航続距離を考える

航空ゾイドの真骨頂は、飛ぶ事にあるだろう。
彼らは他のゾイドと違い、大空を自由に駆け回る事が出来る。

さて、近くの公園に、秋~冬の間、渡り鳥が来る。
10月ごろ、大編隊を組んで一斉に飛来し、池に着水する。飛び立つ時もまた一斉に離水し去っていく。地区の風物詩だ。

さて渡り鳥。
渡り鳥というと、種類によっては最長で1万km以上をノンストップで飛行するらしい。
オオソリハシシギという種は、アラスカ~オーストラリアまで飛んだりするという事で、何とも凄い事だ。
ジャンボジェットの航続距離さえ1万5000kmくらいである事を思うと、あんな小さな鳥のどこにエネルギーが備わっているのだろうと思ってしまう。

渡り鳥は渡りの直前にたくさん食べて栄養をとり、脂肪を貯める。
これをエネルギーとして、渡り中は少しずつ消費して飛行を継続させる。
目的地に付く頃には消費しきりフラフラになっているという感じだ。
鳥の生態研究をしている学者の調べによると、渡り前と後で体重が28%も減っているらしい。
そんな長距離飛行を果たした後、目的地でしばし静かな時を過ごす。
そしてまた季節が来ればせっせと栄養を取り、脂肪をためて元の場所へ戻ってゆく。

渡り鳥は猛禽類ではない。
他の鳥や動物を捕食する鋭い爪や嘴といった攻撃力は低い。しかしこと飛行距離・航続力にかけては他の追随を許さぬ素晴らしく抜きん出たものを持っているのだ。

さてここで思ったのは、グライドラーだ。

グライドラーは、飛行ゾイドの中では珍しく航続距離が設定されている。
その距離なんと2万km。これは圧倒的な長さだ。
サラマンダーはその航続距離、飛行性能、搭載量で帝国を大いに驚かせたとされているが、その実航続距離は1万5000kmでグライドラーの75%しかない。

ペガサロス、プテラス、レドラーなどに航続距離の設定が無いのは悔やまれる。
だがこれらの機がサラマンダー以上というのはありえないだろう。
サラマンダーを越える可能性があるとすれば、ギル・ベイダーくらいだろうか。
しかし、グライドラーだけは長いらしい。

思ったのは、グライドラーの野生体は渡り鳥ではないか という事だ。
グライドラーは箱によると「鳥型」とされている。媒体によっては「水鳥型」とされている。
巨大なフロートのようなものを付けているし、水鳥である事は確実と思う。
水鳥には、渡りを行うものが多い。渡りを行う水鳥を渡り性水鳥と言う。
そう、グライドラーは正確に言うと「渡り性水鳥型ゾイド」ではないだろうか。

攻撃力は低く戦闘には使用し辛い。なので偵察程度にしか使えず帝国にとって大きな脅威とはならない。
しかしこと航続力だけなら誰にも負けない。それこそサラマンダーよりも―――、というような。

共和国の旧式飛行ゾイドと言えばグライドラーとペガサロスだ。
このうち、猛禽類型のペガサロスが後のゾイドともそこそこ渡りあえている事を考えても、グライドラーは戦闘力の低い渡り性水鳥型である事が裏付けられているのではないかと思う。

さてちょっとまとめてみたい。
■グライドラーは渡り性水鳥型のゾイドである
■航続距離だけは非常に長いが、攻撃力も搭載量も低い。

もう少し、渡り鳥の特性を考えて、グライドラーを想像してみたい。
渡り鳥は、確かに他の鳥を圧倒する距離を飛ぶ。
が、もちろん常時そんな長距離を飛べるわけではなく、渡りを行う際はそれ相応の準備が必要だ。
先に書いたように、渡りの前にたくさん食べて脂肪を蓄える。しかも長距離飛行を終えた頃にはそれが全て空になっている。
渡りを終えた後は休息も必要だ。

準備に甚大な時間がかかり、しかも燃料など莫大に搭載しなければならなず、最大航続距離で飛ぶと一気に消費してしまい、しかもミッション後には休息も必要。
長大な航続距離を持つ反面、兵器として運用するには、メカ生体としてこのような弱点があると考えても面白いと思う。

 

また、グライドラーから話が外れてしまうが、もう一機、考えてみたい。
それはレイノス。

プテラスの後継機にして、帝国が誇る空戦ゾイド・レドラーを越える新鋭機。
航続距離の設定は無いが、気になるものとして、一度暗黒大陸から中央大陸まで飛行したことがある。
新ゾイドバトルストーリーの最終ページ、クルーガー中尉を乗せて、海面スレスレの高度を飛んでいるシーンだ。

