年代ごとの遠景モデルを見てみる

前々回、前回に続いて今回も遠景モデルの話を。

前々回は遠景モデルを作者が楽しんで作っている活き活きとした感じを。
前回はウルトラザウルスを例にとり奥深さを語った。
そして今回は、遠景モデルの全体的な部分を年代ごとに見てみたいと思う。

メカ生体ゾイドは1983年から1991年3月まで続いたシリーズなので、その長い年月の間に少しずつジオラマの造りに変化が生じている。
その事を考えつつ見ていこう。

 

1983-1985初頭
メカ生体ゾイド最初期にあたるこの時期。この頃のジオラマは、後のものと比べて「そのゾイドのみ」を写したものが多かった。


例えばこのような。
正確に言うと、小型ゾイドは数多く映っている事も多い。ただ、大型ゾイドは「単機」で写っている事がほとんどだった。

この頃のジオラマは、例えば「小型ゾイドをはべらせつつ行進するゴジュラス」というようなものが多かった。
全体を「群」として写すというより、「明確に主役となるゾイドが居り、その機を最大限に引き立たせる事に死力している」感じが強い。
「グラビア的な構成」とでも言えようか。
(そして、主役となるゾイドはたいていにおいてゴジュラスであった)

もっとも、最初の頃は共和国ゾイドしかラインナップされていなかった。
当然、味方同士なので戦う事もない。必然的に「行軍」のようなものしかできなかったのだろう。
このような構図は、ラインナップの事情を加味する必要はあろう。

84年後半になると、レッドホーンを筆頭に帝国ゾイドがラインナップに加わった。
これに伴い、ジオラマは「行進」のようなものから「バトルシーン」中心の描写へと変貌した。
ただこの頃のバトルシーンのジオラマは、後の時代に比べると空間の広がりがまだ狭い事が多かった。


例えばこのシーン、画面がちょっと狭いと感じないだろうか。
見事なジオラマではあるが、後の時代と比べると少しこなれていない感じもする。

遠景モデルもこの時代は使われていない。全て本家キットのみによる構成をしていた。

 

1985中期~後期
85年のジオラマも大差はない。
ただ、ジオラマの質はこの時期にどんどん向上した。

85年に発売されたゾイドといえばアイアンコング。
帝国軍はアイアンコングで「大型ゾイドの集中投入」という戦術を行った。
かつてない規模の戦いが起こり、ストーリーは大いに盛り上がりをみせた。ジオラマの質も、それに呼応しどんどん高まっていったのがこの時期なのだ。


例えばこのシーン、先のバトルシーンと比べて空間の広がりを強く感じると思う。
画面に「奥行き」が出てきたのだ。

「奥行き」に加えて、

このようなカットモデル…、内部図解が初めて登場したのも85年だった。
後の時代に続く様々なものが揃ってきたのが85年なのだ。

ただ、依然として85年のジオラマには遠景モデルは登場しなかった。全て本家キットのみによる構成だった。
この点のみは後のジオラマと比べると異なっていた点だ。

さて、83~85年のジオラマ。
最初の頃は画面の広がりがやや不足していた感じ。しかし、徐々に空間が広がりクオリティも向上していった。
だが、遠景モデルはまだ登場していない。

少し視点も変えてみよう。
実はこの時期のゾイドは、まだまだスタートしてから年数が浅く周辺アイテムが存在しない状態だった。
後の時代と違い、遠景モデルに気軽に転用できるミニキットが存在しなかったのだ…。
この頃のジオラマに遠景モデルが登場しないのは、そのような事情を絡めて考える必要でもあった。

 

1986
86年は、ジオラマのクオリティはさらに向上していき様々な名シーンが生まれた。
そして、この年には初めて遠景モデルが登場した。
確認した資料の中では、最初に登場した遠景モデルはこちら。


ウルトラザウルスだ。
遠景モデルの登場はウルトラザウルスの登場と同じタイミング。この規格外の超巨大ゾイドは、ジオラマにも革新を与えていたのであった。

また、同時にサーベルタイガー、アイアンコング、レッドホーンにも遠景モデルが登場している。

サーベルタイガーは、ヘルキャットを見事にサーベルタイガーに化けさせている。

パッと見では気付かないほどの完成度だ。

アイアンコングも、ハンマーロックから作ってあるようだ。

こちらも見事な出来だ。
それにしても、遠景モデルが全くなかった時代から一転して一気にこの豪華さ。何とも凄いと思う。

これらの他にも、更に遠くの位置にも遠景モデルが存在する。
はるか遠くのサーベルタイガー、アイアンコング、レッドホーンは、「ビッグポーズ」のモデルが使われているようだ。

ビッグポーズは、アマダから発売され主に駄菓子屋で売られていたゴム製ミニゾイドだ。
そう、この年の暮れに、ゾイドには初となるミニキット「ビッグポーズ」が発売されたのだ。

