帝都防衛航空隊 3


状況がつかめぬ混乱の中、あっという間に味方が3機ほど墜ちていった。
一瞬の出来事だった。直後、私の機の後ろにもそれは現れた。
急降下で離脱を試みたが全くできなかった。敵はピタリと動きに付いてくる。そしてミサイルを放った。

この日、私は初めて撃墜された。

ミサイルは機体中央で爆発し、コアを完全に破壊した。
一瞬で操縦不能になった。
シンカーのコックピットは単独でも飛行できる機能がある。緊急時の脱出用ビークルを兼ねているのだ。
だがレバーを何度引いても動かない。悪い事に衝撃でこの機能は故障していた。
やむなく落下傘で飛び降りた私が見たのは、ほとんど壊滅した味方の惨状であった。
空戦というより狩りであった。プテラスは正確にシンカーを葬り一方的に戦いを進めていた。
屈辱。しかしそれを感じぬ程に衝撃的な光景だった。

コックピット…ビークルで脱出した者も居た。幸運にも、被撃破時に機能が故障しなかったのだ。
いや、幸運ではなかった。プテラスはそれを追いかけ太い脚で捕えて握り潰した。
むごい。そこまでするものかと一瞬思った。
だが、我々も手負いのサラマンダーを追撃し撃墜したいと常に思っていたのだから当然なのかもしれない。
これが戦いというものなのだ。
幸運とは脱出機能が故障した私の方だった。落下傘で降下する私は目立たないからか、相手にされる事はなかった。

サラマンダーはプテラスに守られ、低空からの精密爆撃を悠々と行った。
この戦いで、シンカー部隊と地上施設は甚大なダメージを負った。
落下傘で降りた私は、休む間もなく焼け爛れた街を走り回って生存者の救出にあたった。
その後、街は2日間も燃え続けた。

この日を境に、再び我々は苦境に立たされた。
サラマンダーの長距離爆撃に随伴できる小型機。これはまさに脅威であった。
しかも、空戦性能はあらゆる面でペガサロスを倍していた。
我々は、共和国の飛行ゾイド開発能力に戦慄した。
ただ、さすがに帝国全域はカバーできなかったらしい。
奥深いガニメデやウラニスク、ユビト、そして帝国首都などはかろうじて爆撃を免れていた。

しかし、状況が絶望的である事に変わりはなかった。
被害は日増しに増えていた。
ここへきて、帝国は大きな決断を下した。
生産工場や開発研究所、これらを敵の爆撃圏外にあるウラニスクに集中させる事を決定したのである。
設備の疎開及び一極化。これにより当面の被害は避ける事ができるという目算であった。

一極化は危険な賭けでもあった。陥落が帝国の敗戦に直結する。
ウラニスクへの設備集中はすぐに知れるだろう。そうすれば敵が重点的に狙う事は明らかだった。
だから絶対防衛が必要とされた。
また帝国には、ウラニスクの他にもう一つ絶対防衛が求められる場所があった。首都である。
両地区はプテラスの行動圏外。だが、サラマンダーが単独で飛来する事は十分に考えられた。
サラマンダーだけが相手なら何とか戦う事ができる。両地区を守る部隊には、サラマンダーの絶対排除が求められた。

ここには通常部隊とは独立したゼネバス皇帝直属の親衛隊が編成され、その任務に付く事になった。
最精鋭が集められ、機材人材共に最高の待遇がされた。

最高の待遇の反面、方針は体当たりをしてでも敵を墜とす事であった。
だが親衛隊はそれを当然と受け入れた。親衛隊と言えばスマートな印象があるかもしれない。
だがその実はどこよりも血気盛んな部隊であった。
親衛隊は機種に関わらず全身を真っ赤に塗装する事も特徴で、後年完成した切り札シュトルヒもまずは親衛隊に納入されている。

私に親衛隊入隊の声がかかる事はなかった。
戦闘機パイロットになってもう四年ほど、飛行隊長を任されベテランと呼ばれる事もあった。
それでも、やはり海軍からの転属パイロットであった。当初から空軍に居た猛者からすればヒヨッコ同然であった。
だから選漏れは当然と言えた。
親衛隊の結成を横目で見ながら、私は最前線の任務に戻った。

プテラス、サラマンダーは連日のように爆撃にきた。
プテラスは強敵だったが、さすがにこちらも警戒しているわけだから初遭遇時のような一方的敗北をする事はなかった。
わずかながら希望をもたらしたのは、ゴードン・ターンであった。
元々は対ペガサロス用に考案された戦術だが、これをプテラスにも使おうとなった。

ゴードン・ターンを解説しよう。まず敵をあえて後ろに付かせ、そのまま飛行する。
速度差で勝る敵は距離をつめて来るが、敵の有効射程ギリギリまでそのまま耐える。
そして敵が射撃を始めた瞬間、機体を横にローリングさせ360度回転する。
この動きで機体は急激に減速し、敵が自機を追い抜く形になる。
ローリングが終われば目の前に敵が居る。そこへ間髪入れず弾丸を叩き込むという荒っぽい戦法であった。

こう書くといかにも簡単そうだが、実際は極めて難しい。隊員がこれを覚えるまでには大きな犠牲が必要になった。
空戦型シンカーの特性を思い出して欲しい。急激な空戦機動は厳禁とされる脆い機体である。
だからターンは乱暴ではいけない。”綺麗に”する必要があった。
この戦法をペガサロスを相手に使っている頃は良かった。
あの頃はノーマルタイプの頑丈なシンカーだったから、この程度の機動は乱暴にしても問題なかったのだ。
今は脆い空戦型シンカーで同じ動きをやろうとしている。
明らかに高性能の敵を相手を後につかせ、その距離を見極め極限状況の中で綺麗にターンをする。
乱暴なターンでは空中分解の自爆になる可能性さえある。
これは神業と言えた。だがそうする他に道はなく、我々はそれを覚えた。

