無敵? ギル・ベイダー

「無敵」といえば、やはりデスザウラーだと思う。
スペックというより印象が凄まじい。その辺りは以前にコラムにもしたので、よろしければ参照されたし

さて、暗黒大陸編で出現したギル・ベイダーは、個人的にはデスザウラーにも匹敵する素晴らしいデザインと設定を兼ね備えていると思う。
超巨大ドラゴン系ゾイドであり、「不死鳥」とも称される圧倒的強さは、公式サイドとしてもデスザウラーの次世代を狙ったものであろう。
しかし、残念ながらデスザウラーを更新し新たなるカリスマゾイドとなるには一歩不足していたとされる。


デザインは禍々しく、特に圧倒的な力を持つものだけが許される表情が魅力的だと思う。
無表情なデスザウラーと違い、表情を持つ。しかし、その表情は不敵な感じ。貫禄がある。
両翼のビームスマッシャーも、今までの武器とは明らかに違うもので、ギル・ベイダーだけが持つ格別な感じがした。

しかし、なぜ新たなるカリスマゾイドになれなかったのか。
ギル・ベイダーが登場した頃、既にメカ生体ゾイドは絶頂期を過ぎ徐々に人気が落ち始めていた。
だからかもしれない。しかし、それ以外にも要因があったと思う。

そんなギル・ベイダーについて考えたい。
また、「無敵時代」と「オルディオス登場後」に分けて考えたいとも思う。
今回は、まず無敵時代における描写について考える。

 

ギル・ベイダーが、なぜデスザウラーほどの無敵イメージを得るに至らなかったのかを考えると、私はその戦法にあると思い至った。
以下、最強ゾイドとして完璧な描写をされたと評されるデスザウラーとの比較を含めながら進めたい。

デスザウラーの強さの印象は、改めて語るまでもあるまい。
その恐怖。こいつを敵に回さなくて良かった……。味方にすらそう思わせる圧倒的カリスマ。

ギル・ベイダーは歴代の「最強ゾイド」の中の一機だ。
さて歴代最強ゾイド。
それらは「先代の最強ゾイドを倒す」事により世代交代を印象付ける。
ギル・ベイダーが新たなるカリスマゾイドになれなかった理由は、その一戦にあったと思う。

デスザウラーがウルトラザウルスを倒し最強ゾイドとなった一戦は、エリクソン大佐の乗るウルトラザウルスとの一戦だ。
この時のデスザウラーは、「思いもよらない奇策で奇襲するウルトラザウルスの先制攻撃を受け」、更に「ウルトラにとって圧倒的優位、なおかつデスザウラーにとっては全く想定されていない水中戦」を強いられた。

至近距離からウルトラキャノン砲の直撃弾を複数与え、更に巨体を活かし馬乗りになり押しつぶす。

まさに猛攻。
しかし、その圧倒的な「敵のフィールド」で戦い、敵の攻撃を全て受けきった上でデスザウラーは逆転勝利した。
だから、ものすごいカタルシスを感じた。

上記の一戦は、ゾイドバトルストーリー2巻の展開だ(学年誌としては小三に掲載されている)。
これに加え、他の学年の学年誌掲載のストーリーもアツかった。
小一では「無敵・デスザウラー」のコラムにある通り。
海上から砲撃するウルトラザウルスを荷電粒子砲で攻撃するという、やはり敵のフィールドでの戦いを強いられ、しかし勝利するというパターンだった。
小二では、サラマンダー&ウルトラザウルスが共同で鹵獲に挑むも失敗するというエピソード(これはバトスト3巻に収録されているものと同じ)があった。
敵が誇る2大ゾイドによる共同戦線を余裕で撃退。やはり凄い。

デスザウラーだけじゃない。マッドサンダーもまた、敵のフィールドで戦い制するゾイドだった。
デスファイターとの一戦では、エクスカリバーでの一撃を受け止め、更に荷電粒子砲をも受けきり、そしてからマグネーザーで貫いた。

マッドサンダーVSデスザウラーは多数が掲載されているが、基本的な推移は多くが似ている。
全力の荷電粒子砲を防いで、その後にマグネーザーで貫くのが黄金パターンだ。

また、小一に描かれた戦いにはとてもアツいものもあった。

この一戦は、帝国機がまさに総動員され「デスザウラーが最も優位に戦える状況」を作り出した上で開始された戦いだった。
結果は、やはりマッドサンダーの勝利。このような戦いもあった。

デスザウラーもマッドサンダーも、敵に全ての攻撃を出し切らせて、その上で勝利している。
だからもう「認めざるを得ない」
最強ゾイドが変わった。敵ながらあっぱれであると言うしかないと思う。

 

さて、ここからはギル・ベイダーを見よう。
これは上記と全く事情が違う。
ギル・ベイダーとマッドサンダーの戦いは、「海上航行中のマッドサンダー艦隊を空襲し一方的に撃破した」というものだった。


