無敵? ギル・ベイダー2

前回のコラムではギル・ベイダーの無敵時代における描写の問題を考えた。
無敵時代に、もっと魂を震えさせ揺さぶるような描写があれば良かったのに…と強く悔やまれる。
しかし、ギル・ベイダーには更にマズかった事があると思う。
それは、対抗機が登場した後の描写だ。

メカ生体ゾイドは、「年末に最強ゾイドが登場する」→「春~夏頃に最初の対抗機が登場する」→「年末に新たなる最強ゾイドが登場する」のが定番になっている。
デスザウラーが登場→ディバイソンが登場→マッドサンダーが登場 という流れが最も分かりやすいだろうか。

さて、ギル・ベイダーにこれを当てはめるなら、最初の対抗機はオルディオスである。

対抗機だけに、オルディオスは就役後直ちにギル・ベイダーに挑み激戦を繰り広げた。して、その描写がどうだったかというとギル・ベイダーにとって悲惨だ。

 

デスザウラーは、ディバイソンには苦戦しつつも貫禄を保ち、帝国軍優位の戦況を変えさせなかった。
敗北した事が無いわけではない。しかし、それはアロザウラーと共同で罠をはり火山に突き落とすという奇策だった。
その戦いぶりは、裏返せば正面きって戦うのは無理と言っているようなものでもあった。

さて、ではオルディオス対ギル・ベイダー。
新ゾイドバトルストーリーは、オルディオス参戦直後に終わってしまった。
従って、以下に紹介する描写の多くは学年誌のものになる。
オルディオスは、学年誌では90年3月に一斉デビューした。そこからのしばらくを紹介しよう。

小一90年3月
オルディオスが登場し、デスザウラーやアイアンコングを含む暗黒部隊を撃破する。怒りに燃えたギル・ベイダー二機が出撃し、オルディオスを追う。
しかしオルディオスの運動性に追従できず、逆に激しい運動により空中分解し二機とも墜落してしまった。

※ギル・ベイダーが旋回性能でオルディオスに大きく劣る(2倍の半径が必要)のは新ゾイドバトルストーリーにも書かれている。
 おそらく、このギル・ベイダーは強度限界を超える動きを行ったのだろう。

それにしても、初っ端から二対一で負けとは…。
オルディオスの方は高機動で翻弄しただけで、全くの損傷がなかった。鮮やか過ぎる干渉で初陣を飾ったのだ。

 

小一90年4月
共和国軍の港を襲うギル・ベイダー。港のウルトラザウルスやゴジュラスが破壊される。
この状況に、オルディオスが出撃した。オルディオスは、グレートバスターを撃ち込みギル・ベイダーのツインメイザーを破壊した。
更に、ゴジュラスが対空用レーザーネットでギル・ベイダーを捕らえた。動きが止まるギル。その隙に、オルディオスは更にサンダーブレードつきたて突撃した。

サンダーブレードを受け、ギル・ベイダーの片翼は吹き飛んだ。ギル・ベイダーは這う這うの体で基地に逃げ帰った。

 

小二90年3月号
改造ギル・ベイダー「ギガンティス」が猛威を振るっていた。この事態にオルディオスが出撃した。
オルディオスは一直線にギガンティスに突撃し、サンダーブレードの一撃を叩き込んだ。

ギガンティスは翼に大きな損傷を受け逃げ帰った。

小二90年5月号
空中で両機は対峙する(※オルディオスはデスザウラー戦(4月号)の直後に連戦を強いられている)。
先制攻撃を行ったのはオルディオス。グレートバスターが直撃し、ギル・ベイダーの翼は穴だらけに。あっけなく墜落する。
地上でもがくギルに追撃をかけるオルディオス。
しかし、ギルはまだ十分な生命力を残していた。
地上戦では体格差が力量差になる。オルディオスはギルに押さえつけられ、危機に陥った。
だがその時、共和国軍の増援ゴッドカイザーが現場に現れた。

ゴッドカイザーはギル・ベイダーに飛び乗り、メタルクローでギル・ベイダーを切り刻んだ。
腕の一振りで翼が完全に切れ、ギル・ベイダーは翼を失った。完全な劣勢、危機。
結局、ギル・ベイダーはオルディオスにトドメを刺す事もできないまま、緊急脱出ロケットを使い現場から逃げ出すのが精一杯だった。

※この号は「ゴッドカイザーと協力すれば、もうギル・ベイダーも怖くないぞ」という言葉で締めくくられている。

 

小三90年3月号
10機を超えるギル・ベイダー爆撃編隊にたった一機で突撃するオルディオス。
先頭のギル・ベイダーに狙いを定めるオルディオス。ビームスマッシャーを回避し、サンダーブレードを撃ち込む。
コックピット付近をぶち抜かれたギル・ベイダーは墜落した。

