ランナーレス仕様から模型業界の発展を思う

ゾイドワイルドは衝撃のランナーレス仕様をしています。

この仕様を見てしみじみ思うのは、模型ってどんどん進化しているなぁということです。
このコラムでは、私なりに模型業界研究の振り返りをしてみたいと思います。

 

はるか昔々、模型は木製が主流でした。木製模型です。ソリッドモデルとも呼ばれます。
ソリッドモデルは大雑把な形のパーツがゴロッと入っているだけの仕様。
細かいディティールとは無縁なのでそういうのはご自分で彫って下さいねという凄まじいスパルタン仕様です。

ソリッドモデルの例。画像はwikipediaより。

 

1950年代中頃からは、徐々にプラスチック製の模型……、プラモデルが市場に出回るようになりました。
ただ、この頃のプラモデルはソリッドモデルよりもはるかに精密だが「輸入ものの高級品」という位置付けでした。
多くの人にとっては高嶺の花。そんな時代です。
ですが、大きな流れとして「これからはプラスチックの時代だ!」という考えが確かに起こっていました。

 

1960年代になると、国産メーカーがプラモデルの製作を始めました。
1960年には、あのタミヤが自社初のプラモデル「1/800スケール戦艦大和」を発売しています。
余談ですがこれは当時価格は350円でした。2018年現在の物価に直すと約5600円。
これでも赤字覚悟の価格設定だったそうです。
なぜ赤字覚悟で値段を設定したかというと、同時期に他社から似たプラモが発売された為です。
当初は500円の定価にする予定だったそうです。コチラの場合、現代の物価に直すと8000円。
この時代のプラモデルの高価さがよく分かります。
しかし、各社の努力により続々とヒットが生まれ、それに伴い価格帯も徐々に下がってきました。

ところでこの頃のプラモ仕様は接着剤が必須でした(なのでキットには小さなチューブに入った接着剤が付属している事が多かった)。
色も一色成型が普通。ユーザーが塗るのが普通でした。
また形はソリッドモデルよりははるかに精巧ですが、今のプラモデルに比べれば甘いものでもありました。
合わせ目がズレているなんて普通。それを修正しながら作るスキルが求められました。
それでも、その作業はソリッドモデルを組むよりはるかに少なくて済むのですが。

ここからの時代、プラモデルの質は徐々に向上していきます。
いつしか、合わせ目がピタッとなるモデルが標準。そんな風にまで向上しました。

 

1980年代頃には、プラモデル業界に新たな革新が起りました。
それまで「接着剤で組み立て色を塗る」のが常識だった業界に、スナップフィットや組むだけで色分けが出来るマルチカラーな仕様が登場したのです。
メカ生体ゾイドもここに属すると言えるでしょう(正確にいうとゾイドはスナップフィットではなくゴムキャップによる保持ですが)。

特にキャラクターモノのプラモデルは、どんどんこの流れに従っていきました。

 

ここからはゆるやかに進化している印象です。
アンダーゲートやタッチゲートが登場しましたが、スナップフィットやマルチカラーのような大きな革新は起こっていない感じもします。
革新というよりは「ブラッシュアップ」という印象。
一部、バンダイの多色成型技術とMGやRGにみられる「ランナーから切り離したら、既にボールジョイントを使った指の関節が出来上がった状態になっている」ような技術は凄まじいと思いますが。
ただこれらは現在のところバンダイだけが使用している技術なので、業界全体の動き・技術とは言い難いと思います。

 

私なりに振り返った模型業界の流れをまとめると、
~前史:木製ソリッドモデル
1960年代~:国産プラモデル登場。この頃は組み立てに接着剤必須。一色成型が普通。成型も甘い。
1980年代~:成型技術が向上し、接着剤不要のスナップフィットモデルが登場。組むだけで色分けがされるマルチカラー仕様が登場。
これ以降はどんどんブラッシュアップされていくが大きな革新は起こっていない。

という感じでしょうか。

 

さてゾイドワイルドです。
衝撃的なランナーレスという仕様。これはもしや模型進化の歴史の新しい点になるかもしれない。そんな風にも思っています。
そうなりえるかにも大注目です。