ビッグポーズは、全長わずか数cmの小型モデル。「機獣新世紀」時代に発売されたガチャガチャのゾイドコレクションよりも一回り小さい。
ザットン改、ヘルキャット改、ハンマーロック改の各モデルに加えて、ここからはビッグポーズ各も遠景モデルとして積極的に画面内に登場する事になった。

ビッグポーズについて少し補足。
これはゴム製フィギュアで、写真の通り未塗装で提供されている。しかし、水性塗料を使えば塗る事もできた。小型モデルゆえ、細かく塗るのは面倒な作業ではあるが…。
色を塗れるという事は、遠景モデルに使用された大きな理由でもあろう。

ラインナップは、共和国側が「ゴジュラス」「ガイサック」「カノントータス」
帝国側が「サーベルタイガー」「アイアンコング」「レッドホーン」「ヘルキャット」「シンカー」「マルダー」「モルガ」「ゲーター」「モルガ」
だった。やたら帝国側に偏っている気がする理由は不明。

ウルトラザウルスはラインナップに含まれていない。
86年クリスマス商戦アイテムのウルトラザウルスは、86年暮れ発売のビッグポーズのラインナップに加える事は時間的に出来なかったのだろう。
もしウルトラザウルスがビッグポーズのラインナップに間に合っていれば、その後のウルトラザウルス遠景モデルの歴史は少し変わっていたかもしれない。

ビッグポーズは、先述したラインナップに加えて「当たり」用の景品も存在した。

小型ゼンマイゾイドと同程度の大きさで造形された「ゴジュラス」「アイアンコング」「サーベルタイガー」だ。
同じゴム製ながら、やはり大きいので造形は緻密になっている。
これらのモデルも、今後において当然のようにジオラマ中に登場し盛り上がりに大きく貢献していく事になる。

しかし、上のサーベルタイガーやアイアンコングのような、ビッグポーズ(当)を使用せず、「わざわざ」ヘルキャットやハンマーロックを改造しているものも併用されている。
この事は改めて面白い。

遠景モデルの登場で、ゾイドのジオラマの空間の広がりは飛躍的に増した。
個人的には、ゾイドのジオラマの表現はこの年にほぼ完成したと思っている。

 

1987
87年は、86年中期以降と同じノリで作られている。ただ、クオリティは更に磨きがかかっている。
遠景モデルはもちろん登場している。


この年の遠景モデルと言えば、「ハンマーロック改」のような改造機、あるいはビッグポーズだ。前年と変わる事はない。
ところでこの画面にはアイアンコングが多く映っている。
そしてよく見ると、本家キット、ハンマーロック改、ビッグポーズ(当)、ビッグポーズ(通常)と全てのコングが集結しているのが何とも面白い。

さて、87年に作られた遠景モデルで他に面白いものといえば、シールドライガーの遠景モデルだろうか。


ぼやけており全容がつかみにくいのが悔やまれる…が、おそらくこれはビッグポーズ(当)のサーベルタイガーから作られていると思われる。
タテガミにあたるパーツを貼り付け、尻尾もシールドライガーを模したものに変更。そして塗装。これらにより上手くシールドライガーになっている。
この時期には、シールドライガーのミニキットというものは存在しなかった。それゆえの措置だろう。

 

1988
88年になると、ウルトラザウルスで”傑作”遠景モデルが登場した。


これに関しては前回のコラムを参照。このような遊び心は最高だ。
88年は、メカ生体ゾイドが絶頂を迎えた時期だ。ゾイドを掲載する雑誌は飛躍的に増えた。
ジオラマ制作も大変だっただろう。しかし、それ以上に楽しんでいる事が伝わってくる。
あらゆる作業が上手く連携・機能し好循環を作り、このような遊びを入れる余裕さえあったという事だろうか。

この他にも、


プテラスを改造したサラマンダーが登場したりした。
やはり、このモデルも素晴らしい出来をしている。わざわざ言われなければ気付かない程のレベルだ。
このサラマンダーは、数機作られ後々まで活躍している。


暗黒大陸でもこの通り使われ続けている。
ちなみに、よく見るとプテラス改の二機、尾の造形に差が見られる。右の機はプテラスそのままだが、左の機はよりサラマンダーらしく改造されている。
このような所まで見ても面白い。
ただ…、更に下方に居る極小モデルの方は解析できなかった。プラ板などによる完全自作だろうか…。

さて、88年の遠景モデルに話を戻す。
この年には、ビッグポーズに加えてゾイドの遠景モデルとして最適なミニキットも発売された。Jr.ゾイドだ。


Jr.ゾイドのラインナップは、「ゴジュラス」「アイアンコング」「両MK-II量産型」「ウルトラザウルス」
ただ、不思議な事にこの年はJr.ゾイドがジオラマ中に積極登場する事はなかった。
確認できた中では、


