キングゴジュラス野生体捕獲作戦


「そうか……」
前線の戦況報告を受け、ヘリックはがっくりと肩を落とした。
軍部首脳会議。並居る将軍達を前にして、ヘリックは決して落胆を見せてはいけない立場である。
彼の意思はそのまま全軍に伝わる。しかし報告は、そうするのも無理はない程に悲惨なものだった。
「精鋭を集めた第四師団が壊滅、か。敵の新型は相当強いな……」

オルディオスの配備でギル・ベイダーの頭を抑えることに成功した共和国軍は、再びの進撃に出た。
当初、それは順調であった。
しかし暗黒軍の対応は早かった。新鋭空戦メカ、ガン・ギャラドをはやばや配備したのである。

空戦性能でオルディオスを上回るガン・ギャラドは、しかも十分な数が量産されていた。
ギル・ベイダーの護衛に付いたガン・ギャラドは、再び暗黒軍に優位を与えた。
ガン・ギャラドがオルディオスを抑え、ギル・ベイダーがその他の共和国軍を襲う。
共和国軍は、再び猛烈な勢いで押し戻されていた。

ガン・ギャラドは強かった。
高速飛行モードと格闘モードに瞬時に切り替え可能な機構は画期的で、オルディオスをもって勝つ事は難しかった。
いわんやバトルクーガーやサラマンダーF2では、という状況である。
何とかしてこれを排除する事は急務であった。

「大統領、残存する兵力全てを最前線に出しましょう。被害を考えずに一気に敵首都を奪うんです。今ならまだ、強引に数で押せば突破できる可能性が高い」
「しかし……、それでは甚大な被害が出るだろう」
「確かに、兵には辛い任務を言い渡す事になります……。しかし、他に方法が無いではありませんか。このままいけば暗黒大陸からの撤退です。今までの犠牲が全て無駄になります。それどころか、この中央大陸すら奴らの手に……」
「大統領、私も賛成です。確かに被害は大きいでしょう。しかし今勝てば今度こそ平和になります。そして今やらねばジリジリと被害は増え続けるでしょう。今やらねば、いずれ今やる以上の犠牲者だって出かねません」

「……もう本当にこれしか道は無いのか……」
ヘリックは天を仰いだ。
彼とて戦況が読めぬ器ではなかった。将軍達が具申する事はもっともだ。
今決戦を避け、それでもジリジリと戦い続けるのは単なる先延ばしに過ぎない。そんな事くらい分かっていた。
それでも、予想される犠牲を考えた時、彼はなかなか決断が出来ないのだった。

「大統領、これは非常に不確定な事ですが……」
ふいに別の声が上がった。
「なんだね」
「仮に、ですが、敵新型に勝てるゾイドを我が軍が開発できれば良いのですね」
「むろんそれは理想だ。しかし難しいだろうな」

オルディオス。バトルクーガー。ゴッドカイザー。TFゾイド。
共和国軍は立て続けに強力な新型を開発していた。その開発能力は既に限界を迎えていたのである。
既に、”野性ゾイドをそのまま使っていたのでは従来機以上に強力なゾイドは開発できない” そんな結論に達していた共和国軍は、キメラを合成する技術にすら手を出していた。
また、合体・変形するゾイドの研究も行い、その成果をTFゾイドという形で出していた。
それらは強力なゾイドを生み出した。しかしその技術も、もう頭打ちになっていた。
”今ある技術はもう出しつくした。あと数年、研究や戦場でのデータを反映させない限り、今より強力なキメラを開発するのは難しい”
無念な事だが、開発部が現在言える答えはそれだけだった。

「いえ、大統領。先ほども申し上げました通り、非常に不確定な事ですが……、先日私の部下がメタロゲージ上空を飛行していた折、これまでにない新種の野生体を見つけたと報告しておりまして」

