作りだ。
私がノックをすると「入れ」とぶっきらぼうな声がしたので遠慮なく入室して、大佐のデスクの前に立った。
「本日配属されましたサカイ・ミキ少尉です」そう言って私は敬礼をしてみせる。今までしてきた敬礼の中でも五本指に入る出来の敬礼だった。
「コザワ・イエヤス大佐だ。ようこそ我がガダウル基地へ」見た目通りの太い声でコザワ大佐は応えた。
「周知の通り厳しい戦況だが、ベストを尽くしてくれ。それから何があっても自爆や体当たりだけはするな。それだけは命じておく。聞きたい事はあるか?」
「整備士から此処に来襲する敵機について聞くように言われたのですが」
私がそう言うと大佐は引き出しから識別標を出して説明を始めた。
「まず此処で来襲する敵機は大半が航続距離を伸ばした改型だ。それでいて防御力もさほど落ちてない手強い機体ばかりだ。気を抜くな。注意すべきはグレイヴクアマだ。此処に来る機体は全ての性能を強化されたMK2だ、よって内地の空戦学校で習った対処法は通用しない。パイロットか腹もしくは後方を狙え。それと内地ではレア物のウィンディ中型陸上攻撃機が頻繁に来襲する。対処法は内地で教わったな?」大佐はそう言うと細い目を更に細めて私を見据えた。多分私を試す気なのだろう。「敵機の上方を反航してから反転し垂直に突っ込みます。そうすれば敵機の銃座も射角が深くなって当たりにくくなります」私は身振り手振り交えて大佐に説明し「それと翼の付け根とコクピットも弱点だと聞いております」と付け加えた。
「よろしい。だが直上攻撃は危険だから腕を上げてから試せ」
「大丈夫です。実地研修で既に墜とした経験があります」
「なんだ、もう経験済みか。そりゃ頼もしい限りだ」大佐はそう言うと人の良さそうな顔をして笑って見せた。意外と良い人かもしれない。
「だが、無理はするな。身の丈にあった飛び方をして着実に腕を上げろ。それから落下傘は必ず身に付けるように。例えどんなに苦しい事があっても生き残ればいつか必ず生き残った事を感謝する日が来るからな」
「了解」と私がかえすと大佐は「バカヤロー、そんな堅苦しい返事をするな。分かりました。で良いんだよこの野郎」と言って豪快に笑った。「それと着任祝いだ。受け取ってくれ」そう言うと大佐は引き出しから高級煙草をワンカートン取り出して机の上に置いた。
私がお礼を言って受け取ろうとした時、基地の防空サイレンがけたたましく鳴り出した。
「迎撃するぞ!ついてこい」大佐はそう叫ぶと、凄い速さで駐機場へ向かい走り出す。
私も後を追いながら愛機のコクピットへ滑り込もうとしたが、その前に落下傘を装着し、計器類をチェックして発動機を始動させる。
油温油圧異常なし。マグネッサーウイングも好調だ。
カンダが脚部止めを素早くどかし、私達搭乗員は滑走路へ出る。
「お前らよく聞け」大佐の声が無線機越しに聞こえてくる「敵さんはマグロ(ウィンディ陸攻の渾名)十機とイワシ(グレイヴクアマの渾名)三十機の混成部隊だ。ハシゴ一二五で海上で迎え撃つぞ」「了解!」と各員が応えた後私宛に無線が入る「サカイ。お前は第一小隊の三番機だ。第一小隊機は尾翼に青い帯が入ってるからそれで判
別しろ。いいな?」
「こちらサカイ。了解しました」
「よし、お前ら喰わなくても良いから喰われるなよ。それでは離陸開始!」
まずは大佐のレイノスがマグネッサーウインドを吹かせて見事にフワリと離陸し、続いて二番機、そして私の番が来る。
マグネッサーシステムを出力全開にすると機体が浮き上がり、私は風になった気分でスロットルを上げて上昇に移った。
空は綺麗に晴れていて、絶好の空戦日和だ。これが遊覧飛行だったらどれだけ楽しめるだろうかとふと思う。眼下にはウメシマ山とニシキ湾。そして外海が美しい色彩で静かに波打っている。
暫し戦時中である事を忘れそうになるが、第一中隊が全機集まって編隊を組んだので、私は再び戦時下の緊張感を取り戻す。
高度計に目をやれば指示通り一二五〇〇を指している。後は敵さんを海上でお迎えするだけだ。
レーダーは各機体のだすマグネッサーウインドの影響であまりアテにならない。なので各員の視力が頼りだ。