厄介だったのは、プテラスとサラマンダーのシルエットがそっくりだった点である。これは距離感覚を完全に狂わせた。
サラマンダーとの距離を測る事に慣れすぎていた為、対プテラス戦ではそれが仇となった。
まだまだ離れているつもりでも、敵の有効射程圏内に入っている事が多くあった。
もし全く別のシルエットを持つ機体であれば、もう少し距離感がつかみ易かっただろう。この点は非常に悔しい事であった。
目測を誤った者はそこで墜ちていった。

隊員はすぐに半減した。補充された隊員は若手で経験も少なかった。
だが、ありがたい事にやる気だけはあった。皆、祖国の危機を受け意思をギラつかせていた。
死と隣り合わせの中、猛烈な勢いでその習得に努めた。
素質と幸運。両方を兼ね備えたものが生き残った。いつしか、ゴードン・ターンを実践できる者が増えてきた。

同時に、我々はシンカー部隊を対プテラス戦を行う戦闘隊と対サラマンダー戦を行う対爆隊に分ける仕分けをした。
プテラスはへの対策は必須だったが、それだけではいけない。
プテラスはあくまで護衛である。サラマンダーが爆撃をするのだから、そこへの攻撃も必須であった。
そこで戦闘隊が先行して突入、プテラスを引き付ける。その隙に対爆隊がサラマンダーを攻撃するという手順を整えた。
ゴードン・ターンの習得、そして戦闘隊と対爆隊を分ける戦術。
これは功を奏した。ある時はシンカーの損失4に対しプテラス撃墜4・サラマンダー撃墜2という記録を打ち立てるまでになった。

-もはや共和国空軍は恐れるに足りず。帝国の空は守られた-
そんな安堵が広がった。
いやしかし、それは長くは続かなかった。

ゴードン・ターンには致命的な弱点があった。それは、敵がこちらのバックを取り距離を詰めるという部分である。
これは釣り針に餌をつけ喰い付かせる行為に他ならない。
この戦法のキモは相手に無防備な後姿を見せる事にある。それゆえ敵は撃墜できそうだと付いてくるのである。
ある時を境に、敵はパタリと誘いに乗らなくなった。これはゴードン・ターンという戦法が敵に知れ渡ったからだと思う。

プテラスに勝つ条件は、敵が餌に喰い付いた場合に限られた。
それがなくなった今、もはや我々に勝つ術はなくなった。
我々は空の戦いで負けた。
新しい戦術が生まれる事もなかった。完全敗北、それ以外に言葉は見つからなかった。

ただ一つ幸いだったのは、プテラスを超える戦闘機が誕生しなかった事だろう。
従って、ウラニスクや帝国首都はまだ守られていた。
その代わり、プテラスが護衛にくる範囲のミーバロス、イリューション、ダリオス、オベリア東部は手痛いダメージを受けていた。
我々にとって、これは強く責任を感じる所であった。

これらの地区の中でも、特にミーバロスは壊滅的なダメージを受けていた。
ミーバロスは帝国の最大の軍港だった。だがいまや施設はことごとく破壊され、機能の大半は失われた。
一時期は大船団やシンカー潜水部隊を備え、帝国最大の脅威とまで謳われたミーバロス。
いまや見る影も無く、鉄屑と砕けたコンクリートだけが広がっていた。
私は海軍時代をミーバロスで過ごした。その変わり果てた惨状と守れなかった自分に酷い無力感を覚えた。

軍港としての機能を回復するには、最低でも数年はかかると思えた。
これ以降、成果に満足したのかミーバロスは主要攻撃目標から外された。
ミーバロスでは食糧事情も急激に悪化しており、配給には長い列ができた。
だがなにぶん食料関係の工場もことごとく破壊されており、事態は極めて深刻であった。
軍港はその機能を果たせぬので、代わりに漁船を並べて漁師を住まわせた。彼らが魚をとり食料事情を改善させるのだ。
笑い話にもならぬ、必死の策であった。

帝国全土は、どこも蜂の巣をつついたような大騒ぎだった。
全域が苦戦続き。とにかく空軍力で差がありすぎ全く抗する事ができない状況だった。
ウラニスクや帝国首都は今はまだいい。だが、いずれどうなるかを考えると暗い予想しかなかった。

帝国で善戦している部隊はあるのだろうか。唯一、バレシア部隊だけはよく戦い敵の攻撃を完璧に防いでいた。
バレシアは北方特有の嵐が常に吹き荒れる地帯で、飛行は困難を伴う。さしものサラマンダーも本格爆撃ができなかった。
またここには、サーベルタイガー、ヘルキャットの大部隊が駐屯していた。
超低空飛行だから対空砲も届いた。両機は適正な射撃位置に移動し全力で弾を打ち上げた。これによりバレシアは守られていたのだ。

といっても、バレシアは唯の例外でしかない。全体的に言えば、帝国は大きな危機に瀕していた。
またこの時、帝国の誰も気付いていなかった。飛行ゾイド以上の大きな脅威。それが徐々に近づいている事に。
共和国はこの時、かつてない巨大さを誇るウルトラザウルスを開発し、その運用試験最終段階に入っていたのであった。

 

(その4へ)

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