サラマンダー・マーキュリーを考える②

前回のコラムに続いて、今回はマーキュリーの運用を考える残りニ説を。

前回考えた一つ目の説は「マーキュリー=キャノン砲のキャリアー」というものだった。
中央山脈山頂に迅速に砲を輸送する事が最大の目的だったというものだ。
割り鶏にかなっていると思う。
ただし、この説では「ボンヴァーン」「バスターイーグル」の存在を加味すると弱いかなという所もある。

やはり、キャリアーではなく「撃てる」という方向でも考えてみたい。
そんなわけで今回の二説は、撃てるという前提で考えてみた。

 

ただし、撃てるにしてもやはり思ってしまう事が一つある。
「飛行機がこんなに大きな大砲を撃って大丈夫だろうか」という事だ。
普通に考えて、空中でこれだけのものを撃つとその瞬間に失速してしまうだろう…。
重いしバランスも悪くなろう。そのまま態勢を立て直す事もできず墜落してしまいそうだ。

また、これは心情的な事でもあるが…「あのゴジュラスだから巨大なキャノン砲を運用できた」という風が良いと思う。
何でもかんでも搭載OKそして問題なく撃ててしまうとなると、それこそゴジュラスMK-IIという存在が意味をなくしてしまいそうに思える。

前回のコラムでも触れたように、ゴジュラスMK-IIはプロトタイプ完成から制式機完成までに四年を要している。
これだけの期間をかけてようやくゴジュラスに積めるようになったのだから、サラマンダーに労せず積めて問題なく運用できるというのはやはり違和感がある。
なので、マーキュリーのキャノン砲はある程度の制約があると考えたい。

という事で、先にキャノン砲の仕様を考える。
サラマンダーの積載量をもってすれば、キャノン砲を搭載する事は可能だろう。
ただしそれは「積んで飛ぶ事が可能」という意味であって「自由に撃てる」という事ではないと思う。
やはり「発射の反動」が理由だ。しかし今回の考察では「撃てる」という前提で考える。

撃てるとすれば、これは「装薬を減らして撃つ(要は低出力で撃つ)」のだろう。
炸薬量を減らせば、当然発射に伴う衝撃は低減する。サラマンダーが失速しない程度に炸薬量を減らしていたのだと推測する。

ゴジュラスの長距離キャノン砲の射程は、以前にコラムで推測した事があった。だいたい60km程度としている。今回のコラムでも、この推測を引き続き採用する。
ただ、マーキュリーの場合は炸薬量を減らして撃っている事から射程は半減しているだろう。
一方、高所から撃てば幾らか砲弾の飛距離は増すという利点もある(高空は空気の密度が低いので抵抗が少なく砲弾が飛びやすい)。
その事を加味すれば、射程は減衰と増加が相互で相殺しあって同程度かなと思う。

上記の推測から、マーキュリーのキャノン砲は外観こそゴジュラス用長距離キャノン砲と同じだが、
・炸薬を減らしており威力は幾らか下回る
・射程は高空から撃つので同程度である(60km程度)
と考える。

さて、そんな風にキャノン砲を考えたところで実際の運用を考える。

 

説の二つ目…、空中からキャノン砲を撃つ運用の一つ目の説は「敵制空圏内の施設を攻撃する」というものだ。

共和国軍は飛行ゾイドで圧倒的な優位を得ていたのは周知の通り。
といっても、中央大陸全域の制空権を得ていたわけではないと思う。
ゼネバス帝国には、ここだけは落とせない絶対防衛地がある。生産を担うウラニスク重工業地帯や皇帝の座するゼネバス帝国首都だ。
これらについては、航空戦力を結集させて制空権の確保に努めた筈。低い航空戦力でも、一極化、集中配備すれば守りは固くなる。

この図の青い部分は共和国軍が制空権を得ている域。赤い部分は帝国軍が得ている域。紫は均衡している域を示す。
ウラニスクや帝国首都に帝国航空部隊が集中配備されていたとすれば、このような勢力図になっていたと推測する。
(ただしこの図は分かりやすくする為にかなり極端に示してあるが)

爆撃は「爆弾を上空から落とす」ものだから、目標上空まで行く必要がある。敵制空圏内に入るという事だ。
激しい迎撃は避けられない。爆撃機は優先目標になりやすい。サラマンダーに損失が出てしまうかもしれない。
生産性の低いサラマンダーの損失は絶対に避けたい。ならどうするか。

