第343ライジャー独立部隊


「こ、このシールドが機動戦で圧倒されるだと!?」
ハックした通信から悲痛な叫び声が聞こえてきたが、構わず、横腹に前足の強烈な一打を浴びせかけた。
純白の装甲がひしゃげ、金色の砲が基部から吹き飛んで地面に落ちた。
だが本体はかろうじで体勢を立て直したようで、なおも離脱を図っている。
「さすが大型ゾイドはしぶといじゃねぇか。だが…」

愛機を一気に加速させ、そのまま大きく飛び上がる。
瞬間、軽くシールドを飛び越え、その頭を押さえ込んだ。
驚き慌てるシールドに、俺は連射キャノン砲、3連ビーム砲、小型ビーム砲、合計9門の砲を一気に浴びせかけた。
シールドは咄嗟にエネルギーシールドを張って抵抗する。
だが…、
「万全状態ならともかく、手負いで防ぎきれるほど甘い火力じゃないぜ…!」
寸分の休みもなく放たれるビームに、やがてエネルギーシールドに亀裂が入り、つに崩壊した。

ガシッ、
装甲にビームのぶち当たる音。
それでも連射はやめない。
数刻の後、ついにシールドは完全に沈黙した。

「ポイント43でシールドライガーMK-II撃破完了。そっちはどうだ?」
敵の撃破を確認した後、俺は味方に通信を送った。
「現在ポイント41。コマンドウルフ改3機の内、2機は撃破。1機は鹵獲しました」
「よし、いい返事だ。ではポイント00で落ち合おう」
「了解しました。それにしても大尉、これでシールドは4機目ですね。おめでとうございます」
味方機との通信を終え、俺はポイント00へ向かった。

EHI-09ライジャー。
全く、この機体は申し分ない性能を誇っていた。
高速戦闘ゾイドの始祖は、言うまでもなく、我が帝国のサーベルタイガーとヘルキャットであった。
だがシールドライガーとコマンドウルフの登場以来、帝国は常に後塵を拝する屈辱を味わうことを強いられた。
そんな屈辱を晴らすべく生まれたライジャーは、同クラスのコマンドウルフは勿論、手練が乗れば重パワーのシールドライガーをも仕留める事ができた。
時速320km/hの速度はシールドライガーを完全に圧倒していたし、小型ゆえに小回りの利きも良かった。
火力も、技術進歩により、より軽量で威力のある砲を多数装備していた。
帝国はここに、高速ゾイド最強の名を取り戻した。

だが、時代が、それとは別の屈辱を与えたのは皮肉であった。

 

夜、ポイント00で味方と合流していた。
鹵獲したコマンドウルフからライジャーにエネルギーパイプを直結させ、強引にエネルギー補給を行う。
補給基地に戻る事のない俺の隊は、このような形でしか補給をする事が出来なかった。

俺の隊は、ライジャー4機で構成された小隊だった。
正式名称、第343独立部隊。
その任務は、小型と高速性を生かし、中央山脈を越えてくるあらゆる敵に奇襲を行い、ダメージを与える事だった。
主力部隊、支援部隊、輸送部隊、偵察部隊、etc.
今まで数多くの敵と交戦し、俺の隊は一切の損害を出す事もなく、多くの敵を葬ってきた。
だがその結果招かれたのは、敵支配域での孤立だった。

ZAC2048年、「帝国最強ゾイド・デスザウラー倒される」この衝撃のニュースが大陸中を駆け巡った。
RBOZ-008マッドサンダー。
それがデスザウラーを倒した敵の名前だった。
このゾイドは、完全にデスザウラーの荷電粒子砲を無効化した。
こうなると、前面にマッドサンダーを置いた共和国軍は俄然勢いづいた。
ウルトラザウルスやゴジュラスMK-IIは、マッドサンダーに守られながら、その巨砲を存分に浴びせかけた。
デスザウラーを先頭に置く事で優位を保っていた我が軍は、途端危機に陥った。

ついに中央山脈から共和国の大軍が波のように押し迫り、ここへきて我が軍は一旦兵を引き、中央山脈の東側で一気に攻勢に転じる作戦に出た。
第343独立部隊はその時に設立された部隊だった。

俺の隊は、劣悪な状況の中、迫り来る敵と戦い、戦果を挙げ続けた。
しかし虚しくも、俺の隊以外はほとんど壊滅した。
俺の隊は戦果を挙げ続けた結果、敵地の真っただ中で孤立する事となったのだ。

