デッド・ボーダー初号機

暗黒大陸は北の果てにある未知の大陸。得らる情報は極めて少ない。
ただ一つ確かなのは、環境が極めて厳しく、中央大陸のそれとは比べ物にならないという事です。

中央大陸から見れば恐ろしい者が住む魔の地として映った。そして「暗黒軍」も、尋常ならざる兵器を使う恐怖の軍というイメージを持ちます。

恐怖の暗黒軍のイメージを植えつけたゾイドといえば、何といってもデッド・ボーダーでしょう。
そしてデッド・ボーダー最大の特徴は、やはり重力砲。

デッド・ボーダーは決して巨大なゾイドではありません。大きさでいえばシールドライガーやディメトロドンと同じクラスでしかありません。
にもかかわらず、ウルトラザウルスやデスザウラーを一方的に破壊しています。更に、共和国最強のマッドサンダーをも大苦戦させています。
「奇襲」「数の暴力」といった戦法ではなく、正面きって1対1で戦いこの成績を収めているが凄い所です。

デッド・ボーダーほど初陣で猛威を振るったゾイドは他に例がありません。
もちろん初登場のゾイドは大活躍をするのが定番です。それは分かる。それでも、デッド・ボーダーはそれがあまりにも抜きん出ています。


<左側:小学二年生1989年3月号より 右側:小学一年生1989年4月号より>

いまや伝説として語られている、これら信じがたい戦果を残したデッド・ボーダーは「初号機」と呼ばれています。
戦果は他にもあります。
槍携行。その槍を投げサラマンダーとレイノスを撃墜したり、ウルトラザウルスの尾を掴んで振り回したり、それはもうやりたい放題です。


<小学三年生1989年4月号より>

そのインパクトたるや、「ゾイドはリアル路線を放棄したのか?」と思える程でした。
しかし何故か、一時期を境にデッド・ボーダーの活躍はなりをひそめます。
それどころか、今度はマッドサンダーや新鋭ガンブラスター等に次々撃破されるやられ役に転落しています。

今回は、そんなデッド・ボーダーの性能を考えたいと思います。
なぜ初陣からしばらくは猛威をふるえたのか。そして、なぜある時を境に転落したのか。

 

「初号機パイロットがエースだった」はどうでしょう。
確かに暗黒軍の斥候であった初号機にエース級が乗った事は確実でしょう。
しかし初号機の活躍とそれ以降の転落ぶりは差がありすぎ、パイロットの技量だけで説明する事はできないと思います。

 

「デッド・ボーダーの中でも、初号機だけは特別なチューンナップを受けていた」と解釈される事もあります。
あるいは「高性能と引き換えに高額な機体となった為、二号機以降は安価な簡易量産型となった」とも。
これはどうでしょう。

個人的にはこれも弱いと思います。
確かに「初期生産タイプを高性能に」「量産タイプは生産性や整備性が高い代わりに低性能に」という兵器は存在します。
地球での例を出してみましょう。
旧日本軍の「彗星」爆撃機は、高性能を誇る代わりに整備性が悪く稼働率が極端に低いものでした(彗星11型/12型/22型)。
そこで後期型はエンジンを整備しやすいタイプに換装し、若干の性能低下と引き換えに高い稼働率を得ています(彗星33型/43型)。

しかし通常、そこまで極端な性能低下が出るものではありません。
彗星にしても、スピードがやや落ちた程度で、その他はおおむね元のスペックを維持しています。
あまりにも酷い低下が生じてしまうなら、それはもはや量産型ではなくて別機でしょう。

 

そもそも、このような理由があったとしても。 あそこまで強いのなら、困難を越えてでも生産・運用しようとするのが自然でしょう。
エース級の腕が必要なら育成を強化して確保に努める。
特別なチューンが必要ならすればいい。量産型が極端に性能が落ちてしまう……というなら初号機と同じスペックのまま量産すればいい。

そうすれば、ギル・ベイダーを開発せずともデッド・ボーダーだけで勝利できたでしょう。

「新型機の開発」「新型機のパイロット育成」「超巨大ゾイドの生産」
ギル・ベイダーの開発と運用には途方もない苦労と費用がかかっています。

デッド・ボーダーがパイロットの育成が困難だったとしても。チューンナップが大変だったとしても。製造コストが高かったとしても。
それでもギル・ベイダーの開発・パイロット育成・生産よりは容易だったでしょう。
そうするべきだった。

