共和国ゾイドのキャノピーは弱点なのか

共和国ゾイドの多くはキャノピー式をしています。
これについて「防御上の難があるが良好な視界が得られる利点もある」と言えます。

素材は何でしょうか。
ゾイドバトルストーリー3巻に登場した改造ゾイド「ケンタウロス」は、キャノピーの材質が強化ガラスと書かれていました。
素材はアクリルやポリカーボネートではなく、強化ガラスが基本のようです。

共和国軍は、長らくキャノピー式を採用し続けました。
しかしディバイソンから徐々に装甲式に変化し、カノンフォート……大陸間戦争で登場した新型からは全て装甲式に替わりました。
これについての通説は、「もともと共和国軍の技術ではキャノピー式にしかできなかった。だが後の時代には徐々に装甲式も可能になった。中央大陸戦争に勝利し帝国技術を吸収した後は完全装甲式に移行した」だと思います。


今回はこの説に切り込みたいと思います。

……と言っておいてなんですが、通説は正しいと思います。それは開発史を見れば明らかです。
ただ今回の「深く切り込みたい」というのは「なぜ技術は後々まで発達しなかったのか」という部分です。

必要は発明の母と言います。
中央大陸はもともとヘリック王国という一つの国でした。それが内部分裂して誕生したのがヘリック共和国とゼネバス帝国です。

この経緯から言うと、誕生した時点では劇的な技術差は無かった筈と言えます。
共和国軍も帝国軍も、最初期に運用したのはガリウス、グライドラー、エレファンタスというヘリック王国時代に開発されたゾイドです。
それらは全てキャノピー式をしています。
そこからなぜ、帝国は装甲式に早期にシフトしたのか。共和国は長らくキャノピーに留まったのか。

帝国は早期に装甲式にシフトする必要があり、それゆえ技術を発展させた。一方、共和国はキャノピー式で構わない事情があり長らく据え置かれた。
こう仮定し、肉付けしてみたいと思います。

 

必要は発明の母の例を出しましょう。
太平洋戦争時の日本軍の「零戦」は、究極に燃費が良い飛行機でした。形状も空気抵抗が少なく、各部も繊細で神業的な設計をしています。
一方、米軍のグラマンF6Fは大雑把な設計も目立ちスマートとは言い難いです。
しかし、それは資源も人も少なく「質でもって対抗するしかなかった日本」の事情と、資源も人も豊富にあり「大雑把な設計であってもそこそこの性能と量で押し切れば良い米国」の事情です。
そのような事情によって開発が進められ、長く続くと、その国の技術的な特徴も出てきます。
共和国と帝国の技術的な差も、この例のような事情があるのかもしれない……と思います。

ではその事情とは何か。
最初にキャノピー式が採用されたのは「そうするしかなかった」からだと思います。
当時(ヘリック王国がガリウスを開発した頃)の技術では、まだモニター越しに良好な視界を得る術がなかった。それゆえキャノピー式になったと考えるのが自然でしょう。

 

さて、キャノピーは弱点でしょうか。
もちろん被弾には弱いでしょう。いくら防弾ガラスでも、装甲部分ほどの強度はあるわけはありません。
ガラスは厚くすれば強度が上ります……が、厚くしすぎると透過度が下がってしまいます。現実的に言って厚みの限界=強度限界はあります。
しかし、これは「キャノピーの強度」を問題にした発言ではありますが、「キャノピーが弱点なのか」を論ずるものとしては不十分と思います。
なぜなら、被弾率の問題が考慮されていないからです。

 

敵を撃破するにはコックピットの破壊が有効です。
かのマイケル・ホバート技術少佐も次のように述べています。
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「敵ゾイドを倒すのにその機体を完全に破壊する必要はない。敵のパイロットを倒すかコックピットを使用不能にすれば勝利を得ることが出来る」
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ただし、これは簡単なようで難しい。

キャノピー=コックピットに命中させれば撃破できとして考ます。
ただし、砲弾は狙った場所に必ずしも着弾するかというとそうではありません。
発射後に風や大気状態の影響を受けて弾道がブレてしまいます。