「しかし、いよいよですかね。大尉」
「…そうかもしれんな。このコマンドから回収したエネルギーを合わせても、出撃できるのはあと数回が限度か」
「恨まんでくれ、ライジャー。俺も腹一杯にしてやりたいのは山々なんだが…」
補給の全ては敵から。この状況では、なかなか満足にエネルギーをフルチャージ出来ないのは無念な事だった。

「まぁ、これだけ敵を倒したんだから、本望かもしれんが」
ライジャー4機で挙げた戦果は、シールドライガー5、ディバイソン1、コマンドウルフ13、ベアファイター6、アロザウラー8、ゴルヘックス3、グスタフ16。
小型ゾイドを含めると更に膨れ上がる。
「だがまぁ、出来ることならもう一泡吹かせたいところだ」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

司令部からの通信が入ったのは翌朝の事だった。
-マッドサンダーがトビチョフへ進撃しつつある。これを撃破せよ-

聞いて呆れた。
どうやれというのだ。
ライジャーは最高のゾイドだったが、ウルトラやゴジュラスのような超大型を撃ち破るパワーはさすがに無い。
ましてマッドサンダーなど。
だが恐らく――、周囲の部隊の全ては、壊滅したのだろう。
この指令は、苦し紛れのものに違いない。
帝国首都へ到達しようとする共和国の進撃を、勝てぬと分かりながら少しでも遅らせたいのだろう。

「仕方ない、か…」
俺は呟き、了解の返事を送り返した。

一息ついた後、部下に通達内容を教えた。
だが意外にも、動揺は少なかった。
「最後の花火を上げるにはいい相手ですぜ」
「上手く仕留められりゃ、俺たちは英雄だ」
口々に出る言葉が、皆ありがたかった。

「よし、じゃあ決まったな。我が隊はこれより、マッドサンダー撃破に向かう」

 

トビチョフに向かう途中、敵勢力の詳しい内容が送られてきた。
運が良い事にマッドサンダー単機だった。
正確に言うと護衛にアロザウラーが数機居るようだが、それはライジャーにとって全く問題ないだろう。

マッドサンダーに関する情報を求めると、さすがに敵の最新鋭機であり、得られた情報は少なかった。
だが一応、得られたものとしては次のようなものであった。

:荷電粒子砲を弾くのは前頭部の盾のみで、側面や背面は耐え切れない。
:最高速度は100km/h~120km/h程度と予想される。
:本体の小回りは効かないが、首の可動範囲が広く素早い為、側面から攻撃を仕掛けても意外にドリルの餌食となる。
:背中の2基の砲塔は、アイアンコング級の装甲を貫く。加え全周囲旋回式で、旋回速度も早い。仰角は-15~50度程度と思われる。
:左側面に大型の司令塔を持つ。これにより複数の敵を同時に処理できる。
:背部のドラム状の回転体はジェネレーター=弱点であると思われる。ただし小型ビーム砲程度ではダメージを与える事ができない。
:地中への潜行が可能である。

というものであった。

「旋回砲は問題ですね」
「あぁ。コングを貫くとなれば、ライジャーはかすっただけでアウトだろうからな…」
「あと、地中に潜られると厄介ですね。レーダーが使えなくなりますから」
「そうだな。しかし可能性があるとすればやはり、背部のジェネレーターを狙う他あるまい…」
しかしこれは難題だった。
ライジャーの機動力をもってすれば、ビーム砲を叩き込むことは不可能ではないように思えた。
だが小型ビーム砲程度の威力では意味がないのだ。
おそらくコングのミサイルかレッドホーンの突撃砲か。そんな大威力のものでない限り、狙うだけ無駄だろう。
唯一、ライジャーで破壊出来るとすれば、それは牙。レーザーサーベルによる零距離攻撃で食い破るしかあるまい。

「ジェネレーターを狙う、か…。しかし守りは固いな…」
しかしこの困難な道を進む他、我々に進むべきは無いのだった。

トビチョフに着いてしばらく、件のマッドサンダー部隊は拍子抜けするほど呆気なく見つかった。
「巨体だから隠れきれねぇのか、隠す必要もねぇのか…」
距離130km。ジャミングも放たず悠然と進撃していた。
「護衛はアロザウラー3機か…。まぁ、予想通りか」

「相手は気づいているでしょうかね」
「まぁ、当然気づいているだろうな…。こうなればもうやる他あるまい」

こうして俺の隊は、一気に突撃し、マッドサンダー部隊との距離を縮めていった。

 

