グスタフの積載量はなぜ250tなのか

今回は、前回のコラム(グスタフの輸送システムを考える)に続いてグスタフの話。


グスタフは250tもの輸送力を持つ。
「ゴジュラスを運べる」というと凄さが伝わる。もちろんゴジュラスより軽いマンモスやゴルドスも運べる。
ゴジュラスは230tだから余裕をもって運べる。
ただMK-II量産型だと265t、限定型だと287tなので若干オーバーしてしまう。
でもこれ位なら現場は「イケるイケる」として強引に載せそうな気もする。
現場とはだいたいそういうものだ。……そして壊して整備を泣かせるまでがセットでもある。そんな現場を想像しても面白そうだ。

余談。
戦車は分厚い装甲を持つが完璧ではない。時に撃ちぬかれる。
そこで「破壊された戦車の装甲を再利用し各部に貼り付ける」こうした現場改修の重防御タイプが無数に造られたらしい。
グスタフのトレーラーも、ゴジュラスMK-IIを運用する部隊では独自の改修をしていたかもしれない。たとえば甲板を二枚張り合わせて踏み抜かれないように、というような。
地味だがキットをそのように改造しても魅力的だと思う。

ただし、基本的にゾイドはグスタフには乗らないと思う。
なぜならゾイドは脚がある。自走力がある。速度も十分だ。だから基本的には自身の脚で戦場まで移動するだろう。
グスタフは主として弾薬・食料・歩兵などを運んでいると思う。
バトストではよくゾイドを載せているシーンを見るが、これは「補給や整備をしながら運んでいる」という例外的なシーンか、あるいは「傷ついたゾイドを載せて回収している」のいずれかだろう。
メイン業務であるところの物資輸送シーンは地味すぎて画面栄えしにくい。だからあまり紹介されなかったと思う。

さて「250tの物資を運べる」というと途方もない量だと感じる。
250tの弾薬、250tの食料…なんていうと簡単には想像がつかない。
実際に凄い量だ。
現在、米軍が運用している主力戦車のM1エイブラムス。これは120mm砲を持つが砲弾重量は20kg程度。単純に計算すると12500発も積める。
M1エイブラムスは規定では車内に42発の弾を搭載する。これまた単純な計算だが、グスタフ一機でM1エイブラムス297.6台分の砲弾を運べてしまうのだ。これは凄まじい。
自身には攻撃力がない。しかし味方部隊をこれほど強力にバックアップできるゾイドは他にいないだろう。

ただ実は、この積載量はそこまで抜きん出ているわけではなかったりもする。
街中でよく見るダンプカー。これの積載量は最大でも11t程度だが、これは日本の一般道を走る仕様だからだ。
「重ダンプカー」とか「マンモスダンプ」とか呼ばれる巨大輸送トラックが存在する。
これらにはとんでもないパワー級のものがある。たとえば「980E」という重ダンプカーは実に369tもの積載量を誇る。これはダム建設現場などで使われている。

※画像はコマツのHPより


大きさは上を参照。荷台とタイヤを色分けしている。タイヤのデカさがとんでもない。
ちなみにトラック自体の重量は625t。マッドサンダーをも凌駕する超超ヘビー級だ。
しかしこのトラック、積載量369tというのは凄い。グスタフを100t以上も超えているではないか。

まぁ前回のコラムの通り、グスタフは「キャタピラ式」を採用した上で積載量250tだ。
なので効率の良いタイヤ式にすれば重ダンプカーをも更に凌駕するかもしれない。
それでも、1000tを運べるわけではないだろう。せいぜい350t~400t、そのくらいだと思う。
要するに地球のトラックと大差ない積載量である。

ゾイド星最強の輸送トラックとしては少し物足りないかなぁ、という気もする。
もう少し積めそうな気がする。
なぜなら、よくよく考えるとゾイドは「ゾイド生命体(コア)という凄まじいエネルギー源を持つ」筈だ。
コアは無限とも感じられる程の凄まじいエネルギーを持つ。

これは続編の「Zナイト」の設定を見ると分かりやすい。
Zナイト世界で純地球製のマシンはバトルアーマーと呼ばれる。これは強力なロボット兵器である。
しかし装甲巨神には遠く及ばない。なぜなら装甲巨神はゾイドのコアを搭載しておりエネルギー値が桁違いに高いからだ。

ゾイドのコアは地球では考えられない程の高エネルギーを持つ。
それを考えた時、250tという量はいかにも少ない。少なすぎる。いっそ2500tくらいになっていても良さそうな気がする。

 

なぜ250tに留まったのだろう?

