暗黒軍による中央大陸侵攻のシナリオを妄想する②

今回のコラムは、こちらの続き。
そろそろシリーズが長くなってきたが、今回でようやく完結になるので、もう少しだけお付き合い願いたい。

 

さて、前回は暗黒大陸の事情を考えた。なので、今回はその補足的なものから進めていきたい。

前回、「ガイロス帝国とゼネバス帝国は、第一次中央大陸戦争時に密約を交わしていた」とした。
この事に肉付けしたい。
「第一次中央大陸戦争時に密約を交わした」 これに関しては確実だと思っている。
というのも、第一次中央大陸戦争の最終局面は、ゼネバス皇帝と残存兵がシンカーに乗って暗黒大陸へ脱出した事だった。

「シンカーで中央大陸を脱出し暗黒大陸へ行ったゼネバス皇帝と残存兵」
シンカーの航続距離から考えると、どうなるだろう。
残念ながら、シンカーに航続距離の設定は無い。ただ、シンカーに中央大陸・暗黒大陸間を無補給で行ける能力があるとはとても思えない。

また、あの時のシンカーは、整備が万全でなかった可能性が高い(多くは、各地からボロボロ状態で辿り着いたシンカーを修理したものだろう)。
一人でも多くの兵を乗せ積載量もギリギリまであったと思える。
更に、脱出時は危険区域をいち早く脱出する為、全力で飛んだと思う。
こういった事情を加味すると、ますます足りないと思う。

あの脱出は、
「シンカーでバレシアから脱出する」

「沖合いで暗黒軍救助部隊が待ち構えておりシンカーを収容」

「暗黒大陸へ撤収」
という三段階があったと思う。

…沖でシンカーを収容する別働部隊の手配…。こういったものは、既にゼネバス帝国軍には行うだけの余力がなかっただろう。
仮にその力があったとしても、「中央大陸から共和国軍の監視をかいくぐって沖に出る」なんていう事が、あの状況で出来たとは思えない。
ただ、予想だにしない暗黒大陸の方からやってきたのなら、あるいは監視の目も届くまい。

そんなわけで、暗黒軍は帝国軍の脱出部隊を迎える為に、密約によってはせ参じたと確信するものである。

補足は以上。では、その上で更に妄想していこう。

 

ガイロス帝国は、なにゆえゼネバス帝国との密約を交わしたのだろう。
それについては、前回のコラムで推測した。
中央大陸への憎悪。加え、いずれ中央大陸が暗黒大陸へ進出する事への恐れ。
ガイロス帝国の平和を保つ為には、中央大陸を支配しコントロールする必要があると考えた。
それゆえ、ゼネバス帝国との密約を交わした。

当初、ガイロス帝国の暗黒軍は、中央大陸を容易く制圧できると考えていた。暗黒軍のゾイドの性能は高く、攻め込む時期さえ見極めれば可能と予想されたのである。
しかし、グローバリーIIIが事態を一変させた。
中央大陸、ゼネバス帝国とヘリック共和国は技術革新を果たし、その性能は一気に上がった。また生産性も向上し、現状の暗黒軍では全く勝ち目が無いものとなったのである。

幸いにして、事態はガイロス帝国にとって良い方向に動いた。
ゼネバス帝国は劣勢に陥り、救援を求めてきたのである。
この機に、ガイロス帝国はグローバリーIIIの技術を会得する事が出来、遅ればせながら技術革新を果たした。

 

ゼネバス帝国は軍備の再編を果たし、再び中央大陸へ戻っていった。D-DAY上陸作戦、そして第二次中央大陸戦争の開戦である。
中央大陸へ帰還するゼネバス帝国軍を見届けた後、ガイロス帝国は、再び中央大陸戦制覇のシナリオを構築した。

状況は変わった。
ガイロス帝国も技術革新を果たし、中央大陸に双肩するゾイドを保有できるようになったのだ。
しかし、そうとはいえ困難なものが予想された。なにせ、暗黒大陸の資源は乏しい。中央大陸と比べ物にならないのである。
以前なら、強力なゾイドという個々の性能で押し切る事も可能だった。しかし、今や生産性は飛躍的な向上を果たしており、ゾイドの数は劇的に増えた。
もはや質で量を覆す事は不可能であった。
性能面に不足はないが、しかし物量が絶対的に不足している。この難しい状況を覆すべく、研究が続けられた。

そのシナリオはどんなものだっただろう。確認されている戦史から読み解いていきたい。
「新ゾイドバトルストーリー」「学年誌」「てれびくん」を使用し、いちど資料を整理してみよう。

 

~開戦までの流れ~
開戦までの流れは、どのメディアもあまり大きな差はない。

 追い詰められたゼネバス帝国。しかしそこに突如として暗黒軍が出現する。
 暗黒軍は共和国軍を蹴散らしてゆく。
 自分達を助けに来てくれたと思う帝国軍。しかし暗黒軍は突如として銃口を帝国軍に向けた。
 密約は裏切られたのだ。
 ゼネバス帝国の残存兵力は、全て暗黒軍によって奪われた。
 ヘリックはこの事態に、暗黒軍との戦争を決意する。
 ここに大陸間戦争が幕を開けた。