ここにマーキュリーの意義があると思った。
キャノン砲を装備し、「味方制空権の範囲から放ち攻撃する」という事だ。
図の青い部分は味方制空権。そこから放てば、敵制空圏内を安全に攻撃する事が可能というわけだ。

この説は、「制空権の及ぶ範囲のギリギリにまで進出し、更にその先までを攻撃する事が目的である」というものだ。
…キャノン砲じゃなくてミサイルやロケットを積んだら良いのでは…というツッコミもある気はするが…。

まぁ、ツッコミはある気はしつつも、撃てる方向で考えた一つ目の説は以上だ。

 

そして説の三つ目…、空中からキャノン砲を撃つ運用のニつ目の説は「味方編隊の護衛として運用する」というものだ。
こちらの説の方が本命だったりする。

キャノン砲…、大砲は「分厚い装甲を穿つもの」というイメージが強いと思う。
ゴジュラスの長距離キャノン砲も、アイアンコングの分厚い装甲を穿つ威力を持っている。

しかし、大砲は対空用として使用される事もある。有名なのは、日本海軍が使用した零式弾や三式弾だろう。

大砲を対空用に使用するといっても、砲弾を当てて倒そうとしているわけではない。
砲弾は「発射後○秒で爆発する」ように設定して撃つ事ができる。設定は任意で変更する事もできる。

このように、好きな位置で砲弾を自爆させる事ができるのだ。
これをするとどうなるかを解説する。
対空用の砲弾には、内部に焼夷弾などの可燃物質がギッチリと詰まっている。砲弾が自爆すると同時にこれらは数百メートルもの広範囲に飛散する。
また、爆発した砲弾の破片も驚異的な破壊力をもって周囲に散らばる。それらは航空機を撃ち落とすに十分な威力だ。

対空用に使用する際は、まず敵との距離を測る。例えば1000mだったとする。
砲弾の速度が秒速2000mだとすると、発射後0.5秒で敵位置に砲弾が到達する。
この場合は、発射後0.5秒で爆発するように設定して発射すれば良い。そうすればちょうど敵の位置で爆発する。
敵編隊の中央に撃ち込めば、うまくいけば編隊ごと一気に葬り去れる。
大砲を対空用に使用するというのは、砲弾を直接当てるのではなくこのように使用するのが普通だ。

マーキュリーの砲は、このようなものではないかと思った。対空用の運用を目的としている。

さて、「翼端援護機」という軍用機の思想をご存知だろうか。
これは「編隊の外周に重火力を持つ防空仕様機を配置し編隊を守る」という思想だ。

マーキュリーをサラマンダー爆撃編隊の外周に配置し飛行する。
編隊が敵の迎撃を察知すれば、即座にサラマンダーがキャノン砲を撃つ。
キャノン砲は対空段になっており敵編隊を飲み込む…。

 

以上がマーキュリーがキャノン砲を運用した事への説だ。
以前の記事のものと併せて三つ。
どれが正解かは分からない。あるいはどれも正解でないかもしれない。
書いている内に、複合でも良いかなと思った。
キャリアーとして運用されたマーキュリーや、特殊任務として味方制空権内から敵地を攻撃したマーキュリーが居たと考えたら面白い気がした。

パッと見ると謎過ぎる仕様だが、開発されており名称まで付けられている事から何らかの意義はあったのだろう。
二度にわたるコラムで、自分なりの考えをある程度まとめられた事には満足している。

 

さて、もう少しだけ続ける。
ここからは、今回導いた二つの説「敵制空圏内の施設を攻撃する説」「対空用装備説」に関しての補足となる。

マーキュリーはバトストの劇中に一切写っていない事から、あまり大々的な運用はなかったと推測している。
…写っていないだけで実際は活躍したという考えもできるが、ここでは無かったと考えたい。やはり華々しい活躍をしたのなら少し位は写っていると思うのだ。
学年誌の隅っこに紹介される事もなかった。それがマーキュリーなのだ。

なぜ大々的に運用されなかったのかも考えたい。
これは、「プテラス」の存在がやはり大きかったと思った。

ウラニスクや帝国首都の上空の守りを固めていたのはシュトルヒだろう。
これに対して、プテラスが質でも数でもシュトルヒを圧倒して「思いのほかあっさりと制空権を確保できてしまった」
つまりわざわざキャノン砲で離れた位置から撃たずとも良くなった。素直に爆弾を抱えて上空に到達できるようになったと思った。

