迎撃戦闘隊奮戦す


「クソッ、とんだ貧乏クジだぜ……」
ディバイソンのコックピット内でぼやいた。俺は今、ガンブラスター三機を引き連れデスザウラーの元へと向かっていた。

何故こうなったのか。
数日前に第二次暗黒大陸上陸作戦を成功させた我が軍は、まず上陸地点の守りを固める事にした。
ここを一大拠点として整備し、今後の進撃を行うのだ。
エントランス湾、その地点はそう呼ばれた。
当然、敵はその奪還を目指した。そして今、近づきつつあるデスザウラーに我が隊が向かっているというわけだ。
敵の襲撃は多く、整備や補給はあわただしい。正直、デスザウラーにはマッドを持つ隊を向かわせるべきだがそれは叶わなかった。
そこで我が隊に白羽の矢が立ったのだった。

俺のディバイソンに続いて、三機のガブラスターが綺麗に並んで歩いている。
ガンブラスター、運用開始されたばかりの最新鋭機。
”我が軍の切り札だ。全機、傷一つ付けずに持ち帰るように――” 出撃時にこう言われた。
「チッ…、じゃあテメェが行けってんだよ……」

上層部はどうやらいたく気に入っているらしい。
黄金砲がまぶしい。傷どころかチリ一つ付いていないピカピカの新品だ。
たしかに気持ちは分からなくもない。俺だって傷など付けたくない。できるかどうかはともかく。

そしてパイロットもまたピカピカの新米だった。数ヶ月前に軍学校を出たばかり、実戦はこれが初という奴らだ。
「俺なんて最初はガリウスだったぞ。しかも中古の…」
俺が兵になった頃は既にゴドスが主力だった。当然それが支給されると思っていたら、とんでもない旧型だった。
ようやくゴドスに乗り換えたのは、敵がもうイグアンやハンマーロックを就役させた後の事だった。

恵まれてやがる。

半年前、我が軍は第一次暗黒大陸上陸作戦で大敗した。
デッド・ボーダーやダーク・ホーンは我が軍のゾイドを破壊し尽くした。
ゾイドこそ持ち前の国力ですぐに数を回復した。
だがパイロットはすぐに育つわけじゃない。先の戦いで多くのベテランを失った今、新米が切り札に乗るおかしな状況が生まれていたのだった。
ちなみに俺がディバイソンに乗っているのは、別に新米に華を持たせたわけじゃない。隊長機として運用するならこっちの方が適しているからだ。
ガンブラスターは強いがファイターでしかない。味方各機に適切な指示を出すような機能はないのだ。
あとは、新米ではディバイソンの操縦が無理という事情もあった。コイツの荒っぽい戦法はベテランの腕を必須とする。

「いつになったら俺は新鋭機に乗れるんだよ」
我ながら愚痴が多いが仕方ないと思う。
そしてぶつくさ言いながらも、徐々に距離は近づいてきた。

デスザウラーの位置を確認して三機に通信を入れる。
「現在敵との距離は1万m、敵はまだ俺達に気づいていない。このままの速度を保って前進を続けろ」
「軍曹殿、敵は本当に気付いていないのでしょうか?」
震える声が返ってくる。
「気付いていたらもっと構えている筈だ。敵は今エントランス湾に向けて一直線に歩いている。俺達に気付いている動きじゃない」
「しかし…………」
「ああそうだ、絶対なんて保障はできねぇ。俺達にとっくに気付いて裏をかいてあんな動きをしているのかもしれねぇな」
「で、では……」
「だがな、考えてもしかたねえだろうが。ウダウダ迷ってりゃ倒す事も逃げる事もできん。可能性の高い方に賭けて信じて貫くしかねえんだ、いいかげん腹くくれ」

しかし言って無理もないと思う。
俺は最初ガリウスに乗ったが、最初は対人任務だった。
その後ゴドスに乗った時はマーダ、ベアファイターではハンマーロックを相手にした。
そうやって場数を踏み、ようやく大物に向かうようになった。
新米どもは今、初陣で最悪の敵に向かっているのだ。
強力な新鋭機にいきなり乗れた、だから幸運なのか。強力な新鋭機に乗ったから初陣が強敵になった、だから不幸なのか。
これはもう当人にしか分からないだろう。

ガンブラスター、黄金砲。その威力はコングをも蜂の巣にする。
そしてデスザウラーの超重装甲をも貫く。ただし、これはさすがに近距離からの射撃に限られた。
距離1000以内、これ位から全力で撃ってようやく貫く。
当然だがその距離は荷電粒子砲の射程である。
超電磁シールドで防げるハズはない。勝つためには、気付かれずに距離1000まで近づく事が必須だった。

