突撃砲の威力を考える

カノントータスは、誰しもが認める傑作機だと思う。
重防御ながら動きの遅い亀。しかしそこに大砲を一つ載っけるだけで見事な戦車ゾイドにしているのだから見事だ。
大砲をあえて巨大な1門にしているのもいい。

しかしこのゾイドの設定には少し不思議な部分がある。
今回はそれを考えてみたい。

不思議な部分というのは、キット箱裏掲載のバリエーションや設定に関してだ。

「その堅甲な車体を利用し、突撃砲を装備し、要塞、トーチカ攻撃を主任務としている。しかし携行弾数が少ないこと、戦闘速度が遅いのが欠点といえる」
いや、ここではない。
この設定は問題ないと思う。だが、箱裏に載っている機体バリエーションのうちの一つに、こういうのがある。


「長砲身タイプ:従来の短身砲では威力がない為、初速の大きい長身砲に換装されたタイプ」
以下、カノントータス長身砲タイプと呼称する。

数ある箱裏機体バリエーションの中でも、長砲身タイプはミリタリー感が特に強い部類だと思う。好きだ。
サイドスカートは大戦中のドイツ戦車っぽい感じがする。設定は旧日本軍の97式中戦車改を思わせる。
おそらく、両方がモチーフなんだろうなぁと思う。

ゾイドには史実がモチーフになっているものも多く、面白い。
色んな所からモチーフを集め、しかしそれを「ゾイドとして」見事に落とし込まれているのは見事だ。
重要なのは「参考にする」といっても、そのまま流用しているのではなく、一度ゾイドとしてどうなのかを咀嚼している所だと思う。

さて疑問というのはこのカノントータス長身砲タイプについてだ。
記載されている「従来の短身砲では威力がない為、初速の大きい長身砲に換装されたタイプ」であるが、これを見て、「えっ!」となった。

カノントータスの砲力が描かれた代用的なものは、バトルストーリー3巻の国境の橋争奪戦だろう。この時、イグアンをぶっ飛ばしている。

この時のカノントータスは、見ての通りノーマルタイプだ。
「ノーマルタイプでも十二分の威力があるんじゃないのか…」
疑問というのは、これだ。

さて、考える。

カノントータス長砲身の設定や、その後のノーマルタイプの活躍を考えると…、
●長身砲タイプは対ゾイド戦を目的としている。言い換えればノーマルタイプは対ゾイド戦には向かない。
●しかし後のバトストを見る限り、長身砲タイプが量産された気配は無い。生産されたのは短身砲のノーマルタイプである。
●設定に反し、ノーマルタイプは対ゾイド戦において十分な威力を発揮し大きな戦果を挙げている。

この辺から察するに、多分、カノントータスには初期型と後期型があるんじゃないかと思った。
運用期間の長い兵器は、中身をアップッデートされ延命される事は珍しくない。
以下、考察というか妄想というか。

初期型の砲は、説明にもあるように「対ゾイド戦では威力がない」ものであった。
カノントータスの突撃砲は臼砲である。臼砲の特徴は、砲口は大きいが砲身は短い事である。初速は遅いく射程も短い。
もちろん、砲口が大きい=砲弾は大きい=炸薬量は凄まじい。命中した時の威力は絶大で、ゾイドはおろか要塞やトーチカをも一撃で粉砕する。

だが止まった目標を撃つ事は良いが、対ゾイド戦においてはなかなか効果を発揮しなかった。
機敏に動くゾイドを狙っても当たらないのである。
初速は遅いく射程も短い。これは大問題だった。
残念ながらそもそも当たらないのであれば、「対ゾイド戦では威力がない」と言わざるを得ない。

「大威力」という目先の利益に目が眩み限界まで砲口を大きくした結果であった。
しかし、いまさら没にするわけにもいかない。開発には既に多大な費用と期間が費やされている。それにカノントータスは、軍からの期待も大きいゾイドなのだ。