メタ的な回答を言うと、「リアルだな!」と思える数値にしたのだろう。
ゾイドの設定は実在する兵器などの数値が参考にされている。

たとえばゴルドスの主砲口径は105mm。これは1984年…すなわちゴルドス発売年における各国主力戦車の主砲口径と同じだ。
ウルトラザウルスの主砲口径は36cm。これは戦艦金剛や扶桑などの主砲口径と同じだ。
(余談だが大和と同じ46cmになっていない事が面白い。もしかすると後年ウルトラザウルスをも越える超スケールの新世代戦艦ゾイドを出して、それの主砲を46cmないし51cmにするつもりだったのかもしれない)
飛行ゾイドの最高速度もプテラスがM2.0で、これはジェット戦闘機の速度にニアだ。
また最新鋭強力機と強調されたレドラーやレイノスはM3.0を超える。マッハ3級というとMig-25やSR-71を思わせる。


1984年当時の主力戦車「74式戦車」とゴルドス。両者の主砲口径は同じ。

実在する戦車、戦艦、戦闘機などを知っていれば、ゾイドの設定は実にリアルだなーとニヤリできる。
これがもしゴルドスの主砲は1000mmだとかプテラスの最高速度はM20だとか言ってしまうと、凄すぎて逆に「うーんどうなんだろう……」と白けてしまいかねない。

リアル系のフィクションメカでよくあるのは「現実と同じ数値」または「少し盛った程度の数値」である事だ。
たとえば現代各国主力戦車の主砲口径はおおむね120mm。これが基準になる。
作中メカの砲が120mmだとリアルさを容易に感じられるし、少し盛った程度の140mmくらいだったらリアルさをよく保ったうえで「強そう!」となるだろう。
だがこれがいきなり1200mmになってしまうと「いや、凄いのは分かるけど想像しにくいわ……」となってしまうだろう。

「現実と同じ数値」または「少し盛った程度の数値」にする意義は大きい。
基本的な数値をリアルに体感しやすいものにしておけばこそ、稀に出す超兵器、たとえば荷電粒子砲やデストロイヤー1200mm砲なんかも引き立つ。
世界観を造り出す「大勢」のメカはリアルに体感しやすい数値に。そして稀に出す超ボス級のメカはぶっとんだ装備・数値で。そんなバランスが良いと思う。
ぶっ飛んだ装備が標準になってしまうと、もはや体感しづらくていつか白けてしまう。

これはとても難しい問題で、シリーズが長期展開を続ける場合は必ずぶち当たると思う。
105mmキャノンとか36cmウルトラキャノンというリアル系な所。ここにいきなり荷電粒子砲が出たから凄かった。
更にそれに対抗した反荷電粒子シールドやマグネーザーも凄いと思えた。
でもその次となると、もはや反荷電粒子シールドやマグネーザーが基準になるのでちょっと体感しづらくなってしまう。

荷電粒子砲は「36cmウルトラキャノン砲(リアルに体感できる装備)を圧倒的に上回る威力だ」と思えば「スゲー…」と体感することができる。
更にそれを無効化する反荷電粒子シールドくらいまでならギリギリで凄さを伝えやすい。
でも「反荷電粒子シールドをも切り裂くビームスマッシャー」となると……。

105mmキャノンや36cmウルトラキャノン砲の時代から知っている者ならば良い。
最初にリアルがあって、少しずつ装備のレベルが上がってきてる感じがするから体感できるだろう。
でもこの段階から入ってきた新規ファンとしたら、もはや基準がよく分からない。
最初からもう荷電粒子砲や重力砲を撃ちまって……という状況は「さぞや凄いんだろうな」という思いで最初こそ派手さに心奪われる。
けどリアルな体感がどうしても薄いので、強烈に長期的に惹きこむことが難しいんじゃないかなぁ……と思う。

 

話をグスタフに戻そう。
グスタフの250tという数値は「リアルさが体感できる数値」という事で決められたと思う。
地球の重トラックと比べてリアル感がある数値。またこの時点で最大ゾイドであるところのゴジュラスを運べる数値。
そのバランスで250tになったのだろう。
決して2500t運べる設定にしたりしない。そうすると「いや、凄いけど想像しにくいわ……」になってしまうから。
だからあえてこの数値になったのだと思う。

「リアル」に考えるとむしろ2500tになるべきだろう。
ゾイドにはコア由来のエネルギーがあるのだから、それ位の輸送量である方が理屈としては整合性がある。
でもあえて「リアル」ではなく「リアルを体感できる数値」に留められたのだと思う。

ゾイドは「リアル」でなく「リアル系」だ。
リアル系には「理詰めで説明できる完璧さ」は必要ない。そこそこで良い。実在する兵器などと比べてリアルさをもって体感できる程度があれば良い。
あとはワクワクを詰め込めば良い。
そういうものだと思う。

「理詰めで全て整合性が取れている」つまりリアルであることは素晴らしいと思う。でもそれだけじゃ決定的に足りないものがある。
そこにワンダーはあるのかい、というやつだ。

理詰めだけだとワクワクしないんだ。

リアル系とはまず「いいなぁと思えるワンダー要素をこれでもかとぶち込む」次に「それらしい設定で調理し仕上げる」ものだと思う。
こうすればリアルさを体感できつつフィクションならではのワンダーも併せ持てる。