その点私は視力に自信があり、誰よりも先に敵機を見つける事が出来た。
「こちらサカイ。十二時にハシゴ一一五にてイワシ三十。同ハシゴ一〇〇にマグロ十確認。こちらに接近中」
「聞いての通りだ。それでは一撃加えて敵機を引っ掻き回せ。マグロは後続のサカキ少佐隷下の邀撃隊に任せて俺たち制空隊はイワシを喰うぞ」
コザワ大佐の声を合図に私達制空隊はフルスピードでダイブに移り、敵機の群れの中へ突撃した。
照準器に入った敵機に向けて、私は三連ビーム砲を放つ。
アイスキャンデーみたいな光線が敵機に突き刺さり、爆発、四散した。
そのまま敵編隊の下へでる。
後方から二機付いてきた。
機体の運動性はほぼ互角。スピードはこちらがやや有利。
まずは引き離すためにスロットルを全開。
その間に敵機が撃ってくるが、当たらない。もう少し落ち着いて狙えば良さそうなものを。
距離がやや開いたところで増槽を捨てて、その反動を利用して機体を上昇させる。
敵機は一機が付いてきて、もう一機はどこかへ行ってしまった。
好都合だ。
機体を水平に戻す。
敵機が腹を正面に見せた間にビーム砲のトリガーを引く。
命中。
ソイツの結末は分かりきっているから、辺りを見渡す。
十時方向に追われている味方機を発見。
直ぐに助けるべくフルスロットルで向かう。
私がビーム砲の射程に入れて撃つ0・5秒前にソイツは味方機の左翼を撃ち砕いた。
私も撃つ。
敵味方双方撃墜だ。
落下傘は味方だけ開いた。この点はラッキーだろう。
サメに襲われない事を祈りつつ戦闘空域へ戻る。
戦闘空域は大佐の思惑通りメチャクチャになっていて、イワシはマグロの護衛どころでは無い模様。これはサカキ少佐の部隊次第では敵を全滅に追い込めるかもしれない。
否ー敵もそこまで猪突猛進では無いだろう。現に四機のマグロが這々の体で戦闘空域の下を飛び去ろうとしている。
「サカイ。聞こえるか?そのままマグロを喰え。イワシはこっちで食う」
「こちらサカイ。了解!」私は元気よくそう返答し機体を宙返りさせ目をつけたマグロに直上攻撃をかける。
照準器にマグロの翼の付け根が入ったとこで、ビーム砲のトリガーに手をやる。
「撃っていい?」と右手が囁く。
もう少し待ってと言い聞かせた直後、マグロが撃ってきた。
下手に回避するより攻撃した方が安全と判断。
右手が待ってましたとばかりに動き、ビーム砲がマグロに突き刺さる。
マグロは火を吐きながら、もんどりうって急降下して、やがて残った燃料に引火したらしく爆発した。
機体を引き起こして上の様子をうかがう。
空戦はそろそろお開きだろう。
マグロをもう一機くらい墜とすべきか、イワシの相手を加勢すべきか迷うがここはまず背面飛行に移り先ほど脱出した搭乗員の位置を確認してから暗号で基地に打電しておく。これであとは救助を待つだけだ。
さて、どうするか?
空戦は味方が優勢なので、マグロを攻撃する事にする。
距離がやや離れているからスロットルを絞る必要はないだろ。
全速で追いかけて反航し、急上昇。
反転して垂直に突っ込む。
照準器にマグロの巨体が映る。
まだだ、もう少し接近してからビーム砲のトリガーを引く。
今だ、ファイヤ。
手応えはあったがまだ飛んでいる。でも墜落は時間の問題だろうからほっといて次の獲物を探す。
離脱中のイワシを発見。
攻撃態勢に入ろうと思った時、大佐の声が無線機越しに入る。
「戦闘終了。ハシゴ九〇〇、ポイントX2Y0で集合」
敵味方識別装置を使って味方機の編隊を探し、私もその中へ加わる。
味方は一機欠けているだけだが、後はみんな無事だった。
「誰かスミスの機体を見なかったか?」大佐が問いかけてきたので私は「こちらサカイ、撃墜を確認。しかし搭乗員は無事です」と報告した。
「基地から連絡が入った。今救助用のハンマーヘッドを出したそうだ」
機体の損失は痛いだろうが、搭乗員が救えるのは不幸中の幸いだろう。
明日は休めるだろうから、帰ったらゆっくり眠ろうと思った。
その前に煙草が吸いたいな、と考え直して帰路についた。