今回の作戦はこうだ。
まずギリギリまで近づく。といっても近づきすぎるとバレるので4000位が限度だ。
この位置で停止し、穴を掘ってガンブラスターを沈める。
なお、この作業はゾイドの爪を使えばすぐに終わる。こうした事がすぐにできるのはゾイドの利点である。
ガブラスターは穴の中で射撃準備をして待機する。

次に俺のディバイソンが飛び出しデスザウラーを攻撃する。
本格的なものじゃない。軽く攻撃しながら後退し、距離1000にまで誘導するのだ。
その時が来ればガンブラスターが一斉に飛び出す。黄金砲を全力で撃ちながら突撃、見事デスザウラーを葬る。
ガンブラスターは三機も居る。この作戦は楽に成功するハズだった。新米でなければ。

やがて距離が4000まで近づく。俺は指示を出した。
「よしヒヨッコども、停止だ。予定通り穴を掘ってここで待機」
その様子を横目で見る。数分で作業は完了した。
「上出来だ。しかしここからが本番だぞ」
口調を変えて続ける。
「ここからは気づかれるかもしれんから通信も禁止とする。ただし適切なタイミングで指示を入れるからスイッチは入れたままにしておけ」
通信が入った時、その時は飛び出し撃つ時だ。
「軍曹殿、距離1000以内で全力射撃ですね」
「そうだ。俺の指示が出次第、飛び出して撃てばいい」
「もしも通信機が故障したら……」
「バカヤロー、最新鋭機がいきなり壊れるかよ。もし何も聞えなかったら隣の機と同じ動きをしろ」

全く……、ガリウスやゴドスなんて射撃は全て手動だった。
自動照準装置なんてない。レクチル内に敵の姿を捉えて、あとは全て自分の判断でボタンを押した。
ビーム砲は大気の状態で拡散率が変わる。実弾は飛距離が伸びるに従い弾道が下がる、いわゆるションベン弾だ。
それらを瞬時に計算しないと有効弾や命中弾は得られない。
ガンブラスターには、そうした誤差修正が全てオートでされる機能が付いている。
最適なタイミングで音声ナビがガイドをしてくれるオマケ付きだ。
申し分ない。
だから頼むからミスんなよ……。俺は心の中で祈った。

ガンブラスターが待機状態に入ってから、俺はディバイソンをデスザウラーに向けて加速した。
あえて派手な動きをして敵の注意を誘う。
実はデスザウラーに挑むのは三度目。しかし先の二回は、いずれも集団での一斉突撃だった。
さすがに単機ではビビるが、ここまできた以上はやるしかあるまい。

デスザウラーが俺の姿を捉えた。一瞬立ち止まり、そして構えた。
俺は構わず突撃し、近距離から17門突撃砲を数初撃った。
命中。デスザウラーが怒りの声をあげる。だがどうするかは迷っているようだ。
幸いにも荷電粒子砲はためていない。多分、エントランス湾設備の破壊用に温存するのだろう。
というか、単機のディバイソンが相手ならわざわざ使うまでもない。 大抵のデスザウラーがそうであるように、巨大な爪を突き立て格闘戦を挑んできた。
俺は敵との距離を保ちながら砲撃を続けた。
何発当たっただろう。まるでダメージはない。ただその代わりに相当イラついている。
途中から敵はビーム砲も使いだした。猛烈な連射で俺を撃ち抜こうとする。

”デスザウラーには荷電粒子砲を除けばさしたる火器がない” そう語られる事は多いが大きな誤りだ。
頭部三連ビーム砲、これは最大出力ならシールドライガーをも貫く程の威力がある。
ディバイソンなら数発は耐るが、大ダメージには違いがない。
これを乱打してくるのである。

回避に専念する俺は、何とかそれをかわしていた。
予定通りに後退。
距離は現在2000。あと少しだ。あと少し耐えれば黄金砲の射程に入る。
冷や汗をかきながらも、確実に勝機は近づいていた。
だがその時、俺は信じられないものを見た。
恐怖に耐えられなくなったのか、一機のガンブラスターが穴からはいずり出てきたのである。

デスザウラーはすぐにそれに気付いた。
「あのバカッ……!」
続けて残りの二機も飛び出てくる。
デスザウラーは、オーロラインテークファンを回して荷電粒子砲の発射準備に入った。
三機まとめて倒すつもりだ。
「マズイ…、いや、この距離なら……!」
俺は通信マイクを引っつかんで叫んだ。

「ガンブラスター各機に告ぐ。テメェらのらせいで状況は最悪だ」
「も、申し訳ありません軍曹殿、状況を確認しようと……」
「もういい、今は謝るより奴を仕留めるのが先だ。いいかテメェら、営倉行きが嫌ならここからは俺の指示通りに動けよ」
「は、はい」
頼りない声が返ってくる。
「現在距離は1900、敵は荷電粒子砲をチャージ中だ。だがまだ貯め始めたばかりで時間がかかる。今から全力でデスザウラーに向かえ、そして距離が1000を切ったら黄金砲を撃て! 急げば間に合う!!」
勝つにはそれしかない。

