カタログスペックを考える

ゾイドの箱裏は魅力的だ。 様々な情報があり楽しいが、中でも「テクニカル・データ」として、カタログ上のスペックが表記されているのが面白い。

カタログスペックというのは重要な要素である。それは性能の目安になり、それにより想像しやすくなるからだ。
例えばサーベルタイガーは最高速度200km/h。対してシールドライガーは250km/h。
だからシールドライガーの方が速く有利である、というように考える事が出来る。

しかしカタログスペックというのはなかなか曲者で、それのみでは計り知れない事が多々ある。
今回はそんなカタログスペックを、少し深めに考えてみたい。

 

第二次大戦で米陸軍が運用した戦闘機に「P-39エアコブラ」という機体があった。これは最高速度605km/hを誇る快足機だった。
同時代の日本軍が運用した戦闘機「零戦21型」は最高速度534km/hであった。
速度差は約70km/hもある。
当時の空中戦闘では、30km/h相手より速ければ一方的に優位を保つ事が可能だと言われていた。
ではP-39は零戦を圧倒したかというと、全く逆だったりする。零戦はP-39をバタバタ墜としまくっている。
これはパイロットの技量でもあったが、「実戦ではカタログスペックほどの速度差が無かった」という事もある。
速度差がなかったどころか、逃げるP-39を零戦が追撃して撃墜した事さえある。

何故かというと、これはスペック表の作り方の問題である。
最高速度とは、エンジンを全開にして飛んだ時の速度だ。その状態で一定距離を飛行し、平均速度で算出する。瞬間最大でない点は要注意だ。
さて、そんな風にして計測するわけだが、実は細かい規定は各国で違っていたりする。
当時のアメリカでは、最高速度は「取り外せる装備は全て取り外し、燃料も必要最小限しか積まない」という、レース仕様のような状態で計測していた。
対して日本では、そのまま戦闘に使用できるだけの弾薬や燃料、その他装備を搭載し、実戦状態での計測をしていた。当然重く、それだけ速度は落ちる。
人で言えば、短距離走の仕様と荷物を持った飛脚の仕様で最高速度を比べるようなもので、これほど不公平な事は無い。
だから、カタログスペック上は大きく差が付いた両者の最高速度だが、実のところ実戦ではそれほど差が無かったのだ。

そしてもうひとつ厄介でややこしいのは、「同じ国でも計測法は年代によって違っている事がある」という事だ。
速度だけでなく、重量でもこういう事があるので、今度は船で例を出す。

船の重量の計測法の国際基準に「基準排水量」というのがある。
船は積載量が多い。空っぽと満載時では重さが違いすぎる。だから「一定の物資を積んだ状態で重さを量ろう」という規定がある。それが基準排水量だ。
そして基準排水量の定義は、時代と共に変わっている。
ずっと昔は、「船の重さ+燃料の重さ」が基準排水量であった。
1921年以降は、「満載状態から燃料と水の重量を差し引いた重さ」に改定されている。
ただし戦後の日本は、独自の基準排水量の規定を設けていたりする。その為、国際的な基準排水量と日本の基準排水量は意味が違っていたりする。

読んでる方もややこしくなってきたと思うが、説明する方もややこしい。
まあ要するに、カタログスペックに記載されている様々な項目は、実は「国によって」「時代によって」計測法がまちまちだという事だ。
おおまかには役に立つが、詳細という意味で役に立たない事もある。

カタログスペックとは、そういう場合もある。
このように考えるとゾイドも楽しくなってくる気がする。

 

例を挙げると、ガリウスの最高速度が270km/hだったりする。実に、シールドライガーより速い。

この辺も、どういう速度計測なのか。
・レーサー仕様で計測したのか、実戦状態で計測したのか。
・瞬間最高速度なのか、一定距離走った時の平均速度なのか。
・ゾイドは生き物であるから個体によりある程度の誤差はあろう。どの程度の個体で計測したのか(平均的な個体を使用したか特出した個体を使用したか)。
・計測時の天候は統一されているのか。
・水平な場所で測ったのか。
などなど。
そして重要なのは、後々のゾイドも同じ計測法が採用されているのかどうかという事だ。

他にも考えてみよう。
重装甲重武装のレッドホーンの重量はわずか94tで、少し軽すぎると思う。
ゴルドスが199t、ディバイソンが230tであると思えば、非常に軽い。高速を誇るシールドライガーさえ92tで、レッドホーンに迫る重量なのだ。
さて、
・どの状態での計測なのか。機体のみなのか、弾薬燃料などを搭載した状態なのか。
・共和国と帝国で計測法は同じなのか。
そして、後々のゾイドも同じ計測法が採用されているのかどうか。

スペック表を疑って、そこから考えを巡られても面白いと思う。

 

更にもう少し、興味深い事を紹介してみたい。
ロシアにMig-25という戦闘機がある。
初飛行は1964年という古い機体で、見た目も古臭い姿であるが、とある分野においては今なお超一流の能力を誇る。
それは速力だ。最高速度は実にM2.83を誇り、実にM3級の戦闘機なのである。


