バックアタッカー雑感

おそらくマッドサンダー改造機の中では最もマイナーな部類であろうものにこんなタイプがある。

バックアタッカー

本機は学年誌(小三)のみに登場したゾイドで、新ゾイドバトルストーリーの改造ゾイド一覧ページで紹介される事もなかった。
色も同じだし、改造箇所もかなり地味だ。どこが変わっているのかというと、後部が改造されている。


キャノンビーム砲の後部位置にミサイルが付いた。
なおマッドサンダーに付いているから小さく見えるが、実はサラマンダーのミサイルよりも大きい位のサイズがある。

本機は共和国首都奪還戦に投入され、改造デスザウラー「ビッグハンド」を含む複数のデスザウラーを倒した。
マイナーだが実は重要な戦いに投入され大活躍した機体なのだ。
投入された作戦から分かるように、最初期の改造マッドサンダーでもある。

さて学年誌中の解説によると、これは「荷電粒子探知ミサイル」だそうだ。
デスザウラーが荷電粒子砲を撃とうとすると、そのエネルギーを探知。発射の瞬間に口をめがけて自動発射される。
ミサイルはデスザウラー口腔内の荷電粒子砲砲身を潰す。これにより荷電粒子砲は暴発、発射したデスザウラーの頭が吹き飛ぶ……という脅威の性能を持つ。
そして運用時にはその通りの活躍をした。

 

学年誌の最強ゾイド登場には定番の流れがあって、
1:登場、姿見せ。
2:敵国の大関クラスのゾイドを圧倒して実力を示す(ゴジュラスやコングな事が多い)。
3:いよいよ敵最強ゾイドとの決戦。勝利。

という感じになっている。

そしてここからだが、
4:敵が徹底的な対策を施したうえで再度挑んでくる。

という流れもまた定番だ。

バックアタッカーは「4」の戦いで登場した。

ついにマッドサンダーが完成した。「1」
マッドサンダーは塔の上の悪魔やデスファイターを倒しながら共和国首都に迫った。「2」「3」
共和国首都奪還作戦が始まった。部隊の先頭はマッドサンダーだ。
帝国軍は、これまでの戦いでデスザウラーでもマッドサンダーには勝てないと悟っていた。
そこで、とっておきの作戦で倒す事にした。「4」

~バックアタッカーが登場した号の具体的なストーリー~

帝国軍は、改造デスザウラー「ビッグハンド」とノーマルタイプのデスザウラーにペアを組ませた。
この二機でマッドサンダーを倒す作戦だ。

戦術は、まずビッグハンドが巨大な手でマッドサンダーの頭部を押さえつける。


巨大な手で押さえられ、さすがにマッドサンダーの動きが止まる。
パワーで勝るマッドをずっと止める事は不可能。だが短時間でもいい。この間にもう一機のデスザウラーが飛び出し、後方から荷電粒子砲をあびせるのだ。


大口を開けたデスザウラーが発射態勢に入る。

だが作戦は失敗した。マッドサンダーは、改造タイプ「バックアタッカー」だったのだ。
バックアタッカーは必殺のミサイルを放った。


口腔内へのミサイル直撃を受け、デスザウラーの頭部が吹き飛んだ。

予想外の事態に驚くビッグハンド。そして次第に動きを取り戻すマッド。
こして、ビッグハンドも敗北したのであった。

以上が活躍の模様。

 

ところで疑問なのだが、本作戦はマッドサンダー後方から荷電粒子砲を放つ作戦であった。
という事はマッドを固定しているビッグハンドにも影響が及ぶ。一緒に消すつもりだったのだろうか。
作戦成功したとしてもデスザウラーを一機失う……。そんな悲壮な作戦だったのかもしれない。

共和国首都奪還作戦、この時期にはマッドサンダーの生産数はまだまだ少なかった。
だからデスザウラー損失1でマッドサンダー1を葬れるなら構わないと判断されたのだろう。
パイロットにとってはたまったもんじゃないが……。

荷電粒子砲を撃つ瞬間のデスザウラーも要注目だ。
メカ生体時代は荷電粒子砲は「口全体」から撃っているような描写が多かったのだが、今号の顔のアップを見ると珍しく砲身が描かれている。
おそらくだが、これが荷電粒子砲の砲身が写された最初の資料だと思う。
単純な筒じゃなく、かなり大掛かりな感じになっているのが特徴的だ。いかにも強力な砲という感じが良い。

 

さて話を戻す。
この話を見た時はマッドサンダー派として大活躍に興奮する一方、ちょっと便利すぎやしないかという想いも持ってしまった。
そういう事ができないから反荷電粒子シールドやマグネーザーが誕生したんじゃないだろうか。
多大な苦労をして正面のシールドで防ぎ、そしてマグネーザーをぶち込む。だから燃えるんじゃないだろうか。

「実は口の中を撃てばミサイルでも倒せたんだ」なんて言われたら、マッドサンダーの存在意義が無くなるような気がしてしまう。
しかも先述したように、初期の改造マッドである。
これがもし大陸間戦争末期でキングゴジュラスが居たくらいの時期の改造マッドなら、まぁそういう技術もあるかもしれないなと思えるのだが……。

