最強の盾

ゾイド戦史において最強の矛はデスザウラーの荷電粒子砲であると思う。

それは理屈的には違う。
キングゴジュラスのスーパーガトリングキャノン等は明らかにデスザウラーの荷電粒子砲の威力を上回るし、その他にも幾つかのゾイドは威力で上回る砲を持つ。
しかし描き方ゆえに、デスザウラーの荷電粒子砲の威力は他を圧倒するインパクトを残し、結果的に我々の感覚として最強の矛として君臨しているのだと思う。
その辺は、以前別のコラムにて記した。
今回の文章は、先にそちらを読んでから、その上で読み進めて頂きたいと思う。

それではその最強の矛に対し、最強の盾はというと、マッドサンダーの反荷電粒子シールドだと思う。


最も、これも理屈的には最強の矛ではない。
キングゴジュラスは、少なくともデスザウラーの荷電粒子砲には苦も無く耐え切る。
それどころか、デス・キャットの超重力砲にすら耐えてみせた。
超重力砲がマッドに撃ち込まれた記録はない為、比較として正しいかは疑問でもあるが…。

今のところキングゴジュラスの装甲を突破した兵器はギル・ベイダーのビームスマッシャーしか無い。
ただし、マッドサンダーもビームスマッシャーには耐えられないので、少なくとも反荷電粒子シールドと同程度の防御力は発揮していると見て良いだろう。
加えて、マッドサンダーの場合は防御できる部分が限られている。
対し、キングゴジュラスはほぼ全周囲をガードしているから、その有効さでは上を行くと思える。

しかしながらそれでも、マッドサンダーの反荷電粒子シールドは最強の盾だと思う。
それはやはり、デスザウラーの荷電粒子砲と同じく、その描き方ゆえにそう思える。

マッドサンダーの反荷電粒子シールドは、デスザウラーの荷電粒子砲のような描き方ではなかった。
「引っ張って引っ張ってその末に」描かれたものではない。
初陣こそアイアンコングが相手だったものの(この時、コング自慢のミサイルを完璧に防御している)、
その次にはいきなりデスザウラーと対峙している。
そして期待通りの防御力を発揮し、フルパワーの荷電粒子砲に苦も無く耐え切った。

当時のストーリーは学年誌で展開され、それが後からゾイドバトルストーリーとして再編集されるのが常であった。
学年誌の方はどうかというと、やはり最初は帝国のNo.2ゾイド…、主にアイアンコングやグレートサーベルを倒し、
数号先でいよいよデスザウラーと対峙といものばかりだった。
そしてどの学年のものもやはり、至近距離から荷電粒子砲を叩き込むデスザウラー→反荷電粒子シールドで耐え切る
マッドサンダーという構図だった。

そういった意味では引っ張りが無かったし、期待と不安が混沌としていたデスザウラーの荷電粒子砲に比べれば、
極めてあっさりした描き方だったと思う。
しかしマッドサンダーの場合、この描き方こそベストだったのだと強く思っている。
もちろん、デスザウラーの荷電粒子砲のように、引っ張って引っ張った末にようやく対決 という構図も出来たと思う。
しかしこの描写は、あえてのものだと思う。

それはマッドサンダーの存在そのものに、答えを見出せると思う。

デスザウラーと荷電粒子砲は、その描き方も相まって、共和国にとって「恐怖」そのものだった。
幾多のゾイドがそれに挑み、そして消え去った。
ゴジュラスが、サラマンダーが、ディバイソンが、ウルトラザウルスが、デスザウラーの格闘と荷電粒子砲の餌食となった。

デスザウラーの恐怖を強調したのは、ディバイソンの存在だと思う。

RBOZ-06ディバイソンは、その設定が対デスザウラー用だった。
しかしその実力はアイアンコングと双肩しながらもデスザウラーには及ばず、「全力で体当たりすればデスザウラーにダメージを与える可能性を秘める」程度のものだった。
対抗機なのにこの程度の希望しか持たせてくれぬデスザウラー…、ディバイソンは強力なゾイドであったが、それゆえにデスザウラーの強さをより引き立たせていたと思う。
余談になるが、同じような事は対ゴジュラス用として開発されながら及ばなかったレッドホーンにも似ていると思う。
このように、対抗機が存在するにもかかわらず倒されないというのは、その機体の強さをより強調する良い描き方だと思う。

この構図が崩れたのはデッド・ボーダーだろう。
未知の暗黒軍の恐怖を示す使命を帯びていたとは言え、媒体によってはマッドサンダーさえ軽く沈めた描写もあった。これはいかにもやりすぎだったと思う。
従って、ギル・ベイダーがマッドサンダーを上回ったとして、それ程のインパクトを与える事は出来なかったように思う。
そしてその後は、多少の差はあれど、新型機は常に最強を纏って登場した。

ともかく、そうして共和国ゾイドは適わぬ事を知りながら様々な戦法でデスザウラーに戦いを挑み、そして敗れた。
しかし同時に、時に幾多の伝説も生んだ。
例えば雪原で寒冷地仕様のゾイドマンモスが冷凍砲で退却に追い込んだり、ディバイソンが不意打ちの全力の体当たりで火山に叩き落したり、語り継がれる戦いを残した。

しかしその伝説はまた、ここまでの策を弄さねばデスザウラーは倒せない事の証明でもあった。
正面きって倒せるゾイドを何より待ち望んでいた。
その為に、史上最大の救出作戦を行い…、史上最大の陽動作戦を行い…、途方も無い作戦も行った。
その末に登場したのが雷神・マッドサンダーであった。

そう考えると、マッドサンダーは共和国の思いそのものゾイドだと思う。
だからこそ、その思いを持った切り札がマッドサンダーであり、だからデスザウラーの荷電粒子砲に耐え切る描写に熱くなれ、最強の盾となれたのだと思う。

私の中でデスザウラーは恐怖の存在だった。
「あいつを敵に回さなくて良かった…」だった帝国派と違い、何とかして攻略すべき存在だった。
1%の可能性にかけ、オーロラインテークファンを狙い幾多の戦いを挑み、同時に正面から対抗できるゾイドを何よりも欲していた。
それが、当時の共和国派に共通する思いだったと思う。
かなり初期段階で荷電粒子砲を防いだマッドサンダーの盾。しかし以上のように考えると、やはり最高の重みを持った演出だったのだと思う。
マッドサンダーはマッドサンダーであるだけでなく、共和国そのものだったのだと思う。
だからこそマッドサンダーの反荷電粒子シールドは最強の盾と言い切れるものだと、私は思っている。

そして最強の矛たるデスザウラーの荷電粒子砲と、最強の盾たるマッドサンダーの反荷電粒子シールドが戦った戦いは、まさにゼネバス帝国とヘリック共和国という
2大国家の永きに渡る戦いの歴史、その有終の美を飾るに相応しい戦いだったのだと思う。

まさにメカ生体ゾイドの中央大陸戦記は、そのドラマだけでなく、登場ゾイドも素晴らしいものだったと思う。

最強を冠するものはそれ相応の重みを持っていて欲しい。
それを考える時、まさにデスザウラーとマッドサンダーは最高の模範となれる傑作・最強ゾイドなのだと思う。

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