まあ実のところ、彼が本当に中央大陸に帰還できたかどうかはその後のストーリーが無いのでどうとも言えない。
とはいえ、ここでは「①帰還した」「②暗黒大陸からトライアングルダラスを迂回しつつ飛行した」と考えたい。
ストーリーで「東へ」飛行したとある。ここでは「東へ」はトライアングルダラス迂回のルートと解釈したい。


図は推測したレイノスの飛行ルート。

さてレイノスの航続距離上、これはあり得るのだろうか。
サラマンダーはその脅威の航続力を示す際によく「共和国のいかなる基地からでも、無着陸で帝国領土を爆撃し帰還できる航続力を持つ」と言われる。
しかしレイノスのこの飛行ルートが正しいのだとすれば、サラマンダーと同じ程度の航続距離を持っている事になってしまう。
まあ、サラマンダーは「爆装してすらその航続距離」という事なのだろう。
対しレイノスは、中央大陸に帰還するために余計な装備は全て外し最も軽い状態で飛んでいた事は確かだろう。
しかしこの時のクルーガーのレイノスが万全ではなかった事も確かだ。

このレイノスは第一次暗黒大陸上陸作戦においてクルーガーの愛機だった機体だ。
第一次上陸作戦は失敗に終わり、やむなくレイノスは暗黒大陸に置き去りにされている。
そこから実に二年も放置されていた機体である。
当然、各部メカニックは万全とは言えぬだろうし、燃料もあやうい。
こういった事から考えると、レイノスもまた万全状態には程遠い。にもかかわらずこの距離を飛んだのだ。

もう一つだけ加えると超低空飛行している。
この飛行高度はおそらく暗黒軍のレーダーを避けるためだろう。
しかし低空飛行というのは大きなリスクを伴う。
というのも低空は空気が濃い為、空気抵抗が大きい。抵抗が大きいという事はすなわち航続距離は大きく低下してしまう条件である という事だ。
通常、航続距離というのは高度数千メートルの空気が薄い層、最も飛距離を出せる高度で計算される。
また高空を飛ぶもう一つのメリットは、仮に力尽きても滑空するだけでかなりの距離を稼げるというのもある。
(このあたりはマグネッサーシステムで飛行しているので、一概に地球の基準には当て込めない気もするが)

個人的に、レイノスはそこまでの航続距離は無いと思う。
やはりサラマンダーには大きく劣ると考えるのが妥当と思う。
後の機獣新世紀ゾイドにおけるアンダー海海戦の描写を見ても、そこまでの航続距離は無いように思えた。
では何故にクルーガーのレイノスは、かくも長距離を飛べたのか。

これを考えるのに、再び鳥の例を出したい。
鳩(伝書鳩)というと、昔は通信に使われていた。今でもレースが行われている。

通常は、200km程度の距離で通信が行われるが、650km程度でも可能であるとされる。
更に、1000kmでも可能と書かれている場合もある。
ここでは、鳩の飛行可能距離を、記載されている最大の1000kmと考えたい。
鳩は、渡り鳥には及ばぬまでも、素晴らしい飛距離を持った鳥なのだ。
しかし最大で1000kmの飛距離の鳩だが、興味深い事例が報告されている。

2013年に、日本で鳩のレースが行われた。その際に一羽の鳩が行方不明になってしまった。
しかしその鳩は後日、無事発見された。
その場所はなんとカナダ。
何をどう迷ったのかは不明だが、この鳩は何と日本から太平洋を横断し、カナダで発見されたのだ。
その距離約7000km。2~3週間飛び続け、カナダに辿り着いた。
発見時には体力を消耗しきりやせ細っていたそうだが、無事に回復したとの事。

さてこの飛行距離は凄い。通常の7倍の距離を飛ぶというのは考えられるのだろうか。
なお、太平洋を横断した鳩は過去にも1例だけあるらしい。
極めて稀ながら、複数あるのだ。
7倍という飛行距離はなかなか簡単に説明できるものではない。
しかし生物なのだから、そういう事が絶対に無いとも言い切れないのだろう。

さてクルーガーのレイノスがみせた航続距離は、ゾイドは生物であるゆえのものではないだろうか。
生物であるから、いかに兵器として規格化されているといっても個体差はある。この機体特有の現象だと思う。
そう強く思うのは、クルーガーとレイノスの愛情の深さゆえのものだ。
この事は新ゾイドバトルストーリーを読めば誰もが理解する所だろう。
クルーガーの想いに応えるべく力を振り絞って中央大陸まで飛んだレイノス というように考えると、「ゾイドだからこそ出来る」ものだと思う。

 

さて、グライドラーとレイノスの航続距離を考えてみた。

カタログスペックを見ると、様々な事が分かる。
また戦場写真・ストーリーからも様々な事が分かる。
しかしカタログやストーリーを単に読みそれを絶対的と捉えるのでなく、ゾイドだからこそ出来る、様々な想像・妄想を加えてみると色々と広がってくると思う。

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