しかし、開戦直後の状況は大きな差がある。

~開戦直後~
新ゾイドバトルストーリーだと、開戦の次のページは共和国の上陸部隊(シーマッド&マッドフライ)のシーンになっている。
つまり、開戦後の最初の戦いは、「共和国の上陸部隊と、それを迎え撃つ暗黒軍」というもの。
しかし、学年誌・てれびくんだと、いずれも重要な戦史が語られている。
ニカイドス島の一件の直後、中央大陸の各地で暗黒軍による上陸作戦が決行されているのだ。

■てれびくん
 デッド・ボーダーとヘル・ディガンナーの大部隊が上陸を開始するが、マッドサンダーとディバイソンを中心とする共和国最強部隊が水際で激しく抵抗する。
 暗黒軍の上陸作戦は何とか阻止された。

■小一
 共和国の研究所がある島に、ダーク・ホーンを中心とする暗黒部隊が上陸する。蹴散らされる守備隊。
 だが、実は研究所には完成寸前のガンブラスターが居た。
 守備隊が何とか時間を稼ぎ、ついにガンブラスターは完成する。これにより暗黒軍部隊は撃退されたのだった。

■小二
 中央大陸にデッド・ボーダーを中心とする暗黒軍部隊が上陸した。
 サラマンダーやウルトラザウルスが立ち向かうが、強力な暗黒ゾイドに全くかなわない。
 しかし、改造ゾイド「ゴールドサンダー」が投入され、ようやく暗黒軍部隊の撃退に成功した。

■小三
 中央大陸に暗黒軍部隊が上陸した。
 デッド・ボーダーは小さなボディにも関らず巨大なパワーを秘めており、ウルトラザウルスを軽々しとめてしまった。
 唖然とする共和国軍。しかし上陸部隊は小規模だ。大多数で周囲を囲みジリジリと輪を狭めてゆく共和国軍。
 だがその時、地割れが起こり地中から無数の敵が出現した。それは旧ゼネバス帝国のゾイドである。
 実はゼネバス帝国は地中にゾイドを眠らせていた。それを暗黒軍が奪ったのである。
 これで戦力は五分。いや未知のテクノロジーを誇る暗黒軍が優勢か…。戦いは続いてゆく。

というもの。
暗黒軍は、大陸間戦争開戦直後に、上陸作戦を行っていたのだ。最も、多くはあっさり撃退されているが…。
(小三のものはその後が不明。ただし次の号は「共和国軍による暗黒大陸への上陸作戦」が描かれているので、最終的に撤退したと思われる)

・上陸を阻止したてれびくん
・小島に上陸した小一
・本土に上陸した小二、小三

最低でも三箇所で上陸作戦が行われている。
また、小二と小三の様子はかなり違うので、おそらくこれも違う場所だと思われる。
というと、四箇所で同時に上陸作戦を敢行していた。

戦力を分散させるというのは基本ありえない。
国力で劣る暗黒軍が共和国に挑む。共和国とて長い戦乱で疲弊している…とはいえ、それでも国力差は圧倒的に大きい。
その共和国に対し戦力を分散させて各地で上陸作戦を行った。
何を考えているんだろう。

新ゾイドバトルストーリーでは省略されているものの、学年誌やてれびくんでこれだけ上陸作戦が行われているので、これは「あった」と考えたい。
いまいちど、整理しよう。

~大陸間戦争の簡易な流れ~
 ガイロス帝国(暗黒軍)がゼネバス帝国を裏切り電撃参戦する。これにより大陸間戦争が始まった。
 暗黒軍は帝国軍の兵やゾイドを奪い、自軍に組み込んだ。
 ↓
 暗黒軍による中央大陸上陸作戦が各地で行われる。しかし暗黒軍は思いのほかアッサリと撤退する。
 ↓
 共和国軍による暗黒大陸上陸作戦が行われる。

 

ここから、ガイロス帝国の中央大陸侵攻のシナリオを読み解いていきたい。
この流れを見ていると、ある可能せいた見えた。
いきなり結論を書くと、ガイロス帝国の中央大陸侵攻のシナリオは、漸減作戦だと思った。

斬減作戦に関しては補足説明が必要だと思う。
これは、「国力で下回る国が上回る国に勝つ」ために考えた戦略で、「斬りつけて減らす」という漢字の通りの内容だ。

例を言えば、太平洋戦争前の日本海軍は対米戦でこの作戦を描いていた。
当時の米海軍を10とすると、日本海軍は6の量でしかなかった。
この状況で勝つために、

①開戦すれば、日本攻略の為に米艦隊が日本近海に進出する筈だ。
②米艦隊が近海に来るまでには長い航路がある。その道中に潜水艦や航空機による波状攻撃を仕掛け、戦力を削ぎ落とす。最低でも4割程度は減らしめる。
③日本近海に来た頃は最低でも6割の戦力になっている。ここでいよいよ温存しておいた主力艦隊を投入。艦隊決戦を仕掛け大勝利を収める。
④停戦条約を結び大勝利。