リアルとリアル系は違う。

ただやっぱりそうはいっても世界観の「リアル」な考証も行いたいわけでもある。
だからユーザーはアレコレ頭をひねってそれらしい理屈を導くのだと思う。

私はリアル系作品の理想的な流れは次の通りだと思う。
1、リアルさが体感できる設定とワクワク感あるワンダーを併せ持った作品ができた。リアル系作品である。

2、ユーザーは夢中になった。またリアル系だから様々な考察なども行った。
  作中設定を深く考えると「?」な要素が幾つか浮かんできた。これはリアルに考えればおかしなことでであった。
  なお、「?」は作品に深くのめり込めばこそ気付く要素である。
  今回のコラムでいうと、「グスタフがリアルに考えれば輸送力2500tであるべきだ」なんて普通は気づかないだろう。
  まず夢中にさせる作品なのである。「?」な要素とは、夢中になったからこそ気付く穴なのである。

3、この時点でユーザーは作品が大好きになっている。それは普通なら気付かないような穴に気づいたことからも明らかである。
  ユーザーは「穴を見つけた。この作品やっぱりダメだな」とはしたくない。この先もずっと好きで居たいと思う。
  だから理屈を考える。一見すると矛盾した要素の理由を考え、整合性をとって穴を埋めてやりたいと思う。

4、作中では設定されていない裏の要素を想像する。これにより自分なりに理論を立て整合性をとることができた。穴はふさがった。
  苦労して組み立てた分、その作品が前よりもっと好きになっていた。
  いつしか、元々はリアル系だった作品が自分の中では現実以上のリアルになっていた。

つねづね、結論を先に決めるのは良くないと思う。なぜかというと、結論を先に固定すると「結論に説得力を持たせるための理由を考える」ようになってしまうからだ。
本来は色んな要素を集めて検証して、そこから結論を導くべきだ。
「こんな要素がある。あんな要素がある。これらを総合的に考えるとこういう結論である」というのが順として正しい。

いやしかし、世の中にはたった一つだけ「結論を先に決めてその理由を考える」ことが推奨されるものがあると思う。
それこそがフィクションの考察だ。
フィクションの考察とは劇中の描写を正しいと固定した上で、「現在公表されている設定では説明しきれない部分を妄想力を爆発させてそれらしく解釈する」作業だと思う。
そんな風に考えていきたい。

上の例は沢山の方が実行していると思う。
例えばガンダムでも「なぜ人型か」などは散々言われていると思う。
そこで「だからダメだ。しょせんここまでのレベルだ」と捨てるのはつまらない。
好きだったらその理由を見事に考えてみれば良いのだ。

 

……話が逸れてきたので元に戻そう。
まぁ、そんなわけで設定上の積載量は250tになったと思う。
ここからは「作中でどのような理由があって250tという積載限界になったか」という部分を考えたい。

問題になっているのは単純だ。
「地球では実現できないほどの高エネルギーを持ちながら、積載量が250tに留まっている」事。
エネルギー値を考えればむしろ2500t程になっていそうなのに、だ。

私はこれはゾイド星の環境ゆえであると思った。
金属の露出が多い星。
そうした星の環境によって、「常にコアのエネルギーが吸い取られている」ような現象が起こっているのではないかと思った。
常に放電しているとイメージしてもらえば分かりやすい。
コアのエネルギー値は高いが、同時に吸い取られる分も多い。なので実際に活かせる値はかなり減ってしまっている。

ゾイド星はまた磁気嵐などが吹き荒れる星でもある。
吸い取られたゾイド各機のエネルギーは磁気嵐を起こす源になっていたり……という可能性も思った。

エネルギーの大半が吸われてしまった結果として、本来のコアのエネルギーは輸送量2500tくらいになれるのに250t(=20世紀末~21世紀初頭の地球と同レベル)になってしまっている。
そしてZナイトの設定を思い出そう。地球ではゾイド星特有の要素がないのでエネルギーを存分に使える=圧倒的に強い。
ということかもしれないと思った。

 

コア以外にも、メカニックは全てエネルギーを吸い取られるのかもしれない。
なぜかというと、グローバリーIIIは宇宙を航行できる時代の乗り物だ。たとえば超高性能レーダーなんかは朝飯前で作れるだろう。作れなきゃおかしい。
しかしゾイドでは超高性能レーダーがなかなか登場しなかった。ディメトロドン/ゴルヘックスでようやく超高性能と呼ばれるレベルになった。
これは宇宙航行できる技術を持つ地球。その技術をもってしてもゾイド星で高性能レーダーを実現するのは並大抵ではなかったということではないだろうか。
(超高性能レーダーには高エネルギーが必要→地球上でそれを実現するのは容易い→だがゾイド星で同じものを作るとエネルギーが星に吸い取られるので出力不足になる→無理→作るなら更なる工夫が必要である)

以上、こんな風に考えてみた。
ただ、常に放電していたら周囲の人が確実に感電しちゃいそうでもある。
その辺をどう考えるかといわれたら……、まだまだ踏み込んで考える必要があると思う。

 

今回は話が逸れまくった上に結論もまだ出せていないのだが、この話題は継続して考えていきたいと思う。
今回はひとまずここまで。
こうやって好きを更に積み重ねていきたいと思う。
「グスタフは世界観を魅力的にした」とよく書いているが、本当にそうだと思う。ステキなゾイドだ。

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