砲の威力を計算する

前回のコラム(キャノン砲の威力と開発史と構造を考える)でキャノン砲の威力について書いた。
ここから更に考えたいと思う。

さて、地球ではおおまかに小口径の砲を「銃」といい大口径のものを「砲」と言う。
その境は曖昧で、時代や国によって定義が違う。アメリカや日本ではおおむね20mm以上を砲と呼び、それ未満を銃と呼ぶ事が多い。
「7.7mm機銃」「20mm機関砲」といった感じ。

ゾイドではどうだろう。
「105mm高速キャノン砲」「105mm17連突撃砲」「36cmウルトラキャノン砲」
大型のものは砲と呼ばれている。

小型砲を見てみると……、
スパイカーは「20mm機関砲」を持っている。
ハイドッカーは「ホギス20mm機銃」を持っている。
機獣新世紀ゾイドではプテラスとステルスバイパーのコックピット搭載砲が「16mmバルカン砲」だった。
これらを総合して考えるに、ゾイド星でもおおむね20mmを境に銃と砲の呼称が変わる。ただし境付近のものは銃と呼ばれたり砲と呼ばれたりが曖昧という感じだろうか。

 

さて砲の威力は高くしたい。なぜなら威力がないと当てても倒せないからだ。
第二次世界大戦時の地球の航空機には、7.7mm機銃、12.7mm機銃、20mm機関砲がよく搭載されていた。
これらの威力はまるで異なる。


こちらは零式艦上戦闘機(零戦)52型。20mm機関砲(×2)と7.7mm機銃(×2)を搭載している。

敵戦闘機に命中させたとして、
・7.7mmは小さな穴をあけるがエンジンかパイロットに当たらない限り落ちない
・12.7mmは大穴を明けて深刻なダメージを与える
・20mmはバラバラに吹き飛ばす

大まかに言ってそんな威力で、20mm砲の威力は凄まじかった。

7.7mmと20mm。口径差は2.56倍。
「そこまで威力が変わるものか?」と思うだろう。
これが凄まじく変わる。
なぜなら、口径が変わっても砲弾の「形状」はだいたい同じだ。
口径が大きくなると比例して砲弾も大きくなる。砲弾の大きさというのは「体積」なので、わずかでも口径が大きくなると飛躍的に重くなる。
破壊力が飛躍的に増すのはその為。


これは砲弾の大きさを同一スケールで示した図面。20mm機関砲の砲弾の大きさが分かると思う。


こちらは3Dで並べてみた図。大きさ比はこちらの方が分かりやすいだろうか。

 

砲の威力は、初速が同じとすれば口径の三乗に比例する。
すなわち7.7mm機銃の威力は7.7×7.7×7.7で示すことができる。456.53だ。
20mm機関砲は同じように計算すると8000。
「20mm機関砲は7.7mm機銃の15.7倍もの威力を持っている」と計算できるわけだ。
こう言うと「7.7mm機銃の威力は穴をあける程度」「20mm機関砲の威力はバラバラに吹き飛ばす程度」というのが良く分かるだろう。

 

さてゾイドは各種口径の砲を持っている。
「威力は口径の三乗に比例する」に則って一覧を作ると以下のようになる。
基準をゴルドスの105mm高速キャノン砲として、威力比も付けてみた。

数値化すると面白い。
ただし、当然ながらこの表の通りの威力だったわけではない。なぜならばこれは「初速が同じ」という前提の計算だからだ。

破壊力は「速度×重量」なので、初速が低ければ当然破壊力は下がる。
逆に高ければ破壊力は上がる。


ゴジュラスの42cm長距離キャノン砲は、構造が無反動砲なので初速は他の砲に比して劣るだろう。
改造ディバイソン(ビッグ・バッド・ジョン)の86cm砲も、口径こそ巨大だが砲身が短すぎるので初速は低いと思う。
これらは実際の破壊力は大幅な下方修正が必要だろう。


一方、ウルトラキャノン砲なんかは電磁砲(レールガン)なので初速が極めて高い筈だ。おそらくこの一覧の砲の中では最も高速だと思う。
破壊力は大幅な上方修正が必要だろう。

火薬式の砲は理論上の限界初速が2000m/sだ。秒速2km(マッハにするとM5.88)。火薬ではこれが出せる限界だ。
自衛隊の10式戦車の主砲(120mm砲)はこの初速を出すと言われている。とんでもない速度だ。

