バリゲーターのこと

RMZ-20バリゲーター
ZAC2031年ロールアウト。いらい永きに渡って使用された名機。
川、沼、湿地帯での行動を得意とする。水中での行動も可能。渡河作戦、ゲリラ戦を得意としている。

とても好きなゾイドで、本当に完成されたデザインをしていると思います。
ギミックも秀逸で、首と尾を振りながら歩く姿はモチーフに限りなく忠実です。
小型ゼンマイ級ゾイドでありながら、全ゾイド中で最もモチーフに近い動きをするゾイドの一つだと思います。
唯一、コックピットの防水に関して突っ込まれがちですが……。まぁ、実際のバリゲーターは防水&防弾処理がされているでしょう。さすがに。

とにかく素晴らしいデザインとギミックを持った傑作機です。
しかしそんなバリゲーター。デザインやギミックの素晴らしさとは裏腹に、活躍の場は限りなく少なかったように思います。
というか、彼はやられ役の代表格です。特にメカ生体ゾイド期においては悲惨の極みです。

ゾイドバトルストーリーでの登場を振り返ってみましょう。
初登場はバトルストーリー1巻の6ページで、共和国軍の最新鋭機として登場しています。
初登場ゾイドというと大活躍するのが定石。しかしバリゲーターの場合、この時から既にやられ役の歴史が幕をあけています。

この時の任務はフロレシオス艦隊の護衛でしたが、帝国新鋭ゾイド“シンカー”の奇襲を受け、あえなく轟沈の憂き目に遭っています。
曰く、「シンカーの空からの攻撃に反撃のしようも無かった」とのこと。

<ゾイドバトルストーリー1巻より>

敗因に、シンカーが帝国初の飛行ゾイドだった事が挙げられます。
この時、共和国はシンカーの存在を掴んでいなかった……。当然ながら対空装備は貧弱なものだったと思われます(一応、ミサイルは搭載しているようですが…)。
これはバリゲーターの性能に問題があったというより「不運」だったとと言えるでしょう。
しかし初陣からしてこのやられっぷり。今後の薄幸さを物語っているようで哀愁を誘っています。

 

次いで登場するのは対ウルトラザウルス用の改造アイアンコング開発に関したページで、寒冷地用改造”イエティコング”の実戦テストのページ。
冷凍砲を受けて、ゴルドスと共に撃破されています。 この時、バリゲーターは全身カチコチの氷漬けにされています。

<ゾイドバトルストーリー1巻より>

なにもここまで凍らせなくても……。
カチコチに凍りついたこの姿は、数あるバリゲーターのやられシーンの中でも、最も涙を誘うシーンだと思います……。

 

次いで、ZAC2038年の「ウルトラザウルス上陸作戦」に参加しています。
これは、帝国領ミーバロスに共和国大艦隊が海上ルートから攻侵・上陸するというもので、当時としては未曾有の規模の作戦でした。
共和国のほとんどのゾイドが参加した戦いで、バリゲーターも召集されています。
部隊は、輸送船団がゴジュラスはじめ陸戦ゾイドを満載して進撃。ウルトラザウルスを筆頭に水上航行可能なゾイドはそれを護衛しつつ共に進撃するものでした
ミーバロスに接近した部隊は、いよいよ攻撃を開始。
まずウルトラザウルスが猛烈な艦砲射撃で帝国陣地を叩き、その後主力部隊の上陸が行われました。
作戦自体は大成功に終わり、永く語られるものとなっています。
しかしバリゲーターにとっての不幸は、この作戦の中でも感じられました。

この作戦の時、上陸の先陣を切る名誉を得たのはバリゲーターではなくスネークスでした。

特にやられ描写があったわけではありません。しかし最も得意とする上陸戦でスネークスにお株を奪われた事は不名誉と言わざるを得ないでしょう。
ちなみに上陸の先陣を切ったスネークスは、海岸線で応戦したイグアン(戦力比較票によるとバリゲーターよりも強い)部隊を、得意の締め付けで封じる大活躍をしています。
もしかすると、イグアンが海岸線に居る事が判明したので、バリゲーターでは先陣は厳しいという判断がされたのかも……。

 

その後、共和国は帝国首都を攻略し戦勝。しばし平和な時が流れます。
しかしD-Day……、ゼネバスの逆襲が始まった時、中央大陸に再び戦雲が渦巻いてきます。

ZAC2041年、ゼネバスの逆襲は帝国のバレシア湾奇襲作戦により始まりました。
バレシア湾に面した共和国海軍基地は、進入したウオディックの攻撃を受けます。
この時、ウオディックはウルトラザウルスに魚雷を浴びせる大戦果を挙げました。しかしこの時、画面の隅をよく見ると、バリゲーターもやられています。

