帝都防衛航空隊 10


最悪の敵と遭遇。
離水し空戦か、急速潜行か。
いや、空戦はありえない。スペックの差は歴然、数も敵の方が多い。
急いで潜行した。
しかし優秀な敵が見逃す筈はなかった。バルカン砲を撃ちながら海面に突撃してくる。

敵が哨戒部隊だったのは幸いだった。
対艦魚雷を積んだ部隊なら一たまりもなかっただろう。
だがバルカン砲でも脅威に違いはない。海面には巨大な水柱が何本も立った。

ガシッという音を立て、激しい衝撃が走る。
ついに被弾したようだ。だが構わず潜行を続ける。今は敵の弾が届かない深さまで逃げるだけだ。
初期型の水陸両用仕様…鈍重なシンカーだが、それだけに装甲は空戦仕様やシュトルヒよりも厚い。
今はそれを信じるしかない。

追加で何発か喰らいながら、ようやく海底に逃れた。
どうにか致命的なダメージは避けた。
コンテナも無事だろうか。だが確認する術はなかった。

海面を確認する事はできない。
まだ周囲を飛び回っているのか、撃破と判断して去ったか。それともバリゲーターやフロレシオスを呼び寄せるか。
悪い事に機内の酸素はあと1,2時間しかもたない。このまま海底でやり過ごす事はできそうにない。

もはや残りわずかな燃料を放出した。
油が海面に上る。これで轟沈と判断してくれれば良いのだが。
なけなしの燃料を放出してから1時間半、機内の空気はいよいよ底をついた。
二酸化炭素濃度が限界値を示す。もはや選択肢はない。敵が去った事を願いながら浮上した。

静かな海が広がっていた。燃料放出が功を奏したのか、幸いにも敵は居なかった。
コックピットを開け、新鮮な空気を思い切り吸う。この時ほどの空気が美味いと思った事はなかった。
安堵のため息をつき、再びシンカーを動かす。
急速潜航でエネルギーを大きく消費した。もはやエネルギー残量は赤ランプを示している。
消費をできる限り抑えつつ、低速で陸上を目指した。

夕方になる頃、ようやく海岸線に着いた。
シンカーやコンテナを隠せるポイントを探る。
森林地帯を発見し、そこに上陸した。

上陸後、すぐさまコックピットから飛び降りコンテナを見る。
どうか無事であってくれ。しかしその思いは虚しく、上部から側面にかけて幾つもの穴が開いていた。
プテラスのバルカンだ。

中身は。
いやしかし、軽率にもここで開ける事はできない。
中のコアが無事かどうかは分からない。だが確認するなら、適切な生命維持装置や蘇生装置がある状態で試した方が良い。
焦って開ければ、それこそ状況を悪化させかねない。
私がすべき最善の事は、早急に首都に行き状況を報告、そして回収部隊を案内する事であった。

 

シンカーとコンテナの秘匿を入念に行う。
完了した頃には、既に辺りは闇に包まれていた。

シンカーからはコックピットを外していた。
コックピットは緊急時の脱出用ビークルとして機能する。これに乗り首都を目指した。

首都に近づくにつれ、敵の姿も増え始める。
それ以上の飛行は危険と判断した私は、ビークルを乗り捨てた。もっとも、航続距離の関係でそれ以上は飛べない事情もあった。
ここからは足で首都を目指す。
そしてついに、味方勢力圏に辿り着いた。
守備隊は当初敵の襲撃と誤認し銃を向けたが、帝国の紋章の付いた腕章を見てすぐに迎え入れてくれた。

首都で私は事を伝えた。
ウラニスクではプテラスに匹敵する戦闘機シュトルヒが完成した事。
現在、シンカーとコンテナを秘匿している事。
コンテナにはシュトルヒのコアを積んでいるが、被弾し無事かは分からない事。
シンカーの格納庫にはシュトルヒや整備設備の設計図、そして更新した暗号の解読表が入っている事。

その内容に首都部隊は驚いた。
直ちに回収部隊が編成され現場に向かう事になった。
時刻はまだ深夜。夜明け前に回収するべく全力で向かった。

編成は、サーベルタイガー5機とアイアンコング1機であった。
この時期の帝国が割く戦力としては極めて大規模である。事の重大さをすぐに分かってくれた事がありがたかった。
構成から分かるように、隠密を保ちながら時間をかけて回収しようとしたわけではない。
最速で、敵と遭遇すればこれを排除し回収する強引な案を採用した。

部隊の中心はアイアンコングで、移動中は指揮、到着後は回収作業を行う。
サーベルタイガーは周囲に展開してアイアンコングをサポートする。
敵と遭遇した際はこれを排除する。また状況に合わせて囮役になるなど柔軟な動きも求められた。

私はアイアンコングの砲手席に居た。無論、撃つためではなく道案内である。
陸上ゾイドに乗った事はあるが、せいぜい小型ゾイドであった。こんなにも巨大なゾイドに乗った事は初めてだった。
分厚い装甲、頑丈なボディ。これがやられるとは信じられなかった。
いや、しかし私はミーバロスで立ち会ったではないか。ウルトラキャノン砲を撃たれ、四散する瞬間に。

私の表情から何を考えているかを読み取ったのだろう。パイロットは語り始めた。
こいつでも撃たれれば成す術はない。最初の一言はそれだった。
その後補足された所によると、ゴルドスの105mmキャノン砲なら何とか防ぐらしい。
だが最近登場した新型ゴジュラスのキャノン砲は防げない。ウルトラキャノン砲に至っては、一発で部隊単位で葬るらしい。
ウルトラザウルスは、そんな弾を延々と撃ち続ける。
私は航空部隊こそ一番の苦戦をしていると思っていたが、どうやらそうではないようだと思い知った。

 

秘匿地点に着く。
素早くコンテナ、そしてシンカー格納庫を回収して帰路につく。
帰還中、警戒中のスネークス、スパイカーの混成部隊と遭遇した。だが当初の予定通り、サーベルタイガーがこれを排除する。
目標通り、夜明け前に回収作戦は完了した。

首都では、生命維持装置や蘇生装置が既に用意されていた。
穴の開いたコンテナをいよいよ開封する。
無事であってくれ。全員が祈るように箱の中を見つめた。

はたして、箱の中は酷い有様だった。
敵弾が内部で炸裂したらしい。それは隔壁を突き破り、コアを無残に破壊していた。
もはや蘇生装置を使っても無駄だろう。一目で分かる程の状況だった。

それでも万に一つの可能性にかけ、一つ一つ丁寧にコアを取り出してゆく。
そして奇跡は起こった。
唯一だけ、傷一つなく難を逃れたコアがあったのである。
コアはすぐさま工場内に運ばれた。

この他、シンカー内の設計図や暗号解読表は無傷であった。
作戦で、シュトルヒのコアは一つしか運ぶ事ができなかった。だが完全な無意味ではなかった。
更新された暗号は我々に再び通信を取り戻す。シュトルヒは一機だけだが完成するだろう。

しかしこの先、たった一機で何かできるほど戦争は甘くない。
当初の計画、新型ゾイドの完成まで耐える事はできるだろうか?
この潜水作戦は、いずれ共和国軍の知る所となろう。警戒は密になり、追加の潜水作戦は不可能だ。

光は差した。だがそれはいかにもか細い光だった。
それでも、我々はそれにすがるしかなかった。どうにかして希望を広げ、戦い抜くのである。

 

(その11へ)

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