だが、電磁砲は火薬式を更に大きく超える初速が可能だ。
21世紀地球では、実験段階だが初速8000m/s程度のものが開発されている。これは秒速8km(マッハにするとM23.53)。火薬式に比べて圧倒的な速度だ。
ただし、発射に大電力が必要なのでパワー系ゾイドにしか搭載できないという弱点はあるのだが。


機獣新世紀ゾイドのバケモノ砲、ウルトラザウルス・ザ・デストロイヤーの1200mm砲も電磁砲だと思う。
「使うとウルトラザウルスの寿命を縮めてしまう」ような表現があった。
あれは、やはりウルトラザウルスのエネルギーを使って撃っているのだと思う。

ただ、1200mm砲は初速はあまりないと思う。
さすがに砲弾が大き過ぎる。通常のウルトラキャノン砲と同じ速度では撃ち出せないだろう。せいぜい火薬式のキャノン砲と同等以下の速度だろうか?
それでも、砲弾が大き過ぎるのであの威力になっているのだと思う。

いやしかし……、それにしてもやっぱり凄い。
仮にゴルドスの105mmキャノンと同じ初速だとすれば…、1493発分と同じ威力!
改めてバケモノだ。

 

ということで、砲の威力について考えてみた。
もう少しだけ続ける。

 

基本的に砲は大きいほど大威力である。
なので大きな砲を積みたい……となるわけだが、大型砲は当然ながら誰にでも搭載できるものではない。

1:重量があるので、見合うだけの機体サイズがないと搭載できない
2:反動が大きいので、それを吸収できるだけの機体サイズや頑丈さが必要
3:大型砲は砲弾も大きいので、弾薬庫が小さければ携行弾数が少なくなる

という弱点がある。

2はゴジュラスキャノンのような無反動砲を使えば(完全ではないが)解決でる。

が、無反動砲には「同じ口径の通常砲に比して威力で劣る」ということ以外にも弱点がある。
戦場で深刻になる問題の一つは「撃つと極めて発見されやすい」ことだろう。

無反動砲は発射と同時に後方からも噴射をするので、巨大なバックブラストが生じてしまう。
これが、敵からすれば容易に位置を察知できるものになる。
なので無反動砲は、「撃ってすぐに退避」が基本になっている。

こう考えると、シールドライガーなんかにはあんがい相性が良いかもしれない。
またゴジュラスの場合は、とにかく頑丈なのでちょっとやそっと撃たれても大丈夫……という強引な発想かもしれない。

…メカ生体時代においてゴルドスがキャノン砲装備タイプが量産されなかった理由の一つがこれかもしれない。

鈍足のゴルドスは迅速に退避するのは致命的に難しい。また防御力も低い。

3も深刻だ。上で、7.7mm機銃と20mm機関砲の話をした。
「7.7mm機銃は小さな穴を開ける程度。20mm機関砲は敵機をバラバラに吹き飛ばす程」
ただ、20mm機関砲の弾は大きい。


改めて違いが凄い。

零戦の初期型の20mm機関砲は、1門あたりわずか60発しか携行できなかった。
発射速度は毎分520発だったので、連射するとわずか7秒ほどで弾が尽きてしまう。

7.7mm機銃は、1門あたり700発も携行できた。
こちらの発射速度は毎分950発だったので、連射しても44秒ほど。
そこそこ射撃を続けることが可能だ。

いくら威力があっても、敵がいるのに弾が無くて撃てないのでは意味がない。
これを解決するのは、大型機で内部に砲弾スペースを豊富に確保することだ。
ゾイドで言えばウルトラザウルスがまさにそうなっている。
大きな砲弾を使っても格納庫が大きいから撃ちまくるだけの数をもてる。
一方、中~小型機にウルトラキャノン砲サイズの大砲を無理やり付けても、格納庫が確保できないので数発しか撃てないとなるわけだ。

カノントータスは「携行弾数が少ないのが弱点」となっており、専用の給弾車仕様まで存在する。

強力な突撃砲だが、運用にはかなりの苦労があったようだ。

 

ゴジュラスMK-IIも携行弾数が少ないと思う。

矢印で示した部分が弾倉だと思うが、何発入るだろう。見た感じ、最大でも10発程度だと思う。
ゴジュラスも専用の給弾仕様が居たかもしれない。
機獣新世紀のウルトラザウルス・ザ・デストロイヤーには専用の給弾機「デストロイドゴジュラス」が居た。
これは、その仕様の発展型なのかもしれない。