搭乗員が全員愛機から降りて集合してから、大佐は口を開いた。
「ご苦労だった。体の具合が悪い者が居たら軍医の所へ行くように。それと予定通り明日ザナルカナル島へ向かう輸送船団を護衛する。よって、機体に不具合が生じた場合は整備班に報告するように、以上解散」
私は少し呆気にとられたが、すぐに思いなおした。明日も飛べるのだと。退屈に近い内地より余程私の為になる。私は少しでも長く空を飛びたい。
地上は実に退屈だ。なんだろう、重たいものはすべて地べたに落っこちてしまうから、地上は本当に息がつまる。つまり私にとって生き辛い場所であって、その点空は綺麗だ。多分余計な物が無いからだろう。それは確かだ。
そうこう考えているうちにカンダが近づいてきて話しかけてきた。
「どこか不具合は無かったか?」
「うーん、そうねぇ…」そう応えてから私は煙草に火を付ける。「もう少し軽くできないかな?少し重く感じるんだけど」
「レイノスをもっと軽く…ねぇ。装甲やらを削れば良いのだけど、大佐の許可を得ないと改造はできないな。イーリアス皇国で試作中の新型は全ての性能、特に超高空性能が今と比べると段違いらしい。余程あの噂が怖いみたいだな」
「その噂、内地でも聞いた事があった」私はそう言うと煙草の煙を吐き出す「ネオゼネバスが超重爆を開発しているって。上層部…特に陸軍のヴィッカース総統は熱心に信じていて、空軍総統を口説き落としてオルディオスとかを復活させようとしているけど、どうせ旧大戦時より性能は落ちるでしょうね」
「それでも強力機には変わりないさ。念を入れとく分には困らないもんだ」そう言うとカンダも煙草に火を付ける。「そうそう、明日の携行食は稲荷寿司かサンドイッチのどちらかを選べるらしい。どっちにするか?」
「どっちでも、それよりニコチン入りのチューブチョコレートがいいな。レイノスでは煙草が吸えないからアレでも無いよりはマシだもの」
「違いないなぁ」カンダがそう言うと二人で軽く笑った。
レイノスで煙草が吸えたら完璧だけど、そしたら私は一生を空で過ごすだろう。賭けたっていい。「それじゃ、大佐から煙草を頂いたから受け取ってくる。あなたにも分けようか?」
「いいのか?有難い、ちょうどこれが最後だったんだ」カンダはそう言うと会心の笑みを浮かべた。余程煙草が欲しかったのだろう。
カンダと別れて指揮所に入る。夕方だというのに相変わらず蒸し暑い。
ノックをしてから「サカイです。煙草を取りに参りました」と言った。
大佐が「おう、入れ」と言ったので、私は遠慮なく入室する。クーラーでもつけているかと思ったが、あいにくクーラーはついていない。節電中なのだろうか。
「今日は中々の出来だったな。だが、明日は今日みたいに上手く事が運ばない筈だ。気を抜くなよ」大佐はそう言うと冷蔵庫からコーラを取りだすと私に栓抜きとともに差し出した。
お礼を言ってから栓を抜いて一口飲んだ。よく冷えていて、心地よい。
「増槽をいいタイミングで捨てたが、あれは故意的か?それとも忘れていたからか?」
「まず、第一撃はこちらがかけることができたので、増槽の重みも利用してダイブしようと思いそのまま持っていました。その後追われることも予測していたので、反撃するタイミングで捨てようとしたんです」
「合理的だが、もしもの時もある。次からは早く捨てるように」大佐はそう言うと煙草を取り出してマッチで火をつけた。
「ところでサカイ。飛ぶのは好きか?」
「はい、それに私は地上でだけは死にたくありません。何かの影が私をつきまとう気がして地上は好きになれません」大佐は私が話し終わると椅子にぐったりと座り込み「そうか…オメェも俺と一緒で分かるのか?」
私は大佐が同類である事をその時理解した。そうか、彼も地上に満ちた死の影がつきまとう気がしているのか。
「あまり当たりませんが、時々分かるんです。誰が地上で戦死するかが」私はそう話して全ての元凶に想いを馳せた。
そう…異変で男性の出生率が減ってから遺伝子制御剤の実験が始まり、その頃から私たちのような特別な人類が生まれるようになった。
新人類とよばれる私達は様々な特殊能力を持ち、その能力を活かして戦い、死んでいく定めなのだ。私は地上の死を予測できる。
最初は不正確だったが次第に正確になっていき、最後は自分が死に呑み込まれ地上で戦死するのだろうか。
空で死ねるなら悔いはない。星になれたら永遠に空に居られる。よだかのように。零戦のように。でも、地上では死にたく無い。薄汚れた大地になるより私はリンのように燃える星になって空を照らしたい。ささやかな、それでいて大それた願い。
「俺はよぉ、星になるより生きていつか自由になりてぇよ。こんな能力捨てて普通に暮らしたいんだ。普通に」
私は普通の人生より空がいい。誰も傷つかない、傷つけない平和な空を飛び最後はレイノスと一緒に星になりたい。
そんな風に思った日だった。

