高速戦闘部隊の戦い


仲間とはぐれた俺は、暗闇の中、単機で音を立てぬよう動いていた。
まぁ、仲間とはぐれたと言っても、さきほど強力な共和国部隊と交戦した後だ。
だから生き残りは俺一人という事なのだろう。

おそらくここはもう共和国の支配域になったのだろう。
俺は、帝国領土の方角へ向かい、ヘルキャットを歩かせていた。
そんな折、最も出会いたくない敵に俺は出会った。
敵の名はコマンドウルフだった。

 

こいつが最速を誇ったのはいつの事だろう。
帝国の華と呼ばれたのはいつの事だろう。

俺達の時代は終わった。

EMZ-24ヘルキャットは、EPZ-003サーベルタイガーのデータを元に、小型軽量化して作られたゾイドだ。
時速200km/hを安定して持続できる性能は、当時ゴドスやガイサックを圧倒した。
その分、多少防御力は犠牲にされていたが、そうはいっても共和国の砲程度なら数発は耐えた。
唯一、カノントータスの主砲だけはかすっただけでアウトになったが、所詮、亀に狙い撃ちされるほど俺達はノロマじゃなかった。

サーベルの活躍は大々的に報じられたが、配備数の面から言えばヘルキャットこそ帝国高速戦隊の主力であり、敵う共和国ゾイドなどいなかった。
そう、あの日までは…。

D-DAY上陸作戦は大成功に終わった。
そして領地奪回、また共和国領土に向けた進撃が開始されたが、その先陣には我ら高速戦隊が在った。
平和に腑抜けた共和国など軽く蹴散らしていった。
実に我が部隊は、ゴジュラス2を含む大型ゾイド7を、わずか2日で仕留めていた。
しかし我々の誤算は、共和国の新鋭機だった。
シールドライガー、コマンドウルフ。

帝国が暗黒大陸へ脱出した際、味方を逃がす為に捨石を買って出たのがサーベルタイガー部隊だった。
その結果、かなりの数のサーベルが鹵獲されたのは分かっていた。
また、サーベルは解析され、おそらくそう遠くない内に共和国にも新鋭高速機が誕生することも予想されていた。
だが誤算は、それがわずか2年足らずで行われた事だった。

帝国が高速ゾイドの基礎研究に費やした期間は2年。
さらにサーベルの開発命令が出されてから一号機が完成し性能試験が開始されるまでには更に2年半の年月を要した。
いまだ実用高速ゾイドを持たぬ共和国は、いかにサーベルを手に入れても開発には少なくとも3年を要するだろう。
そう思われていた。
だがその考えは脆くも破られた。

更なる誤算は、その性能差とパイロットの質であった。
シールドライガーはサーベルを圧倒する高速性能を持ち、パイロットはその性能を上手く生かした。
特に格闘戦では圧倒的優位を示していた。
またエネルギーシールド発生装置を備えており、我々のビーム砲はのきなみはじき返された。
高速ゾイドに熟練したパイロット数も少ないだろう…。その考えも破られた。
その背景に、共和国の豊富な設備、人的資源を感じずには居れなかった。

コマンドウルフもヘルキャットを圧倒した。
最高速度こそ同水準であったが、コマンドの火器は一撃でヘルキャットを鉄屑に変える大火力だった。
更に悪いのは、防御力が従来機に比べ格段に向上している事であり、ヘルキャットの砲では何発か与えぬ限りコマンドの動きを止める事が出来なかった。
また格闘戦に入れば、コマンドの爪は強力だった。
対し、ヘルキャットの爪は高速と消音を第一に作られており、格闘戦での使用は考えられていない。
その他、バイトファングの有無、発炎筒の有効活用など様々なアドバンテージがあったようだが、これ以上記すのは気が滅入ってくる。

ヘルキャットがかろうじで勝っているのは瞬発力と一時的な最高速度だった。
だから逃げる事は比較的たやすかった…が、今まで共和国ゾイドを圧倒してきた俺達にとって、それは屈辱だった。

 

目の前のコマンドウルフが上を向き、高く吼えた。
途端に、周囲から近づく敵の姿を確かに感じ取った。
この地域は磁場の影響が酷く、レーダーは使用できなかった。
だが敵が仲間を呼んだのは確かだった。

敵は四方から来ていた。
囲まれたら逃げる事も出来なくなる。
俺はすぐさま飛び上がり、最大速度でその場を離脱した。
後からコマンドウルフの忍び寄る気配を感じる。
だがヘルキャットは、短時間であればリミッターを解除し、時速450km/hをたたき出す事が可能なのだ。
もちろん、数分の話だが。
だが何とか振り切ることに成功し、岩陰に隠れる事に成功した。

リミッターを再びセットし、ヘルキャットのゾイド生命体の反応を確かめる。
一気にパワーが減っていたが、少し休めば、また戦えるまでに回復するだろう…。
最もそうなった所でどうなるかは分からない。
だが、俺も疲れていた。
ヘルキャットが回復するまで俺も休ませてもらおう…。

だが俺の願いはかなわなかった。
瞬間、俺が隠れていた岩が敵のビーム砲で粉々に消し飛んだ。
撒けていなかった…!
敵勢力はコマンドウルフ5。
俺の後方すぐそこの位置に、固まって居た。