もはやデスザウラーは俺の事など気にしていない。
荷電粒子砲でガンブラスターを倒し、そしてその後にゆっくり料理するつもりなのだろう。
「しくじんなよ……」
大丈夫だ。計算上は多少の余裕を持って射程に入る。
先に黄金砲を撃てる。勝てる。

だが俺は、またしても信じられないものを見た。
「嘘だろ、バカヤロウ……」
ガンブラスターが遅い。明らかに怯えている動きだ。
「クソッ……、パイロットの意思が伝染ってるじゃねえか……」
精神リンクで動くゾイドは時にこうなるのだ。
「腹くくりやがれ。そしたら絶対大丈夫だ!」
がなりたてる。だがガンブラスターは遅いままだ。

更に悪い事が起こった。
黄金砲が火を噴いた。距離はまだ1500、多少効いているが致命傷じゃない。
しばらくして黄金砲の音がやんだ。
「ぐ、軍曹殿、故障です! 弾が、弾が出ません!!」
「故障じゃねえ……、ただのエネルギー切れだ……」
黄金砲はコアが持つエネルギーを一気に放出する。だからとてつもない威力を持つわけだが、一方で射撃継続時間はわずかだった。撃ちまくればすぐにエネルギーが空になるのだ。
全機とも沈黙する。
「クソッたれ……」
そうこうしている内にデスザウラーはチャージを終えた。

「苦労させられるぜ」
角をつき立て全力で突撃する。
もういい。もはやどうしようもならん。
ならばせめてガンブラスターを離脱させよう。奴らがエントランス湾まで戻れば、さすがに猛省して懲りるだろう。二度目の出撃では多少根性を持ってくれるかもしれない。
「全機離脱しろ。全力でエントランス湾に戻って別の隊を呼んでこい」
射撃するエネルギーはなくとも、離脱だけなら何とかできるだろう。
「し、しかし……」
「今テメェらにできる事はそれだけだ。損失か、鹵獲か、それとも機体を無事に戻すか。どれがいいかは分かるだろう」

デスザウラーの喉元が妖しく光る。もはや時間がない。
「早くしろ! 迷うな!」
17門突撃砲、四連バスーカ、ミサイル、衝撃砲。持てる限りの武器を全力で撃ちながら突撃した。
だが角が到達する瞬間、強烈な蹴りの一撃が入った。
吹き飛ばされ、コックピット内でしこたま頭を打つ。
「クソッ、さすがに強ぇじゃねえか……」
だが俺はディバイソンを無理に起こした。
「あとちょっと無理をさせてくれよ」

再び正面から突撃。
デスザウラーは両腕でディバイソンの角を掴んだ。
恐るべき力。少しも動けない。
そのまま持ち上げる。引き裂く気か。
だが、
「そうくると思っていたぜ…」
持ち上げられながら、残る砲弾を全て撃った。
喉元でしこたま弾が炸裂する。デスザウラーは一瞬怯んだ。
まさかディバイソンにここまでガッツがあるとは思っていなかったのだろう。悲鳴のような声を挙げ、ディバイソンを放り投げた。
そして怒りからか、荷電粒子砲のターゲットをディバイソンに変えた。
「そうだ、それでいい。だがただでは喰らわんぜ」

いよいよ荷電粒子砲が撃たれる。口の中が光りだした。
「ディバイソン、最後の力を振り絞れ!」
掛け声と共に突撃する。
各部から火花をだしながらも、ディバイソンは最後の気力で走りぬいた。

閃光。光の渦が駆け抜ける。
俺は生きていた。
広範囲に広がる荷電粒子砲はもはや避けようがない。だが唯一、敵に接近すればわずかなチャンスがあった。
荷電粒子砲は発射後に扇状に広がる。すなわち、近づけば荷電粒子砲はまだ広がっておらず避けれるチャンスがあるのである。
ただし、それはデスザウラーに異常接近している事でもある。 発射を終えたデスザウラーは、かわされた怒りを上乗せしてディバイソンを八つ裂きにするだろう。
ここから更に逃げ切れる可能性は?
もはや次の一手はなくノープラン。
だがまぁいい。どうにかこれでガンブラスターは助かるだろう。
俺も俺でどうにか最後までもがいてやるさ。