翌朝私は煙草を一本吸ってから集合場所へ向かった。
相変わらず蒸し暑く過ごしにくいが、夜間だけはクーラーの使用が許されたので、寝不足になることはなかった。
「みんな聞け!」大佐が怒鳴る。
「昨夜輸送船団が敵哨戒機に発見された。恐らく俺達が着く頃に敵さんもやってくるだろう。しかも敵機動部隊の艦載機も来るかもしれネェ。そうなったらお船は助けられない。恨まれるが、自分の身を守る事を優先しろ。分かったか?」
「了解しました」という声が重なって聞こえた後、大佐は「よし、では行くとするか」と言い踵を返して愛機に乗り込む。
私も愛機に乗り込もうとした時、カンダが近づいてきて、私にニコチン入りチューブチョコレートを差し入れてくれた。
「これどうしたの?」私は少し驚いて、そう尋ねた。
「煙草のお礼に銀蝿したんだ。受け取ってくれ」
「ありがとう。それじゃ、行ってくるわ」
「必ず帰ってこいよ」
私は右手を上げてそれに応えて、コクピットへ座る。
エンジンもマグネッサーシステムも調子が良い。きっと入念に整備してくれたのだろう。
帰ったらビールを飲もうと思って可笑しくなった。死ぬかもしれないのに、そんな事考えるなんて。これは帰ってこれるかな。と思う。
否ー油断したら喰われる。緊張感を持って出撃しなくては。
操縦桿を引いて離陸。
そのまま上昇しながら編隊を組む。
計器類に目をやるが異常は無い。なので輸送船団へ向かって飛ぶ。
暫く飛行したところで、携行食の稲荷寿司を食べる。内地のものより若干美味しく感じた。煙草代わりのチョコレートを舐めたり、お茶を飲んだりして過ごしたところで、輸送船団の上空についた。
思ったより貧相な船団で護衛艦の数も少ない。もしかしたら囮かもしれない。それとも途中で敵潜に喰われたのかー
「ひでぇなぁ、船団の三分の一が昨夜敵潜に喰われたらしい。これ以上喰われたらザナルカナルも危ねぇぞ」大佐が無線機越しにそう呟いた。
やはり、敵も本気で攻めているのだろう。ザナルカナルが失陥したらいよいよこの戦争は負けるかもしれない。そう考えた時、大佐から無線が入る。
「オメェら、たった今護衛艦隊から連絡が入った。敵戦爆連合多数二時方向、ハシゴ八二で接近中だ!喰われるなよ。戦闘開始!」
各機増槽を捨てて敵編隊へ殴り込むので、私もその後に続く。
ダイブしながらイワシに向かいビーム砲の斉射を加えるが、敵は左に旋回し交わされた。
四方八方敵だらけで良く言えばよりどりみどり、悪く言えば…その通りだが包囲されている。
後方からシシャモ(シュトルヒの渾名)が必殺のバードミサイルを撃ってきた。
フレアを放出しながら右へ急速旋回。
追ってくるシシャモに後部機銃を放つ。
驚いて旋回半径が鈍ったシシャモにむかい上を向いてストールターンをし、スナップっぽい前転をし斜め上から撃つ。
命中。トドメを刺す前に他の敵機が後方へ着く。
私が前しか見てないとでも?バカなヤツ。
ひきつけてから後部機銃を撃つ。
バカなソイツは火を吐きながら墜ちていった。
船団へ目をやると酷い有り様で、既に数隻の姿が見えない。
「サカイ、聞こえるか!上は俺達に任せてお前はお船を助けろ。後で二個小隊を増援に出すから出来るだけお船を助けろ。やれるか?」
「こちらサカイ。全力を尽くします」私はそう返答するとフルスロットルでダイブし、目をつけたマグロの後部につく。
左翼の付け根向かい三連ビーム砲を放つ。
翼から火を噴き始めたので、他の適当なマグロに向かい今度は対空ミサイルを発射する。
回避行動に移ったマグロが腹を見せたので、ビーム砲のトリガーを軽く引く。
爆弾に引火するのは分かりきった事なので余裕をもって回避。
ほら、予想通り爆発した。少し高度を上げて周囲を確認。
輸送船に迫るスキップボミング弾を発見したので、それに向かってファイヤ。
派手な水柱が上がり、滝の様にそれが崩れ落ちる様が視界に入る。
安堵の表情を浮かべる間も無く、次の目標を確認。
対艦用105ミリ高速レールガンを翼にぶら下げた改造ウィンディが輸送船に向かっている。
重い砲を積んで機速の落ちているソイツなら間に合うだろうと判断。
フルスロットルで向かい、ご自慢のレールガン目掛けてビーム砲を撃つ。
私の放ったビームが命中して、翼が折れたソイツの最期を見届けないで次の目標を探す。
目標だらけで迷う程だ。
「サカイ!今から援軍を送る、一番近いマグロを喰え!」
「こちらサカイ了解!マグロの兜焼きを作ります」私はそう応えながら一番近いマグロのコクピット目掛けてビーム砲の嵐を見舞う。
コクピットから火を噴き始めたソイツは放っておいて、機首を上げ背面飛行に移り周囲を確認。丁度その時友軍機が逆落としで乱入してきて、敵が更にバラけた。
手頃な敵機に向け残りの対空ミサイルを全てばら撒く。
敵編隊はますますバラバラになり、収集がつかなくなった。
腹を出して回避中のマグロに向けビーム砲の連射をみまう。
そろそろ護衛機が降りてくるだろうから、やや高度を上げて待機。
ほらきた。
逆落としで乱入しようとしたイワシの編隊に向けてビーム砲を発射。
一機は火を噴いて落ちていき、残りは慌てた様子で急旋回した所を護衛艦隊の対空砲火に捉えられ散華した。
「サカイ!ハシゴ五〇に上げて南南西からやってくるサバ(ルクス軽爆撃機の渾名)とマグロの混成小隊を喰え!やれるか?」大佐の声が無線機越しに聴こえてきた。
「こちらサカイ。了解!」私はそう言いと操縦桿を引き、高度五千メートルまで一気に駆け上る。機首を南南西に向けるとサバとマグロの混成小隊(ネオゼネバス空軍は四機で一個小隊を形成。この頃の共和国軍は三機で一個小隊だった)がボックス隊形で編隊を組んで飛んできた。
先ずは前方火力の低いサバから墜とすべく、敵編隊の正面に躍り出る。
マグロが盛んに撃ってくるが当たる気がしないので、サバ目掛けて怯まずに攻撃。
離脱する私に向けて撃ってくるが、追い撃ちとなって当たらない。
次はマグロの番だ。
反転して垂直に突っ込む。
照準器にマグロの右翼の付け根が映る。
早く撃ちたいと愚痴をこぼす右手を我慢させ、最適のタイミングでトリガーを引く。
引き起こす際にソイツの右翼が千切れて墜ちていく姿が見える。
ふと、戦闘機同士の空戦に目をやると、友軍機の背後にイワシの機影が映る。
「ミクラ機後方接近注意!振り切れ!」と叫ぶ。
「ダメだ!振り切れない??」ミクラがそう叫ぶとミクラ機はイワシのソードウイングによって真っ二つに切断され、爆発した。
よくもやったな!キャベツ野郎??と思いさっさとサバとマグロを墜として私も空戦の輪に入る。
さっきのキャベツ野郎(ゼネバス人への蔑称)は駆逐艦へ機銃掃射するつもりらしく、急降下に移っていた。
アフターバーナーを点火しフルスピードで追いつき、必殺の三連ビーム砲を叩き込む。
火だるまになって墜ちていったが、私はあまり気が晴れない。
もっとキャベツ野郎を墜としてくれる!そう思い手頃な位置を飛んでいるサバに八つ当たりのビーム砲を撃つ。
命中したが、派手に爆発しない。
その時私は急に冷静になって、攻撃済みの敵機を墜としたと悟った。
まだ未攻撃の敵機はいるのに何をやってるんだ、私は。
反省は後にして今は一機でも多くの未攻撃機を墜とさなくてはならない。
サバが炎上中の輸送船目掛けてトドメのスキップ・ボミングを浴びせようとしていたので、斜め後方から覆い被さるように接近し撃つ。
脆弱なサバはこれが致命傷となり、ゾイドコアにも引火したらしく、物凄い爆発を起こした。
しかし、輸送船は全て炎上しているか沈没中でもはやこれ以上の戦闘は無意味だろう。
これはマズイ事になるな。と私でも分かる。
そもそも本気でこの船団は無事に辿り着けると参謀共は考えたのか?
どうせ大総統府のツジタ参謀中佐が出向いてきて、何も考えず海図に線を引いて航路を決めたのだろう。
彼の無策の代償はゾイド・歩兵混成一個師団海没。重巡二、軽巡三、駆逐艦八隻沈没というものであることを私は後で知った。

