HELLDIVER


中央大陸の北西、バロニア諸島には小さな島が無数に点在している。
島々を縫うように、共和国軍ウルトラザウルス艦隊は単縦陣で航行していた。
ウルトラザウルス7隻と護衛のバリゲーター12隻の堂々とした威容である。

「陣形そのまま。速度、第一戦速を維持」
旗艦のウルトラザウルスから指令が飛ぶ。

「チッ、嫌な場所に差し掛かるぜ…」
司令のリー中将がつぶやく。
そう、ここは共和国艦隊にとって実に嫌な場所だった。
制海権は共和国側が掌握している。だが、バロニアの島の幾つかを、帝国軍は頑なに守り続けていた。
それらの島には航空基地があった。そこから対艦装備を積んだレドラーが飛び立ち、航行する共和国艦隊に攻撃を仕掛けるのである。
現在航行中の場所は、ちょうど攻撃を受けやすい海峡だったのである。

「各砲座、バリゲーター。迎撃準備をしておけ」
だが、既にレドラー対策は完成しつつあった。
護衛を務めるバリゲーターは対空用の特別仕様である。ノーマルの対空ミサイル4発から、一気に16発に増やしてある。
単発での威力は弾頭小さく低いが、航空機レドラー相手には十分であった。
12隻のバリゲーターが合計192発ものミサイルを放つ。無論、ウルトラザウルス自身の対空砲もうなる。
レドラーをもってして、さすがにこれを避る事は難しい。
実際、数日前の戦闘で、リー中将率いる艦隊はレドラーの襲撃を見事撃退し、見方被害ゼロ、敵撃墜6という素晴らしい成績を残していた。

「中将、レーダーに感あり。7時の方向、高度2000、距離65000、機影多数。間違いなくレドラーだ」
「やっぱりきやがったか…。速度、第三戦速まで上げ。陣形、輪形陣に!」
号令で、陣形が素早く変わり艦隊の速度は一気に上がる。
「落ち着いて対処すれば負けん。こうして撃墜数を増やしていけば、次第にジリ貧になって島を放棄するハズだ…」

「敵、M1.0で急速接近中。会敵は3分後」
「いいか、撃墜するより被弾しない事を優先しろ。貴重なゾイドを沈める事は許さん」
今やデスザウラーが共和国首都を攻略。中央大陸のほとんどは帝国の支配下にある。
そんな中、ゲリラ戦で挑む共和国軍にとって最大の問題はゾイド不足であり、特にウルトラザウルスは最も貴重な存在なのである。

「中将、レドラーだが何かおかしい。半分くらい、やけにデカい爆弾だか魚雷だかを翼にぶら下げてる」
「何だと?一撃必殺の決戦兵器ってか…。何だか分からんが、そんなにデカいもん積んでたら運動性能はガタ落ちの筈だ。ひるむな」

やがて爆音が響き始めた。もはやレーダーに頼るまでもなく、直接視認できる。
「対空砲火、撃ち方よーい」
レドラーが急降下爆撃の体制に入ったら、すぐさま対空砲火の嵐を見舞う。
しかしまさに対空砲火が放たれるその直前、レドラーが動いた。
「敵、大型爆弾を射出! なんだこれは!?」

一斉に放たれたそれは、しかしウルトラザウルスを大きく逸れ、急角度で海に突っ込んでいった。
「なんだ…? 思ったより早く撃たれてびびったが……、失敗作か…?」
いやしかし次の瞬間、一隻のバリゲーターから大きな火柱が上がった。
無残に右後脚を吹き飛ばされ、機体は完全に横転している。

「何が起こっている!?」
続けざまにウルトラザウルスからも火柱。
「水の中に敵が居るのか!? ソナーはどうなってる!?」

「感なし! ウオディックもシンカーも居ません!」
共和国軍は、少し前に対潜用の新型ソナーを開発したばかりであった。
これはウオディックやシンカーが深く潜っても正確に捉えられる画期的なものであり、それを搭載して以降、ウルトラザウルスは再び海での最強の座を取り戻したのである。
しかし今、ウルトラザウルスは謎の攻撃を受けていた。

