帝都防衛航空隊 あとがき


読了して頂きありがとうございます。お楽しみいただけたなら幸いです。

本作はメカ生体ゾイドの第一期「第一次中央大陸戦争」を部隊にした物語です。
厳密に言うと、ZAC2031年の第一次ゾイド開発競争あたりから始まっています。

ゾイドバトルストーリーは、どちらかというと共和国側…というか勝つ側の視点で語られる事が多い印象があります。
なので、いつか帝国側から見た戦いを書いてみたいと思っていました。
私は今も昔も熱狂的な共和国派でなんですが、不思議な事です。
ただ敗戦側に思い入れが強い所は大いにあります。
帝国側から見た戦いを書いてみたいと思ったのはそんな所の影響なのかもしれません。

帝都防衛航空隊より以前に「Metal Heart-鋼鉄の遺伝子-」という作品を書こうとした事があります。
こちらはゾイド戦役全期を通した物語でした。
始まりはゴジュラスやゴドスが初めて登場した頃、つまりずっと前の時代から。
主人公はやはり帝国側飛行パイロットでしたが、最初は飛行ビークルで戦います(飛行ゾイドがない時代なのです)。
次にシンカー、シュトルヒ、レドラーと乗り換えながら戦う。
その後暗黒軍に”吸収”され、暗黒仕様レドラー、ギル・ベイダー、ガン・ギャラドに乗り換え戦う。
物語の最後は彗星落下を迎えて……という超壮大な構想。
しかも心描写は細かく、何だったら各機の開発エピソードも詳しく扱っちゃおうという意気込み。
分かる方が限られると思いますが、川又千秋先生の「ラバウル烈風空戦録」のような作品を夢見ていたわけです。
いやしかし、気合を入れすぎた物語は私の力量を大きく超えており、序盤も序盤で頓挫してしまったのでありました。

この苦い経験から、「次は完結できるように」という所から構成しました。
つまり
・期間は第一次中央大陸戦争で終わる
・心理描写は極力廃して淡々と
・その分、ミリタリーあるいはバトストに詳しい方が”ニヤリ”できるようなものを増やして
こうして本作は生まれました。

さて書いてみて、これだけ「完結できる」ところから始めたのに、随分と苦労しました。
具体的に言うと4話くらいまではスラスラ書けたのですが、そこから少しずつ。潜水作戦辺りからはかなりの苦労をしていました。
ですが、何とか書き続けて完結までもってくる事ができてほっとしています。

コンセプトは「帝国側から見た戦役」 そして主人公は「特別じゃない奴」でした。
主人公は生き残る事は得意ですが、これは運がいいというだけ。技量は戦い抜いた年数相応だが、エースではない。
そんな地味な奴です。
余談ですが、本作の帝国軍は全体的にドイツ軍をイメージしています(サラマンダーに爆撃される姿は日本軍っぽいですが)。
なのでそれにあやかり、本作内では「帝国軍のエースの定義は10機撃墜」としています。
主人公の撃墜数は具体的には決めていないのですが、この数にはわずかに及ばない程度と想定しています。8か9か…それ位。
さてそんな技量、そして精神面でも特に抜きん出ておらず地味な奴。しかしそんな彼がふとした事から重要な作戦を担い……という所に面白みを感じて頂ければとても嬉しく思います。

先にも書きましたが、本作はミリタリーあるいはバトストに詳しい方が”ニヤリ”できるようなものを意識しています。
こういう事を詳細まで語るのはみっともない気もしますが、幾つか解説します。

サラマンダー、これは分かりやすいと思います。B-29のイメージです。超空の要塞、スーパーフォートレスですね。
対するシンカーは日本機全般、そしてプテラスはP-51ムスタングのイメージです。
シュトルヒは震電やメッサーシュミットMe262の折半(ただし9割はMe262のイメージ)です。
もう少し詳しく言うと、これ以上できないギリギリの状態にした空戦型シンカーは震天制空隊の屠龍、帝国首都で改造された特製の脱出用シュトルヒはキ201火龍をイメージしています。

作戦も、例えば潜水作戦は日独潜水作戦がモデルです。
ゾイドは第二次大戦をはじめ実際の戦争を意識した展開・描写がかなり多い。史実を知ると、より楽しめるようになります。
本作にも様々なモデルがあります。見比べて、これが元ネタかなと探してもらえればより楽しめると思います。

また、史実だけでなくバトストとの連動にも力を入れました。各所で「おっ」と思って頂けたならとても嬉しいです。
バトストとは主に「小学館スペシャル ゾイドバトルストーリー1、2巻」です。特に、13話の帝国首都での決戦には多くのニヤリがあると思います。
が、他にも箱裏だったりHistory of Zoidsだったり広告だったり学年誌だったり…、かなり広範囲から拾っています。
例えばツインホーン決死隊の描写は、学年誌(小一)のストーリーから発想を得ました。
サラマンダー早期警戒管制仕様「ブラックバード」は箱裏改造バリエです。
というように、こちらはマニアックですが、よりディープな方でも楽しめると良いなぁと思ってできる限り出すようにしました。

読み終えて気付かれたかもしれません。
本作は完結しました。が、主人公は第二次中央大陸戦争以降も戦い続けています。「元大尉」「レドラー」の単語が出てきます。
本作のその後は何となくは想像していますが、あまり書く気はありません。
あくまでベテランだが平凡な彼です。偶然にも運命を賭けた作戦の主役に。そんなドラマチックな事は二度と起こりません。
ただ淡々と飛び、戦い…という名もなき兵な感じ。
それはそれで魅力的な気もしますが、地味すぎるのでやっぱり書かないと思います。
願わくば、彼のような地味なパイロットが無数に居て、そうして戦場がある事を想像して読んで頂ければ。またその中の一人である彼についても少し想像していただければ、作者としてはこの上ない幸せを感じる所であります。

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