重力砲と近接戦闘主義

暗黒軍が持つ兵器は超兵器が多い。その中でも抜群の知名度とインパクトを誇るのはデッド・ボーダーの重力砲と、ギル・ベイダーのビームスマッシャーだろう。
ただデッド・ボーダーが暗黒軍の斥候でありファーストインプレッションだった分、個人的に重力砲こそ暗黒軍の超兵器の代表格だと思う。

そんな重力砲は初陣からしばらくまさしく猛威を振るい、あらゆる共和国ゾイドの脅威になった事は周知であると思う。
しかし一時期を境に全く活躍できなくなってしまう。
それはガンブラスターの登場時期と重なる。
その落日ぶりは凄まじかった。登場時の衝撃と同じ位の衝撃的落日であったが、何故だろう。

ド派手に自慢の黄金砲を連射するガンブラスターの傍らで崩れたデッド・ボーダー。かつての栄光は程遠い…。

以前のデッド・ボーダー初号機のコラムにて、重力砲の射程距離が極めて短い説を唱えた。
しかしあの説が正しいとして、まだ疑問は残る。それは、「なにゆえ共和国軍は重力砲の射程距離が短い事を知り得たか」だ。
そして更に言うなら、「何故、砲力でそれを制そうと考えたか」である。

普通に考えれば「何度か重力砲を経験する内に自然と気付いた」となるのだろうが、それだけでは説明できまい。
なにしろゾイド星人の超接近戦主義は折り紙つきだ。

デスザウラーで考えると分かりやすい。
最強の火力と最強の防御力を持つデスザウラーだったが、これに対抗して共和国が取った作戦は冷静に考えると凄い。

普通なら荷電粒子砲のアウトレンジから攻撃できる火力を搭載したゾイドを開発するだろう。
ちょうど、機獣新世紀ゾイドで言うとセイスモサウルスの思想のような。
なにしろゾイドにはゾイド生命体という、それさえ破壊すれば倒せる絶対的なウィークポイントが存在する。
ピンポイントでゾイド生命体狙い、貫けるような火器を搭載していれば容易に勝利を得られる。

貫くだけなら、それは「点」の破壊であり、「面」で破壊するような大口径砲は必要ない。
徹底的に貫通力だけを高めた砲を作れば良い。
従って例えば、スナイパーライフルと優秀なレーダーを備えたゾイドこそ、デスザウラー駆逐機として機能できるものだろう。

しかしそうはなっていない。

それどころか、気の遠くなるような苦労をしながら、真正面から荷電粒子砲を跳ね返せる反荷電粒子シールドを開発し、それを搭載したマッドサンダーを開発している。
しかも跳ね返せるだけではない。
マッドサンダーの最強の武器はマグネーザーであるが、限定的な部分を除いては(※)ゼロ距離でしか使えない究極の格闘兵器だった。
いかに近接格闘戦にこだわっていたかが伺える。
※マグネーザーは正面に向けて発射する事も一応は可能で、マグネバスターと呼ばれる。
 射程距離などは不明。
 バトルストーリーでは、そのまま飛ばしているものとチェーンで繋げながら飛ばしているものがあり、チェーンタイプのものは巻き取りも可能な模様。

まぁ、マッドサンダーはまだいい。
荷電粒子砲を完全に無効化できる防御力がある為、それを跳ね返しつつ接近、マグネーザーで貫くのはまだしも納得できる。
しかしそれ以前の対デスザウラー用ゾイドはどうだろう。

対デスザウラー用ゾイド第一陣はディバイソンであるが、もちろん荷電粒子砲を喰らえば即アウトな装甲しか持ち合わせていない。
巨大な腕、電磁クロウに捕まれてもアウトだろう。
ではディバイソンの攻撃であるが、まず17門突撃砲ではデスザウラーの装甲は破れない。
超硬角を使用し全力で体当りすれば「装甲を貫ける可能性もある」とされている。
実際の戦果としては、よろけさすのが精一杯といった風で、体当たりだけで倒すには力不足なものであった。
こんなものでデスザウラーに挑むのは半ば特攻の気もするが…、ともかく共和国軍は幾度と無くディバイソン突撃隊による攻撃でデスザウラーに挑み、幾多の伝説を生んだ。

他にも、ゴジュラスを倒す為に開発され圧倒的火力と射程距離を誇りつつも、結局格闘戦で決戦を付ける事が多かったアイアンコング(最高速度で2倍を誇るので、常に相手の接近を避ける事が可能なのに!)。
航空機なのに一歩間違えば衝突自爆してしまいそうなゼロ距離兵器を持つレドラーなど、もはやゾイド星人の近接戦闘主義は骨身に染み付いている。

もちろん火力主体のゾイドも存在し、例えばウルトラザウルスが筆頭であるが、それでも全体から考えれば、ゾイド星人の戦闘思想はやはり接近戦に死力している。

ゾイド星人は武士道のような精神が根底に強く根付いた民族なのかもしれない。
「君に忠、親に孝、自らを節すること厳しく、下位の者に仁慈を以てし、敵には憐みをかけ、私欲を忌み、公正を尊び、富貴よりも名誉を以て貴しとなす」
だからこそ、相手の見える位置で、相手からも自分が見える位置で戦う事を良しとしたのではないだろうか。
だからこそ、戦争という常に不安定な状況でありながら、国民は反乱を起こす事無く常にヘリック、ゼネバスに忠誠を保てたのではないだろうか。
また、ゾイド星には年明けに「新年の休戦」という特異なシステムがある。
この「戦争してるのに…?」と首を傾げたくなるようなシステムも、この思想を思えば納得できるかもしれない。
まぁ、この件は掘り下げると別コラムになってしまいそうなので、一旦ここでは置いておこう。