ガダウルに着いた頃になると、疲労がピークに達していた。
重い足取りでレイノスから降りて、煙草を吸っていると、カンダが近づいてくる。
「船団はどうでした?」カンダは尋ねる。
「輸送船は全部やられた。重巡一と駆逐艦四隻だけが助かった」
「でも、沢山墜としてやったんだろ。敵も暫く大人しくなるのでは?」
「こっちも一機墜とされた」私はそう言うとくわえていた煙草を乱暴に投げ捨てる。
カンダは何も言わず、煙草に火をつけた。
「私は指揮所に行ってくるから、整備と補給をお願い」
「あぁ、任せてくれ」とカンダが言ったので、私は指揮所へ向かい歩き出す。
何も考えたくないがいろんな事を考えた。
輸送作戦の失敗で、これから苦しい戦いが始まるだろう。
ザナルカナルが失陥したらヘリック共和国とガイロス帝国間の連絡にも支障がでる。戦いの最前線はここガダウルに移り、熾烈な航空撃滅戦が幕をあけるだろう。
此処が私の死に場所かもしれない。空で死ねたら悔いは無いが、地上で撃たれて死ぬのはゴメンだ。
そうなる前に一機でも多くの敵を墜とさなくては。
そういえば、敵機動部隊は何をしているのだろうか?
明日あたり此処に攻撃をしかけてくるかもしれない。そうなると厄介だ。
そろそろ補充兵や機体が欲しい。ここ最近は私だけしか補充兵が来なかったらしいから明日あたり誰かくるかもしれない。
知っってる搭乗員だったらいいな。と思う。此処には同年代の女性搭乗員が居ないから、プライベートな話し相手が欲しい。
そうこうしているうちに指揮所に着く。
薄暗い会議室は重い空気が充填されている。みんな黙って会議が始まるのを待っているのだ。会議室を巨人が乱暴に振り回しても中の物は壊れないだろう。と思えるくらい、沈痛な雰囲気に包まれている。
私が空いている椅子に腰掛けてしばらくすると報告会が始まった。
大佐の話は私の予想通りで、ここしばらくは敵の猛攻が予想されるとの事だった。
敵機動部隊の艦載機や陸攻隊が大挙して押し寄せるだろう。
その前に他の戦区から搭乗員と機材を受領。これに備えるという事で報告会は落ち着いた。
大佐は責めなかったが、私はミクラ機が墜とされた事で自分を責めていた。
私がもう少し早く気づいていればよかったのだ。
こうなったら、一機でも多く墜とすより他はない。
「サカイ」大佐が話しかけてきたので、一瞬だけ驚いた。
「死に急ぐなよ」
その言葉は今でも私の胸に刻んでいる。
次の日から敵機動部隊の艦載機がガダウルを襲ったが、初日だけで高射砲部隊と合わせて三八機墜とし、更に四日後、内地より飛来した敵陸攻隊と合わせて四三機墜とした事で敵は一時攻勢の手を緩めた。当方の損害は被弾機こそ出たものの、損失ゼロというパーフェクトゲームだ。しかしこれがガダウル航空隊の最後の栄光となる。
そんなことはつゆ知らず、私達の所へ実質的な二週間の休戦期間内に待望の補充兵と機材がやってきた。
その中には私の同期である、アイラ・キリも含まれていた。
彼女が赴任した日の夜は遅くまで彼女とおしゃべりを楽しみながら、ビールを飲んだ。
基地も久しぶりに華やかな時間が流れ、これからの戦いへ備えて英気を養ったのだった。
だが、その三日後、恐れていた事態が遂に現実のものとなった。
超重爆撃機ギガントスが就役し、内地を初空襲したのである。
連日の邀撃で疲弊し始めたガダウルにギガントスが来襲したのはその二ヵ月後。
迎撃に上がったレイノスには私の機体も混じっていた。