「野生体?」
「はっ、今更そんな……」
一斉に声が上がる。無理もない。
今やデスザウラーやマッドサンダーでさえ容赦なく散っていくのだ。
今、戦場で主導権を持つのはキメラ。これは一致した意見であった。

「いえ、どうか話だけでもお聞き願いたい。私も報告を受けた時は確かにそう思いました。しかしガンカメラの映像があります」
「いいだろう、流したまえ」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「でかいな…」
映像が流れると一様に驚きの声が挙がった。
巨大な二足歩行野生ゾイドがそこに居た。
その野性ゾイドは上空から撮影する姿に苛立ちを覚えたのか、ゆっくりと空を睨むと割れんばかりの叫び声を挙げた。
映像はそこで終わっていた。

「どうも今のでガンカメラが壊れたようで、映像はここまでです。機体にもダメージがあったらしく、この後すぐに引き返しています」
「戦闘ゾイドに傷を負わす野性ゾイドなんて聞いた事がないぞ…。プテラスか?」
「いえ、サラマンダーです」
「バカな……」

映像が途切れた後、皆は一様にヘリックに目を向けた。
「よし、分かった。直ちにその野生体の捕獲作戦に入ろう。捕獲後速やかに戦闘用に改造する。もしかすると、これこそが戦況を打破する切り札になるかもしれん」

「……だが、この作戦が失敗した場合は、現在ある全ての兵力で総攻撃を仕掛ける」

 

翌日、二人の軍人が暗黒大陸から中央大陸へ運ばれた。
バーナード大尉とパーシー大尉。共にゴジュラス乗りのエースだ。
この時代になっても彼らはゴジュラスに固執しており、並居る新型機を震え上がらせていた。
「こんな折に中央大陸の土を踏めるとは。休暇でもくれるのかねぇ?」
「バカ言え。休暇なら専用機で首都まで送ってくれるわけないさ。おそらく、何か面倒な仕事でも……」

「遠路ご苦労。暗黒大陸では苦労をかけているな」
ヘリックが二人を迎え入れた。
「早速ですまんが、君達に是非やってもらいたい事があってな。知っての通り暗黒大陸での戦況は芳しくない。今回の任務は、それを打破する切り札になるかもしれんものだ」

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・・・

「……以上だ。君達には、この未知の野生ゾイドを捕らえてもらいたい」
「野生体の捕獲……」
「そうだ。この野性ゾイドこそ、最強ゾイド、切り札になり得るものと考えている」
「大統領!」
バーナードは思わずヘリックに抱きつきそうになった。
「さすがです大統領! 最近はどいつもこいつも翼を生やしたり合体したりだ。ゾイドはそんなもんじゃねえ。でも最近は確かにキメラの奴らが強くて……。しかし任せてください大統領。必ずやその野性ゾイドを捕獲し、本物のゾイドの強さを見せてやります」
「あ、あぁ……、とにかくよろしく頼む」

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「お前なあ、余計なところでヒヤヒヤさせるなよ」
「ははっ、すまんすまん。しかし久々にいい任務じゃねえか」
「まったく……」
しかし内心、パーシーとて同じ気持ちだった。
彼らは緒戦から戦っていた。その功績は佐官になる資格を十分に持っていたが、現場に出る機会を減らしたくないという事で、あえて大尉に留まっている。

歩兵からゴジュラス乗りへ大抜擢された時の事を、二人は今でも覚えていた。
ゴジュラスの力強い鼓動。一挙手一投足全てが重々しかった。
そのゾイド本来の力強さに感動し、すぐさま惚れ込んだ。
そして操縦法が、また彼らを虜にした。
ゾイドの操縦法は精神リンクと呼ばれる特殊なものである。
操縦者の意思をダイレクトにゾイドに伝える。操縦桿やボタンはその補助に過ぎない。
そんな特殊な操縦法だから、ゾイド乗りには適合と不適合があった。
また同じ機体であっても、何故だかゾイド側が拒否するようなタイミングもあった。