この水上を進むアイアンコングが唯一だった。(もう一つ奥のコングはビッグポーズのようだ)
Jr.ゾイドが大々的にジオラマ中に登場するのは翌年を待つ事になる。

また、こんな変り種もこの年に発売された。


オリプラコレクションだ。
だが、このシュールな姿から分かるように、こちらも遠景モデルとして使用される事はなかった…。

その他だと、


こんなマッドサンダーも確認できた。これは…、完全自作だろうか。元となったものが何なのかを確認する事はできなかった。
(この時期はまだマッドサンダーのミニキットは存在しない)
自作とすれば、極めて良い出来をしている見事なモデルだ。

 

1989
この年は、ゾイドの遠景モデルとして最適なミニキットが発売ラッシュを迎えた。
カバヤがゾイドに参戦し、ゾイドガム、ゾイドラムネ、ゾイドミニプラモチョコといった極小超クオリティモデルを発売したのだ。


これらは、直ちに劇中に登場する事になった。


例えばこのシーンのデスザウラーは、手前は本家キット、奥はゾイドガムが使用されている。
カバヤの食玩は、メカ生体ゾイド終焉の時まで一貫してジオラマ中に登場して画面を盛り上げてくれた。
最後に登場したのは、おそらくこのシーン。


キングゴジュラスと共にコマンドウルフが戦っている。

前年には使用が少なかったJr.ゾイドも、この年は大いに活用されている。

ただ、Jr.ゾイドは色も塗らずそのまま使用される事も多かった…。だからクオリティの高い玩具でありながらも画面への「なじみ」が低いカットが多い気がする。
ここの所は前回のコラムでも指摘した通り。とても惜しいと思う。

一方で、この年になるとビッグポーズは遠景モデルとしてあまり使用されなくなった。
ラインナップが古く、既に一線を退いたゾイドが中心であった事。
そしてゴジュラスとアイアンコングは上位互換ともいうべきJr.ゾイドに置き換わったのが原因だろう。

この年のその他で特筆すべき遠景モデルと言えば、これだろうか。
先に「シュール」と書いたオリプラコレクションが、実は幾つかの箇所で遠景モデルとして使用されている。

ウルトラザウルスとディバイソンは造形良いから分かるとしても…、シールドライガーMK-IIを使うのは何とも意地を感じる。
しかも、それなりに違和感なく使えているのだから凄い。

 

1990-1991
この時期は、「レドラー改」のギル・ベイダーが製作された。


改めて良い出来だ。

ただ、この年のジオラマは基本的に前年までのテイストを引き継いでいると言って良いものであった。
あまり変化は見られず、特筆すべき事は少ない。

強いて言えば、


こんなモデルが登場している。
ガンブラスター駐屯基地を襲うアイス・ブレーザーという図なので、おそらくガンブラスターの遠景モデルなのだと思われる。
だが、ちょっと怪しい形をしている。改造ガンブラスターなのだろうか…?
さて、このモデルはゾイドガム版のゴルヘックスから改造されているようだ。


ボディはゴルヘックスから、砲はおそらくランナーを切って再現してある。
遠景モデルから別の遠景モデルとを作るとは面白い。
ビッグポーズのアイアンコングをウルトラザウルスに改造したような事が、この時代に再び行われていたとは驚きだ。
ちなみに、ガンブラスターは精巧な出来のゾイドガム版やミニプラモチョコ版というのが存在した。
わざわざ作る必要がないのに作ってしまう「楽しんでる感」にも、改めて大いに惹かれる。

この年の残念な事を強いて言えば、キングゴジュラスの遠景モデルが登場しなかった事だろうか。
キングゴジュラスは常に「キングゴジュラスを中心に」ジオラマが製作されたから、遠景モデルは構成所必要なかったという事だろう。

ある意味、キングゴジュラスのジオラマは初期の頃のテイストに戻ったと言えるのかもしれない…。
初期の頃、ゴジュラスが周囲に小型ゾイドをはべらせて行軍するようなシーンのジオラマが多かった。
主役はゴジュラス。常にピントはそこに合っており遠景モデルは必要ない。
キングゴジュラスは、ゴジュラスの名だけでなくジオラマのテイストも引き継いでいた…と。

 

さて、そんなわけでざっとメカ生体ゾイドの遠景モデルを見てきた。
完全ではないものの、おおまかな推移は紹介できたかと思う。
遠景モデルは面白い。時代ごとの傾向、ミニキットの発売を絡めて考えると更に面白い。
これからの時代は、同様のものはもう生まれないと思う。しかし、この遠景モデルの魅力はぜひ噛みしめ意識し続けて欲しい限りだ。

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