以前のコラム(素早い動き、共和国軍のスーパーヒーロー)で、ゴジュラスMK-II量産型がデスザウラーを「撃退」していたのではないかと書いた。
キャノン砲を猛射してデスザウラーを追い払った。しかしゴジュラスMK-II量産型だけでは不十分。弾がすぐに尽きる。
そこでゴジュラスMK-II量産型には給弾仕様ゴジュラスやクレーン付きのグスタフが随伴して、必死で発射と砲弾補給を繰り返してどうにか撃退していたのだ……と思った。
ウルトラザウルスなら単機で撃ち続けられるが、ゴジュラスMK-IIで同等の連射をしようとするならこれだけの苦労が必要。
そんな風に現場の苦労を想像するのもまた面白いと思う。

 

スピノサパーやレイノスは機体サイズに比して異様に大口径の砲を持っている。これは……、弾数は足りてるのだろうか。


レイノスは尾部に72mmバルカンを装備している。航空機の機銃としては明らかに過剰だ。
レドラーとはそこまで頑丈な機体だったのだろうか?
それとも、対地攻撃でもしていたのだろうか?


スピノサパーもかなり謎だ。搭載している砲の口径がいずれも異様に大きい。
口の砲は88mm。下部の砲は115mm。しかも両方とも連装だ。
特に下部の砲が凄まじい。
正確には「115mmマシンガン」。マシンガンという位だから、かなりの連射力があるのだろう。
ゴルドスの105mmキャノン砲よりも大口径…、それをこのサイズで連装で装備。しかも連射可能。
凄まじい。

付き位置からして対人用に威力を発揮しそうだ。群がる歩兵を一掃する目的で使うなら、まさに最適と言える。
ただ、対人用なら115mmは明らかに過剰だ。対人用として十分な威力を持つ13mm機銃……とかにした方が良かったんじゃないかと思う。

あるいは、ガイロス帝国軍の数で言えばもっとも多いゾイドであるところのモルガ。これの対策だったのだろうか。

モルガは低姿勢で前面装甲が極端に分厚い。
対モルガ用にこのような配置で大口径砲を設置していた……とすれば一定の説得力はあるのだが、それでもちょっと大きすぎる気もする。
115mmにせずとも、せいぜい30mmくらいで十分イケたのではないだろうか。

キットの砲身サイズも、115mmマシンガンの砲身はかなり細い。プテラスやステルスバイパーの16mm機関砲と同じくらいの太さしかない。
ゴルドスの105mmキャノン砲には全く及ばない。
いくらなんでもこれは違和感がある。

個人的には、スピノサパーの武装は「情報操作の為にあえて嘘の情報が流された」説を唱えている。
兵器は必ずしも正しいスペックで公表されるとは限らない。
バカ正直に公表すると敵側がその対策を早期に進める危険が出てくる。
・あえて低く公表すれば敵側が安心して対策を後回しにするかもしれない。
・あえて高く公表すれば敵側が過剰に恐れて戦意喪失するかもしれない。
そんな思惑で調整した数値で公表される事は珍しくない。

ただ、情報欺瞞は「それっぽい」ことがキモである。あからさまにありえないスペックで公表すると嘘がバレる。
たとえば戦艦長門(竣工時)の速力は26.5ノットだったが、23ノットと低めに公表された。これでさえ各国は疑り「もう少し速い筈だ」と確信していたらしい。
スピノサパーの115mmマシンガンは、キットの形状から判断すると13~30mm程度の口径だと思う。
とすれば、115mmと公表されたことは戦艦長門で言うと「速力10ノットだ」とか「速力40ノットだ」とか公表するようなものと思える。
嘘になっていない嘘というか……。

スピノサパーについては謎が多い。
工兵として開発されたゾイドで、このクラスのゾイドとしてはかなり頑丈そうに見える。
その頑丈さを活かして、「小型ゾイドにどこまで大型砲が搭載できるか」の実験を行っていたのだろうか。
そんな可能性も思った。

まぁ、スピノサパーについてはいずれまた考えたい。キリがないので今回はこの辺で一旦区切る。

 

話が少し逸れてしまったが、こうした砲の利点・欠点を踏まえて各機に搭載すべき「最良の砲」が決定されるのだと思う。
各機には様々な砲が付いているが、選定に至るまでにどのような経緯があったのか。
それを想像すると、より武装が魅力的に見えてくると思う。

Back
index

inserted by FC2 system