そんな気難しいゾイドを乗りこなす事こそ誇りであり、醍醐味であった。
無論、戦争である。
だがそれは凄惨で弁明も余地もない愚かなものである一方、ゾイドとパイロットによる誇りをかけた戦いであったのも確かだ。

そんな状況を一変させたのがキメラだ。
馬に翼を生やす。ライオンとワシを合成する。
確かにずっと昔からその手の研究はあった。特殊改造機というやつだ。
だが、それらが大々的に量産されるなんていう事はなかった。

それはゾイドが生物であるという倫理的な問題であったし、また乗り手のプライドの問題でもあった。
キメラは高度に遺伝子を制御されているので、従来機のように精神リンクを必要としない。相性もほとんどなかった。
合理的であるが、多くのパイロットは戸惑いを隠せなかった。
しかしそれでも、強力なそれを主力に据えなければならないほど、戦況は逼迫していたのだ。
そして実戦投入されたそれは、確かに素晴らしい能力を発揮していた。
従来機などもはや不要と思えるほどに……。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「さってと、まずは北東へ直進、か……」
謎の野生体には、サラマンダーがビーコンを打ち込んである。
発信のある方へ向け、二人の乗るゴジュラスは歩いていた。

「しかし……、減ったな」
「ああ。前に来た時はいつだったかな……。まだ新兵の頃だったか……、その頃は見渡す限り野生体で溢れていたんだが」

メタロゲージ内。
多彩な野性ゾイドで溢れかえったこの地に、かつての面影はない。
わずかに小型ゾイドがうろついているだけだ。
「……戦争はいけねえなぁ……って、思うよな……」
言うまでもなく、戦闘用ゾイドとして乱獲された結果だ。

「あぁ……」
ゾイドを何より深く愛する二人だが、同時にゾイドを使い戦争をしている。
今もまた、新たに強力な新型を求めメタロゲージを探索中だ。
しかしその目的が、最終的には平和の為である事も事実だ。
何もかも矛盾しているが、何一つ答えは出ない。
答えが出ないまま、二人は探査を続けた。

「しかし……、こんな痩せちまった場所に強力な新型が居るもんかね?」
「バランスを崩した生態系は崩壊する……。だが、逆に、狂った生態系が特殊な個体を生む事だってある」
「じゃあ今回発見したっていうのも……」
「可能性は高いな」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「……いよいよ近いな」
「もうビーコンを使うまでもねえ。レーダーにハッキリ映ってるぜ」
エンジンをスローにして、気付かれないように近づく。

「こりゃあ……、想像以上だぜ……」
もはやレーダーを使うまでもない距離に近づく。
目の前に、巨大な野生体ゾイドが居た。
「おいおい……。姿はそっくりだが、このゴジュラスの2周り以上はでかいぜ……」
そこに居たのは二足歩行の恐竜型ゾイドであった。
強靭な前後脚、太い尻尾、そして特徴的な背びれ。
どう見てもゴジュラスだったが、体が異様にでかい。
「さながらキングゴジュラスって所だな……。で、いくか?」
「……よし。いこう。だが油断するな。半信半疑で聞いていたが、野生体ながらサラマンダーに傷を負わせた話は本当かもしれん」

ズンッ!
一気に出力をフルにまで上げたゴジュラスが二機、キングゴジュラスの正面に出た。
「悪いが捕獲する。大人しくしてくれ」

キングゴジュラスもこちらを振り向く。
「撃て!」
次の瞬間、必殺の電磁スパーク砲が次々に撃ち込まれた。
メカニックを一時的にショートさせる、捕獲用の装備だ。

だがキングゴジュラスはさしてダメージを受けた様子もなく、ジリジリと近づいてきた。
「おいおいおい、嘘だろ! 戦闘ゾイドだってちょっとはダメージを受けるんだぜ……」
「くそっ、撃ち方やめっ! こうなったらこのまま捕まえるぞ」