ドォォォォォォ…
再びバリゲーターが黒煙を上げ沈んでいく。
「中将、海面を! あれだ!!」
その時、クルーが謎の敵を遂に見つけた。
水中から背びれだけを出して、超小型のサメ型ゾイドが高速で走り回っていたのだ。

「大型爆弾なんかじゃない。敵が投下したのは小型ゾイドだったんだ!」
レドラーは翼下に新鋭のヘルダイバーを吊下しウルトラザウルスに接敵。そこから射出し突入させたのである。
あまりにも小さく軽快すぎるので、レーダーで補足出来ない。
「くそっ、ちょこまかと!」
一発一発は大した事ない。これしきでウルトラザウルスが沈む事はない。
だが、こちらは一切の攻撃があたらない。悪戯に被弾だけが増えていった。

「中将! 残りのレドラーが来る!」
ヘルダイバーを搭載していない…、いつも通りの対艦ミサイルを装備した攻撃機型レドラーが、混乱する共和国艦隊に突っ込んでくる。
「くそっ、対空砲火、撃て!」
だが今やヘルダイバーによって半数のバリゲーターが沈められている。
また対空砲火を撃つ中も、容赦なくヘルダイバーの魚雷がウルトラの巨体を揺らす。
「くそっ! 艦が揺れて照準が付けられねぇ…!」

海戦は、激しさを増していった。
ヘルダイバー初陣の日。この戦闘で、実に8隻のバリゲーターと3隻のウルトラザウルスが海の藻屑と消えたのであった。

ヘルダイバー。
レドラーの翼下に搭載され、海上から射出される。
海面に突入後、小型高機動の特性を活かし、共和国艦隊を翻弄する。
単体では搭載量・航続距離が少なく、広大な海では使用しづらいし決定打足り得ない。
だがこの機体はサメ型という特性を活かし、空中から射出後、そのまま海に突入できる能力を付加できた。
それにより、航空ゾイドに搭載される事で諸々の弱点をカバー。海戦で大きな威力を発揮する事となったのである。

射出された後、海へ向け一直線に突っ込む様は、まさにヘルダイバーという名に相応しい。


アタックゾイドのヘルダイバーは大好きな機体です。
シャープなラインが非常に美しい。小サイズながら帝国らしい優れたデザインだと思います。

そんなヘルダイバーの謎な所は、「飛べるのか飛べないのか」というものです。
共和国側シーバトラスは飛べる。帝国側にはシンカーという飛べる魚も居る。
なので何となく飛べるような気はする。
でも、具体的にそういう設定は無いしそういう描写も無い。
どうなんだろう…。
これがずっと疑問でした。

私個人は、飛べるんじゃないかなあ…と、なんとなく思っている感じでした。
そんなことがあったので、Zoids Ignitionでアンケートを実施してみました。
「ヘルダイバーは飛べるのか飛べないのか」
しかし、結局半々という結果でした。

謎はより深まる結果に…。
しかし趨勢として「飛べるというより「浮ける」程度。また滑空程度なら大丈夫だが飛行ゾイド的な動きは不可能」という感じになったようには感じます。
これを受けて、シーバトラス的な自由自在に空を飛ぶ運用は厳しいのかもしれないなあと思ったりしました。

しかし、自分の中で結論は出ていない状態。
ならばいっそ、自分が魅力的だと思う風にヘルダイバーを動かしたSSを作ってみよう。それで納得できるようにしてみよう。
そんな経緯で書いてみたSSです。

自画自賛ですが、運用法はゾイドらしくいい感じになったかなーと思いました。
納得できるものがあり、自分の中のヘルダイバーはこれでいいかなと思い至りました。

なんにせヘルダイバー大好きです。
海戦も大好きです。
ヘルダイバーは、大戦艦ウルトラザウルスに対して非力な魚雷艇…。だけど数とあっと言わせる機動性で果敢に立ち向かう。
そんなヘルダイバー像を自分の中で得る事が出来た作品です。

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