下図を見てください

これは、戦艦が大砲で敵艦を撃つ姿を示しています。
赤丸の地点を狙う。想定通りに行けば、赤線の弾道を描いて赤丸地点に命中します。

しかし、そうそう上手くはいきません。砲弾は飛翔中に大気や風の影響を受けてブレます。

その結果、おおよそピンクの範囲のどこかに着弾します。
当たるかもしれないし当たらないかもしれない。少なくとも狙ったピンポイントの位置に当たる事は期待できません。
このように、一点を狙ってもある程度の範囲のどこかに着弾してしまう。これを散布界と言います。

大口径の砲ほど散布界が広い傾向にあります。規模が大きいのでブレも大きいのです。
歩兵が持てる小口径のスナイパーライフルだと散布界は狭くなっています。ただ、さすがにその程度では防弾ガラスを撃ちぬけないでしょう。
ゾイドの砲はキャノピーを難なく撃ちぬけます。ただ、その代わりに大口径をしています。つまり散布界がある程度広いと思われます。

 

さて、分かりやすくするために戦車の話をします。
共和国ゾイドを見て「キャノピーなんていう分かりやすい弱点をつけておくのはおかしい」と考えるのは総計です。
戦車は高い防御力を誇りますが、共和国ゾイドと同様に分かりやすい弱点を持ちます。
それはキャタピラ。


キャタピラは何枚もの鉄板を繋いだ構造をしています。鉄板自体は強固です。しかし、構造上どうしても繋ぎ目は切れやすい。
長距離を走らせると、それだけで切れてしまう事もある位に弱い箇所です。
もちろん、被弾など仕様ものなら一発でアウトです。キャタピラが外れた戦車はもはや動く事ができず、その後は的にしかなりません。
と考えると、キャタピラを狙えばいいじゃないかという話になります。

当たれば一発アウト。ただ、散布界の話を思い出してください。
キャタピラを狙うと下図の様になってしまいます。

これでは命中率が下がりすぎる。当たらなければ意味がない。
必然的に中央部を狙って撃つ事になります。


こうしなければ高い命中率は見込めません。
また、ここでは散布界から命中率を語っていますが、戦場では停止した敵を撃つわけではありません。
敵も常に動いているのだから、撃つ時は現在位置ではなく未来位置を予測して撃つ必要があります。
更に、惑星は自転しているから長距離射撃をする際はその誤差も修正する必要があります。
色々と難しい要素があるのです。そんな事を総合して考えると、中央を狙って撃つのが妥当になります。

ゾイドに置き換えましょう。
初期の「戦闘用」ゾイドと言えばガリウス。そして共和国が後に投入したのはゴドスやゴジュラス。いずれも高い位置にコックピットがあります。

※「戦闘用」の語は強調して書いている。例えばハイドッカーは輸送や支援用である。そのように各ゾイドには様々な目的がある。
 その中で純粋に「戦闘用」として開発されているゾイドとして捉えて欲しい。

帝国としては「キャノピーを撃てば一発で倒せる」と理解しつつも、散布界の事情からそうはできない。中央部を狙わざるを得ない事情があったのだと分かります。
共和国側から考えれば、キャノピーは弱いがそうそう当たるものではない=致命的な弱点ではないと言えます。

同様の事は帝国機にも言えまいか。
もちろん言えます。例えばマーダの頭部は前方に突き出しています。

だからここを狙っても散布界の問題からよろしくない。当たらない。
やはり中央を狙わざるを得ない。そう考えると、帝国ゾイドもキャノピー式であっても構わなかったと思えます。
しかし、これは共和国ゾイドのラインナップを見れば分かります。

共和国の「戦闘用」ゾイドは、いずれも背が高い。
ゴドスやゴジュラスだけでなく、ビガザウロやマンモスも帝国小型ゾイドに比べればはるかに背が高くなっています。
高いというのは重要です。
「低い位置から見上げて撃つ」「高い位置から見下ろして撃つ」このどちらが撃ちやすいか、そして命中率が高いかは明らかです。
見下ろす方がはるかに撃ちやすいし当てやすい。

