ゾイドとなるモチーフについて

今回のコラムは、前コラム「ゴジュラスはどこまでゴジラ型か」の続きとなっている。
出来れば前もってお目通し頂ければ、今回のコラムも読みやすいと思う。ただ、今回はゴジュラスとゴジラを比べようという趣旨ではないのだが…。

先のコラムを要約すると、「ゴジュラスは、発売された1984年当時の図鑑の絵と照らし合わせるなら、かなりティラノサウルスしている」と結論付けたものだった。
さてこういう文章を書いたのは、ほらゴジュラスってジェノザウラーよりティラノサウルスしてるだろ?という事が言いたいわけではなく、以下の事を思ったからである。


80年代までのティラノサウルス復元図と、2000年ごろのティラノサウルス復元図。
たかが20年ほどで図鑑の絵も変わったものだと、改めて思わずには居れない。本当に同じ骨から復元した生物なのか?とすら思える。

化石からの復元というのは本当に難しいものだそうで、そりゃあ「骨が見つかった」といっても、大抵は完全な全身で発見されるわけではなく、ほんの一部が見つかるのみ。
「歯だけ」とか「腰骨の一部」とかいった場合も多い。

そこから
「この骨は既に発見されている他の恐竜のものに似ているから、恐らくこういう姿だったのだろう…」
とか、
「現生動物と比較すると、おそらくこういう風だったのではないか…」
といった風にして解析が進んでゆく。そういった行為を経て、「予想」という形で復元図は作られる。

復元とは非常に大変な事だ。
しかし、そういう手順だから、当然ながら間違いも起こる。
後年になって、新たな、今まで見つかっていなかった部分の骨が発掘され、そこで初めて間違いに気づく事もある。

例えば、トリケラトプスが今の姿の復元図を得るまでは、非常に長い道のりがあった。少し紹介しよう。

この恐竜の化石ははじめ、角の部分だけが出土した。
それを鑑定した考古学者のオスニエル・チャールズ・マーシュは、なんと「この骨は牛の骨だ」と断定してしまった。

ちなみにマーシュがテキトーな人かと言うと、とんでもない。
彼はアパトサウルス、アロサウルス、ステゴサウルスなど、超メジャー級の恐竜を数多く鑑定している、恐竜界では偉大なる重鎮だ。
まぁ、二対の角だけ見せられたら、牛と間違うのも無理は無いと思う。

「牛である」というのが間違いだと分かったのは実に11年後。
何故なら、フリルの付いた完全な形の頭骨が発掘されたからだ。
こりゃ牛じゃない!
直ちに間違いは訂正され、ここに新種の恐竜トリケラトプスは、ようやく世に知られるようになったのであった。

しかしながら話はここで終わらず、ここからも長かった。


これは初期の復元図。
特徴として、現代の復元図と最も違うのは口。口が裂けてるように大きく開いている。

尾は引きずっているし、脚の付き方も随分違う。
また、この頃の傾向として、角の長さがやや誇張して描かれている事が多い。
100年以上も前の復元図だが、いまだにこのスタイルで描かれる事もあるほど有名で、かつ(正しい復元であるかは置いておいて)人気の高いスタイルだ。

 


1960年ごろになると、このような復元図が発表され注目を浴びた。
口や尾、脚部などは修正され、だいぶ今のスタイルに近くなっている。
しかしこの復元図の最大の特徴はフリルだろう。
フリルが完全に肉の中に埋まっており、かなり珍しい復元図になっている。
この復元図では、フリルを「首のガード」ではなく、「咀嚼のための頬の筋肉をつなぎとめるもの」として捉えているそうだ。

全く有名でないこの復元図だが、実際、注目はされたものの支持は得られず、すぐに否定されてしまった。
その最大の欠点はやはり首のフリルで、実際にこの構造であるならば、トリケラトプスの首はほとんど固定状態となってしまう。
横も上も下もむけない。これでは水を飲むのも一苦労なわけで、いくらなんでもそんな非効率的な生物ではないだろうと反論されたとの事。

 


さて90年代以降だとこのようになっている。
また近年は、フリルに目玉模様を描かれる事も多いが(威嚇用のディスプレイであるとのこと)、これは科学的根拠は皆無。

 

昔と今

肉食獣ほどの劇的な変化は無いものの、やはりかなり違う。

 

現代は、80年代よりも恐竜の研究は飛躍的に進んでいる。
だから今の図鑑に載っている恐竜の絵やCGは、ジュラ紀や白亜紀のリアルタイムの恐竜の姿に、より近いものだろうと思う。
しかし、だからといって完全なわけではない。
色、表皮、鳴き声、歩く速度、食性…。
骨からは分からない形状の特徴がまだまだ多い。そしてそれらの謎が、今後解き明かされる可能性もある。
また、姿勢だって、更に改訂される可能性が無いわけではない。

恐竜の世界は、今でもどんどん新しい事が発見され、古いものが更新されていっている。

今の図鑑の最新の恐竜見解でさえ、更に何年か後には「古い」とされているかもしれない。
いや、かもしれないというか、部分的には確実にそうなっているだろう。
80年代の図鑑が、今、古くなっているように。

