試作型ベアファイター
ゾイドが製品化される時、事前に幾つもの試作モデルが作られます。
試作モデルは、新作商品をいち早く掲載する雑誌などで稀に見る事ができます。
試作モデルは製品化された商品とは幾らか差がある場合があります。 最も有名なのはジェノザウラーでしょう。
<画像:コロコロコミック 1999年12月用より>
左は試作モデル。右が製品。
最も目立つ差は尾の展開ギミックです。試作モデルはここが展開するようになっていました。
また細かく見ると目の色が緑色とか牙がより鋭いとかの差もあります。
こうした差は試作モデルでは珍しい事ではありません。
例えばデスザウラー試作モデルは成型色のパターンがやや違っていました(尾の下側は赤でなく銀色をしていた)。
マッドサンダー試作モデルの大口径2連衝撃砲は「穴」が開いていたし、シールドライガー試作モデルの尾のディティールは製品版と異なっていました。
<小学三年生 1987年12月号より>
<ゾイドバトルストーリー4巻より>
探せばキリがないほど。
中には「試作の方が良かったな~」という変更もあります。ただ基本的には我慢できる範疇の変更がほとんどです。
そういった変更に目くじらを立てるよりは、むしろ試作モデルと製品の違いを比較して楽しむ事がディープゾイダーのたしなみなのかもしれません。
またそれを上手く利用し、自分なりの解釈を試みるのも楽しいと思います。例えば、「それは先行型である」とバトスト的に解釈してみたり……。
解釈すれば思い入れも深まるでしょう。まぁそうなると同時に、何とかして試作モデルの方も手に入れたいという気持ちも強くなるのですが……。
さて数ある試作モデルの中で、一機だけどうしても気になってしまうゾイドがあります。
試作モデルと製品版で全く別物と言えるほど激しく変貌したゾイドが一機だけあるのです。
RHI-6 ベアファイター
ブラックライモスとも互角に戦える重パワーを持った名機。
本機の試作モデルの造形は、あまりにも製品版と違っています。
早速、試作モデルを見てみましょう。
<左側画像:ゾイドバトルストーリー3巻より>
この写真は頻繁に使用されている為、目にした方も多いと思います。
小さい画像で分かりにくい部分があるのは残念ですが、スタンダードなアングルで撮られており製品版と比較しやすいです。
まず顔が劇的に違います。
頬のインテーク状のパーツにかなりの相違が見られます……というか全体的にかなり違う。もはや同じ箇所を見つける事の方が難しい位です。
装甲の付き方にも差があります。砲も大きさが異なっているし、脚部もかなり違うように見えます。
足先は爪の開きを強調したデザインで、どちらかというと2000年以降の新世代ゾイドのテイストに近い印象を受けるのは興味深い所です。
こちらは、学年誌のプレゼント告知ページより抜粋のもの。
顔形状の違いがより分かるでしょう。このアングルでは、下あごの細さも際立って分かります。
この画像では他にも注目すべき事があります。爪の色です。爪の成型色が茶色である事に注目してください。
先に出した方の画像を見ると、爪は灰色をしています。
という事は、この2つの試作ベアファイターは「別物である」という事でしょう。
よく見ると装甲の形状の一部も異なるように見えます。下の画像のものの方がやや角張っているような……。
試作モデルがこうして何度も作られているという事は、当時のスタッフがベアファイターに込めた思いが伝わってくるようでとてもアツいです。
続けて立ち姿。
<左画像:小学五年生 1987年10月号より>
立ち姿も大きく印象が異なります。
試作モデルでは、肩から首にかけて急激に細くなっています。 首から先が細くなっている分、下半身がしっかりどっしりした印象を受けます。
砲の大きさは先にも書きましたが、この角度で見ると改めて巨大さ(というか太さ)が分かります。
<コロコロコミック 1988年8月用より>
もう一枚、同じく立ちアングルだがやや正面に近い角度の画像も見つけました。
このアングルで見ると、頬のインテーク状の出っ張り具合がよく分かります。
また、やはり製品版よりどっしりした印象を受けます。
キャップの色は青い。これはこの試作モデル特有の特徴です。
細かい点ではありますが、キャップの色も試行錯誤あったという事でしょう。細部まで何度も検討しているのは素晴らしい事だと思います。
この画像では、更にもう一つ注目したい箇所があります。
コックピットのパイロット位置がよく見えるので注目してください。なにやら、ずいぶん前の方に乗っているように見えます。
他の試作ベアファイターの画像も、よく見るとかすかにパイロット位置が確認できます。
そのいずれもが、やたら前の方にパイロットを乗せているように見えます。
一連からパイロット位置がやたら前寄りである事は間違いないと思いますが、何故そんな位置にしたかは疑問が残ります。
強いて言うなら格闘戦時の視界を稼ぐ為?
あるいは、キット的に考えるなら後頭部側には変形ギミックの為の部品が詰まっていたのかもしれません。
いずれにしろ微妙な配置です。もう少し後ろにずらした方がすわりが良い。
下手すればパイロットの足にひっかかってキャノピーが完全に閉まらない光景が目に浮かんでしまいます。
この試作モデルのベアファイターは、実はかなりの回数バトストに登場しています。
<小学一年生 1987年11月号より>
<小学一年生 1987年11月号より>
これは小一でのベアファイター初登場の記事でもあります。
ブラックライモスで一部が隠れているのは残念ですが、画像が鮮明なこともありディティールが非常に分かりやすく貴重な資料になっています。
以上、ベアファイターの試作モデルを追ってみました。
資料をあさって、ある程度は試作モデルを追及する事ができたと思います。
これほどまでにデザインが変わった理由は何だろう……?
そう考えずには居れません。
思うに、ベアファイターが「四足歩行」と「二足歩行」の切り替えを実現した機体だからでしょう。
二足歩行は四足歩行よりバランスが難しい。バランスを誤るとすぐに転倒する。
ベアファイターはクマ型。恐竜型のように尾でバランスを取るわけにもいかない……。
ゴドスやアロザウラーは二足歩行ですが、厳密に言うと尾を設置させているので「三足歩行」です。
このような解決法はクマ型だから望めない。
しかも四足と二足を切り替えるのだから、より絶妙なバランスが要求されたでしょう。
おそらく試作モデルはよく転倒したのでしょう。そこで、根本的改修が行われ、製品版の姿になったと思います。
それを裏付けるのが爪のデザイン変更です。明らかに製品版の方が接地面積が多く安定感があります。
全身のディティールの変化は、その改修に併せてより良い案が出たのでついでに改修したのでしょうか。
図面化もしてみました。
試作モデルの方は、手持ち資料からラインを「推測」してできる限り「再現」しました。
真横からのアングルの資料がないので完全には再現できていないかもしれません。が、だいたいこんな風だろうという程度には再現できていると思います。
試作ベアファイター、いかがでしょう。
私としては製品版の方が好きではあります……が、試作モデルも捨てがたい魅力があります。両方好きです。
バトルストーリー劇中にも多数登場している仕様だし、先行型のベアファイターであると思っています。
そんな解釈ができるとこも魅力です。
腕に覚えのあるモデラーの方なら、この試作タイプを再現してみても面白いと思います。
試作モデルと製品版、貴方のお好みはどちらでしょうか?