ともかく、地球文明から考えると全く奇異な程に、接近戦に重きを置いている事は確かだろう。

重力砲に対しても、従来の思想から考えるなら例えば反重力砲シールドなどを開発しそうな気がする。
しかしながらそれは行われていない。
何故だろう。

これを読み解く為に、再び重力砲を考えてみたい。
最初に出した表題に戻るが、なにゆえ共和国軍は重力砲の射程距離が短い事を悟ったのだろう。

デッド・ボーダーへの初接触からしばらく、共和国軍は当然のように接近戦を仕掛けた。
その結果、シールドライガーが、ゴジュラスが、ウルトラザウルスが。完膚なきままに叩きのめされた。

この状況では、案外、重力砲の射程距離が短い事は悟りにくいかもしれない。
当然のように接近戦を仕掛ける共和国軍とそれを迎え撃つデッド・ボーダー。
この状況が続く限りにおいては、おそらく共和国軍は「いかにして重力砲を避けつつ強力な爪や牙で敵を捕らえるか」という所を追求しただろう。
あるいは、跳ね返すシールドを開発しようとしただろう。

それが砲力で制する思想になったきっかけとして注目すべき事件に、ホエールカイザー撃墜事件が挙げられると思う。
ホエールカイザー撃墜事件とは、帝国ゾイドを接収し暗黒大陸へ戻る途中のホエールカイザーをレイノスとウルトラザウルスが共同撃墜した事件。

ホエールカイザー。
巨大輸送機で、途方も無い輸送力を誇る。「空のグスタフ」の呼び名もあるが、その実、輸送量ではグスタフをはるかに上回る。
この巨人機はD-DAY…、ゼネバスの逆襲時に初めてその姿を現し、戦略輸送機を持たなかった共和国を大いに驚かせた。

ホエールカイザーが再び共和国の前に姿を現したのはD-DAY上陸作戦からちょうど10年後、暗黒軍がニカイドス島を攻略中の共和国軍を奇襲した時であった。
この時のホエールカイザーの任務は戦闘用の暗黒軍ゾイドを輸送する事ではなく、残存の帝国ゾイドを収容・接収する事であった。
そして注目すべき事がある。

それは収納方法に関してであり、D-DAY時に出現したホエールカイザーは、口からディメトロドンを吐き出しているのに対し、ニカイドス島で出現したホエールカイザーは、何か光のようなものでデスザウラーを収納している。

展開と収納なので単純に比較は出来ないかもしれないが、それでもニカイドス島戦役時のホエールカイザーが、新テクノロジーで作られているという事になると思う。
(以降、後期型ホエールカイザーと記載)
この方式は非常に興味深い。

デスザウラーを上空へ吸い上げているのが確認できるが、これは重力コントロールを行っているものではないだろうか。
重力砲のメカニズムを考えた時、「重力をコントロールできるものではないか」と考たが、ホエールカイザーのシステムも同一テクノロジーで作られていると思う。

共和国軍は、ホエールカイザー撃墜事件によりほぼ無傷のホエールカイザーを手に入れ、そのシステムを解析したのだろう。
そう、重力コントロールのシステム・メカニズムを。まさにこの事件が共和国を滅亡から救ったと言っても過言ではあるまい。
このホエールカイザーを解析した共和国軍は、重力を操る技術を知り得、また自軍の技術にも転用したと思われる。
それを裏付けるのが後に共和国軍が開発した巨大輸送機タートルシップであり、後期型ホエールカイザーと同じシステムでゾイドを降ろしている。

共和国は重力を操るテクノロジーを知り、同時に、その有効距離が極めて短い事も悟ったのではないだろうか。

しかし戦況は切迫しており、これを防ぐ防御システムは開発の時間的余裕が無く、やむなく砲力でアウトレンジから倒す方式を選ばざるを得なかったのだと思われる。
こうして完成したのが、究極の砲戦ゾイドとも言うべきガンブラスターなのだろう。
ちなみに、武士道を良しとする共和国軍にとって、このゾイドを使う事は極めて苦渋の選択だったのかもしれない。
それを決断させたのは、暗黒軍が共和国軍を宣戦布告なしの「奇襲」で開戦とした事が原因かもしれない。
また暗黒軍がゼネバスとの密約を裏切った事実も、それを後押ししたものと思う。

しかしながら本当に苦渋の選択だったのだろう。
デッド・ボーダー攻略法が確立して以降は、再び格闘戦に重きを置いたゾイドを多数就役させている。
それはハウンドソルジャーのクロスソーダーだったりゴッドカイザーのメタルクローだったりする。

重力砲とその攻略、そしてその後を考えると、ゾイド星人(中央大陸人)の武士道精神と近接戦闘主義思想、そして重力砲の攻略がいかに切迫していたかが伺える気がする。

Back
index

inserted by FC2 system