その日は夜明けからいつもと違っていた。
まず、基地で飼われていた鶏達が鳴きもせず、ただ何かに怯えるよう震えていたのだ。
士官用ピストで待機中の私とキリも、何か嫌な予感に駆られ、そして怯えていた。
内地からクジラ(ギガントスの渾名)の噂は届いてはいたが、何かの間違い…精々サラマンダークラスの重爆だと、私達は思っていた。
だが、現実はクジラはあのギルベイダーに匹敵する途方も無い機体だったのだ。
私達は後でそれを嫌という程、理解するのだった。
「空襲警報発令??戦闘機隊緊急発進??」
何時ものオペレーターの声が今日ははやけにヒステリックだ。
「キリちゃん??」私はそう叫ぶとキリとその他の搭乗員達と愛機に向かい一直線に駆けていく。
「出るよ!急いで!」私はカンダにそう怒鳴ると、メインエンジンを全開にする。
準備が出来た機が大慌てで離陸し、高度を上げていく。
「こちらサカイ。只今離陸。ハシゴは?」
「ハシゴ三六五!繰り返す、ハシゴ三六五!」
私は耳を疑った。実用高度三万以上を飛べる機体など、現存しない筈だ。なのに…
「何かの間違いじゃ…」キリが不安そうに呟く他は誰も声を出さない。二万メートルを超えた辺りで、愛機の加速が鈍る。敵は更に一万六千五百も上なのか?
それでも何とか高度三万二千まで上がると、遥か上空に無数の銀色の怪鳥が姿を表した。
想像を絶する高空性能と巨体に私達はただ呆然とクジラを見送る事しか出来ない。
その間に例の怪鳥は悠々と基地上空に侵入。爆弾倉や翼から黒い糞の様な爆弾を大量にばら撒き始めた。
基地から悲鳴のような被害報告の無線が入る中、クジラから妨害電波が入る。
「おい白いサルども!お前らが空を飛ぶなんて千年早いぞ。大人しく降伏して地べたで畑でも耕していろ!白いサルめ」その声が入った途端、仲間からの通信も基地からの連絡も雑音で聞こえなくなった。おそらく通信妨害機も混じっていたのだろう。そして、一機のクジラが降下してくると腹にビッシリと据え付けた機関砲の掃射を
私達に浴びせようとする。
私とキリは咄嗟に回避行動に移れたが(その代わり一気に浮力を失い数千メートルは降下した)他は全てその掃射に喰われてしまった。
再び上昇して、ソイツだけでも喰ってやると思ったが、さっきと同じ高度に上がった時には既に敵影は見えなくなっていた。
これがガダウル航空隊の没落の始まりとなる事は、当時の私は知る由もなかったのだ。

