ゾイドマンモス奮闘記


ゴゥゥ・・ という腹の奥に響くような音を立て、突風が吹いた。
風は極寒地特有のカマボコ型の兵舎をゆらし、それがまた不気味な音を立てた。
数少ない娯楽である睡眠を奪われ、不機嫌に眠い目をこすると、どこからか補充機は大丈夫かという声が聞こえてきた。

ここクック海軍基地はゾイド星中央大陸共和国領の中で最北に位置し、何もかも凍てつき氷河に覆われている。
だが生物が住むには厳しすぎるこの地にも、人の手は入り込む。
流氷が迷い込み、機械は低温でマトモに動かない。
それでも外観だけは立派に軍港の佇まいを見せているし、規模で言えば大隊に相当する800兵が勤務している。

ZAC2044年のクック海軍基地奇襲作戦でこの地が共和国領土となって以来、帝国はいく度となく奪還を目指しこの地へ戦闘ゾイドを送り込んだ。
それほど重要とも思えぬ地であったが、余りにも鮮やかな奇襲で一方的に奪取してしまった事と、まがりなりにも帝国支配域の隣に位置している事から、戦略的価値に見合わぬ回数の戦闘をこなし、皮肉にも回数だけなら相当の猛者ぞろいの基地になりつつある。

 

北方基地の朝は早い。
ゾイドはじめ、全てのメカニックに暖気運転を行わねば昼間使い物にならない。
白い息を吐きながら薄暗い夜明けの空を見るとまだオーロラの美しい彩色が残っていたが、もはやそれには何の感慨深さもなかった。
むしろ昨晩の突風を思うに付け、確信的に浮かんだ嫌な予感が外れてくれと願わずには居れなかった。

昨日補充された新型機の繋留所へ行くと、案の定であったが繋留柵は無残に切れ、既にあわただしい救出作業が行われていた。
白い色をした、吹き飛ばされて脚をあらぬ方に曲げている恐竜型の機体は、聞くところによるとRHI-8アロザウラー…、装甲・出力共に次世代的に発展し、また画期的新ユニットを装備したゴドスの後継機らしい。
皮肉にも帝国より先に極寒の地と戦う事になった彼は、そして早々屈した。
しかし別段の感慨もなく、それはここではよくある事だった。

ただ、ふと見ると見慣れぬ機体がもう一機、繋留されていた。
その機体は吹き飛ぶ事もなくそこにあった。
なるほど根性のある機体もあるものだと思いながら機体を見ると、RHI-4ゴルヘックスと言うらしい。
四足の安定感と大パワーを生かした動く電子基地との謳い文句は補充時に聞かされていた。
わずか60t足らずの機体でありながら、最新のアビオニクスとレーダーを持ち、一機で04(※RBOZ-004ゴルドス)三機分の能力を発揮するらしい。
しかも小型であることは04最大の弱点であった巨体ゆえの隠密性の無さを克服している。

だが今はその電子能力ではなく、風で吹き飛ばされたアロザウラーその他の機体をどうにかする事が必要だった。
意外なことにコイツを牽引用に使おうという意見は通らなかった。
何でも、機体こそ四足の安定感もあり何とか突風を凌いだが、風の衝撃で自慢の電子装備一式に故障が生じたらしい。
機体を動かす事自体は可能だが、大事な新鋭機様は早々ドック行きと相成った。

 

全くこの自然の猛威を前にしては、最新の機体も何の役に立つものではない。
白いため息をつき、しかし確かな期待を込め、更に奥にある繋留所を目指した。

新鋭機繋留所から更に数百メートル先、はるかに待遇の悪い旧式機繋留所に、それは居た。
RBOZ-002、通称ゾイドマンモス。
共和国で最も開発の古いの部類に入る戦闘ゾイドでありながら、そのパワーは03(※RBOZ-003ゾイドゴジュラス)に双肩し、弩級(※RBOZ-005ウルトラザウルス)に次いでNo.2の実力を誇る。

最も火力は極めて貧弱で運動力も低いため、直接戦闘ではレッドホーンにすら劣る。
また古い機体ゆえ将来的発展も望むべくもない。
しかしこと極寒のクック基地では、この老兵ほど頼もしい存在はなかった。
期待に応えるように、極寒と突風を何事もなかったかのように乗り越えた機体は、エンジン音を高らかに鳴り響かせてみせた。

剥き出しのメカニックは油まみれで、もう洗っても落ちない。
だがそれは旧式であったが、使い古された故に信頼性があり、また故障してもすぐに直った。
何より、この老兵は寒さに強かった。
特有のゾイド生命体の働きにより、極寒の夜も安定してメカニックの動きを伝えた。

老兵は相変わらず鈍く、しかし頼もしく歩を進め、新型機の繋留所へ向かった。
新鋭機の救出に従事し、そして帝国が来れば最前線で戦うのだろう。

やがて、この極寒に耐える新型機は配備されるのだろうか。
その事を思うと、一抹の不安を覚えた。
しかしそれと真逆の思いも同時に抱きながら、私は新型機を牽引する02をぼんやりと眺めていた。

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