これでイケるならウルトラキャノン砲やゴジュラスキャノン砲でも口を狙えば勝てるんじゃないだろうか。
もちろん大型キャノン砲で正確に口の中を撃つのは難しいという制約はあるのだが……。

そんな風に思ってしまうので、個人的にはあまり好きじゃない改造マッドだったりする。
見た目だけならかなり好みなのだが……。
主張しすぎない火器を増設する感じが良い。地味だがそれゆえリアルな感じがする。
もしこれが対空用等だったら設定的にも燃えたと思うのだが。
大きさから考えて対デスバード用にすれば似合いそうだ。そうなっていないのがとても惜しい。

そんな風に思う。
やっぱり「反荷電粒子シールドで防いだ・マグネーザーで貫いた。ようやく共和国軍は勝った」これを強調して欲しかったと思う。
私は熱烈なマッド派だが、それはデスザウラーが強いからこそ強調される。
楽勝ってわけじゃない。うまく反荷電粒子シールドで受ける必要があって、そこから更にドリルを直接ねじ込む苦労が必要。
でもそれができるからマッドサンダーは魅力的だし世紀の一戦も盛り上がるんだよなぁ、と思う。
圧倒的勝利というのはNo.2以下の相手(マッドサンダーで言うならコング以下のゾイド)なら良いと思う。
だが敵の最強格が相手だった場合は「油断したらやられる」くらいの緊迫感があって欲しい。

まぁ、これは心情的な問題に過ぎない。
実際に荷電粒子探知ミサイル・バックアタッカーが存在し大戦果を挙げた事実は覆せない。
なのでここからは、「本装備はどうやって誕生したのか、どういうものなのか」を考えたいと思う。

私は、荷電粒子探知ミサイルは「マッドサンダー開発失敗に備えて試作されていた装備」だと思った。

デスザウラー最強時代、共和国軍は何とかして倒そうとした。
なにしろデスザウラーが一機でも居れば、その荷電粒子砲の一撃で大部隊が葬られてしまう。
反則級の強さだった。

マッドサンダーの開発はチェスター教授が行った。
当時、チェスター教授は帝国軍の捕虜となっていた。共和国軍は大規模な救出作戦で教授を奪還し、ようやく開発がスタートした。

当然、共和国軍は救出作戦が失敗した場合の想定もしていただろう。
「失敗しました・対抗するのはもう無理です」とはいかない。
国家の存亡をかけた全面戦争。失敗した場合にも、代案を用意し何とか対抗しなければならないのだ。
チェスター教授救出作戦が行われた裏では、失敗した場合に備えて「代案」によって対抗できる何かを開発しようとしていた筈だ。

それはいかなるものか。やはり「新型機の開発」ないし「既存機の強化」でデスザウラーに対抗しようとしただろう。
ただ「荷電粒子砲を防ぐのは難しい」となっていただろう。反荷電粒子シールドはチェスター教授が居てこそ開発できた。

「荷電粒子砲を防げない=近づけない」
マッドサンダーは反荷電粒子シールドで防ぎながら接近しマグネーザーをねじ込む。
こうした事ができないから、ある程度の距離をとって戦う「砲撃」で倒す可能性を模索したと思う。

だがそれは厳しい道のりだ。
共和国最強の砲・ウルトラキャノン砲でもデスザウラーの装甲は破れない。
破れないどころか、表面がわずかにひしゃげる事すらない。装甲を突破し内部を破壊するには、今の何倍の威力が必要なのだ。そんな威力は達成できそうにない。

正面から撃ち抜くのは難しい。
ではどうする。
ならば、それ以外の弱点を狙おう。
多くが装甲に包まれたデスザウラーだが、わずかな隙間だってある。それを精密に狙えれば……。

その隙間とは背中のオーロラインテークファンおよび口。ファンは言うまでもない。口も当てればコックピット位置でもあるから効果は大であろう。
この内、より効果が高いのは口だ。というのも、やはりパイロットにダメージを与えられる点は大きい。
ファンも魅力的な弱点だが、こちらはパワーダウンさせるだけで完全沈黙じゃない。

バトスト3巻の一戦を思い出されたい。
デスザウラーのファンは超至近距離からウルトラキャノン砲の一撃を受けた。
にもかかわらず、大きくパワーダウンしただけでまだ稼働できる状態であった。
その後、海上でウルトラザウルス大艦隊の十字砲火を受けてようやく沈んだが……、とにかくデスザウラーのしぶとさを物語った一戦でもあった。
はたして戦いが陸上・そして相手がゴジュラスだったらどうなっていただろう。

その点、コックピットならパイロットに大きな影響が及ぶからより良いと言える。
一方で「口を開けた時しか狙えない」という制約もあり、狙う難度はファン以上に難しいのだが……。

 

さて、そんなわけで共和国軍は口を狙える武器を研究したと思う。
だがやはり難航しただろう。
口というピンポイントを狙う。しかも弱点といっても一定以上の威力は必要だろう。いかに弱点でも小型砲で撃ち抜けるほど甘いものではない。