<ゾイドバトルストーリー2巻より>

隅っこというのが実に哀愁を誘います。
「本命はウルトラだけどついでなのでお前も倒しておこう」とでも言わんばかりの描写であり(実際そうなのだろうが)、物悲しい……。

 

次いで翌年の2042年、国境の橋争奪戦に投入されています。
戦いは激しく、橋の上ではゴドスとイグアンの部隊が激しく火花を散らしていました。
この死闘のさなか、バリゲーターが川を渡って対岸に渡り、挟み撃ちにしてしまおうという作戦が決行されます。
なるほど川を渡って挟み撃をするなればバリゲーターは最適なゾイドでしょう。
またイグアンが相手となれば、ウルトラザウルス上陸作戦時の屈辱を晴らす最適な機会でもあったでしょう。
名誉挽回の大きなチャンスでした。
しかしこの作戦は帝国に先読みされていました。川を渡り始めたバリゲーターに対し、帝国は即座にサイカーチスを投入。
結果、投入された全てのバリゲーターは沈没の憂き目に遭い、またも活躍のチャンスを逃してしまったのでした。

<ゾイドバトルストーリー2巻より>

これは学年誌にも同様のストーリーが出てきます。
学年誌ではストーリーがより詳細に書かれており、「この挟み撃ち作戦はバリゲーター部隊からの発案だった」事が明かされています。
自身で立案した自信満々の作戦で使用され、そして轟沈したバリゲーターに合唱……。

 

翌々年のZAC2044年、帝国はついに最強ゾイド・デスザウラーを完成させます。
デスザウラーはゴジュラス部隊が集結する基地を強襲。単機でこれを壊滅させてしまいます。
圧倒的なデスザウラーを前に、ついに共和国は撤退を開始。しかしそこに、デスザウラーが地中から猛追撃を始める……。
真っ先にその犠牲になったのはバリゲーターでした。
電磁ハンドで握られたバリゲーターの運命は風船の灯火に見えます。
この後、バキバキに握り潰されたであろう事は想像に難くありません。
バリゲーターの受難はまだまだ続く……。

 

同年、共和国首都を攻略した帝国に対して、共和国はゲリラ戦で反撃開始します。
ゲリラ戦は12月に始まります。
氷山に偽装する大胆な作戦をとった共和国部隊が、帝国領クック海軍基地を奇襲する作戦を決行。
シーパンツァー、ウオディックを中心とする帝国北洋艦隊を全滅させるという大戦果を挙げます。
しかし海上ルートからの侵攻であったにもかかわらず、この作戦の主役は大口径砲を搭載した改造ゴルヘックスでした。
本来なら海戦に対応したバリゲーターが主役となって然るべき作戦だったでしょう。攻撃部隊に随伴はしていたのですが……。
ウルトラザウルス上陸作戦時はスネークスにお株を奪われた。そして今回も同じように主役を逃してしまったのでした。

<ゾイドバトルストーリー3巻より>

この作戦の主役がバリゲーターでなくゴルヘックスだったのは何故か。おそらく、この作戦が基地への砲撃だった事が原因でしょう。
できるだけ大きな砲で撃ちたい。だが大口径砲を装備するには、ある程度の大きさが必要だ。
もともと軽量級のバリゲーターでは、搭載火器に限界があったのでしょう。
その点、バリゲーターの二倍以上の重量を持つゴルヘックスは、大口径砲を積むだけの余裕があったのだと思います。

改造ゴルヘックスの砲は、その圧倒的火力で帝国北洋艦隊をことごとく破壊ます。
ウルトラザウルス上陸作戦ともども、味方の勝ち戦は嬉しい。嬉しいが……、しかし微妙な感情が残ってしまうのは何とももどかしい。
せめてゴルヘックスの砲で仕留め切れなかった敵を各個撃破していたと。そんな落穂ひろいの役目が与えられていたのではないかと想像しておきたいところです。

 

翌年ZAC2045年のフロレシオ海海戦では、自動操縦に改造されたバリゲーターが囮艦隊として投入され、ウオディックとブラキオスと交戦。派手にやられています。
ただ、これはもともと「囮」としての役目を全うしただけであり、やられる事が前提の戦いでした。

<ゾイドバトルストーリー3巻より>

純粋に力足らずでやられているわけではない………、とはいえ、哀愁を誘う描写はあります。
ブラキオスに加えてウオディックまで居るし、仮に有人機で全力で戦っていても同じような結果だったかも……。