(これは新ゾイドバトルストーリーに収録されたエピソードと同じもの)

 

小三90年4月号
対ギル・ベイダー用の改造ゴジュラス「マグネゴジュラス」が完成した。
マグネゴジュラスは、二機がかりでギル・ベイダーを捕らえ空中で停止させる事に成功した。
その間に、オルディオスが突撃準備を整える。しかし、ギル救援の為に現場に改造デッド・ボーダー「フライングボーダー」が出現した。
フライングボーダーはマグネゴジュラスを倒し、これによりギルは再び動き出した。

共和国軍の作戦は失敗した。

 

という事で、以上、オルディオス登場直後のエピソードを集めてみた。
合計6号の戦いの中で、完全破壊された機が3機。大幅修理を要するであろう機が3機。
これは、ちょっとやられすぎでは………。
何とか、小三90年4月号だけは貫禄を見せ付けているが…。(もっとも、フライングボーダーが居なかったらどうなってたのやらとは思えるのだが)

 

それにしてもオルディオスは本当に強い。2対1を制したものまである。
これはもうギルの時代は終わった! という印象を持たれても仕方がない…。
ギルを仕留めそこなった戦いも多い。しかし、それらについてもちょっと情けない描写が目立つ。
「逃げ帰った」「もう恐くないぞ」といった描写になっているのだから…。

唯一、善戦している小三90年4月号。しかし、これも気になる箇所がないわけではない。
というのも、実は対ギル・ベイダー用の捕獲用ゴジュラスはもう一つある。
「ゴジュラスボルガ」だ。

この改造ゴジュラスは小一89年11月号で登場した。
マグネゴジュラスと同じく、ゴジュラスボルガも二機がかりでギル・ベイダーの捕獲を試みた。
しかし、ギル・ベイダーの超パワーで強引にそのまま飛び去られ被撃破になった。

同じゴジュラスなので、ボルガもマグネも似たような力だと思う。しかし、こちらでは被撃破。
されど、マグネゴジュラスは捕獲成功…。どうも、ギル・ベイダーが弱体化してるように感じられてしまう。

この他にも、共和国軍にデータを採取されほぼ同タイプの機体を作られる(シルバーベイダー)など、情けない描写も目立つ。
オルディオスが参戦してからの印象は、まさに没落だった。
もうちょっと何とかならなかったのだろうか…。

 

さて、ここまでは個々の戦いに焦点を当ててギル・ベイダーの衰退を考えた。
ここからは、更に戦史的に見た衰退も考えてみたい。

第二次中央大陸戦争時代、デスザウラーを擁するゼネバス帝国もディバイソンの就役後は苦戦を強いられ支配域を狭めている。
しかし、それはデスザウラーが行動できない中央山脈だった。言い換えれば、デスザウラーへの勝利を諦めたという事でもあった。

対し、オルディオス出現後の共和国軍は、全面的に勢いを取り戻し敵首都を目指す積極的な大進撃を再開している。
そしてキングゴジュラスが参戦するよりも先に、暗黒軍首都にまで迫り総攻撃を開始していたりする。

ギル・ベイダーは、オルディオス出現前においては猛威をふるい、共和国軍を暗黒大陸からの撤退寸前にまで追い込んだ。
その功績は凄い。
しかし、オルディオスを得た共和国軍はそこから盛り返し首都にまで迫った。オルディオスのとんでもない戦略的価値が見えてくる。
また、この戦況を見ると、キングゴジュラスがいなくても勝ってたんじゃないかな…とも思えてくる。

ギル・ベイダーは、デスザウラーと違い飛べる。
すなわち、デスザウラーのような「運用できない場所」は限りなく少ない。
それでいて共和国軍の勢いを止める事が出来ず首都にまで攻め入られたのだから、失態は極めて大きい。

これは…、
「ディバイソンが中央大陸西側に進出し、デスザウラーを撃退しつつジワジワと進撃を続けゼネバス帝国首都にまで迫った」
ようなものと言えば分かりやすいだろうか。
もし上記のような戦史があれば、デスザウラーには今ほどのカリスマはあっただろうか?
「ディバイソンを持ちながらも、正面からの戦闘は危険すぎた。だから支配域を増やしつつも決め手が得られなかった」
のだから、凄いのだと思う。

更に言えば、このような状況だからマッドサンダーは活きた。
キングゴジュラスは最強ゾイドだとは思う。しかし、上記のような戦歴なのだから、マッドサンダーのようなカリスマは感じにくい…。

 

というわけで、前回と今回の二度に分けて、ギル・ベイダーの没落について考えてみた。
デザインは、改めて良いゾイドだと思う。

禍々しく、力にあふれ、それでいて美しい。そして底が見えない。
デスザウラーに並ぶ…、いや、超える事すら可能だったと思う。それだけに、描写において不満が感じられるのは残念でならない。

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