水のゾイド、シンカー

ゾイドには登場シーンや活躍シーンの多い優遇された機種、それとは逆に登場が少なかったり負けシーンばかりの不遇な機種がある。
メカ生体ゾイド初期であれば優遇されたのは何といってもゴジュラスだろう。
他はウルトラザウルス、デスザウラー、マッドサンダーあたりは大活躍し戦場を大きく変えた。
機獣新世紀以降であればライガー系が優遇されたと思う。

基本的に優遇されるのは電動ゾイドに多い。
超大型ゾイドは年末商戦アイテムだから当然の流れである。
またライガー系は”ちょうど良い価格帯”になっており、とても売れやすいとのこと。安定して売れるからこれまたプッシュしやすいのだろう。

しかし中には、小型ゾイドの中でも優遇された機種がある。
「優遇された小型ゾイド」というと何を思い浮かべるだろう。

私はシンカーを挙げたい。
かなり優遇されたゾイドだと思う。
登場シーンが多く、なおかつ活躍シーンも多い。戦況を変える作戦にも参加した。
メカ生体ゾイド、機獣新世紀ゾイドの両方で大活躍している。


メカ生体ゾイドのバトルストーリーでは、

・バリゲーター艦隊を強襲
・ウルトラザウルスのっとり作戦
・暗黒大陸脱出作戦
・ハドリアンウォール爆撃作戦

あたりが鮮やかな活躍シーンだろうか。
水空両用という独特の性能がこの活躍につながった事は疑いようがない。しかしそれにしても多い。

それぞれ華やかでもある。
またシンカーは帝国初の本格飛行ゾイドでもある。ここも華やかさが凄い。
初陣はバリゲーター艦隊を強襲し一方的に轟沈せしめるシーンだった。
ちなみにこの時はバリゲーターもまた最新鋭ゾイドであった。同じ新鋭機なのにこの差は一体……。

暗黒大陸への脱出・バレシア湾からゼネバス皇帝を脱出させた一件はまさに戦況を変えた。
シンカーがなければ帝国軍は脱出不能であり、あそこで間違いなく終戦に至っていた。

上に挙げた4つの戦歴の内、ウルトラザウルスのっとり作戦以降の3つは「既にプテラスが就役している」状況だった。
プテラスはシンカーキラーとして登場した当時の最強空戦ゾイド。シンカーにとっては天敵と呼ぶべきゾイドで、しかも大量生産されていた。
これがある中でこれだけの活躍をした。こういうと凄さが更に引き立つ。

機獣新世紀ゾイドでも、

・アンダー海海戦

活躍シーンが鮮やかだった。

この時代、共和国軍はシンカーに対抗して同じ水空両用タイプのハンマーヘッドを開発していた。
プテラスに続く、二つ目のシンカーキラーだった。
シンカーは「敵側の開発に大きな影響を与えた」という意味でも高い存在感を示したと言えよう。

アンダー海海戦で、シンカーはハンマーヘッドに勝った。
直接的な性能で言えばハンマーヘッドはシンカーを圧倒的に超える。
だが極端に言えば、戦いは1対1の性能などどうでも良い。最終的にその戦いに勝つことが目的だ。勝つためにどう貢献できるかが重要である。
この戦いは最終的に帝国軍の勝利に終わった。そして勝敗の決め手になったのはシンカーだった。共和国艦隊は炎上しトライアングルダラスに逃げた。
そうした意味で、シンカーはハンマーヘッドに勝った。

先ほども書いたが、単機としての性能で言うならハンマーヘッドは圧倒的だ。
だがハンマーヘッドには致命的な弱点があった。性能は文句の付けようがない一方、装備品が高価すぎて生産性に致命的な難があったのだ。
その点、シンカーは極めて優れていた。
開発が古いし、共通コックピットを使うなど随所に生産性が考慮されている。
メカ生体時代の戦歴「ハドリアンウォール爆撃作戦」では、空を多い尽くすほどのシンカーが投入されたとある。 これも生産性の良さを示している。

 

軍事学では、作戦レベルを同じとすれば軍事力サイズの高い方が勝つとされる。軍事力サイズとは質×量で求められる。
シンカーの質を1として数を100機とする。軍事力サイズは100と計算できる。
ハンマーヘッドの質を3として数を30機とする。軍事力サイズは90と計算できる。いかに質で上回ろうが、この場合はシンカーに勝てない事が分かる。

「戦いは数だよ」とは有名な台詞だが、これは半分正しく半分誤りだ。性能差がありすぎる場合、数では覆せない事があるのだ。
デスザウラーを前にしては、ゴジュラスがいくらいようが話にならない。
だからゴジュラスはデスザウラー就役後に全ての生産タイプをキャノン砲を積んだMK-IIに切り替えた。

もっとも、ここまで桁違いの新型機が登場する事は稀である。
いかに新型機と言えど、たいていの場合は、「超苦戦はするがどうにか対抗できなくもない」程度の性能である。

そしてハンマーヘッドもそうだった。
確かに強いが、数の劣を覆せるほどの圧倒的戦力ではなかった。
残念ながら、生産性まで含めた総合的な評価ではシンカーに負けた事は否めない。

 