ただ、私が思う事は、「学説」という意味では、古きはすべからく刷新されていくべきだろう。
真実は追究されてゆくべきだ。
しかしことゾイドとなると、話が違ってくると思うのだ。

ゾイドは何故魅力的か。
それは様々な要素があるけども、「シールドライガーがカッコいい。だからゾイドがいい」というより、「ゾイドワールドそのものが好きで、その中で各自の好きな機体がある」 というケースの方が多いと思う。
機体というか、もちろん機体なんだけど、その前提に世界がある。

ゾイド世界の魅力の大きなものに、懐の広さだがあると思う。
ゾイド世界には、懐の広さというか、いい意味でのユルさがある。
それがいい。

例えばライオンと恐竜が同じ世界で戦っている。
現代で最強の動物は?と言うと、せいぜいライオンやカバや象やワニや…、そんなのを集めてトーナメントは出来るかもしれないけど、そこ止まりだ。
現代・過去、更に一部ではあるが幻想世界まで含めてバトルできるゾイドの世界は、凄く魅力的なんだなと思う。

だからこそ私は思う。

恐竜など、絶滅した動物に関しては、年代によって様々な解釈の復元図がある。
もっと言えば、過去には「存在したのだろう」と思われていたが、結局よくよく調べてみると「実は居ませんでした」「実は同じ種類でした」となったものなんかも多い。
ブロントサウルス。ウルトラサウルス。スーパーサウルス。etc.
あと何年かすればトロサウルスも抹消されるかもしれない…。

しかしながら、それはそれで一時代を輝き、その時代の少年達に大いに夢を与えた存在なのだ。
そういった意味で言うなら、確かに彼らは「そこに存在していた」。
それは忘れるべきでない。

またそれ以降の世代の人でも、例えば恐竜を好きになったら深く調べると思う。
その時、過去において、こんな復元図でこんな恐竜が居たと思われた時代もあったんだな…という事を知り、その事を面白く感じると思う。

だから私は唱えたいのだ。
ゾイド世界では、何が何でも最新の恐竜学にのっとった姿を追うのではなく、時代ごとの解釈をあえて取り入れたような造形をしてみても面白いんじゃないかなと。

 

マッドサンダーは口が大きく裂けているし、尾も引きずっている。

典型的な前時代的なトリケラトプスだが、これはこれでアリだと思う。
「初期復元的トリケラトプス型」として。
しかし今の復元図のようなトリケラトプスが出たとすれば、もちろん、それはそれで面白い。
どちらが優れているというのではなく、どちらも良い。

レイノスも、思いっきり古典的なプテラノドンだ。比較的モチーフに忠実なストームソーダーと比べると差が激しい。

だが、どちらの方が良いと決められるものではないだろう。

どちらのゾイド同じ世界で存在し、互いにそれぞれの魅力的を放てるゾイドワールドは、非常に良いものだと思う。

ゾイドは既にモチーフが出尽くしたとも言われる。
確かにメジャーな動物は一通り出ていると思う。

だからこそ余計に、上記の事を提唱したいなと思う。
ユーザー各位、もっと広い視点で動物を眺めると、使い古されたモチーフでも全く新しいゾイドが生まれ、それによりゾイドワールドの魅力が更に増してゆくと思う。

またもう一つ加えたい。
ゾイドは現時点でも既に30年も続く大河シリーズだし(中間に休止期間があったとはいえ)、当然、この先も続いて欲しいと思い、そうあると信じているコンテンツだ。

さて、20年後を想定して考える。

更に今よりも進化した恐竜学がそこにあるだろう。
それと照らし合わせると、機獣新世紀シリーズで誕生した新型機すら、「古く」なっているかもしれない。

ティラノサウルスは、獰猛な捕食者・プレデターだった説と、死体を漁っていた腐肉食者・スカベンジャーだった説がある。移動も、走れた説や走れなかった説の両方がある。
もし20年後。最終的に「スカベンジャーで走れなかった」と結論付けられた場合、まあそれはそれで魅力的なゾイドが生まれるかもしれない。
ただやっぱり、活発で獰猛で敵に襲い掛かるティラノサウル型も欲しいと、「ティラノサウルス=最強の恐竜」とすり込まれて育った世代は思う。

未来におけるゾイドシリーズは、全て新型を作って展開すべきかというと、それは違う。
やっぱり過去のゾイドは復活させてあげて欲しい。
また、より最新のゾイドが、古い世代のゾイドを全て圧倒するような展開も控えるべきだと思う。

その時、
■メカ生体ゾイドの直立で尾を引きずるゾイドも、
■機獣新世紀ゾイドの尾を上げた前傾姿勢のゾイドも、
■未来に出るであろう更に進化した恐竜学を取り入れたであろう新ゾイドも…、
全てが平等に共存できれば非常に素晴らしい事だと思う。

 

恐竜はまだまだ分からない事だらけ。
タイムマシンでも開発されない限りは謎が全部解明される事は無いだろう。
だからこそ余計に、時代ごとの解釈は尊重してしかるべしだと思っている。

また、こうして考えていくと、ゾイドはまだまだ無限の発展を歩んで行けると確信するものである。

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