でも、そうなっていません。ギル・ベイダーが開発されました。

 

頭を切り替えてみましょう。
いちど「初号機は特別ではない。量産型もほぼ同等のスペックであった」と考えてます。

この考えだと、次第にマッドサンダーやガンブラスターに撃破されるようになっていった描写と矛盾が生じるようにも思えます。
初号機と同等のスペックなら後期まで大活躍出来ていたのではないか。
これに対して、私は「対デッド・ボーダー戦術が確立されたから」と考えました。

 

初号機の驚異的な戦果は先に触れましたが、今一度。
デッド・ボーダーはウルトラザウルスを掴み、持ち上げ振り回した事があります。

<小学三年生1989年4月号より>

冷静に考えればこれほど無茶な事はありません。
暗黒軍ゾイドは、特殊技術「ディオハリコン」を用いてゾイドを強化しています。
しかし、それで説明しきれるものではないでしょう。
ディオハリコンはディオハリコンで謎の多い物質ですが、ひとますここでは「ゾイドの出力・パワーを強化する」とでもしておきましょう。

ディオハリコン効果で仮にウルトラザウルスを持ち上げられるだけのパワーを得たとしましょう。
それでも、デッド・ボーダーはウルトラザウルスを持ち上げる事はできないと言います。
なぜなら、デッド・ボーダーの細い腕にウルトラザウルスの重量(507t)が負荷されれば、材質がどんな金属だろうが間違いなく屈して曲がるからです。

例えば人間に分厚い鉄板をぶち破るパワーがあったとして、そのパワーで鉄板を殴ると鉄板が破れるより先に拳や腕の骨が砕けてしまいます。
パワーがあるだけでは駄目なのです。

では、なぜデッド・ボーダーはウルトラザウルスを持ち上げれたのか。
ここで怪しいと思うのが、背中に背負った「重力砲」です。
この武器も謎が多く、具体的な解説はされていません。
そのため推測の域を出ませんが、使用される瞬間の描写にヒントがあると思いました。


<左側:小学三年生1989年3月号より 右側:小学一年生1989年4月号より>

重力砲は、多くの描写において照射対象を天高く舞い上げています。
これは、「着弾→爆発」という従来の実弾砲やビーム砲とは明らかに違います。
「重力」という言葉を用いた砲だから、ここはやはり重力を操る兵器だと考えるべきでしょうか。

考えます。
我々は地面に足をつけて生きています。歩いたり、飛び上がったり、走ったり、転んだりができます。
こうした普通の行動は、我々にかかる重力が「1G」に保たれているから可能です。
重力が1/10の世界に行けば体が軽くなって上手く動けないし、10倍の世界に行けば重くなってそもそも動けません。

ゾイド星も当然、ゾイド星でいうところの「1G」が働いている筈です。重力砲は、この1Gを狂わせる事ができる装備だと思いました。
重力砲を照射すると、照射された対象は例えば「10G」の負荷がかかると考えます。
当然、対象は重くなって動けなくなって、構造上脆い部分から徐々に圧壊していきます。
ウルトラザウルスなら、10倍の負荷がかかった重量は507tから5070tにもなります。
ウルトラの脚部は「507tの重さを支える為の脚」なので、当然耐え切れなくなり崩壊するでしょう。
そうして動けなくなった所を容易に破壊される……。

または「0.1G」になるような照射を行えば、当然軽くなる。
そうなればウルトラザウルスは507tから50.7tになり、これ位ならデッド・ボーダーでも持ち上げられるでしょう。

そして究極には、「マイナスG」にまでコントロールできるなら、相手を浮かせる事も可能になるでしょう。
そして適度に浮かせた所から照射をやめれば、相手はその瞬間「1G」に戻り、地面に落下し叩きつけられる。
巨大ゾイドのような超重量級の場合、落下だけで致命的なダメージになることは容易に想像できます。
これは重ければ重いほど致命傷になります。585tもあるマッドサンダーなんかはかなり危険域になりそうです。