というものが考えられた。これが漸減作戦だ。

しかしこれは、絵に描いた餅でしかなかった。

漸減作戦は、まぁ納得できる作戦だと思う。
こちらは戦力が低い。けども高い敵と勝たねばならない。互いに最大戦力のまま戦えば敗北は明らか。
ならどうするか。
決戦前に敵の戦力を減らしておかねばならない。

しかし、最大の問題は「敵の行動をこちらの願望で決めている」という事だ。
「米艦隊が日本近海に進出する」という部分が達成されるかどうかは、そもそも敵次第だ。
もし、これがかなわなかった場合、作戦はその瞬間破綻してしまう。

例えば、開戦後すぐに行動せず、戦力の拡張に努めたらどうする?(国力の高い国が兵器の増産に励めば戦力差は絶望的に開くだろう)
増産が完了し戦力差を絶望的にしたところで、いよいよ進出したら?
そうなれば、もう「潜水艦や航空機による波状攻撃を仕掛け、戦力を削ぎ落とす。最低でも4割程度は減らしめる」なんていうのは無理。

また、①②がクリアされたとしても…、
損害を被った米艦隊が、それでも日本近海まで攻めるか。それともいったん退却するか。これも不明瞭だ。
もし、敵側が「被害が多くなって悔いたからいったん退却して戦力を回復しよう」となれば、やはり作戦はその瞬間破綻してしまう。

ちょっと荒っぽい説明だが、漸減作戦の概要と、そして問題点が分かったと思う。

まとめよう。
漸減作戦とは、
●国力の低い国が高い国に勝つための作戦である。
●敵の戦力を削げるだけ削ぎ、敵が疲弊したところで決戦を仕掛ける。

というもの。

そして、漸減作戦の問題は、
●敵がこちらの意図通りに動くかどうかが分からない

という点だ。

日本軍は、結局、漸減作戦を使用しなかった。それは、やはり問題点が解消できなかったから。
こんな不確かなもので国の命運をかけられるものか。という事だったのだ。

しかし、漸減作戦の問題点を解消出来るならば、あるいは使える作戦になる。
実は、漸減作戦の問題手を解消する方法がある。
それは「決戦の強要」を行うことだ。

決戦の強要とは、その場での戦いを避けられない状況に追い込む事だ。
例えば、「燃料生産を一手に引き受ける油田を攻める」とか、そういう事だ。

「望むと望まないに関らず、どうしても戦わざるを得ない」
そのような状況に追い込むことを決戦の強要と言う。

さて、漸減作戦をガイロス帝国に当てはめよう。
暗黒軍は、決戦の強要をしていると思う。

その内容はこうだ。

①帝国と共和国の戦争終結間際を狙い、電撃参戦する。
 その時、ゼネバスを捕虜とした。
 これにより、ヘリック共和国に大きな危機を抱かせた。

②更に、各地で上陸作戦を展開した。
 これにより、実際以上に自軍の力を大きく見せ、共和国に更なる危機感を抱かせる。
 また中央大陸が攻撃されるのではないか。
 今回は撃退したが、次はいつあるのか…。

こうした状況に追い込み、共和国軍を暗黒大陸に誘い込んだ。
中央大陸を守る為、共和国軍は積極的に暗黒大陸へ上陸せざるを得なかったのだ。

しかし、共和国軍のゾイドは恐竜型が多い事もあり、暗黒大陸では性能を一様に落としてしまう。
(この点についてはこちらのコラムを参照されたい)
暗黒大陸は、暗黒軍ゾイドがその能力を最もフルに発揮できるフィールドだ。

③暗黒大陸で戦い、共和国軍の兵力を削る。
 まさに漸減だ。
 実際、マッドサンダーはじめ共和国軍の主力ゾイドはこの時期に激減している。

④そして、漸減が完了したところで再び中央大陸への侵攻を行う。漸減は完了し、いよいよ決戦である。
 ギル・ベイダーによる空爆を皮切りに、それはスタートした。

という事で、以上の様に漸減作戦が考えられたと推測した。
見事な戦略で、かなり成功したと思う。

誤算は、オルディオスとキングゴジュラスだろう。
さすがに、ギル・ベイダーに対抗できるゾイドがこんなに早期に登場するとは思っていなかっただろう。
おそらく、この両機がなければ…、中央大陸は制圧されていたと思う。
なにしろ、大半の戦力は暗黒大陸へ送り込んでおり、その多くは撃破されている状態なのだから。

 

という事で、非常に長いシリーズとなったが、以上、暗黒大陸の状況と中央大陸侵攻のシナリオを考えてみた。
ガイロス帝国、暗黒軍は、絶対的な悪として描かれていた。
その裏を考えてみると、それはやはり中央大陸から見た偏った視点だなと思った。
暗黒大陸。
その事情と、なにゆえ戦ったのか。それを考えてみると、一気に物語が深くなったと思う。

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