シンカーのバランスの良さは凄いと思う。
空戦ではプテラスに勝てるわけはない。同タイプのハンマーヘッドにも1対1では勝てるわけがない。
しかし生産性の良さ、これを含めて考えればどうか。
少なくともハンマーヘッドには十分対抗できる程であった。プテラスにも、撃墜されつつも十分な戦果を挙げ続けた
長く使われる傑作機とは、こういう事を言うのだろう。

 

さてシンカーの戦歴の中で、私が最も印象深く覚えているのはウルトラザウルスのっとり作戦だ。

シンカーはこの作戦の中で、ハンマーロックを空輸する役割を担った。
ハンマーロックをウルトラザウルス上空まで空輸、そして投下した。

ハンマーロックを見ると、特にブースターのような装備は付いていない。ノーマルと同じ装備だ。すなわち、ただの自由落下でウルトラの甲板に飛び乗ったと思われる。
エコーの凄まじい技量と度胸が伺える。
そしてまた、ピンポイントの位置でハンマーロックを切り離したシンカーも凄い。

さてこの作戦だが、初めて見た時は「シンカー凄い!」というより「ウルトラ気付けよ…」と思ったのを覚えている。
見たところ、それほど高い位置から投下したわけじゃない。というか、かなりの低高度だ。
これは、ハンマーロックがノーマルと同じ装備という所に答えがあろう。
あまりに高い位置から投下すると、着地の衝撃にハンマーロックが耐えられずに潰れてしまうのだろう。
また、さすがに高高度からの投下ではウルトラの甲板というピンポイントを狙うのが難しかったというのもあろう。

余談だが後年「ゴーレム」が降下作戦を実施した時は逆噴射のエンジンを増設していた。その為高高度から投下された。

ウルトラザウルス乗っ取り作戦の時は、このような装備がなかったのだろう。
戦況を見ると、この作戦はウルトラザウルス出現を受けて急遽として考案・実行されたものだろう。
「装備が開発できなかった」というより「開発する時間がなかった」と言った方が正しいかもしれない。

話を戻す。
さて「ウルトラ気付けよ…」についてだが、改めて見ると仕方がないとも思う。
本文を読むと天候が嵐だったとある。(バトスト1巻収録版では暴風雨)

・視界が悪く目視では索敵が困難
・風や雨の音がシンカーの飛行音をかき消す
・レーダが激しい雷雨で使用不能になっていた

これらの悪条件に加えて、共和国側はまさか乗っ取りを受けるはずなどないと慢心していたところもあろう。
まぁ、慢心していたのも無理はないと思う。
作戦が行われた場所は共和国首都に程近かった(※)
またこの段階のウルトラザウルスは、実戦投入前であった。おそらく性能試験などを行っていたのだろう。
このタイミングで乗っ取りされる可能性を考慮しろというのはちょっと酷だ。

※乗っ取り後のエコーはキャノン砲で首都を撃とうとした。学年誌によると射程はウルトラキャノン砲の射程は100kmなので首都から100km以内の距離と考えられる。

 

通常ではなかなかない気象の悪条件。そして共和国側の慢心。これが本作戦を成功に導いたと思う。

しかし、嵐の中でけっこうされた作戦というのは本当に凄い。
この条件の中で、シンカーはよくぞ飛んだものだ。しかも単に飛んだわけじゃない。ハンマーロックを積んで飛んだのだ。

地球の戦闘機……、レシプロ機の時代は夜間や悪天候時は飛べないものが大半だった。
現代では「全天候性」を持つ飛行機は普通になっている。レーダーやエンジンの向上で飛べる幅は増えた。
だがそれでも、嵐の中を飛べるものではない。そんな飛行機は存在しない。
これを思うとシンカーの凄まじさが分かる。

いやしかし、もしかすると次のようにも思った。
シンカーは「エイ型野生体を使用した飛行ゾイド」だ。根本的には海の生物だ。
だからあんがい「嵐=濡れる」という状態だから、むしろ好調で飛べたのかもしれない。

「History of ZOIDS」では、戦闘機運用されるシンカーにパイロットが「シンカーも海に帰りたいだろう……」と思うシーンが出てくる。
上空の「水などない」場所で戦うより、むしろ雨が降り機体がずぶ濡れになった方がシンカーにとっては本領が発揮できるのかも……。
土砂降りならなおのこと良い。塗れれば濡れるほど良い。
もちろんシンカーは「もともと水の生物を無理やり飛ばした」から、このように濡れた方が本領を発揮するようになっている。
しかし他の飛行ゾイドは雨が降った方が性能が落ちる。

なので、シンカーはあえて荒天時において共和国領土への爆撃などを行っていたのかも……。なんて思ったりもした。
荒天時ならシンカーは水を得てフルに能力を発揮できる。
一方、迎撃するプテラスやペガサロスは雨ゆえに普段のようなスペックが出せない(キャノピー式なので余計に雨に弱そうだ)。
帝国は「シンカーしか飛行ゾイドがない」時代は、そのような工夫で必死に戦っていた……とか思ったら面白いなぁと思った。

こういう要素はゾイドならではだ。
やっぱり「生き物」だからこそゾイドは面白いなあと思う。

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