大口径砲は高威力だが精密に狙う事は難しい。
小口径砲は精密に狙えるが威力がない。
そんなジレンマがあったと思う。

この状況を受け、荷電粒子探知ミサイルが誕生したと思った。

ミサイルとは誘導装置を持ったホーミング弾の事だ。命中率についてはキャノン砲に比べて遥かに高い値を示す。
だが、現在共和国軍が保有するミサイルでは威力が足りない。口を撃っても威力不足だった。
デスザウラーを倒すには、もっともっと高威力の大型ミサイルでなくてはならなかった。

共和国軍はミサイル技術で帝国軍に大きく劣る。
帝国軍は昔からミサイル技術が高かった。何故かというとゴジュラスを遠距離から倒すべく巨大ミサイルを、高空を飛ぶサラマンダーを撃墜するべく高高度ミサイルを。
昔から戦況として高性能ミサイルを開発する必須があったのだ。

対して、共和国軍はずっとキャノン砲で撃ってきた。
一発あたりの命中率の低さは集団で一斉に撃つ事で強引に解決していた。
ミサイルは必ずしも必要でなかった。だから技術は劣ったままだったのだ。

今、共和国軍は初めて「デスザウラーの口に撃ち込むという精密さ」「大型化し威力を増した弾頭」の両立を求められている。
はたして、これは完成するのだろうか…。

そこで次のような案が出された。
ミサイルを大型化したら命中率が下がる。デスザウラーの口を破壊する威力にまですれば、もはや命中率は下がりきってしまうだろう。
誘導装置の改良には長い年月がかかりそうだ。前線は一日でも早くデスザウラーを倒す装備を求めているのに。
どうにかして、過度に大型化しない(良好な命中率を維持)事と高威力化を両立できないだろうか。

この回答として次の考えが示される。
「いっそ、敵が荷電粒子砲を撃つ瞬間に撃ち込んではどうか」
発射の瞬間に口……、砲身に撃ち込む。上手くいけばば、その瞬間砲身に蓋がされたような状態になる。
放たれた荷電粒子砲はそこで暴発してしまうのではないか。
こうして、ミサイルは荷電粒子エネルギーに反応するよう誘導システムが改造され、開発が進んでいった。

だがこのミサイルは、「発射の瞬間に当てる」という超超シビアなものである。ミスは許されない。
コンマ数秒を争うタイミングで正確に撃ち込む。はたして可能なのか?

理論上は可能だが、実際は成功する可能性は低いだろう……。
そんな程度の仕上がりにしかならず、実戦投入は見送られた。

荷電粒子探知ミサイルがそんな状況になる中、チェスター教授救出作戦は無事成功。
教授は直ちに新型ゾイド・マッドサンダーの開発を進めてゆく。
期待はそちらに集中した。
こうして荷電粒子探知ミサイルは忘れられ、試作のみで終わった……。

 

いやしかし、首都奪還作戦にて意外な復活をした。
本作戦では、少ないマッドサンダーで数に勝るデスザウラーを全て駆逐する必要があった。

勢いに乗る共和国軍だが、やはり不安でもある。
本作戦は絶対に負けられない。
マッドサンダーの数が少ないなら、せめてありったけの装備を増設して少しでも強化して挑もうではないか。
そうだ、そういえば荷電粒子探知ミサイルなんてもんがあったな。
役立つ可能性は低いかもしれない。だがデメリットがあるわけでもない。ダメもとで付けておこう。

こうして荷電粒子探知ミサイルを増設したマッドサンダーは「バックアタッカー」と呼ばれた。
荷電粒子探知ミサイルは後ろを向けて付いている。何故なら正面のデスザウラーには対抗手段がある。横から来られても首が可動するので対応できる。
だが真後ろから来られたらさすがに無理。それゆえの配置だった。

さてバックアタッカーは実戦で見事な活躍をした。荷電粒子探知ミサイルは見事に計画通りの強さを発揮したのである。
成功する見込みの低いものだったが、勢いに乗る共和国軍は運をも味方につけていたのだ。
逆に言えば、帝国軍はもはや運にも見放されていたのだった……。

本作戦での活躍から、バックアタッカーユニットは量産され他の機…例えばウルトラザウルスやディバイソンにも搭載する事が検討された。
だがそれは見送られた。
調査の結果、やはり首都での成功は単なる幸運、量産したところで同じような成果は見込めないと判断されたからである。
もう一つの理由は、首都奪還後の共和国軍が全力でマッドサンダーを量産した事であった。
もはや十分な数のマッドサンダーが揃い、わざわざ他の機に対デスザウラー専用装備を備える必要がなくなった。
こうして、一瞬の輝くを放ちつつもバックアタッカーユニットは再び闇に沈んでいったのであった。

 

……と、そんな風に妄想してみた。
正直、やっぱり強すぎてあんまり好きじゃない装備ではある。
だが、装備ひとつとってもドラマがあると思うとなかなか興味深く面白くなってくる気もする。

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