 

同年、ウルトラザウルス陽動作戦にも投入されました。
デスザウラーを誘い出す為、ウルトラザウルスとゴジュラスMK-II量産型二機、そして数機のバリゲーターが囮役を演じました。
しかし前回と違ったのは、前回はやられる事が前提であったのに対して、今回は戦い抜く事が目的だったという事です。
しかし悲しいかな、デスザウラーの荷電粒子砲を喰らい一瞬で昇天しています。

<ゾイドバトルストーリー3巻より>

 

この後は、次第に画面から姿を消してゆく事となります。

 

ちなみにバトルストーリー未収録の学年誌のストーリーまで加えるとどうだったかというと、これまた全くもって活躍がありません。
輪をかけてやられ役だったりします。
初陣でシンカーにやられたのはバトルストーリーと同じ。その後も様々なところでやられています。


<小学一年生 1987年5月号より>

シーパンツァーの攻撃で中央から真っ二つにされているのは、かなり惨いシーンです。
その他二も色んなとk路尾でやられていて、何故かグレートサーベルにやられていたりもします。

 

更にてれびくんのストーリーも加えると、アタックゾイドに鹵獲された事もあります。

<てれびくん 1987年9月号より>

帝国アタックゾイド部隊に奇襲されて敗北。結果、会場基地を守る任務を果たせませんでした。
アタックゾイドに鹵獲というのはかなり酷いです。
たしかにシーパンツァーも共和国アタックゾイド部隊に鹵獲されたことがあります。しかし、こちらは停止状態のが鹵獲されていました。
対して、こちらは動状態で敵を迎え撃った末に鹵獲されているのだから、ちょっと情けないです。

まぁ擁護すると、帝国奇襲部隊にはアタックゾイドの他にウオディックも混じっていました。おそらく旗艦でしょう。
その上、ダムバスター、ビーシューター等の強力な航空支援も受けています。
飛行ゾイドを迎え撃つ装備は、見る限りでは海上基地にはありませんでした。これでは勝ち目が無いのも分かる気はします。

 

戦歴をざっと見ました。

何と悲しい描写の連続でしょうか。バリゲーターファンとしてはうつむかずに居れません。
もともとやられ役だとは思っていたものの、これほど徹底していたとは……。
せめて少しくらい活躍させてあげてもいいような気がします。本当に、学年誌まで含めて活躍が描かれたことが無いとは。

以下に、せめて、バトルストーリーの裏側でどんな風に活躍していたのかを想像したいと思います。

やられ描写ばかりが目立つものの、バリゲーターは間違いなく傑作機です。
それはかなり初期に開発されたメカであるにもかかわらず、帝国との戦争が終結するまで、常に一線で使用されている事からも容易に想像できます。
いや、実は対暗黒軍戦でも運用され続けているコマがあったりします。

<小学三年生 1989年5月号より>

サンダーパイレーツと艦隊を形成するコチラのシーンは、なかなかレアだと思います。
確認した中でバリゲーターが最後に登場したシーンはこれです。
これは小学三年生1989年5月号で、暗黒軍と開戦した直後のものです。
少なくとも対暗黒軍戦の初期の段階では、予備役になる事もなく最前線で使用されていた事が分かります。

主力歩兵ゾイドであり膨大な数が生産されたゴドスでさえ、後継機アロザウラーが登場すると早々と姿を消してしまいました。
同クラスのゾイドでバリゲーターと同じくらい長期間にわたって使用されたゾイドは、プテラスとカノントータス位のものでし。
これだけ長期間に渡って使用されているという事は、やはり優れているからに間違いありません。

 

バリゲーターは水陸両用。水でも陸でも運用できる特徴を持っています。「代替機や後継機が存在しなかったから運用されただけなのでは?」と言われるかもしれません。
しかしそれは2つの点から否定したいと思います。

まず、同クラスのスネークスが水陸両用である事が一点。
もう一点は、ウルトラザウルスという巨大水陸両用ゾイドを開発した共和国の技術をもってすれば、代替機や後継機を作る事は確実に可能だったと思える点です。

同じ水陸両用のスネークスは、バリゲーターよりもかなり早い時期に一線を退いています。
という事はつまり、少なくとも総合力ではスネークス以上の能力や価値があったという事でしょう。

代替機や後継機が製作可能だったにもかかわらず、バリゲーターを運用し続けた。
それは、バリゲーターの能力が代替機や後継機を必要としないほど優れていた事の証明になるとも思います。