ギガントスによる被害は、その日からうなぎ登りに上がり始めた。
ザナルカナル島はおろか、ニクス大陸まで行動圏内にはいるギガントスにとって、怖いものは無かったのだ。
これを受けて内地では非武装の機体に補助ロケットブースターを搭載した空中特攻隊を編成。
しかし、掃射機が護衛に付いている以上、大した戦果は上がらなかった。
ガダウルには舐められた事に、高度二万で侵入し、降伏勧告のビラを大量にばら撒いたものだった。しかも迎撃に出た多数のレイノスが防御火器によって墜とされるというオマケまでついた。
しかし、これは初撃墜のチャンスでもあり、私のレイノスは最低限の装甲を施し機体の軽量化を図りそして八十番対空徹甲ロケット弾を搭載しこれに備える事になる。無論、模擬空戦もたっぷり行った。
各員創意工夫を施した改造機を用意しその日はやってきた。
ガダウル航空隊の一番長い日がー

その日の昼、私はキリと談笑しながらアイスクリームを食べていた。
他の搭乗員達もあべかわ餅を食べたり、将棋を指しながら待っているのだ。
ギガントスが来るのを。そして、あの化け物を必ず墜として、故郷を、愛する人を命に代えて守ろうと心に固く誓って。
「みんな聞け!」
声のした方へ視線をやると、コザワ大佐が颯爽とやってきた。
「今日あたりクジラがハシゴ二〇〇でビラ配りにくるだろう。奴等に俺たちの誇りとヘリック魂を見せてやれ!今日に限り敢えて言う、被弾して帰投が困難な場合に限り、体当たり攻撃を許可する??その代わり、一機でもいいからヤツを墜とすのだ??」
そうか、大佐は見えているのかー影が。
だから体当たりを許可するのだろうか?否、此処で墜とさなくては次は無差別戦略爆撃が始まるかもしれないのだ。
私達が息を飲んで聞いていると、基地のサイレンがけたたましく鳴り出した。
「サカイ、アイラ」
今から駆け出そうとした私とキリを大佐が呼び止める。
「お前達は生きて内地に帰れよ」
その瞬間、私は大佐が帰ってこない事を悟った。
昨日の晩の事を思い出しながら、私は出撃するー
「短い間だが、オメェ腕が上がったなぁ、オイ」大佐はそう切り出して、私にサイダーを勧めた。
「いえ、まだまだです。まだ大佐に色々教えてもらわなくては、成長して生き残れません」
「いいや、俺より腕の立つ搭乗員のもとでお前はもっと成長できる。なんなら本官秘蔵のワインを賭けるぞエェ?」
やけに饒舌だなと思うが、大佐は構わず続ける。
「ほれ、この間の模擬空戦でやってみせた木の葉落とし、あれやストールターンは見事だったぞオイ。アレは俺の手にはおえねぇよ。本当にオメェはZiの零戦だよ。だが」そう言うと大佐は口調を強める「最後に爆弾背負って体当たりはすんなよ。今度こそ生きて自由な空を守って、どこまでも好きなように、飛べ。平和以外なにも望
まず、孤独にもならず、永遠に…」
そこまで思い出した時、眼下に無数の敵編隊を発見した。
「舐めやがって、かかれ!」大佐が無線機越しに怒鳴り散らす。
コテガワ機が最大戦速で突っ込みながら、レイノスご自慢の三連ビーム砲の連射をみまう。
しかし、クジラは何事も無いように飛び続ける。
「サカイ!八十番を試せ。頭は俺が押さえる!」大佐の指示に従い、フルスロットルでダイブ。
アフターバーナー点火。
みるみるクジラの巨体が照準器いっぱいにはみ出す。
ーいけ!
必殺の八十番対空徹甲ロケット弾がクジラの左翼目掛けて飛翔する。
しかしー
「ダメ!ミキちゃん!効いてない??」
キリからの無線で、私の放った必殺の一撃が無駄であった事を悟った。
「こんなの勝てないよ??」私は悔しさのあまりそう叫んだ。
クジラの防御火器により、既に多数のレイノスや、あのストームソーダーさえ墜とされている。
そして、私にも防御火器の火線が伸びてくる。
ーダメ、交わせない??
そう思った時、大佐のレイノスが私とクジラの間に割って入る。
大佐は私の身代わりになってくれたのだ。多分、私から影が見えたのだろう。だから、助けてくれたんだ。私なんかの為に…
「こちらサカキ、被弾した。これから体当たりを敢行する!ストームソーダー隊は各機俺に続け??」あっと思う間も無く、サカキ少佐のストームソーダーがクジラのコクピット目掛け突入、自爆した。
爆発の規模からして、最初からそうする覚悟で機内に爆薬を仕掛けていたのだろう。
それでようやく、クジラの高度が下がり始めた。
そこへ多数の機体が四方八方から体当たりを敢行。遂にクジラがこと切れて、墜ちていった、しかし、サカキ少佐や大佐の機体は未帰還となった。
夏の悲劇はまだ始まったばかりだった。

基地に降りても誰も歓声をあげなかった。
残存機四機となった私達ガダウル航空隊は、翌週解隊される事がその日の夕方、内地から指示が入った。
そう、我々はこの方面で負けたのだ。
それでも、戦って、いつの日かこの手で必ず、今は変えられないけど運命だけど、絶対生き延びて此処へ帰るのだ。
だが、その日の深夜、再び敵襲があった。
高度は三万。数は三十機。
「いくぞ!サカイ、アイラ、ヤカワ!」臨時隊長のフクガワ中尉の指揮の元、私達はガダウル航空隊として最後の出撃に臨んだ。
最盛期と比べるべくもない貧相な航空隊だと自嘲気味に思う。
「敵はまたクジラだ。今の俺たちでは勝てん。爆撃の邪魔をして帰るぞ」
「隊長!電探反応が…これは新型戦闘機です??」
キリがそう叫ぶと、アルミ製吹き流しを切り離した敵の新型戦闘機が我々に向かい、突っ込んできた。
恐ろしく早い。運動性もレイノスよりやや劣る位で、素晴らしく良い。
たちまち包囲され、まずヤカワ機が寄ってたかっていたぶられた挙句墜とされた。
これは敵にとってゲームなのだろうかー
「ハエでも墜とすみたいに…こっちだって同じ人間が乗ってるのよ??」私がそう叫ぶとレイノスも咆哮した。
レイノスも悲しいのだ、多くの仲間を失い、そして今自分がされているように、かつて自分もしてきた事を。
これが戦争だ。何かが悲劇でもない。何かが喜劇でもない。
それでも私は生き残る為に目の前の敵機に向かいビーム砲を放つ。
一撃だけ命中したが、墜ちない。
そうこうしているうちに真後ろに付かれた。
後部機銃を撃つが軽くかわされる。
やはりこれは敵にとってゲームなのだろう。
対空ミサイルを全弾ぶっ放す。敵編隊が乱れて、何とか帰還できそうになる。
後方に電探が敵影を捉えた。
ロールしながら故意に失速させる。
急上昇。
敵機が照準器に映る。
「あまりレイノスを舐めないで??」そう叫びながら、ビーム砲を三連射。
ようやく一機撃墜。
しかしー
「ミキちゃん!危ない??」キリからの通信で気付いたが、真後ろにピタリと敵機の姿が。
バレルロールをうつが、敵機はぐんぐん迫り、遂に格闘兵装のリーチに入ってしまう。
「ミキちゃん、先に逝って待ってるね。さようなら」
キリの意図がその通信で分かった。
私を助ける為にその敵機に向かい、突っ込んでいく。
宵闇を照らす一瞬の光。
敵はそれを見て、これ以上の戦闘は無駄と判断したらしく去っていく。
帰還できたのは私だけ。あとはみんな戦死を遂げてしまい、誰も居なくなった、
そしてこれが、ガダウル航空隊の終焉となった。
時にZAC2104年八月十五日。
こうしてザナルカナル方面の組織的な戦闘は終わったのである。
この方面の損失は連合軍ゾイドだけで四万機。
その損害故にザナルカナル戦区はゾイドの墓場と呼ばれ、後世に語り継がれる事となる。