さて、興味深いというのはここから。
Mig-25の最速は先に書いた通りM2.83であるが、これは正解であるとも不正解であるとも言える。
何を言っているんだと言われそだが、Mig-25の最高速度はM2.83で間違いない。
ただ中東あたりで運用されているMig-25は、M3.0以上で飛行する事は普通で、それどころかM3.4で飛行する姿まで確認されている。

マッハではわかりづらいので時速何キロかに直そう。
M2.83は、3464km/h
M3.4は、4162km/h
すごい差だ。

ではMig-25の最高速度はM2.83ではなくてM3.4と書くべきでは?と言われそうだ。
これには以下のような理由がある。
昔のレシプロ戦闘機だと、最高速度はエンジンを限界まで回した瞬間に出るものだった。
しかし現代の戦闘機は、レシプロ機よりも圧倒的に速い。音速を軽く超える程の速度になった。
そして音速を超えると、機体は空気摩擦により非常に熱くなる。速度を出せば出すほど、さらに熱くなる。出し過ぎると、機体の耐熱限界を超えて溶け出してしまうのだ。
超音速ジェット機では、エンジンパワーの限界ではなく機体が耐えられる限度が最高速度というのは、特に珍しい事ではない。
それゆえに、Mig-25の安全に飛べる最高速度はM2.83であり、しかし機体が溶ける覚悟でエンジンをフルパワーにすればM3.4くらいまで出るというわけだ。
…なお10分ほどM3.4を出して飛んだら本当に溶けてしまうとの事。

いわばM2.83は実用レベルでの最高速度で、M3.4は緊急時の最高速度といった所だろうか。
Mig-25は旧ソ連で開発された戦闘機で、中東で運用されているものは輸出された機体だ。
マニュアルも本国ほど徹底されておらず、荒っぽく使用されているのだろう。それがM3.4という数値なのかもしれない。

グライドラーあたりと絡めると面白いと思う。
この機体は最高速度はM2.3。更に緊急時にブースターロケットを使用するとM4.2もの速度をたたき出す と設定されている。
すごく速い。後のサラマンダーさえM2.0。プテラスさえM2.2。これらの機体よりはるかに速いという設定は、やはり首をかしげざるを得ない。
あの、いかにも鈍重そうな姿で、だ。

しかしながらMig-25のような論理で考えるなら、あるいはと思う。
プテラスなどの最高速度は実用上の最高速度であり、グライドラーなど極初期の飛行ゾイドは設計上の理論上最高速度がカタログに記載されている など…。
実際に出せるか出せないか。出せてもどうなるかは知ったこっちゃない的な設計上の数値、だ。
後にそれは見直され、実運用上の最高速度が記載されるようになった…という風に。

他にも、不思議なスペックのゾイドは数多い。
アクアドンの最大潜水深度は12000mとされており、後のウオディックと同じだ。
キャノピーでその潜水深度はマズい気がする…。
こういった、主に初期ゾイドに多い超スペックをネタ的に語るのも好きだが、あるいはスペックをこのようにして考えると面白いと思う。

 

最後にもう一つ、これも興味深い事例を紹介したい。
戦艦大和といえば、世界最大の戦艦として有名だ。その主砲は46cm砲で、戦艦の中で最強の破壊力をもっていた。
しかし戦時中において、46cm砲は「94式40cm砲」と記載されていた。
同じような事例で、戦艦長門の事も紹介しよう。
戦艦長門は完成時に最高速度26.5ノットを誇る高速艦だった。同時代の戦艦は20~23ノットが普通だったから、いかに高速艦だったかが分かる。
しかし長門、対外的には「最高速度23ノット」と公表された。


これが何故かというと、外交的な問題である。
正直に46cm砲ですとか26.5ノットですとか言おうものなら、敵国は必ずそれを凌駕する艦の建造を計画する。
それはマズいという事で、低めのスペックを公開し、敵をあざむいていたというわけだ。

これは、逆のパターンもある。
米海軍のサウスダコタ級戦艦の最高速度は27.8ノットとされているが、実戦ではせいぜい25~26ノットが限界だった。
機関の設計が独特で、高速航行時には謎の異常振動が起こるようなものだった。この問題は退役時まで解決せず、この艦のアキレス腱となっていたようだ。

対外的に「強い」と示しておく事は、抑止力にもなる。勝てないと思わせておけば、相手は仕掛けてもこないだろう。
外交的に様々な思惑が働き、カタログスペックは表記上その数値を上下させる事は珍しくない。

表記上とは違う、真のスペックを考えてみるのも面白いだろう。

もちろん、カタログスペックを絶対的だと考えても、それはそれで面白い。
レッドホーンが軽いのは何故か。
帝国初の大型ゾイドだけに、重すぎると動かせない=装甲は見た目より薄いのかもしれないし、帝国ならではの先進技術で軽量金属の使用に成功したのかもしれない。
マグネッサーシステムを使用した何かがあるのかもしれない。
無限の想像が広がる。答えは一つではないという事だ。
ただ一つ確かだと言えるのは、カタログスペックには一見して「?」と思う部分が多くあるが、それを突き詰めて考えるのは楽しいという事だ。

ゾイドのカタログスペックは、詳細なようで詳細じゃない。
それは不備という事もできる。しかしそれを逆手に取った妄想が出来るというのは、それはそれで何より楽しいものだと思う。

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