 

どんな分野でも、大きな変化が起こった際には戸惑いが必ずあります。
ランナーレスの仕様にも驚き戸惑ったユーザーは多でしょう。

プラモデルが出始めた頃の模型市場は、従来のソリッドモデルユーザーが戸惑いました。
ソリッドモデルはユーザーに求めるスキルや労力は極めて高いです。しかし、それゆえにユーザーごとの仕上げの差が面白くもあります。
また大雑把な形とはいえ縮尺などはだいたい合っているから、超丁寧に仕上げれば現在の模型にも劣らぬ良い仕上げにする事も不可能ではありません。
それゆえプラモデルが出始めた頃は、ソリッドモデルファンから「誰が作っても同じになるプラモなんて味気ない」という声が出たそうです。

スナップフィットが出た時は、やはり「パーツとは接着剤でひっつけ合わせ目消しをするのが常識だろう。模型とはそうして作るものじゃないのか」という声が出ました。
色分けについても「色を塗るからいいんだろう。成型色で塗装の質感を出せるわけはない」という声も出ました。

今回のランナーレスについても同じ流れなのでしょう。
発表当時、ランナーレスの仕様には様々な声があがりました。歓迎する声だけでなく、これはダメだという声もありました。
そうした声が挙がるのは必然です。
しかしそんな想いも、展開する中で徐々に馴染んでいけばいいなと思います。

 

2018年6月、ゾイドワイルドは無事発売されました。
多くのユーザーがランナーレス仕様を実際に体験しています。
今後、ランナーレス仕様についてユーザーはどう判断したのか。市場はどう判断を下すのか。その答えも出てくるでしょう。

ランナーレスが市場に受け入れられたなら、追従する他の模型も出てくると思います。
もしかすると、数年かすればランナーレスの仕様はけっこうな割合を占めるようになっていたりするかもしれない。我々は今、模型の転換点を見ているのかもしれません。

 

ただ従来の模型の仕様は、それはそれで残り続けることも確かだと思います。
そちらにも良い部分も当然にしてあります。
ランナーから切る作業で手先の器用さを養う面もあるし、丁寧にゲート処理をする中で思い入れを深める面もあります。
合わせ目消しもするに越したことはないし、塗装だってやれば成型色にはないリアルな質感を追及できます。

これについて私は、「使い分け」なのかなぁと思いました。
キャラモノのプラモデルはスナップフィットで色分けな仕様が多いですが、戦車や飛行機や船のプラモデルは依然として接着剤&一色成型なのがいまだにスタンダードです。
模型には「造り応え」という要素もやっぱりあります。

最初は素組みで。
墨入れやウェザリングをするようになって。
色を塗るようになって。
合わせ目を消すようになって。

などなど、造り続けるとだんだん難しいことに挑戦するようになります。
そうするとキットも造り応えのある仕様に手を出すようになって、守備範囲が広がります。
だから戦車や飛行機や船のプラモは依然として接着剤&一色成型で作られているのかなぁと、書いていて思いました。
……さすがに木製ソリッドモデルにまでなると大変すぎるんですが……。

 

模型の進化で、便利で手軽に作れる仕様がどんどん生まれるのは良い事だと思います。
一方でそれのみになるのではなく、従来からの仕様もユーザーのレベルに応じてあり続ける今の模型業界は理想的な状態にあると思います。

今回のランナーレス仕様は、間違いなく新規のキッズユーザーにとって優しい仕様と言えるでしょう。
思い切り楽しんで欲しいと思います。

またその先にいつか従来のランナーありキットの再販も行われたなら「こっちはひとつ組み立てが難しくなったゾイドだ。でもこっちも楽しいぞ!」と楽しんでくれればいいなとも思います。
ランナーレスの仕様で模型を組む楽しさの”慣らし”を行っておけば、そのような仕掛けも容易にできるようになるでしょう。

今回の仕様も素晴らしいですが、従来のゾイドも傑作である事は言うまでもありません。
そんな風に新旧色々なゾイドが楽しめるようになれば、まさに理想的だと思います。

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