うぅーん…。
このマッドサンダーは、外観からして浮いているのがやっとじゃないだろうか(脚部にフロートを付けた簡易改造機でしかない)。
マッドサンダー艦隊旗艦のサンダーパイレーツはともかく、その他のマッドサンダーはマトモな海戦なんてできないだろう……。
海上航行中のマッドサンダーは、その真の力を発揮する事が全く叶わないまま…、せいぜいキャノンビーム砲で対空射撃を行う程度しか見せ場がないまま全滅した。

デスザウラーやマッドサンダーと比べ全く異なるのは、「敵に全力を出させ、その上で倒す」「敵のフィールドで戦って勝つ」ではなく、 「敵の攻撃を封じた上で勝つ」「自分にとって有利なフィールドで戦い勝つ」となっている点だ。
だからモヤモヤが残ると思う。

ウルトラザウルスがデスザウラーに倒された事は、もはやウルトラ派さえ交戦力の差を認めざるを得ないだろう。
デスザウラーがマッドサンダーに倒された事も、もはやデスザウラー派さえ交戦力の差を認めざるを得ないだろう。
対しギル・ベイダーとマッドサンダーの一戦は、「海じゃなかったら……」というシコリが大いに残る。
そりゃあそうだ。全力が出せていないのだから。マッドサンダーの力はキャのビーム砲ではない…。
「認めざるを得ない」に至っていないと思う。

 

自分に有利なフィールドで戦うというのは当然ではある。わざわざ危険を冒す必要など無い。
「空を飛べるギル・ベイダー」「海上を移動するマッドサンダー」このような要素があれば、必然的に上記した戦いになるかもしれない。
しかし、やはりそれでは腹の底からわきあがる興奮を感じる事ができない。
この点が、ギル・ベイダーの新たなるカリスマゾイドになれなかった最大の理由じゃないかと思う。

「ギル・ベイダーがマッドサンダーに勝ったんだ!」とは言える。しかし…、
「デスザウラーがウルトラザウルスに勝ったんだ!」は、他に「奇襲されたのに勝った」「キャノン砲にも耐えた」「水中戦なのに勝った」など、相乗効果で「もっと凄い!」を重ねて言える。だから印象がより強くなる。
ギル・ベイダーにはそれが無い。

「リアル」なのは良い事だと思う。ゾイドバトルストーリーには、大いにそれを求めてる。
けれども、一方で「ゾイドがフィクションであり、フィクションならではの豪快さを意識する」事も大事だと思う。
「リアル」と「フィクションならではの豪快さ」という二要素バランスを見極めることが大事じゃないだろうか と強く思うのである。

ゾイドのリアルを感じさせる良い部分というのは、「ウルトラザウルスが登場したから勝った」「デスザウラーが登場したから勝った」「マッドサンダーが登場したから勝った」という単純な図になっていない所だと思う。
ウルトラザウルスは上陸作戦を可能にした。デスザウラーは電撃侵攻を可能にした。マッドサンダーは開発と並行し行われた中央山脈攻略の成果が大きかった(マッドサンダーは中央山脈では戦えない)。
最強ゾイドだけじゃなく、その軍が採った戦略が見えてくるのが凄い。
しかし、一方では「このゾイドが最強だ!」 とチビッコに分かりやすく伝える事もバトストは忘れてない。

フィクションならではの豪快さと、そしてリアルさ。
この双方のバランスが絶妙だからこそ、多くのユーザーがゾイドバトルストーリーに惹かれているのではないだろうか。
そういった意味で、ギル・ベイダーとマッドサンダー艦隊の戦いは確かに合理的でリアルだった。
けれども、それに傾倒しすぎて腹の底からわきあがる興奮を感じる事ができなかった。

変な例えかもしれないが…、戦艦大和を航空機でなぶり沈めるのは合理的と言える。
しかし、戦艦好きは大和と米戦艦のガチ砲戦を見たかったと思うのである。そんなもんだと思う。

 

さて、上記の一戦は、新ゾイドバトルストーリーの展開(学年誌としては小一に掲載されている)だ。
ここからは、他の学年の学年誌掲載のストーリーも見てみたい。

小二の戦いは、一戦目は飛行タイプの「サンダーヘルクレス」との戦いだったが、これは勝負付かずに終わった。
二戦目は、これもまた改造飛行タイプの「マッドジェット」との戦いで、こちらは勝敗まで描かれた。