この解釈が正しいなら、重力砲を装備している限りは初号機だろうが量産型だろうが巨大ゾイド相手に戦える試算が立ちます。
サラマンダーやレイノスに槍を当てた件も、「重力砲を当てて動きを封じた上で」であれば納得できるものです。

 

以上、初号機と量産型でスペック差があまり無い説を唱たのですが、疑問も残ります。
それならなぜ、一時を境にやられ役になってしまったかです。
これについても考えます。

デッド・ボーダーが撃破された写真を見てみると、ガンブラスターが砲で仕留めたりと火力で沈めている場合が多くなっています。

<小学一年生1989年7月号より>

ここにヒントがあると思いました。(ちなみにこの時ガンブラスターは、5000mの距離からデッド・ボーダーを撃っています)
これを見て「重力砲の射程が極端に短い説」を唱えたいと思います。

 

おそらく、重力砲はそのシステムから射程はかなり短いと思います。
ゾイド星の重力を作り出しているのは他ならぬゾイド星そのものです。惑星が持つ力の前には、どんな強大なゾイドの力も無に等しいでしょう。

実弾砲は重力の影響を受けて次第に落下します。
光学砲は重力の影響は受けませんが、光の拡散によって徐々に威力を弱めます。
そして重力砲は、おそらく、照射距離が長ければ長くなるほど、惑星の「1Gに戻そうとする力」を受けると思います。
そしてその力はあまりにも強大だ。

 

それゆえ、有効な威力を発揮しようと思えば格闘戦ができそうな近距離にまで詰める必要がある。
ゾイド星には何故か、砲戦より格闘戦を好む傾向があります。
特にゴジュラス、デスザウラー、マッドサンダー等において顕著です。それゆえ不用意にデッド・ボーダーに近づいた結果、重力砲の餌食になったのではないでしょうか。
なにしろ、デッド・ボーダーはそれほど大型ではありません。
格闘戦に持ち込めばゴジュラスでも容易に撃破出来そうな印象を持ってしまいます。


<小学一年生1989年4月号より>

それゆえ初戦において不覚を取ることが多かった共和国だが、次第に重力砲の射程が短い事を悟った。
そしてアウトレンジから砲で撃破する事で対処していったのではないでしょうか。そんな風に思いました。
ガンブラスターのハイパーローリングキャノン。マッドサンダーの長射程キャノンビーム砲。これらの長射程の砲を持ったゾイドが優位を示すようになり、逆にデッド・ボーダーは全く勝てなくなったことは大いに納得できるものです。

 

おそらくその弱点に気付かれたからでしょう。これ程の戦果を挙げた重力砲なのに、後の暗黒ゾイドにはあまり採用されていません。
それに代わって、フォトン粒子砲やパスルキャノンのような新機軸や、旧技術の改良であるところの超小型荷電粒子砲やハイパー荷電粒子砲を開発しています。
暗黒軍が重力砲にあまり見向きしなくなった事が伺えます。
ただデス・キャットで「超重力弾砲」というのは作っていますが……。

 

デッド・ボーダー以外で唯一重力砲を装備したのはギル・ベイダーで、連装重力砲を2基、都合4門持ちます。

翼の付け根付近に見える連装砲が重力砲。

廃れた筈の重力砲を装備したのは何故でしょう。上記した説に矛盾しているように思えます。
しかし、これはギル・ベイダーが飛行ゾイドという所にヒントがあると思います。
陸戦ゾイドと違い、航空ゾイドはちょっとした機体の振動や姿勢の変化が重要なトラブルを生みます。
それによって失速したりするだろうし、その回復には時間を要します。

重力砲を放ち、……たとえ威力がかなり減退していたとしても……、当たれば敵機は姿勢を崩します。
その時間は、ギルにとって獲物を仕留める格好のチャンになるのでしょう。
ギル・ベイダーは空戦時の小回りが利きにくく、運動性は低い。この点ではサラマンダーF2やオルディオスに大きく劣ります。
にもかかわらず戦力比較表では両機に対して優位の評価を得ています。
それは、重力砲を使う事で運動性の劣を補い優位な戦いができるからだと思いました。

最後は少し話が逸れましたが、重力砲はこのようなものだと思います。
そして、それゆえにデッド・ボーダーは初陣からしばらく猛威を振るえたものであり、純粋なスペックで言えば初号機も量産型も差はあまりないのだろうと思います。

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