陸上ゾイドだけではなく、共和国軍にはペガサロスという対地攻撃が可能なゾイドさえ居ました。
当時の共和国ゾイドは、帝国ゾイドを「高い位置から狙い撃てる」ようなラインナップでした。
「自身のコックピット部分は被弾しにくいが、敵のコックピットを狙うのは比較的容易」という極めて有利な立場にあったと言えます。
特にゴジュラスはキャノピー式であっても全く問題ありません。
マーダに乗ってゴジュラスのコックピットを撃つ事を想像すれば、それがいかに困難かが分かるでしょう。

おそらく、それゆえ共和国側はキャノピー式で構わなかった。帝国側はコックピットの安全が急務となり装甲化を急いだという事情があったと推測します。
この必要が両国のゾイドのコックピットの処理を別れさせたと思いました。

 

帝国軍は早期から「ゴジュラスの高さから撃たれる」事を想定してゾイドを開発せざるを得なかった。だから装甲化が進んだ。
一方、共和国軍は「レッドホーン程度の高さを想定しておけば良い」という事情だった。だからキャノピー式が中心となり後々まで引き継がれた。

 

ただし、共和国軍に衝撃が訪れたのはデスザウラーでしょう。ゴジュラス並の高さを持ち、しかも頭部に砲があるから上から容易に撃たれます。

今まで共和国軍のお家芸だった「上から撃つ」事を、ついに帝国側もやってのけた瞬間です。
それゆえ、以降は共和国ゾイドにもコックピットの防弾が次第に求められるようになった。そして装甲化が進んでいった………。

デスザウラーについても少し触れましょう。
デスザウラーはキャノピー……と呼んでいいのかどうかは分からないのですが、装甲式ではないコックピットをしています。
これは一見して不思議な事ですが、今回の説から考えるなら「上から撃たれる事がない」ので、過度に重装甲にする必要はなかったという事かもしれません。

キャノピーの事情について、このように考えてみました。
なかなか面白い説になったと思います。

 

もう少しだけ続けます。
共和国ゾイドは必ずしもキャノピー式にする必須がなく、それゆえ技術の発展が遅れたと推測しました。
ただし、それはゴドスやゴジュラス等の純粋な「戦闘用」ゾイドにおいての話です。
ゴルドスやカノントータスのような機体には、できることなら装甲化を進めてあげて欲しい所でもあります。
共和国ゾイドであっても、コックピット位置が低い機もあるのだから……。

多分、前線の部隊には「せめてもう少し防弾を…。俺たちはゴジュラスと違って撃たれるんだ」という声があったでしょう。
しかし軍部の判断は、主力戦闘ゾイドを是とする方針があったんじゃないかなと思います。
それゆえ全体的に「キャノピーで構わない」という風潮がまかり通り、後年まで装甲化が見送られたのかもしれない。

それでも、やはり防弾を求める声を全く無視する事もできない。
それゆえ共和国の開発メーカーは「より強度の高い超超防弾ガラス」の開発に死力を尽くし、後年の24ゾイドのクリアー装甲を開発させたのかもしれない……と思いました。

共和国24ゾイドは、クリアー装甲で全身を覆う異様な姿をしています。
設定として高い防弾性を持っていますが、この透明でありながら脅威の防弾性を持つ特殊装備は共和国軍のキャノピーの事情ゆえと考えると面白いと思いました。
ただ、この防弾性を高めたクリアー装甲でも完全な装甲式に比べれば強度は劣る。それゆえ後年は装甲式にとって代わられたのかも……。

 

そんなわけで、キャノピーの事情を考えてみました。
ところで「散布界」の話を出しました。散布界については主に実弾砲を想定して書いています。ただ、ゾイド界には実弾砲の他にも「ビーム砲」もあります。
ビーム砲の散布界にも触れる必要があるでしょう。
今回の説を元に、いずれビーム砲の事情も加味した考察をしていきたいと思います。

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