暗黒軍は中央大陸戦争期をどう過ごしていたか

中央大陸戦争。それはヘリック共和国とゼネバス帝国が総力を出し尽くした戦いだった。
そしてそれが終わった直後、新たなる勢力「暗黒軍」が出現し大陸間戦争が始まった。

暗黒軍、ガイロス帝国。
メカ生体ゾイドでは「その多くは謎に包まれている」という扱いだった。
彼らについては「中央大陸攻略を狙っている」「ゼネバス帝国とは相互協力の密約を結んでいたらしい」事を除いてはほとんど語られていない。
今回は、「中央大陸戦争時代のガイロス帝国/暗黒軍は一体どのように過ごしていたのだろう」これを考えたい。

 

中央大陸戦争時代、ガイロス帝国/暗黒軍はどう過ごしていたか。
これを解くには、中央大陸戦争よりももっと前の時代の「前史」に触れる必要があると思う。
History of ZOIDSによると、以下のような前史が語られている。

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かつての中央大陸には小国が乱立していた。いずれの国も中央大陸制覇を目指していた。この事情から中央大陸は戦国時代になった。
戦国時代は、次第に西軍(ガイロス同盟軍)と東軍(ヘリック連合軍)に分かれた戦いになった。
二大勢力による決戦は、しかし両者互角でありなかなか終わらなかった。
戦いは長引き犠牲者は増える一方であった。東軍リーダーのヘリック(ヘリックI世)はこの状況を憂いた。

長く続く戦いの中で、ヘリックI世は戦いの無益さを痛感した。ヘリックI世は戦いを終わらせ中央大陸を一つにするため、賭けに出た。
暗黒大陸へ渡航し、その地の民をそそのかしたのだ。
「中央大陸では戦争が起こっている。皆は戦いに疲れ疲弊している。今なら容易く征服できるだろう」

ヘリックの言葉を受け、暗黒大陸では中央大陸攻略の計画がたてられた。
暗黒軍は中央大陸を襲撃した。
だが、これこそがヘリックの思惑であった。

「外敵」による攻撃を受け、中央大陸は認識を変えた。
「我々は中央大陸に生きる仲間だ。仲間同士で戦う事はやめよう。結束して外敵に立ち向かうべきだ」
中央大陸は東軍も西軍もなく一つにまとまった。皆が協力し、外敵・暗黒軍に立ち向かったのだ。
これにより暗黒軍は撃退された。暗黒軍は暗黒大陸へ逃げ帰った。

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暗黒大陸は「前史」にて中央大陸ヘリックI世からだまされた経緯がある。
History of ZOIDSは主に中央大陸の出来事を語っている。残念ながらこの後の暗黒大陸の状況は書かれていない。
だが、この前史から想像できそうだ。

 

この一件の直後、中央大陸は「ヘリック王国」という一つの国になり平和な時代を謳歌した。ヘリックI世の思惑はまさに達成された。
しかし、これは暗黒大陸にしてみればたまったものではない。
ヘリックI世は中央大陸側から見れば英雄だろう。だが暗黒大陸側から見れば憎悪の対象でしかない。
「孫の代…いや末代まで呪ってやる」という状態だったと思う。

 

さて、暗黒大陸ではその後「ガイロス帝国」が成立した。
「中央大陸への復讐」の執念を内に秘めつつ国は運営されていったと思う。

更にその後、ガイロス帝国はゼネバス帝国軍と同盟を組んだ。
ゼネバス帝国軍との同盟……。
暗黒大陸は中央大陸が憎かっただろう。だがそれにも増して「ヘリック憎し」という思いが特に強かったのだろう。
まぁ、それは当然だと思う。

同盟の具体的な内容は不明だ。だが第一次中央大陸戦争で敗北したゼネバス帝国は暗黒大陸で復活した。
また第二次中央大陸戦争敗北の際も暗黒軍が救助に来る手筈になっていたようだ。
という事から「ゼネバス帝国が危機に陥ればこれを助ける」という内容ではあっただろう。

