がんばれゼネバス皇帝

半ばネタ、半ば真面目な内容で。

戦争というのは技術力、生産力、資源などがある方が勝つ。
というのは真理だ……が、それだけじゃない。指揮官の質というのも極めて重要だ。
優秀な指揮官が戦力差を覆して勝つ場合はある。
逆に、無能な指揮官が貴重な戦力を浪費し兵士の士気を低下させ……という場合もままある事である。

 

末期のゼネバス帝国軍は、それはそれは戦力不足にあえいでいただろう。
もはや質・量・作戦の全てで圧倒する共和国軍。
何とかして猛攻を止めたい。あるいは少しでも遅らせたい。
そんな状況で頼りになるのはやっぱりデスザウラーだったと思う。
マッドサンダーが居ない部隊なら十分すぎる力を発揮するし、マッドサンダーが居てもある程度なら対抗できる。

敵部隊にマッドサンダーが一機しかいなければ、デスザウラーがマッドを引き付ける。その間にアイアンコング以下の機を敵部隊に突入させる。
デスザウラーがニ機居ればしめたもの。一機がマッドに対応して、残り一機はマッド以外の共和国部隊に突撃。
という風に、デスザウラーがいれば戦い方が幾つか思いつく。
もちろん苦しい戦いには違いないのだが……。

そんなわけで、末期の帝国軍はデスザウラーが一機でも多く欲しい。
そんな時にデスザウラーを浪費しまくった人物が居る。
誰だ。
そう、それは我らがゼネバス皇帝だったりする。

ということで今回は、末期にゼネバス皇帝がどんな戦いをしたかを振り返ってみたい。

 

・デスクロス

デスクロスは学年誌・小学二年生のバトストに登場したゾイドだ。
パイロットについては「おそらくゼネバス皇帝が乗っている…」という推測で書かれていた。
なので断定はできないのだが、とりあえず紹介しよう。
これは「デストゲラー」と共同してマッドサンダーを倒そうとしたが失敗した。詳細はこちら(VSマッドサンダーvol.5)も参照。

デスクロスは首部分が脱出装置になっていた。敗北後、パイロットはこれで現場を離脱……するのだが、


デッド・ボーダーにこんなにされてしまった。

 

さてデストゲラーとデスクロスを倒した共和国軍は「これで戦勝した」と判断していた。

私は、この一戦はニカイドス島の海岸線で行われた戦いと推測している。
なぜかというと、ニカイドス島は中央大陸戦争最終決戦の地だった。
ヘリック大統領はニカイドス島攻略戦を「マッドサンダーが無事に上陸できれば我が軍の勝利だ」と判断していた。
すなわち、

1、海岸線の防衛を担うデストゲラーとデスクロスを排除した
2、これで後続のマッドサンダーが安全に上陸できるようになった
3、よって共和国軍の勝利が確信された

というわけだ。
まだまだニカイドス島内部での戦いは残っている。だがそれでも、「これで戦勝だ」と判断できるものだったのだろう。
脱出した首をデッド・ボーダーがぶら下げて登場している。これもまた現場がニカイドス島である事を強く思わせている。

 

・黄金のデスザウラー


黄金のデスザウラーは学年誌・小学一年生のバトストに登場したゾイド。
帝国要塞深部でマッドサンダーと決戦してマグネーザーを一本折る善戦をした……ものの、残った一本に貫かれて敗北。
ゼネバス皇帝はビークルで脱出した。

ところでこのシーンはマッドサンダーがデスザウラーの喉元にキャノンビーム砲を叩き込んでいる。
また一戦では、デスザウラーは荷電粒子砲を使わなかった。
これはこちらのコラム(VSマッドサンダーvol.3)の内容、キャノンビーム砲を喉元に猛射すれば荷電粒子砲を撃つどころではなくなるの裏付けになるかもしれない。

…メタ的に言えば、既に前号までで「荷電粒子砲を撃つデス/それを跳ね返すマッド」の描写は何度も描かれており、さすがに今号でもやってしまうとマンネリである。 それゆえこのような形になったのだとは思うが。

 

さてこのデスザウラーは「新ゾイドバトルストーリー」にもチラッとだけ写っている。

このシーンのデスザウラーがそれだ。
こちらは確実にゼネバス皇帝が乗っていた。

……ところで、さすがは皇帝専用機だけあってビークルの造りが豪華だ。
一般的なの下手したら転落しそうなやつと違って、安心して乗れる感じがする。

ちなみに先ほど書いたように、デスクロスは首がそれごど脱出装置になっていた。
それはこちら

これはなんていうか、凄い。
ウルトラザウルスは頭部コックピットがそのまま脱出装置として機能する。だがデスザウラーはそうなっていない。
規格が統一されておらず、色んなタイプの脱出装置が存在するのかもしれない。
初期帝国ゾイドさえ脱出装置があるのが帝国ゾイド。おそらくパイロットの人数が少ないので何としても貴重。負けても帰還させることが必須だったのだろう。
そんな帝国なので、デスザウラーにまさか脱出装置がないとは考えにくい。
この辺を考えてみるのも面白いと思う。

さて、新ゾイドバトルストーリーのストーリーと照らし合わせると、黄金のデスザウラーがニカイドス島で戦ったのは明らかだ。
しかし学年誌・小一ではこの戦いが「帝国首都で行われた」と書いてあった。
思うに、末期の帝国軍はニカイドス島へ首都機能を移転していたのだと思う。
旧敵国首都はもはや共和国軍に奪われることは必至。そこでニカイドスに全ての機能とゼネバス皇帝を移した…。
戦時中にこのような事をするのは決して珍しくない。
いかにも末期らしい現象と言える。