ギル・ベイダー出現を受け、マッドジェットが出撃する。

マッドジェットの強烈な体当たりを受け地上に叩き落されるギル・ベイダー。

ギル・ベイダーの羽が砕かれる。止めを刺すため追撃で突進するマッドジェット。しかしその時、ギル・ベイダーの胸部がパカリと割れ巨大なプラズマ粒子砲が現れた。

ギル・ベイダーは改造タイプ「ギルカノン」だったのだ。
プラズマ粒子砲を受け、マッドジェットは敗北した。

うーん…。これも、ちょっとどうかと思ってしまう。
この戦いの最大のポイントは、ギル・ベイダーがノーマルタイプだったら負けてただろと思えてしまう所だ。
例えばデスファイターVSマッドサンダーのように、敵側は超強化してもいいと思う。
「超強化された敵をもノーマル装備で倒す強さを見せてこそ、最強を名乗るに相応しい」と思うのだ。
強化改造タイプは、言ってみればドーピングみたいなものだろう。
「そこまでして勝ちたい執念」そして「そこまでしなければ勝てそうもない戦力差」を表しているように思う。
しかし、新型最強ゾイドの方がさっそく強化改造しているというのは…。その強化装備を使ってようやく勝ったというのは…。
ちょっと、頂けないと思う。

ただ、小三では新たなる最強ゾイド誕生に相応しい描写もあったりする。

ギル・ベイダーの猛攻を受け後退する共和国軍。ついに、マッドサンダーがギル・ベイダーに挑む事になった。

一直線にマッドサンダーに向かうギル・ベイダー。
しかし、不意にガンブラスター部隊が現れ猛烈な砲撃を見舞う。

ギル・ベイダーはこれを一蹴し、戦いを続ける。
そして遂にマッドサンダー対ギル・ベイダーの戦いは始まったが、それは地上戦になる。

地上戦で、最強の武器マグネーザーをぶつけるマッドサンダー。
ギル・ベイダーは、翼のビームスマッシャーを回転させそれを受ける。そして…、

マグネーザーを折る。
これにより決定打を失ったマッドサンダーは、粘りつつも徐々に後退し崖から転落する。
転落時、柔らかい腹を見せたマッドサンダーはツインメイザーで貫かれ生命体が停止する。

この号は凄い。もうここまでやってくれたなら認めざるを得ない。カタルシスを感じる。
単機のギル・ベイダーに対しガンブラスターを含む部隊で迎撃している。すなわち、共和国側に有利なフィールドで戦っている。
「マッドサンダーの方がパワーや防御力は上」と書かれているし、マグネーザーを失いつつもマッドが粘っている事は極めて公平な描写と言える(柔らかい腹を見せて初めて貫かれている)。
その上で、それら不利を覆しつつ勝っているんだからギル・ベイダーは凄い。
マグネーザーとビームスマッシャーという、両者の最強装備がぶつかり合ってるのも象徴的だ。
……この戦いは新ゾイドバトルストーリーに収録して欲しかった……。

ただ、小三を除き「ギル・ベイダーは最強だ……」という描写は少なく、自分にとって優位なフィールドで戦って勝つパターンが多い。
この辺りが、カリスマの印象を植えつけるに至らなかった最大の要因になったと思う。

 

繰り返しになってしまうが、「合理的に勝つ」事は当たり前の事である。
しかし、ゾイドといえばパワフルな豪快な戦いを大事にしてほしいというか、そういったカタルシスを描いてこそなんじゃないかなとも思う。
リアルな描写は求める。リアルというのは合理的な行動という事だ。それでも、一方でフィクションならではのロマンも忘れないでほしいというワガママな要望である。
ワガママだが、そんなもんなんじゃないかなぁとも思う。

そういえば、機獣新世紀ゾイドも後期はそんな描写が増えてしまったなと思う。
ダークスパイナーは「戦わずして勝つ」であり、セイスモサウルスは「敵の射程圏外から精密射撃を行い勝つ」だった。
それらを悪いとは言わない。しかし、やっぱり釈然としないものは残ってしまったと思う。

前期は、未完成で上半身だけにもかかわらず圧倒的な力を見せたオリンポス山のデスザウラーであったり、
デススティンガーがそのパワフルさで「それまで最強をかけ競っていた二機」をまとめて圧倒する力を見せ付けた事であったり、
装甲をパージし野生体本来の力で戦うライガーゼロやバーサークフューラーであったり、
力強さというか、豪快さを前面に押し出した描写が多かったと思うう。
しかし、次第にそういった描写はなくなっていった。
メカ生体ゾイドも機獣新世紀ゾイドも、豪快さをガチンコバトルでストレートに描写する事が減った時期が陰りを見せた時期に重なる…というのはとても興味深い。

 

さて、今回はギル・ベイダーの無敵時代における描写を見て考えてみた。
小細工を弄するのはその辺のゾイドで良い。でも最強ゾイドなら相手の全てを受けそれでも勝つパワフルさを見せ付けて欲しい。
その点で、ギル・ベイダーは大いに失敗してしまったと思う。

さて、今回のコラムはここまで。次回は、対抗機であるオルディオスの参戦後も考えてみたいと思う。

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