迫り来るキングゴジュラスをがっしりと受け止める。
だがキングゴジュラスは構わず歩を進める。
「うおっ! なんてパワーだ……」
野生体。補助ブースターもアシスト機能もない。ただ素の力でゴジュラス2機をかるがる越えているのだ。

「機体が持たねぇぞ……」
「ぐっ………!」
そのまま跳ね飛ばされる。
唖然とする二人には目もくれず、キングゴジュラスはそのまま去っていった。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

「大統領、ありゃあすげえゾイドです。電磁砲は効かん。ゴジュラス2機がかりでまるで動かん。野生体だが下手すりゃデスザウラーより強いかもしれないです」
「見た目はゴジュラスに酷似していました。おそらく激変したメタロゲージの環境にあわせて進化した特殊なゴジュラス個体かと……」
「ふぅむ……。まさか野生体でそこまで強いとは、な」

通常、ウルトラザウルスやマッドサンダー級であっても、野生体はそこまで強くない。
敵弾に耐える装甲、効率よく加速するブースター、ここぞという時に一気にエネルギーを放出する為のエネルギータンク、etc.
様々な人工パーツが加わる事により、強力な"戦闘用"ゾイドとして生まれ変わるのだ。

「明日、部隊を編成しなおして再び挑もう」

 

翌日、バーナードとパーシーの2機のゴジュラスの他に、マッドサンダー1機とディバイソン4機も捕獲隊に入った。

「全機揃ったな。今日こそ捕獲するぞ」
マッドサンダーのコックピットから手を振っているのはヘリックだった。
「大統領!?」
「君達の話を聞いて、私も一目見たくなってな。さすがにこれだけの兵力があれば捕獲できるだろう」

「さあ、早めに終わらそう。マッドサンダーとディバイソンは首都防衛の貴重な戦力。それを一時的に借りている状態だ。うかうかしてたら事だ」
しかしそう言うヘリックの目は、焦りというより少年の様に輝いて見えた。
なんだかんだ言って、彼もまた生粋のゾイド乗りなのである。

今日もビーコンを頼りに近づく。
「居た。大統領、あいつです」
「あれか……。しかし実物を見ると本当にでかいな……」
「でしょう。しかし、さすがにこの戦力ならいけますぜ。おっぱじめましょう」
「うむ。では作戦を開始する。ディバイソン隊、前に!」

かくして、二日目の捕獲作戦は幕を開けた。

「撃て!」
ディバイソン全機が密集してキングゴジュラス側面に移動、衝撃砲を嵐のように放った。
対戦闘ゾイド用の装備。中型ゾイドであれば為すすべなく吹き飛ぶ衝撃砲が4機分、門数にして12門が一斉に火を噴いた。

側面からの猛烈な衝撃砲で体勢を崩し、そこへ間髪入れず体当たり。たまらず転倒したキングゴジュラスを捕獲する。
これがシナリオだ。
だが、思うように効果が挙がらない。
「少しも効いてないぞ……っ! くそっ、突撃だ!」
ディバイソン隊がたまらず突撃する。さすがにこれなら……!

だがキングゴジュラスは瞬時に体勢を変え、ディバイソンを向いた。全力で突撃するディバイソンに強烈な蹴りの一撃を見舞う。
二機が吹っ飛び、一機が臆した。
残る一機は何とか体当たりに成功する。だが何の手応えもない。

「こいつ……」
まるで巨大な岩のような感じ。確かに押しているがまるで動かない。
「デスザウラーだってグラつくんだぜ……。なんてヤツだ……」
ふいにキングゴジュラスが腕を振り上げた。
「いかん、退避っ……」
だが言い終わる前にディバイソンの体は宙に舞った。

「まさか……」
わずかな間にディバイソン4機が戦闘不能になった。

キングゴジュラスは、次にマッドサンダーとゴジュラスの方を向いた。
「……支援、頼むぞ」
ヘリックのマッドサンダーが、ぐっと前に出る。
「大統領!」
「大丈夫だ。だが……、最初から全開でいかねばな。マグネーザー始動!!」