 

・皇帝専用デスザウラー

これは有名だと思う。
暗黒軍の裏切りを受けて出撃したゼネバス皇帝専用デスザウラー。
デッド・ボーダーとの一騎打ちの末に大敗北をした。
個人的に、この時の暗黒側パイロットはガイロスじゃないかと思っている。
この一戦は「だからこそ象徴的であり、だからこそゼネバス帝国軍が全面降伏した」のだと思う。

 

そんなわけで以上が末期のゼネバス皇帝の戦いだ。

末期に専用デスザウラーを三機消費。
「三」という数を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれだろう。
しかしゾイドバトルストーリー3巻の「ゲルマンジー上陸作戦」では一機のデスザウラーさえ大きな壁になっていた。(こちらのコラムも参照されたい)
基本的に上陸戦というのは防衛側に有利なものだ。なので上陸戦は「敵の3倍以上の兵力」をもって攻め込む事が多い。
それでも成功しない事もある。
第二次世界大戦で行われたフランスへの上陸作戦「ディエップの戦い」では、防衛するドイツ軍1500名に対して連合軍は6000名で挑んだ。4倍の兵力だ。
それがどうなったか。

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結局連合軍は3,894人の損害を出して、全く戦果がないまま撤退した。帰還できたのは2,000人余りで、ドイツ側の損害は591人であった。
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ゼネバス皇帝のゾイド乗りとしての技量を疑うわけではない。ただ、同時に動かせるのは一機だけ。これは覆らない。
その間に残りの二機を遊ばせておくのは勿体ない。

一機ずつ投入したら順番に全て倒される。でも三機同時に投入すれば作戦成功できるかもしれない。
戦力の出し惜しみ、小出し…。「戦力の逐次投入」をしてしまった感じがする。
「皇帝自らが最前線で戦う」というのは普段なら評判が良かったかもしれないが……。

 

私はデスクロスは「ゼネバス皇帝機ではない」と考えている。
さすがにゼネバス皇帝を槍で刺して晒し者にしないと思う。
これではゼネバス帝国兵が怒り狂う。投降するどころか徹底抗戦しそうである。
「決戦で負ける」のは結果であり仕方がないと考えるだろう。しかしこんな事をしてしまうと「死んでも暗黒軍には協力せん!」という流れになりそうだ。

むしろ「決戦で勝利し、そのうえで負けた側を厚遇」してみせてこそ完全に相手を屈服させることが可能だ。
暗黒軍はそうしたと思う。

だがもしデスクロスまで含めて全てゼネバス皇帝専用機だったとしたら……、皇帝も頑張るなぁ……と思う。

・マッドサンダー参戦。帝国不利に。
・オベリア決戦で敗北。帝国敗北が濃厚に。
・暗黒軍に頼る決断をする。政治交渉を行いニカイドス島に救援に来てくれるよう約束を取り付ける。
・ゼネバス帝国の首都機能をニカイドス島に移設。ニカイドス島の要塞化を指示。

ニカイドス島での決戦時は……、

・上陸したマッドサンダーに対してデスクロスで出撃するも、敗北して脱出装置で離脱。
・離脱した先でデッド・ボーダー(ガイロス皇帝)に激しく叱咤される。愛機の首を晒された上で再度の出撃を命じられる。

・黄金のデスザウラーで再度の出撃。島の内部に侵入したマッドサンダーを迎え撃つも、またしても敗北。
・ビークルで脱出。海岸線に不時着してそこからは徒歩で逃亡し残存する帝国軍と合流する。

-この辺で暗黒軍が裏切る-

・最後の皇帝専用デスザウラーで出撃。そしてデッド・ボーダーに敗北。

ハードを極めている。
もういいお歳だし……、デスザウラーで激しい格闘戦を連戦。よく体がもつものだ。
脱出時の飛行も負担が大きいだろう。脱出装置は遊覧飛行じゃない。いちはやく離脱する為に全力で加速する=ものすごいGがかかる。
更に、海岸にビークルを乗り捨て徒歩で逃亡した時は精神的な負担も凄まじかったと思う。

もう一度言う。ハードを極めている。
デッド・ボーダーとの決戦時は疲労困憊で何もかもおぼつかないくらいの状態だったのではないだろうか……。
これも暗黒軍(ガイロス皇帝)の策略だったのかもしれない。

 

ちなみに「ゾイドグラフィックスvol.16」では描写が少し違っていて、ゼネバス皇帝最後の乗機はアイアンコングMK-IIだったとされている。


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しかし、暗黒軍の攻撃目標は、なんとゼネバス帝国軍に向けられたのだ。そして、ゼネバス皇帝の乗るアイアンコングMK-IIにも襲いかかってきた。
皇帝を必死に守ったのは、親衛隊の若き指揮官、シュテルマー中尉であった。しかし、皇帝機は爆発を起こして、海の底へ沈んでいった。
その生死を誰も確かめたものはいなかった。

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これも加えるなら、デッド・ボーダーに負けた後もなおも戦い続けた。
もはやデスザウラーがない(あるいはデスザウラーを操れる状態じゃない)ので仕方なくコングMK-II(おそらく量産型?)で出撃。
しかし暗黒軍の猛攻を受け、海へ転落したのだろう。

「海へ転落した後は暗黒軍に救助され、今度こそ降伏したのであった」
ということだろうか。

皇帝は本当にハードだ。
負ける方の軍は末期になるともはやワケが分からなくなってくる。
本人は無茶苦茶頑張ってるんだろうけど作戦は既に破綻している。そんな事はよくある。
ゼネバス皇帝は後年にこの時期を振り返ったときどんな思いをしただろう……。

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