「…これが、精強を誇っていたガダウル航空隊の最後よ」私はそう言うと煙草を取り出してそれに火をつけた。
「みんな泣いて、笑って、死んでいくの。戦争だからね。でも、あなたが大人になる時は今のままじゃダメ。戦争は何も残らない。死んでいった人達の思いもいずれは忘却の彼方へ消えてしまうから。だから、自分でどうすべきか考えて行動しなさい。それじゃ、長い話を最後まで聞いてくれてありがとう」

ー完ー

 

あとがき&メカ解説
これは私の中では珍しい主人公サイドの負け戦の話です(元ネタが旧日本軍だから当然ですが)
私の中で戦争は悲惨。というより虚しいという言葉の方がしっくりきます。
なぜなら作中でも書いた様に何も残らないからです。
例えば、敵艦を前にして撃ち墜とされた特攻隊員の方々の無念さはよくわかりますが、いずれ戦争を全く理解しようとしない世代も生まれるでしょう。
その時、特攻隊の人々の想いは消えてしまい、残らないのです。
これが虚しいと言わずに何というか。
ですので、どうしたら良いかはこの話を読んで下さった皆さんが考えて下さい。
これを機に考えて頂けたら幸いです。
さて、これから下は登場ゾイドについての解説です。

ウィンディ中型陸上攻撃機
最高速度 マッハ2.4
武装 20mm機銃×10
爆弾 20トンもしくは対艦用105mm高速レールガン×2門
乗員 3名
コメント
モデルは米軍のB24とA20。作中の輸送船団に対する攻撃はダンピールの悲劇がモデルになっています。機体名は某マンガのヒロインの名前をもじったもの。さて、誰でしょう?

ルクス軽爆撃機
最高速度 マッハ2.7
武装 20mm機銃×3
爆弾 3トン
乗員 2名
コメント
モデルは旧日本軍の九九双軽。運動性は爆撃機としては優秀だが、防弾性能と前方火力の低さが欠点。派生型に対潜哨戒機や夜間戦闘機に改造されたものもある。

グレイヴクアマMK2
最高速度 マッハ3.0
武装 ソードウイング、パルスレーザーガン×2、ハイパーキラークロー×4、高機動ブースター×6
爆弾 2トン
乗員 1名
コメント
元は潜水航空戦艦等に搭載されていた特殊改造機。高性能だが生産コストが高いのが唯一の泣き所。

ギガントス超重爆撃機
最高速度 マッハ3.1
武装 30mmパルスレーザー機銃×1、20mmパルスレーザー機銃×12(掃射機型は20mmパルスレーザー機銃×50門を追加可能)、超重装甲
爆弾 100トン
乗員 3名
コメント
モデルは米軍のB29と旧日本軍の富嶽(機体の規模は富嶽で、運用面等はB29のイメージです)この機体を開発する為にネオゼネバスはキメラブロックスの投入が公式設定よりも遅れた。また当然の事ながら超高コストな機体である。幾多の機体が連合軍に多大な損害を与える事となる。

新型戦闘機(レインボージャーク)
最高速度 マッハ3.4
武装 20mmパルスレーザー機銃×2、40mm機関砲×4、47mmパルスレーザーガン×2、高空用イオンブースター×2、ソードウイング、マグネッサーテイルスタビライザー
爆弾 10トン
乗員 1名
コメント
モデルは米軍のP51。オリジナルとは姿は同じだが、中身は別物の超高性能戦闘機。その性能の高さに加え操縦性の良さも手伝い数多くのエースパイロットを生み出す。また、強武装を活かし地上攻撃も可能。装甲も厚くおおよそ欠点らしい欠点が無い。強いて挙げるとすれば携行弾数がやや少ない事くらいである。

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