当然、見返りもあった筈だ。
私はそれを技術提供だと思っている。
何故なら
・中央大陸戦争が行われている最中、グローバリーIIIが中央山脈に墜落した
・ゼネバス帝国とヘリック共和国はその残骸と乗組員を回収、地球技術を得たことで両国は技術革新を果たした
という一件があったからだ。

ガイロス帝国はグローバリーIIIの恩恵にあずかる事ができなかった。
これは中央大陸制覇を目指すガイロス帝国にとって大きな問題になったはずだ。なにしろ技術格差が一気に開いてしまい実現困難になった。
そこでゼネバス帝国を通じて技術提供を受けるため、偽りの同盟を組んだと推測する。

 

さてゼネバス帝国とガイロス帝国の力関係だが、年を追うごとにガイロス帝国側が上がっていったと思う。
当初は技術力で上を行く(グリーバリーIIIで技術革新をした)ゼネバス帝国が上だったと思う。
ただ第一次中央大陸戦争に負けた所を救った。この大恩が与えた影響は計り知れないだろう。
しかも、それは再び起こりそうであった。第二次中央大陸戦争末期、ゼネバス帝国はもはや敗戦確定状態にまで追い込まれた。

前回の色についてのコラムで、私は暗黒軍は「ゾイドバトル」をしていたと推測した。
それは各パイロットの技量を高めるためだ。
バトルはエースを生むだけではない。そこで得た技術は多くのパイロットで直ちに共有される。こうして皆は一騎当千の猛者になっていった…。
ただ一方で、近代戦は個々の技量が優れているから勝つというものではない。
もちろん重要な要素ではありる。だがあくまで戦術的なもの(点の力)に過ぎない。もっと戦略的なもの(面の力)が必要なのだ。

暗黒軍はそれについてどうしていたか。
これについて私は、一部の人員を中央大陸に派遣していたんじゃないかと思った。
派遣された兵はゼネバス帝国の指揮下に入って戦う。
ゼネバス帝国にしてみれば、国力でヘリック共和国に劣るわけだからそのような派遣はありがたい。
ガイロス帝国にしてみれば、実戦経験が積めるし視察によって各種研究が出来るのだからありがたい。
こうして利害が一致しこのような事が行われていたと推測した。

そのようにして中央大陸戦争は進んでいった。
時は流れる。
第一次中央大陸戦争でのゼネバス帝国敗北。
第二次大戦末期の大苦戦。
こうした事を経て、ガイロス帝国がゼネバス帝国に及ぼす影響はどんどん増えていっただろう。

末期……、第二次中央大陸戦争末期には、ゼネバス帝国とガイロス帝国の力関係はガイロス帝国が主導権を握るまでになっていたと思う。
この頃になると、もはやゼネバス皇帝は頭を下げて救援を要請するまでになっていたんじゃないだろうか。

「ゼネバス帝国軍の作戦を指揮するのがガイロス帝国から派遣された者」という状況さえあったかもしれない。

 

さて、新ゾイドバトルストーリーには、改造デスザウラーとして次の機が紹介されている。

 
デスウイング デストゲラー デスエイリアン ビッグハンド

ここに注目したい。
これらは全て「暗黒軍による改造デスザウラー」とされている。
だがこの内のデスウイング、ビッグハンド、デストゲラーについては登場時期が第二次中央大陸戦争中であった。
デスウイングは小学一年生、ビッグハンドは小学二年生、デストゲラーは小学三年生の掲載バトルストーリーに登場した。
いずれもマッドサンダーとの交戦の末に敗れている。
この戦歴から考えればゼネバス帝国のゾイドである。

「本当はゼネバス帝国軍の改造デスザウラーだが、これが暗黒軍の改造機だと誤認されて新ゾイドバトルストーリーに掲載された」という可能性もある。
いやしかし、私はこれについては新ゾイドバトルストーリーの表記が正しいと思った。暗黒軍による改造デスザウラーである。
それは以下の理由による。