だがその時、俺は三たび信じられないものを見た。
「何やってんだ……」
ガンブラスターが全機こちらに向かっている。
その動きは速く力強い。この土壇場で精神リンクをいい感じに成功させやがった。
1000どころか200、至近距離にまで近づき黄金砲を放つ。
「軍曹殿、り、離脱を……!」
エネルギーの回復していないガンブラスター。その射撃は弱弱しい。この距離から撃っているのに牽制にしかなっていない。
だがその隙に、別のガンブラスターが巨大な牙でデスザウラーの尻尾に噛み付いた。
デスザウラーは思わず尾を振り回したがそれでも離れない。
もしその気になれば、エネルギー切れ寸前のガンブラスターなど一掃できただろう。
だが敵はその事には気付いていないようだった。
更に別の一機が黄金砲を放つ。
気迫に圧されてデスザウラーは尻尾の動きを止めた。

噛み付いていた一機が素早く離脱する。
黄金砲を回し、三機揃ってデスザウラーを威嚇した。
「う、撃つぞ……」
地面をドシンと踏みつける。
デスザウラーは咆哮し、しかし徐々に後ろに下がった。
そのまま後退を続け、やがて視界から消えていく。
ハッタリは効いた。敵は恐れをなして逃げた。
俺達は、どうにか任務を成功させたのだった。

その後、結局ディバイソンは損失した。いや、コアは無事だったがそれ以外は全てダメになっていた。
部分は全て取り替えが必須、そしてコア自体も傷を負い出力が低下した。今後はもう本土に戻して予備役にするらしい。
悪い事をした。だが生き残ったという事で何とか許して欲しい。

ガンブラスターは傷一つなかった。強いて言えばデスザウラーの尻尾に噛み付いた機だけはわずかに牙をすり減らしている。が、まぁよく見なければ分からない程度だ。
エントランス湾に戻り補給をした途端、三機はもうフルパワーに回復していた。
司令部に呼ばれた俺はディバイソン損失の責を問われた。だが一応は作戦を成功させた事、そしてガンブラスターが全機無事だった事からそれ程ではなかった。
いや、後半はよくぞ新鋭機を無事に戻したと褒められる様であった。
しかも最後には高級な酒まで渡された。曰く、初陣を見事な勝利で飾った期待のパイロットに渡してやれ、だそうだ。

「アンタも戦ってみりゃいいんだよ……」
扉を出た俺は呟かずにはいれなかった。
「軍曹殿、先ほどは申し訳ありませんでした」
するとそこに三人の新米、背筋を伸ばして綺麗に並んでいた。
「私どもがふがいないばかりに軍曹殿に多大なる迷惑を……」
何とも神妙そうな面持ち。
「言い訳はいい。鉄拳制裁だ。歯ァくいしばれ」
俺はそう言って拳を振り上げた。
三人は目を閉じ背を少し丸めた。

拳を思い切り握り、そして徐々に力を抜く。
「バカ、ホントにやりゃしねえよ。殴られる覚悟があったから許してやる」
「軍曹殿、しかし我々は……」
「いいんだよもう。それよりほら、これもらっとけ」
酒瓶を投げ渡す。
「指令からの差し入れだ。次からはしっかりしろよ」
「は、はいっ!」

三日後、ディバイソンに代わる補充機が入ってきた。俺の次の愛機だ。
それを見てたまげた。そこに居たのはカノンフォートだった。
添えられていた手紙曰く、本機ならディバイソンからの機種転換訓練なしで操縦できるだろうとの事だ。
更に小型ながら主砲は強力で汎用性も高く云々とあったが、正直どうでもいい。
「勘弁してくれよ……」
なんでいつも俺はこうなんだ。いや、新鋭機に違いはないが。
ただ、最後にこうも書かれていた。現在、貴隊の為にマッドサンダーを手配中である。ただし今しばらくの時間がかかるため、それまではカノンフォートを使って欲しい。
なるほど、そういうわけか。
そうかようやく俺もマッドに乗れるわけか。

ニヤつく俺に新米どもが話しかけてきた。
「軍曹殿、マッドサンダーが来るんですか! あれは四人乗りですから、その……、我々も?」
「バーカ、お前らは十分いいのに乗ってるじゃねーか。マッドは俺の専用機になるんだ」
「でも軍曹殿、やはり四人居た方が能力を最大限に……」
「ピヨピヨうるせぇなあ。しゃあねえな、じゃあ到着までに俺が認める動きをすりゃ考えてやるよ」

賑やかなやり取りをしている中、周囲に警戒警報が入った。
どうやらまた敵の襲撃らしい。
そして俺の隊の出撃が決定した。
敵はまたデスザウラー。
こちらの戦力はカノンフォート1、ガブラスター3。
「前と同じ手は通じん。今回はイレギュラーも多いだろうがしっかりやれよ」
「お任せください」

全く、頼むぜ新米ども。
半ば呆れ、もう半分は機体を込めて、俺の部隊は出撃した。

 

ちなみにこの後、デスザウラーが暗黒タイプであった事が判明する。
そこで新米どもが取り乱しえらい事になるわけだが、それはまた別の話である。

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