ぐんぐん、マッドサンダーとの距離が近づいてくる。
だが敵の陣形に一切の乱れはない。

「隊長、やはり気づいていないのでは?」
「マッドは司令塔を持つようなゾイドだ。まさか気づいていないわけはあるまい」
しかも最新鋭機だ。レーダーなどアビオニクスも最高のものが使用されているに違いない。
「くそったれ、近づかれても問題ないと思ってやがるんだ。目にもの見せてやるぞ」

俺たちは、ライジャーを最高速度320km/hまで引き上げた。
距離が20kmを切ったあたりから、猛烈な砲撃が俺たちを襲った。
高威力のビーム。
おそらくマッドサンダーの砲撃だろう。
だがこの距離。ライジャー機動力をもってすればどうという事はない。
「至近弾にも注意しろ。思ったより高威力だ」
マッドサンダー部隊との距離は、いよいよ近づいてきた。

距離が5kmを切ったあたりで、さすがに敵のアロザウラーが動き出した。
「砲撃で1機も仕留められなかったので焦ってやがるな。ここからは俺たちのターンだぜ」
アロザウラー3機と、互いに直接目視出来る程の距離まで近づく。
「この距離なら、同士討を恐れてマッドの砲も来んだろう。存分に暴れるぞ」

アロザウラーが低く唸った。
俺たちも、それに呼応して吠える。
前哨戦としてはいい相手だ。
アロザウラーは重装甲であり、またなまじ違うタイプだけに、格闘戦ではコマンドウルフより厄介な相手だった。
だがそれだけに、肩慣らしとしては申し分ない。

「じゃぁいくぞ。念の為に言っておくが、アロごときで無駄なエネルギーを使うんじゃねぇぞ」
言って、いきなりライジャーを限界近くまで加速させ、アロザウラーに突撃する。
距離は500m。
この距離でライジャーの突撃をかわせるゾイドなど居ない。
それを知ってか、むしろ怯まず、火炎放射をこちらに向けて放ってくる。
「いい判断だ。さすがマッドの護衛だけはあるぜ…」
だが俺は、構わず突撃する。
下手に避ける方が、かえって何度もダメージを負う。何より時間を喰う。
むしろダメージ覚悟で一気に叩き潰せば…!

ガシッ
前脚でアロザウラーに一撃を見舞い、そのまま押し倒す。
喉元を踏みつけ、その身動きを奪った後、周辺の機体を見渡す。
残る2機のアロザウラーは、それぞれ俺の部下のライジャーが睨みを利かせている。
「いい具合だ」
俺は踏みつけたアロザウラーの喉元に牙を刺し、その機能を停止させた。

残り2機。
「どうします?まぁ負けることは無いでしょうが」
「そうだな……、4対2になったわけだが……、ここはっ!」
言って、ライジャーを急旋回させ、アロザウラーから一気に離れてゆく。
「2,3番機は付いてこい。4番、アロ2機だ。いけるな」
俺は残るアロザウラーを4番機だけに任せ、マッドサンダーへ突撃した。

ライジャー4機でアロザウラー2機を倒すのは造作もないだろう。
だがあえて、今はこの機を利用した方がいいと判断した。
今、マッドは、アロザウラーの危機に、慌しく状況分析・部隊への指示を行っているだろう。
だからその混乱を突く。
指揮官機ゆえの弱点だ。

「マッドの通信に割り込めりゃ有難いんだが」
「…さっきからやってるんですが難しいですね…。ノイズしか聞こえません」
「チッ、さすが最新鋭機様だ」

どうやらこれ以上の小細工は無理らしい。
距離がぐんぐん近づいてくる。
マッドサンダーの灰色の巨体が目視できる。
もはやレーダーなど必要ない。

「散開しろ!」
直前で、俺は叫んだ。
俺の機はマッドの左、部下の機は右と後方に位置し、一斉に突撃をかける。
マッドの砲がうなりをあげて連射される。
俺の機には副砲が、後方から攻める3番機には主砲の嵐が吹き荒れた。
至近距離。
おそらくレーダーと連動したそれは、正確に俺たちを狙う。
一瞬でも気を抜けば当たる。
「くそっ、アロザウラーと交信してるなら、もうちょっと優しいと思ったんだがな…」