翼端援護機に関しても同様だ。
爆撃隊の護衛としてプテラスを配置すれば良い。
わざわざキャノン砲で撃たずとも、プテラスがシュトルヒを排除すれば良いだけだ。

サラマンダーの完成はZAC2031年。この時点での共和国軍の主力飛行ゾイドといえばペガサロス。
そろそろ能力不足が指摘され始めていただろうし、おそらく航続距離も短いと推測している。
つまりこの時点では「サラマンダーが敵地を爆撃する際は護衛が付けられない=サラマンダー自身が守る必要がある」という事情があった。

新型戦闘機「プテラス」の開発は進められていた。プテラスは高い空戦力と長い航続距離を両立する次世代機として計画されている。
無論、サラマンダー爆撃編隊を護衛する事も目的の一つ。しかし、いまだ完成には至っておらず性能は未知であった。
もしかすると空戦性能が要求に満たない可能性もあったし、航続距離が伸び悩む可能性もあった。
そこで、もし護衛機プテラスの開発が失敗になった場合(ペガサロスを継続使用せざるを得なくなる状態)に備えて、マーキュリーが開発された。

しかしZAC2034年、プテラスは見事に完成した。
まさしく傑作機と言える超高性能機で大活躍をみせる事になる。
ここへきてマーキュリーは用無しとなってしまい、大々的な運用をされる事はなかったのである…。

 

更に余談ながら、翼端援護機という思想は日本海軍が思い描いていた思想だ。
日本海軍は九六陸攻という飛行機で敵地を爆撃していたのだが、敵機による被害が甚大で対策を求められていた。
当時の戦闘機は航続距離が短く敵地上空での護衛ができなかったのだ。
そこで翼端援護機という思想が生まれた。

九六陸攻の後継機として開発された一式陸攻は、「通常仕様」と「翼端援護機仕様」の二種類が開発された。
翼端援護機仕様は対空用に20mm機関砲を満載している。これを編隊外周に配置し、強力な火力で敵を追い払う事が期待されていた。

同じ機体なので航続距離は同じ。
戦闘機は小型なので燃料搭載量に限界があって航続距離が短くなりがちだ。すなわち長距離作戦には随伴できない。
ならばいっそ同じ機体で防空仕様を作ってしまえというのが翼端援護機の思想だ。

だが、一式陸攻の翼端援護機仕様は全く活躍する事がなかった。
何故かというと、理由の一つは火器を増設した事で速度や運動性が悪化し通常タイプと編隊を組むことが困難になった事。
「同じ機体なので随伴できるだろう」という目算は失敗に終わったのだ…。

無理をして随伴させても、速度や運動性が低下しているからロクに味方を守る事ができない。
むしろ飛行性能が低下している…そのくせ火力だけは高いので真っ先に撃墜されてしまう。
悲しいかな、「目的に応じた能力は発揮できないのに被害だけは倍する」という完全な失敗作だったのだ。

もう一つはゼロ戦という長距離飛行が可能な次世代戦闘機が登場した事だ。
ゼロ戦は小型戦闘機でありながら爆撃機に随伴できる航続距離を達成した画期的名機であった。
これにより長距離作戦でも戦闘機による護衛が実現し、いよいよ翼端援護機は不要となり軍用機思想から削除されていったのであった…。

マーキュリーは、一式陸攻の翼端援護機仕様とは特にイメージが被る。
翼端援護機仕様の一式陸攻は、下面にガンポッドが付いていて見た目的には強そうでなかなかカッコいい。ファンも多い。
実際の運用はともかく…。そんな事も、マーキュリーに似ているなと思った。

というわけで、以上マーキュリーの運用を考えてみた。
「撃てる」方向で考えたので、バスターイーグルやボンヴァーンとの整合性もとる事が可能だろうか。
根本的は扱いにくくあまり意味のない仕様という考えになったが、「敵制空圏内の施設を攻撃する」という部分においては「使うべきタイミングで使えばそれなりの効果は発揮する」のかなとも思った。
やはり敵制空権の範囲内を撃てる利はないわけではないと思う。
わずかながらも利があるので後々にもボンヴァーンのような仕様が残り相性の良いパイロットと共に少数運用されたのかもしれない。

大砲を飛行ゾイドに積む。ロマンある仕様ではあるので、今回のイメージを元に脳内で飛ばせてみたいと思う。

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