対峙するキングゴジュラスとマッドサンダー。
ヘリックにはまだ勝算があった。
マグネーザー、サンダーホーン。
この武器は、突き刺した後に電撃を放つ事で敵メカを内部からショートさせ、ストップさせてしまう。
さすがにキングゴジュラスとて例外ではあるまい。

下手をすれば電撃を放つ前に生命体を貫いてしまう。
マグネーザーで捕獲するなんて前代未聞だ。
「生命体を貫く事に気をつけろ……。と言っても、そっちの方が難しいかな……」
ヘリックはこの時点で、キングゴジュラスの実力をデスザウラーを大きく超えると判断していた。
「マグネーザーの放電は強力だ。並のゾイドなら麻痺どころかそのまま死ぬ……。だが……、あいつ相手ならその心配はあるまい。むしろ足りるかどうか……、か。」

マッドサンダーが、ゆっくりと間合いを調整する。
「極めて難しいが、やる他あるまい」

ギュゥゥゥゥ!!
マグネーザーが高速回転し、キングゴジュラスに向けられる。デスザウラーの超重装甲さえ貫く、共和国最強の武器。
ついに対決が始まった。

さすがに警戒したのか、キングゴジュラスが初めて構える。
「おい、援護と言われたが、どうやったら……」
バーナードとパーシーは圧倒され、なかなか動けない。
「あぁ……」
だがついに決意を固め、動く。
「マグネーザーをぶち込む隙を作る。俺達に出来る事はそれだけだ」

72mm連射砲が猛烈な勢いで火を噴いた。
狙いはキングゴジュラス……ではなく、その周辺の地面。
猛烈な射撃は地面をえぐり、砂煙を上げた。
たちまち奪われる視界。
「野生体にレーダーは無いだろう! 大統領!」

マッドサンダーが突っ込みをかける。
いける! その確信。
だが砂煙の中から、とんでもない絶叫が起こった。

ガァァァァアアアア!!!

キングゴジュラスの咆哮。
強烈な音波が周囲に響く。マッドサンダー、ゴジュラスの巨体が大きく揺れた。
「このゴジュラスが怯えているだと!? ぐおっ……、こらえろゴジュラス……!」
絶叫はゾイドを怯えさせただけではない。メカニックにもダメージを与えていた。

砂煙からキングゴジュラスの巨体が飛び出す。
「大統領……!」
マッドサンダーもダメージを受けている。もはやマグネーザーの回転は弱弱しい。
「くっ……、これまでか!」
コックピット内でヘリックが叫ぶ。

ガシッ!
キングゴジュラスがマグネーザーをつかんだ。
「へし折る気か!?」
「大統領、脱出を!」
もはやマグネーザーは動きを止めていた。
巨大な腕でマグネーザーをつかんだキングゴジュラス、その巨大な頭部がゆっくりと近づいてきた。
バーナードとパーシーは、思わず目をつぶった。

だがキングゴジュラスは、何故か攻撃する事はなかった。
ただその巨大な頭部を近づけ、しばらくじっとしていた。
そしてその目を見た瞬間、マッドサンダーと、そしてマッドサンダーを通じてヘリックは知った。
キングゴジュラスの大いなる想いを……。

かつて数え切れないほどの生命で溢れかえったこの地。
だが人の愚かしさが美しいこの地を引き裂き、崩壊させた。
その結果生まれた、自身のような特殊な個体。
生まれてしまった事、それこそが生態系の崩壊の象徴。存在する事が忌まわしい存在。それが自分。
孤独。怒り。