だがマッドが共和国最強の火器管制システムを持つゾイドだとして、俺たちも帝国最速を誇る高機動ゾイドだ。
負けられない。
ついに50m程の距離に接近し、一気に飛び上がった。
狙うは…、砲の破壊!
まず砲を破壊・無効化した後、裸になったジェネレーターを存分に牙で破壊する。

だが瞬間、マッドがその首を大きく横に振った。
長い角が最高速度で飛び掛るライジャーを捉え、横腹に強烈な一撃を叩き込んだ。
2番機が彼方へ吹き飛ぶ。
その体は中央から無残にひしゃげていた。
「くっ…」
まさか、この帝国最速を捉えるとは、反射神経は予想以上だ…。
「だが…っ!まだまだぁ…!」
残った俺の機と、後方から攻める3番機は、貴重な犠牲を糧に、砲に取り付く事に成功した。

零距離。
レーザーサーベルの出力を最大にし、砲に噛み付く。
分厚い鉄の塊を穿ち、レーザーサーベルが徐々に穴を開けていく。
内部でスパークが光る。
「これで砲は仕留めたぜ…!」
後は背部のジェネレーターを狙えば…!

角、そして予想以上に早く動く首は想定外だった。
だがこれで主だった火器を奪ったから………、

ドンッ!
しかしそう思った瞬間、マッドの主砲付近で激しい音が響いた。

「なっ!?」
見ると、バラバラになった3番機が、今まさにマッドの背中からずり落ちていた。
主砲は…!?いや、見るとマッドの主砲は基部ごと吹き飛んで無くなっている。
思わず、マッドの背から飛びのき、少し距離をとった。
そして悟った。

…おそらく、砲は3番機により破壊されたのだろう。しかしその状態で強引に、マッドはビームを発射したに違いない。
あの爆発は砲の暴発だ…。
砲を暴発させ、3番機ごと吹き飛ばしたのだ。
しかし主砲が暴発したにも関わらず、マッドの背中は多少黒くなっただけでノーダメージのように見えた。

「くそっ…、化けモンかよ…」
あれだけ高威力の砲が背中で爆発したのにノーダメージ…。
おそらく、砲そのものは後続の修理部隊が取り替えるのだろう。
だがそれでも、躊躇無く砲を暴発させ2番機を撃破したのは、絶対的な防御力への自信からに相違ない。

俺の潰した副砲は、運良く発射そのものが出来ないほどに破壊していたらしい。
でなければ俺のライジャーも、今頃はスクラップになっていた筈だ…。

「隊長、お待たせしました」
戦乱の中、アロザウラーを片付けた4番機が駆けつけてくる。
「状況は…」
「…あまり良くないな。背中の砲は潰した。だが2、3番機は………」

その時、レーダースクリーンが新たな機影を捉えた。
マッドの後方から近づく大型の機影が2。
「くそっ、新手か。……この動きは、ゴジュラスか……」
おそらくマッド救援に駆けつけた増援。
一直線にこちらを目指している。

「…どうします?」
この上ゴジュラス2…。
「……決まっている」

「ゴジュラスが来る前に、このデカブツを片付ける!」
背中の砲を破壊したとはいえ、いまだ本体は無傷だ。
既に戦力の半分を失った俺達が、倒せる保証はなかった。

…ライジャーの機動力を以ってすれば、逃げる事など造作ない。
一旦離脱し、次の機会を狙う?
いや、しかし俺たちは、倒れた友軍機から遺体を回収する事すら出来ないのだ。
この状況で、敵に背を向けて逃げるなど………。
「お前だけには絶対引かない……っ!」

再び、マッドの左右に展開する。
俺が左、4番機は右に位置する。
背中の砲を失ったマッドからは砲撃は無い。
ただ首をゆっくりと左右に振り、俺たちの出方を伺っているようだった。

「いいか。狙うはジェネレーターだ。だが気をつけろ、ヤツの首の動きは思いのほか速い。このライジャーの動きすら捉えてきやがる…」
言うまでも無く、左右から突撃をかける。
その時、俺か4番機…、どちらかは必ず狙われるだろう。
「近づく時、余裕をもってジャンプしろ。そして背中に取り付いたら後は何も考えずジェネレーターを破壊しろ」

「隊長」
「…何だ」
「あのデカブツ倒して、帝国の歴史に名を残しましょうや」
「…そうだな。よしっ、行くぞ!」

ついに最後の突撃をかけた。
残りエネルギーなど気にしない。
ただこの一撃に全てを詰め込み、駆ける。
角を警戒し、かなり距離をとった地点から跳ねる。
俺と4番機は、ほぼ同時に飛び上がった。
この距離なら角も届かない。
さぁ、背中を……!