新ゾイドバトルストーリーは共和国側人物の著書だ。
共和国軍は第二次中央大陸戦争でデスウイング、ビッグハンド、デストゲラーを撃破した。
当然だが、この時点の共和国軍は「近い将来に暗黒軍が新たな敵として登場する」事を知らない。
改造デスザウラー各種は「ゼネバス帝国軍の改造ゾイドである」と普通に認識したはずだ。
それをあえて「暗黒軍による改造デスザウラーである」としているのだから、これは意味があると思ったわけである。

特にデスウイングは「予想以上の高性能を示したのでギル・ベイダーの開発が決定した」とまでされている。

こんな情報まであるのだから、やはり暗黒軍による改造デスザウラーと思える。

ちなみに同時期……、第二次中央大陸戦争末期に登場した改造デスザウラーは他にもある。
特に「デスクロス」が有名だろう。


煌びやかでカッコいいデスザウラーで、どちらかというとイロモノ色漂うビッグハンドよりデスクロスを掲載した方が良かったのでは……と思ったりもする。
戦歴としてはデスクロスとペアを組んでマッドサンダーと交戦し、惜しい所まで粘ったものの最終的に敗北した。

デスクロスは新バトストには一切掲載されていない。学年誌(小二)のみの登場なのだが、「おそらくゼネバス皇帝が乗っている」とされていた。
「おそらく」という部分が引っかかるのだが……、ゼネバス本人ないし少なくともゼネバス帝国のエリート兵(影武者?)が乗っていたのだろう。
とても重要な機体だ。
そのような機体だから、デスクロスは純ゼネバス帝国製の改造デスザウラーだと思う。
デスクロスは、多分ゼネバス帝国が最後の意地をみせて全力で完成させた対マッドサンダー用ゾイドなのだろう。
一時的にはマッドサンダーを圧倒し、けっきょく逆転されたもののかなり惜しい所まで粘った。

「ゼネバス帝国の意地が詰まったゾイド」だから新ゾイドバトルストーリーでの紹介から省かれたのではないか。
あそこで紹介すると「暗黒軍による改造デスザウラー紹介」になってしまうので……。

思うに……、 マッドサンダー完成後のゼネバス帝国は危機に陥った。「また負けそう」になった。
またしても敗戦時の想定をするゼネバス皇帝。その際は救援が必須だ。
ガイロス帝国に相談するゼネバス。両国の力関係は大きく変化した。ガイロス帝国の発言力は大いに増した。

今まではチビチビと一部の人員を派遣し戦闘に参加させたり視察させたりしていたのだが、これを変える事ができた。
すなわち、例えば
「デスザウラー数機を譲渡せよ。我々はそれを改造する」
という内容までを突きつける事ができるようになった。

目的はデスザウラーに使われた技術を全て知ること。
またこの規模のゾイドを改造する事で総合的な技術を進歩させること。
こうして技術を向上させて自軍最強ゾイド「最終兵器」を開発するのだ。

そんなわけで譲渡されたデスザウラーから暗黒軍はデスウイング、ビッグハンド、デストゲラー、デスエイリアンといった改造タイプを開発した。
デスエイリアンだけは暗黒大陸内に置かれたが、その他は中央大陸に派遣しマッドサンダーと交戦させた。
これは将来的に戦うことになる共和国軍、その切り札の性能をより把握する目的であった。またあわよくば弱点でも探れないかという目算でもあった。

この中でデスウイングは上々の結果を出した。
すなわち空から荷電粒子砲を撃てばマッドサンダーといえども防ぎきれない事が判明した。

ここから空から荷電粒子砲を撃つ機体としてギル・ベイダーの仕様が決定されていった。
デスウイングはギル・ベイダーの元になったのだ。

デストゲラーも好成績を残した。実はデストゲラーとギル・ベイダーには共通する事がある。
デストゲラーの全身のトゲはデスニードルという。学年誌の解説によると、それ自体を突き刺すものではなく「金属を融解させる毒液が仕込まれている」ようだ。