同じ水陸両用でありながら、スネークスよりも長く運用された理由は何だろうと考えます。
注目すべきは二点でしょうか。
・スネークスの方がバリゲーターより新型
・単純な戦闘力であればスネークスの方が上(ゾイドバトルストーリー1巻戦力比較表参照)

にも関わらず、バリゲーターは結果的にスネークスに勝ち、長く運用され続けています。
何故。
バリゲーターが、スネークスが持っていない何か……、しかもそれによって戦闘力の差を覆せる程のものを持っていたからだと思う。
具体的に何でしょう。

両機を見比べると、徐々に見えてくるような気がします。
共に全高が非常に低い点は似ています。ただスネークスが非常に細長いのに対して、バリゲーターは比較的太く短くなっています。
バリゲーターが優れている点は、ここにあるのかもしれないと思いました。

細い体では、構造上、新しい装備を加えにくい。スネークスは、拡張性に乏しいのかもしれないと思いました。
また細い体では、弾薬や燃料等の搭載量も必然的に少なくなるでしょう。
対して、ある程度の体格を有するバリゲーターは、拡張性があり、かつ搭載量もそれなりに多かったのだと思いました。
弾薬や燃料を多く搭載できる事は、すなわち活動時間が増加する事も意味します。

その効果は、戦場では計り知れないほど大きいものです。
いくら戦闘力が優れていても、すぐに弾切れや燃料切れを起こしてしまうのでは実用性に乏しい。それがスネークス……だったのかもしれないと思いました。

また、弾薬や燃料以外にも、重要な要素があると思いました。
それは、人員を輸送できるかいう点です。スネークスはその細い体から言って、人員輸送などとてもできない構造に見えます。
対してバリゲーターは、やはりその体格ゆえにある程度は人員輸送にも運用できたと思います。
実際、バリゲーターを人員輸送機として使用した例はバトルストーリーで何度も描かれています。
以上の事から、バリゲーターはスネークスに対して戦闘力では劣るが、積載量・活動時間・輸送力で勝っており、また拡張性でも優れているのだと思いました。
その結果、より有効と認められ、長期間に渡って運用されたのだと思います。

バリゲーターが輸送にも使用できるとすれば、活躍の場面が様々に見えてきます。

もちろん、スネークスより優れているとはいえ、ウルトラザウルスの輸送量に比べればわずかでしかありません。
しかしこと隠密性で言えば、ウルトラの比でないほど優れています。数でも圧倒的なので、気軽に運用できる点も優れています。
恐らく、特に秘密裏に作戦を行いたい時など、海上ルートの輸送作戦は多くをバリゲーターが担っていたのだと思います。

たしかに交戦力はそんなに高くない。それは事実で、シンカー、ウオディック、シーパンツァーには分が悪い事は否定できない。
しかしその拡張性を生かして、着実に能力を高めながら戦い続けたのでしょう。
また優秀な海上輸送機として、島を巡る戦いなどでは裏の主役を幾度となく担った事と思います。

 

華々しい戦果よりも、地味に裏から支え続けたゾイド。
それがバリゲーターであり、傑作機たる最大の要因だと思いました。

ここまでバトルストーリーと学年誌、てれびくんから考えた文章を書きました。
ここからは箱裏の情報も加えたいと思います。
箱裏には、二種類の機体バリエーションが載っています。


川岸部隊仕様<MAIN-LAYER>(左)
頭部後方に潜望鏡を装備し、水中での行動を得意としている。水中戦用に水中用ミサイルポッドを装備している。

工作隊仕様(右)
上部に戦車橋を装備したもので、短時間に架橋する事ができる。

工作隊仕様は非常に面白いバリエーションだと思います。
上陸には欠かせない存在でしょう。地味ながら作戦を大きく支えた機体に違いありません。

マインレイヤーも面白いバリエーションです。
名称(マイン=機雷、レイヤー=設置者)から推測するに、機雷敷設艦として運用されたのでしょう。
ただ英語の綴りが間違っている……。機雷を意味するマインは「MAIN」ではなく「MINE」です。
……綴りのミスはともかく、地味に海上封鎖や通商妨害をする為に活動した仕様なのでしょう。

どちらも主役というわけではないけども、地味に戦場を支えるいぶし銀の魅力を放つ名バリエーションだと思います。
ノーマルタイプとあわせて、描かれなかったバリゲーターの活躍を想像したくなります。

 

まぁでも、本音を言うとやっぱり、一度くらいは攻める側での主役を担ってほしいとは思っているんですが。

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