HISTORY_メカ生体ゾイド始動(1983年)

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ここでは、メカ生体ゾイドの最初の年、1983年の動きについて解説します。

紆余曲折を経て、メカボニカは「メカ生体ゾイド」として国内で再始動しました。
今回は前回の失敗を繰り返さぬよう、様々な秘策をもって市場に臨みます。その秘策について解説します。

秘策は主に4つの項目にまとめられます。

 

まず、パッケージがアメリカ式のつるし箱になった事です。

当時の日本ではかぶせ箱が模型箱として常識的な形態でしたが、これでは水平な台の上にしか陳列できない欠点があります。
大型デパートでもない限り、商品陳列スペースは狭くて限られたものです。
必然的に、「小スペースだから確実に売れるものだけを置こう」となり、新参のキットは入荷され辛くなります。
(80年代前半は個人玩具屋の方が一般的な時代。それを80年代後半~90年代にかけて駆逐していったのがハローマックやBANBAN等の大手玩具チェーン店である)

しかしつるし箱は壁側面にフックを作りぶら下げておけば良いだけなので、陳列台に余裕の無い小スペースの店でも販売しやすい利点があります。
さすがにビガザウロのような大型ゾイドにつるし箱を使用するのは無理ですが、小型のものは全てつるし箱式になりました。
この結果、ゾイドの取り扱い店拡大に繋がりました。

 

次に、店頭展示販売の強化です。
店頭で「動き」を伝える使命を帯びて開発された切り札・ビガザウロです。

トミーの営業マンは全国の玩具店を飛び回り、店頭でゾイドを組み立て、実物を展示し魅力を伝える事に死力します。
ビガザウロは期待以上の効果を発揮し、この素晴らしい動きを見せるキットのおかげで一日で3桁のゾイド販売個数を記録する店も現れました。
見事、動きの魅力は伝わり、消費者の心を掴んだのです。

 

次に世界観の構築です。
キットには世界観を伝えるカタログが添付されるようになりました。
カタログには、ランナップ紹介の他、世界観の説明や各機体の詳細な設定が載っていました。

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ゾイド・ゾーン…無数の恒星と惑星からなる広大な星域。
ゾイドと呼ばれる巨大な機械獣が生息するこの星域が、宇宙のどの位置に存在するか、地球からの方向・距離、いずれもまだ明らかにされていない。

コズミック・ヒストリー 壮大な時の流れが今、始まる。
ゾイド・ゾーンには、様々な機械獣が生息している。陸,海,空,宇宙空間とあらゆる環境に適応して進化しているが、共通する特徴は生体構造が機械とよく似ていることである。
地球人はこれらの機械獣を、戦闘用そして探査用機械獣に改造することに成功した。これがゾイドである。

●ビガザウロ<母船型> 標準小売価格2,800円 単II-2本使用
 もとは、ゾイド・ゾーンの一惑星(ZP01)の陸上機械獣。現在確認されている中で最大。巨体とそのパワーを利用して、重武装の戦闘輸送車に改造。
 ゾイド軍団での作戦行動の時は、母船として指揮能力を発揮する。
■テクニカルデータ
 重量:132.5トン 最高歩行速度:80km/h ペイロード:25トン 武装:パノーバー20ミリ対空ビーム砲4門 マクサー30ミリビーム砲4門 重量物牽引機1基
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同時に、ゾイド初のテレビCMが製作・放映され、多くの消費者に訴えかけました。
このCMは、ゾイドの特徴である「動き」を伝えると同時に、「バックボーンの世界観」の説明に重きを置いたものでした。

CMのナレーションは、
「時間と空間を越えた未知なる星域・ゾイドゾーン。あらゆる環境に適応した機械獣・メカ生体ゾイド。緊急時には直ちに軍団を形成し、壮絶な電撃戦を展開する」

というものでした。

まだまだ曖昧で分かりにくい部分も多いは確かでした。
しかし、メカボニカの「宇宙への使者 機械生物!!」に比べれば、非常に具体的な世界観へ生まれ変わったのは明らかです。

メカ生体ゾイドが始まった83年は、空前の宇宙ブームでした(というより70年代頃からずっと宇宙ブーム)。

1957年の世界初の人工衛星の打ち上げに始まり、有人宇宙飛行の成功(1961)、人工衛星を介したテレビ中継の成功(1963)、
宇宙遊泳の成功(1965)、月裏側の撮影に成功(1965)、月面着陸(1969)、バイキング探査機が火星に向かう(1975)、
ゴールドレコードを搭載したボイジャーが外宇宙へ旅立つ(1977)、木星の輪の発見(1979)、
スペースシャトルの就役(1981)……、etc.