まだパワーの回復していないヘルキャットを無理やり動かし、すぐさま離脱を開始する。
リミッター解除はもう使えない。
今使うと、今度はヘルキャットが耐え切れないかもしれない。
通常走行でのトップスピード…、200km/hで俺はヘルキャットを進ませた。

最高速度はコマンドウルフとほとんど同じだった。
互いの距離が縮まらぬまま、俺はヘルキャットを走らせ続けた。
後方から放たれるビーム砲が、時折俺の周りの地面にクレーターを作る。
だがこの距離で走りながらの砲がそうそう当たるものではない。

しばらく、操縦をヘルキャットの意思に任せた。
と言っても、こいつも俺と同じ気持ちだったようで、相変わらず200km/hで走り続けた。
俺はその間、必死に生き残るすべを考えた。
倒す選択は無かった。
パワーが底をつきかけたヘルキャットでコマンドウルフ5を倒すのは、どんなエースにだって不可能だ。
俺はコックピット内のコンピューターを必死に操作し、現在位置の割り出し、周辺の帝国基地を探した。

はたして基地はあった。
ここのままの方角、直線距離30km…!
データを照合する。
基地はオベリア第07基地。
どうやら帝国の秘密基地だったようだ。
秘密基地なら、通信に応じるか…?
それは賭だったが、俺は救援を求める交信を基地へ向け送った。

同時に近距離にビーム砲の着弾。
揺れる機内で何とか姿勢を保ちながら、再び操縦を俺の手に戻した。
着弾が近くなってきやがった。
被弾するわけにはいかない。
エネルギーを余計に使ってしまうが、回避運動をしながら基地へ急いだ。
その為、いよいよ背後との距離は少しずつ縮まってきた。

基地よりの返信は無い。
やはり一兵の事など、秘密基地の秘匿に比べればどうという事はないのだろう。
いや、来た。
諦めかけた時、ついに返信は来た。

-敵勢力の内訳を知らせ‐
即座にコマンドウルフ5との返信を送る。
しばらくの間の後、更に返信が来る。
-当基地にはサーベルタイガー3が所属している。すぐに向かわせるからそれまで耐えろ-

俄然、やる気を取り戻す。
もう少しだから頑張れ! 祈るようにヘルキャットに語りかけた。
基地との距離はあと10kmになろうとしていた。
既にヘルキャットのエネルギーは7%を切っていた。
そろそろ、コックピットのパネルが赤く発光しアラートを告げる頃だ。
もうビーム砲を撃つ事も叶わない。
ただひたすら、走った。

早く来てくれ、サーベルタイガー…!
コマンドウルフが相手ならサーベルで倒せる。

だがサーベルが到着するよりも先に、ついにコマンドウルフは動いた。
全機ビーム砲を滅多撃ちにし、俺を狩りに出た。
着弾は無茶苦茶だったが、俺の行動は奪われ、一瞬立ち止まった。
瞬間、視界が土煙で覆われ、その中からコマンドウルフの鋭い爪が飛び出す。

ズシャ…!
頭部装甲を半分ほども吹き飛ばされ、機体も大きく体制を崩した。
何度も体と頭をコックピット内で打ち付けながら、かろうじで意識を保つ。
しかし次の瞬間、既に、周囲を均等に囲うようにして、コマンドウルフは俺を包囲していた。

エネルギー残量はついに5%を切った。
ジリジリとコマンドウルフが包囲の輪を縮めてくる。
俺はついに決断した。
一か八か。リミッターを再び解除…!
瞬間、素晴らしい跳躍でヘルキャットが飛んだ。
それに呼応し、コマンドウルフも飛び上がってくる。
だがリミッターを解除したヘルキャットの動きに付いてこれるものか…!
そのまま、コマンドウルフを飛び越え全力で逃げる。

コマンドウルフがすぐさま追いかけてきたが、再び時速450km/hの最高速度で突き進んだ。
パワーが一気に減る。
だが構わない。
サーベルよ、早く駆けつけてくれ。
そしてヘルキャットよ、そこまで耐えてくれ…!
祈るように俺は基地を目指した。

残り2km/h…、1km/h…、
サーベルは来ない。
だがようやく、秘密基地に程近い場所まで到達していた。

助かった。
そう思っていた。

だが俺は、秘密基地の方角から立ち上がる黒煙を、夜の闇の中で見つけた。
戦闘音はない。
だが次の瞬間、基地から高速でこちらに迫るものを確認した。
サーベルではない。
これは…、シールドライガー……!

目の前にシールドライガーが迫り、俺は蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
そして後からコマンドウルフもやってくる。

エネルギー残量はもう1%。
何もかも、もうお終いだった。
基地はどうやら、このシールドライガー部隊によって壊滅させられたらしい…。
何故、こんなタイミングで…。
戦場の悪魔が俺に取り付いたのだろうか。
疲労が一気に俺を襲い、俺は気を失った。

 

全機コマンドウルフで編成された共和国司令部直属の偵察部隊、通称“送り狼”
その任務は主力部隊が敵を撃破した後、生き残った敵ゾイドを追う事にある。
生かさず殺さずの状態で追い立てれば、敵は必ず最も近い自軍基地への逃走を試みる。
その中には共和国が未だ知らぬ、帝国の秘密基地も含まれている。
なお秘密基地の場所が特定されたら、味方のシールドライガーが全力で急行し、その殲滅に当たる。
こうして送り狼部隊によって暴かれた帝国秘密基地の数は、もう11に昇っている。

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