元々、ゾイドは人の想いを汲むだけの高度な意思を持つ。平和の為の志を信じ、戦闘を受け入れた。
しかし今、それが分からない。分からないから苛立つ。

「お前は……、そんな風に思っていたのか……」
キングゴジュラスは手を離した。
”去れ”
そう言っているようだった。

しかしヘリックはもう一度操縦桿を握った。
「お前の想い、しかと受け取った。だが………、」

ヘリックとて、共和国の指導者として行っている”戦争” その全てを理解しているとは言いがたい。
理想は今でも強い。ゾイドを愛する気持ちも本当だ。だがそこに起こる矛盾に対し、答えが出ていないのも事実。
だがそれでも、言葉にならない想いがあふれる。
キングゴジュラスよ。
お前の想いはもっともだ。だがそれでも…、

「今度は私の想いもぶつけよう! 言葉にはならんが感じてくれ。マッドサンダー、まだいけるか!?」
ギュゥゥゥ!
もう一度、マグネーザーが力強く回り始めた。マッドサンダーが力と気力を振り絞る。

「バーナード、パーシー、ここからは手出し無用だ。そこで我々の戦いを見ていてくれ」
「へ……、大統領……?」

全力の体当たり。キングゴジュラスはフリルをつかんで受け止めた。
「そこをつかむか。デスザウラーには出来ない芸当だな」
体格に余裕があるからこそだ。
「やはり簡単には受け入れてくれないな。だが、まだまだこれからだ! 踏ん張れ、マッドサンダー!」
全力でキングゴジュラスに押し込む。マグネーザーを。そしてヘリックの想いを。

「おい」
バーナードが言う。
「あぁ、キングゴジュラスが……」

戦力差は歴然だった。
キングゴジュラスは、デスザウラーはおろかマッドサンダーすら遥かに越えていた。
だが今は、もうマッドサンダーを倒すような事はしていない。ただその全ての攻撃を受け止め、見極めているように見えた。

「これならどうだ……!」
もはやマッドサンダーと完全に一心同体し、全てをぶつけるヘリック。

「そういえば、最初の頃はこんなのだったな……」
「あぁ……、確かにそうだった。宇宙船が来る前は……、ゾイド戦は互いの誇りと想いをぶつけ合うものだった。いつからか効率よく敵を殺す為のものになってしまったが……、なんでなんだろうな」

半刻ほど対づいた戦いの後、マッドサンダーのエネルギーがついに尽きた。
コックピットから出るヘリック。
そしてキングゴジュラスは、ゆっくりとヘリックに近づき、その頭を下げて見せた。

「野生体が心を開いちまったぞ……」
「いや、ずっと前はこれが当たり前だったさ……。捕獲機で無理やり捕まえている内に忘れちまっただけで……」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

三時間後、グスタフが到着し破損機の応急修理と補給が完了した。
キングゴジュラスの巨体はグスタフに乗るものではなかったが、もはやヘリックの言葉で着いて来てくれた。

「しかし、ようやくやりましたな」
「まさかこんな形で決着するなんて……。当初は思ってもみませんでした」
「ゾイドの奇跡を目の当たりにした感じだな……。いや、思い出したというべきか」
共和国首都への帰路、三人はキングゴジュラスを見上げながら話し合った。

「しかし大統領、捕獲は出来ましたが、この後どうするおつもりで? 本格的に戦闘用に改造するのはかなりの期間がかかりそうですが……」
「いや、それは必要ない。こいつならもう、最小限の改造だけでいけるさ」
「違いありません」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

かくして、キングゴジュラス野生体はヘリック共和国に編入された。
通常、このクラスの野生体を戦闘用に改造するとあらば、徹底研究、その体格に合わせた装甲の製作、火器の開発あるいは選定、エネルギータンクの設置、補助ブースターの装備、etc. 様々な工程が必要であり、開発設計には最低でも2年はかかる。
しかしキングゴジュラスは、ほんの最低限……、わずか1週間程度の改造で、圧倒的な最強のゾイドとして成り得たのであった。

自身の想いとヘリックの想い。それを背負い、キングゴジュラスは暗黒大陸へ渡っていった。
その先にあるものは、まだ誰も知る由もない。

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