これで敵の装甲を溶かして突破するのだ。

さてギル・ベイダーの爪…チタンクローはキングゴジュラスの腕を引きちぎった事もある超強力装備だ。
この爪だが、引き裂く力ももちろん凄いと思う。だが内部にメタルバーストという金属を溶かす液が仕込まれている。

おそらくデストゲラーの装備と同タイプのものだろう。
弱らせてから引きちぎる。これによってキンゴジュの腕をも引きちぎれたのだ。
デストゲラーもまた、デスウイングほどではないもののギル・ベイダーの開発に活かされたのだろう。

ビッグハンドは活かされた感じがないのだが……。
本機は「マッドサンダーを巨大な腕でもって一時的に足止めし、別の機体が後方から荷電粒子砲を放つ」という想定がされていた。
陸戦でどうにかマッドを倒せないかという研究がこの時点では考えられていて、しかしその方向性は難しかったという事だろうか。

 

中央大陸戦争時代以前の暗黒軍の動きを以上のように考えてみた。
いまいちどまとめてみよう。

暗黒大陸はかつてヘリックI世に卑劣なだましをされた。
そんな暗黒大陸だが後年に統一され一つの国家になった。ガイロス帝国である。
ガイロス帝国の大きな目標の一つは中央大陸(特にヘリック)への復讐であった。
ガイロス帝国軍(暗黒軍)は「ゾイドバトル」を開催しパイロットの技量向上に励んだ。
だがこれでは不十分であった。

中央大陸への侵攻には技術力を高める必要がある。
その目的を達する為に、ガイロス帝国はゼネバス帝国と偽りの同盟を組んだ。
内容はゼネバス帝国が危機に瀕すればこれを助ける事。その見返りとしてゼネバス帝国から技術(グローバリーIII由来)を提供してもらう事であった。

最初の頃、立場的に上であるゼネバス帝国はガイロス帝国への技術提供を渋った。
だが第一次中央大陸戦争敗戦後の事は大恩であった。その事から徐々に技術提供は加速していった。
また、ガイロス帝国軍(暗黒軍)の一部の人員が中央大陸に派兵されるようにもなった。
彼らは実戦で学んだ事をガイロスに報告し、暗黒軍を強化していった。

第二次中央大陸戦争末期、ゼネバス帝国は再び危機に陥った。
もはやゼネバス帝国はガイロス帝国への大規模救援を要請するしかない状態。
再びこんな状況になったゼネバス帝国は主導権を失った。
発言権の主導を得たガイロス帝国はゼネバス帝国に次の要求をした。
「デスザウラーをよこせ」

帝国軍最大最強ゾイドの技術を得た暗黒軍。
これをベースに更なる強力機を計画する。それは暗黒軍最強ゾイド「最終兵器ギル・ベイダー」であった。
ギル・ベイダーの仕様を決めるべく、飛行タイプ、毒液タイプ、陸戦力強化タイプといった数種類のデスザウラーが試作された。
これらは中央大陸へ派遣され、マッドサンダーと戦わされた。
表向きの理由は「ゼネバス帝国を救うため」
真の理由は「自軍最強ゾイドの開発データを得るため」

暗黒軍はデスザウラーの技術を完全に獲得し、更に改造デスザウラーの開発・運用実績によって貴重なデータも得た。
こうしてギル・ベイダーの具体的な仕様も確定しいよいよ開発は進んでいったのであった………。

そしてニカイドス島での戦い。いよいよガイロス帝国は参戦のタイミングをここに決めた。

 

今回はガイロス帝国・暗黒軍の舞台裏での動きを妄想してみた。
衝撃的だった暗黒軍の参戦。そのタイミングはどうやって決められたのか。彼らはどんな思惑を秘めていたのか。
具体的に語られる事はなかった。それだけに裏を想像すると実に面白いと思う。

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