人々は宇宙へ限りない可能性を感じていました。

1945年に第二次世界大戦が終結した頃、各国の航空機はいまだプロペラの付いたものでした。
それがあれよあれよあれよと宇宙に進出し、次々と神秘の謎を解き明かし、今までに無い数々の技術も開発されました。

このまま宇宙開発は順調に加速し、数年後には太陽系が、そしてその先には銀河の全てが解明され宇宙旅行が身近になると思われていました。
この時代は、宇宙への希望が限りない時代だったのです。

その時代において、地球から遥か彼方・未知の星域ゾイド・ゾーンに住む機械獣・ゾイド。
そこにたどり着いた地球人がゾイドを強化改造してゆくという設定・世界観は、宇宙を夢見る少年たちの心をくすぐり、
バツグンの支持を持って迎えられたのです。

 

最後に、改造の推奨です。
前史で触れましたが、始祖ゾイドともいうべきガリウス、グライドラー、エレファンタスの三機は、「スナップフィット式」「塗装不要・最初から色分けされたマルチランナー」
という特徴を持っていました。
当時プラモデルで社会的問題になっていた、接着剤や塗料に含まれるシンナーに対するものとして、それらを一切使用せずとも組み立てられるという画期的なものでした。
それを強く意識してか、メカボニカ時代の説明書には、「メカボニカには、接着剤は絶対に使用しないでください」の文が書かれていました。

しかしメカ生体ゾイドとして再販された時、この部分は180゜変わります。
箱裏には改造・塗装をした作例が大きく写され、むしろ改造・塗装を推奨した作りになりました。

これは私見ですが、魅力的な世界観を提供する一方で、ユーザーに「より楽しむ為には改造だよね」というメッセージを発したというのは、大きな意味があったのでしょう。
「世界観を説明されてキットを組んで終わり」という受動的ではなく、「自分で手を加え設定させる」という能動的にさせる事こそ、ゾイドの世界観構築の最も重要な手順だったと思います。
「ゾイドを自身の手で改造する」が、世界設定の「未知の星域ゾイドゾーンで地球人がゾイドを改造した」と、リンクしているのも重要です。
接着剤・塗料を廃止した一方でそれを推奨する姿勢は矛盾していますが、おそらくそこは、親(実際の購入者)攻略と子供の満足の両立のバランスだったのではないかと思います。

 

これらの秘策をもって、メカ生体ゾイドは順調な滑り出しを開始します。
メカボニカの反省は見事に生かされたのです。

この年、ラインナップも順調に増え、ビガザウロに次ぐ大型ゾイドとして「ゾイドマンモス」が発売され、いよいよゾイドは勢いを増してゆきます。
1983年に発売されたゾイドは以下の機種です。
 大型ゾイド
  RBOZ-001 ビガザウロ
  RBOZ-002 マンモス
 小型ゾイド
  RMZ-01 ガリウス
  RMZ-02 グライドラー
  RMZ-03 エレファンタス
  RMZ-04 グランチュラ
  RMZ-05 アクアドン
  RMZ-06 ゴルゴドス
  RMZ-07 ハイドッカー
  RMZ-08 ペガサロス

しかしメカ生体ゾイドの順調な滑り出しの中、トミーはこれに満足せず、更にゾイドを発展させる計画を立てます。
それにより、翌年以降、世界観はより深く作り込まれる事となります。

更に、ゾイドの象徴的アイテムや帝国軍の登場により、いよいよ巨大トイシリーズとしてゾイドは発展してゆく事になります。

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