そこで、砲口を小さくし、その分、砲身を長くした長身砲タイプが試作された。
長身砲だから初速が速く、射程も大幅に伸びた。これにより命中率は格段の上昇を得た。
もちとん、砲弾は小さくなり炸薬量は減った。だが「初速が速い=貫通力が強い」為、命中時に敵ゾイドを破壊する分には充分なものであった。
また砲弾が小さいので、携帯弾数が増加したのもメリットであった。


大口径短砲身と、小口径長砲身の差。
砲弾の大きさが違うので、破壊力はもちろん上の砲が大きい。だが砲身が短いので砲弾を加速させる事が難しく、どうしても飛距離は落ちる。
なお上の砲の砲身を伸ばせば良いという考えはNGだ。大口径砲の砲身を長くすると重量がかさみすぎる。重すぎて仰角を取る事すらできない代物と化すからだ。

理想的な強化を果たした長砲身タイプは、初期型に代わり生産の主力になるかと思われた…。

だがここで新しい技術が投入される。
「従来の短砲身であっても、砲弾を改造すれば良いのではないか」
すなわち砲弾をロケット弾にし、砲弾自身に推力を持たせれば良い(ロケット化できるのは大口径砲ならではである)。


ロケット弾。
砲弾自体が推力を持つため、砲身内で加速させる必要が無い。推力がある為、速度も飛距離も十分なものになる。
欠点は、普通の砲弾よりはコストがかかる事だろうか。

このタイプも試作される。
長砲身タイプと比べると、砲弾をロケット化した事により、初速・射程距離共に遜色ない仕上がりになった。
ここへきて、短砲身のままでも命中弾を得られるようになったのである。
威力は炸薬の量が桁違いなので、比べるべくもない。
弾丸をロケット化した事で、短砲身タイプのカノントータスも、対ゾイド戦で充分以上の威力を持つようになった。

比較検討のうえ、結局は砲弾をロケット化した短砲身タイプが生産の主力となったのであった。
長砲身タイプが敗北したのは以下の理由である。

●初速・射程は同程度であるが、破壊力で長砲身タイプは劣る。
 大質量の砲弾の方が炸薬量が多い。当然、従来の要塞やトーチカへの攻撃力も有しているし、対大型ゾイド戦をも視野に入れられるのだ。
 一機で様々な任務を複合的にこなせるタイプを生産したほうが様々な観点から良いと判断された。
●唯一、携帯弾数の少なさだけは問題であったが、これは同時期に給弾車仕様の機体が完成した事で解決を得た。
 (給弾車仕様は箱裏バリエーションの一つ)

こうして後期型のカノントータスは、初期型とほぼ同じ外観ながら、砲の有効性を一新したものとして登場した。
アルメーヘンの橋争奪戦(国境の橋争奪戦)におけるカノントータスも、後期型である。

 

以下、もう少し肉付けしよう。
ゾイドバトルストーリーには1巻と3巻に戦力比較表が付いている。
で、カノントータスのところを見よう。

1巻。
ハンマーロック、ヘルキャット、イグアン、サイカーチス、シュトルヒに対して「負け」になってる。
あんがい、カノントータスは弱い。

しかし3巻。
ハンマーロックとイグアンに対しては「勝ち」に変わっている。
ヘルキャット、サイカーチス、シュトルヒには相変わらず負けのままだが。
これはやはり何らかの変化があった筈だ。
改良が加えられたのだろう。
カノントータスは亀だから機動力を上げるのは厳しいだろうから、多分、砲の方が変化したと見るべきだろう。

戦力比較表の変化に加え、
●長身砲タイプの「ノーマルタイプは対ゾイド戦では威力がない」の表記
●長身砲タイプが量産されていない事
●戦場にはその後も短砲身のタイプが登場し活躍している事
の要素を総合的に考え、今回のような考えを導いた。

それにしても、対空砲も対空レーダーもあるのに、シュトルヒはおろかサイカーチスすら落とせないのは意外だ。
レーダーの方はアップデートされなかったのか。あるいは、対空砲は旋回できないのが痛かったのかもしれない。

と、こんな風に突撃砲を考えてみた。
とにかくカノントータスと言ったらその最大の魅力は突撃砲だと思っている。
なので、その突撃砲を深く考えてみるのはとても面白い。

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