ザンッ!
しかしその刹那、空を切る鋭い音が響き、俺は信じられない物を見た。
マッドの片側の角が放たれ、4番機を貫いていた………。
「射出できるだと…」
どこまで奥の手を持ってやがるんだ…っ!

それでも、俺がひるんだのは一瞬だった。
だがマッドはその一瞬を逃さない。
ザシュ…ッ!
振り回された首の先に付いた、残った側の角が、俺の機体に当たる。
さすがに直撃は避けたが、機体は数十メートルも彼方へ飛ばされた。

「くっそぉぉぉおお! だが、まだまだぁ!」
負けられない。
「ライジャー、俺に力を貸せェェえ!」
吹き飛ばされながら、がむしゃらに操縦を続ける。
もんどりうって地面に叩きつけられる瞬間、何とか体制を直し、後脚で衝撃を受け止める。
そのまま地面を蹴って飛び上がる。

さすがに俺の動きは予想外だったのか、マッドは反応できない。
だが俺も無理やり機体を操縦していたせいで、マッドの背中に取り付けない。
飛びついた先はマッドの司令塔だった。
「…分厚い装甲に感謝するんだな」
司令塔にゼロ距離からビームを叩き込む。
それはせいぜい、灰色の装甲を少し黒ずませただけだった。
だが中のパイロットにすれば、そうとうびびったに違いない。
「ささやかなお返しだがなっ!」
俺を、俺たちの部隊を、ライジャーを…、帝国をなめるな!

素早く司令塔から背中に飛び乗る。
ようやく砲も角にも邪魔されない位置に来た。
レーザーサーベルの出力を最大まで上げる。
ジェネレーターに狙いを定めた。
だが瞬間、ジェネレーターが高速で回転を始め、膨大なエネルギーがそこから生み出され始めた。
「なんだ…!?」
ピシッ…と音を立て、耐え切れなくなった周辺の空気が弾けた音を立てる。
「くっ…」
たちまち、ジェネレーターの周辺は、高エネルギーで覆われた。

いくら弱点とはいえ、この状況で牙をたてれば、それこそライジャーの牙の方が折れる。
「…参ったぜ、さすがは共和国最強の機体だ」
「……だが、それでも負けられんのだよ、俺だってな」

…俺は牙で刺す事を諦めた。
だがその代わり、機体を背中のジェネレーターの上に馬乗りに跨らせた。
ジェネレーターが生むエネルギー量は凄まじく、機体内に取り込みきれないエネルギーが、余剰分として空気中に大量に放出していた。
そのエネルギーに耐え切れず、ライジャーの腹部装甲が悲鳴を上げ始めた。
マッドとて、このエネルギー発生が永遠に出来るわけではないだろう。
こんな事をあと数刻も続けられるわけはない。
だがそれを待つわけにもいかないのだ。
増援のゴジュラスは、もうすぐそこまでやって来ていた。

「許してくれ、ライジャー…」
俺はコックピット内の、禁断のボタンのスイッチを入れた。

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・

ドンッ!!
凄まじい音を立てて、マッドサンダーの背中でライジャーは吹き飛んだ。
ゾイド生命体を自爆させ、その爆発でジェネレーターもろとも吹き飛ばす。
ライジャーのパイロットが選んだ、最後の選択だった。

 

マッドサンダーは、ゾイド生命体こそ無傷だったものの、砲全損とハイパーローリングチャージャーの大破により、その戦闘力は無効化された。
増援のゴジュラスと救援部隊の到着した後も、ついに現地で修理する事は叶わず、強化グスタフに乗せられ、本国へ送還される事となった。

だがマッドサンダーを初めて撃退したこの事件は、両国の公式記録には残されていない。


この小説では、ジェネレーター=ハイパーローリングチャージャーに特殊な設定を与えています。

■高速回転時に膨大なエネルギーを生む。
■そのエネルギーはマッドの体内(前頭部)へ蓄積される。

ここは公式設定と同じですが、オリジナルのものとして、

■回転時に生まれる膨大なエネルギーは、膨大すぎて全て前頭部へ送る事が出来ず、空気中に放電される
■その為、高速回転中のハイパーローリングチャジャー付近には高エネルギーのフィールドが出来上がる
■それは小型~中型ゾイドは近づく事が困難な程のものである

としてあります。
作中で上手く説明出来ていないため、ここで補足します。

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